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#21 悪役令嬢、セクシャル・ハラスメントと戦う


 お金を稼ぐなら働くのが最短の道だろうという方向でわたしたちは意見が一致した。ちなみに一般的な冒険者たちはどうするのかというと、魔物を狩って稀少素材を換金したり雑用を引き受けて日当をもらうなどするそうである。最初の頃、魔物より人に襲われることが多いと聞いてわたしは驚いたものだ。アレクくんの曰くには「魔物は滅多に人里を襲ってこない」ということだった。


 ここまで、この世界には “せいぎょうのまじょ”を倒すために各地で勇者が予言された、というストーリーがあるらしいことがわかっている。RPGゲームに慣れている人ならここでこう思うのではなかろうか。

 魔物とバトルしない? じゃあどうやってキャラ育成すんの?


「おーいねーちゃん、注文」

「はい、ただいま!」


 わたしたちがやってきたのは、第五番聖都からみてやや西に行った小さな町だった。地図上では第四番聖都を有する隣国ウフタ・サボエイジへ至る道沿いに位置している。

 聖都からそのまま着替えなしできたから真っ黒焦げだし住所不定で履歴書もない。はたして仕事が見つかったとしても採用してもらえるのかという不安は杞憂に終わった。てか名乗る前から「はい、採用!」って声が飛んできた。こっちの方が不安になったくらいの即決だったけど、理由はすぐに判明した。


「おい、酒が来てないぞ!」

「これ頼んでないんですけど」

「注文だっつっただろうが!」


 忙しいのだ。狭い店内にホールスタッフが五人もいるのに、止まっている暇がない。「学生時代に経験してるし楽勝」とか思ってた己の軽率を、わたしは往復ビンタした。

「ここまで忙しい店じゃなかったんだよ」

 おかみさんは言った。それが今やどこの店も人手不足で悲鳴を上げている。理由は人の逆流だ。五番聖都が焼けて行き場を失ったひとたちが、この町に流れてきているのだった。


 アレクくんは厨房でわたしはホール。初日はお客さんに怒られるだけで終わった。それでも二日、三日と続けていけばなんとなくペースがつかめてくる。余裕が出てくると、常連さんの顔を覚えてくるのと同時、それまで気にならなかったことが気になるようになるものだ。いっぱいいっぱいでそれどころじゃなかったとも言う。


「アンタ、いい体してるなあ」


 いわゆるセクシャル・ハラスメントというやつである。普段から店に通っていて馴れている人ほどこのテの絡みが多かった。この人たちも常連枠だ。

 まあ「ジアンナ」は美人でスタイルがいいし、アルコールが入るとどうしても気分が解放的になってしまうものだ。おそらくはお店から支給された制服も一因にある。


 手足の露出度が高いのである。前世記憶にある夏の海水浴場なんかに比べたら全然つつましいくらいだけど、こちらの世界の基準でいえばかなり「挑発的」な部類に入るように思われた。アレクくんもすごく反対してくれたけど、さりとて黒焦げの服で接客するわけにもいかない。寝る場所もおかみさんに用意してもらっちゃったし、お金が溜まるまで頑張ろうとわたしはアレクくんを励ました。

 酔っぱらいが言う。


「厨房の彼とは、デキてるの?」


 厨房の彼って何だと思って、アレクくんのことらしいとわたしはまもなく思い至った。同じシフトだから一緒に出るところを見たのかもしれない。

「オジサン恋人に立候補しちゃおっかな~」

 ガッハッハと機嫌のよさそうに笑いながら、卓の一人がホールから見えないように、わたしの腰に手を回した。わたしが声を出さないのをいいことに、それから別の手がむきだしの太ももを這う。

 忙しい夕食時だ。わたしは仕事を理由に卓を離れようとしたけれど、大胆になった彼らはぐいとわたしを引き寄せた。


「お金、欲しいんでしょー?」

「ほっぺにちゅーでいいんだよ、オジサンのほっぺにちゅーしてくれたら、いくらでもあげちゃうけどなー」

「なんならオネーサンごと買っちゃおっかなー?」


 お酒臭い息が顔にかかって、わたしはあからさまに顔をしかめる。こういう服を支給した時点で、多少のセクハラは黙認しろという含みがあるのはわかっていた。だからアレクくんも反対したのだ。

 わたしはアレクくんのことを考える。お給金は日割計算で最後の日にいただくことになっている。もしわたしがここで邪険にした結果この人たちがお店に来なくなってしまったとして、連帯責任でアレクくんまで給料なしみたいなことにはならないだろうか。


 ▽声を出して助けを求める

 ▽自分で切りぬける


 ここで? と思ったけど、迷いはなかった。前述の通り、どこも人手を欲している。お金を得られる場所はつまり、ここだけではないということだ。最悪クビになったとしても次の場所でわたしが倍頑張ればいい。

(ごめん、アレクくん)

 気持ち悪い。無理。そうして腹筋と拳に力を溜めていたときだった。


「この人に、触らないでください」


 頭のうえからアレクくんのかたい声が聞こえて。

 ふわりとわたしの体は彼の腕によって回収された。




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