(7)インストールリカバリー
「還魂のリヴァイアサン」の2度目のインストールは20分もかかるという事で、俺は龍真の携帯を借りてレクチャーを受ける事になった。
改めて、俺は操作方法を確認する。
このゲームのウリは、アクションを個別登録する事で、各自の好みのプレイスタイルを追求できる事だ。
「…あれ?」
だが、龍真の操作環境は、南原先輩のそれとかなり違っていた。
南原先輩は、左下に疑似アナログスティック、右下に攻撃や防御、ダッシュなどの各種アクションが揃っていた。
なのに龍真の画面には、ダッシュの「長靴」と、オート攻撃の「A」と、オート防御の「D」の3つしかない。
「何だこれ? 『リヴァイアサン』って、アクションを登録できるんじゃなかったのか?」
「そうなのか? 一体どうやって登録するんだ?」
「…。」
いや、初心者の俺に聞くなよ、俺が聞きたいんだよ。
っていうか、アナログスティックのアイコンないのに、どうやって動かすんだよ。
「この長靴のアイコンで動かすんだ。 まず、この長靴をタップすると、ガイドカーソルに変化するから、そ礼雄移動したい場所にドラッグ。 するとアバターがカーソルの場所へと走り出す」
「…。」
この「長靴」のアイコンは、「ダッシュ」じゃなくて、普通に「移動」だったのか。
どうも話を聞く限り、龍真とのぞみさんは初期アクションだけでゲームを進めていたらしい。
…まぁ、ゲーム慣れしてない一般人って、大体こんな感じだよな。
しかし、アクションの登録ってどうやるんだろう。
普通のゲームならば直感的に分かるが、スマートタブレットならではの操作…タップや長押しを駆使する登録方法だったら、ちょっとお手上げだ。
だが、俺がああでもないこうでもない、と龍真の携帯をイジっていた時、ピーッと言う音が聞こえた。
「…何だ、今の音?」
「わ、礼雄くんの携帯、電池切れてない!?」
「やっべ、本当だ!」
インストールの最中に電池が切れた。
「おい、充電してなかったのか」
「忘れてた。 ってか、インストールにこんな時間かかると思ってなかった」
龍真はDoremoのEーPhoneだったので、同じUASシリーズを使っている、石原さんの充電器を貸してもらった。
「うわ、マジかよ…」
だが、俺の携帯の画面には、スパナとドライバーのマーク、そして太い水色のインジゲータが表示されていた。
システムリカバリを示すマークだ。
「インストール途中から再開される訳じゃないのか…。 システムリカバリからとは、タイミングが悪かったのか」
「スマン、マジで電池切れに気づかなかった。 ってか、大丈夫なのかな、これ」
「…大丈夫とは思う。 ただ、このゲームは、端末一台につき、一回しかアバターを作成できない。 それが心配だな」
「一回だけ…? 何で?」
「不正プレイヤーを閉め出すため、さ。 当然の事だが、このゲームはデータ改造にも厳しい目を光らせている。 バグキャラ誕生と同時に改造扱いされたら、警告なしで即座にアカウントを失う。 そうしたら、お前をここに誘った意味がなくなってしまう」
「いきなりBAN!? それは厳しいな」
「…BANって何だ?」
「あ、ネットゲーム用語で、アカウント剥奪のこと」
「なるほど、その辺りのことも教えてくれると嬉しい。 …ともあれ、改造防止、不審者対策は企業にとって当然の措置だ。 『疑わしきは全て罰する』くらいでないと、被害を受けてからでは後の祭りだからな」
「まぁ、そうだな」
もしも悪意のあるユーザーに「通貨無限」とかの改造をやられたら、株式会社カプリコンは即破産しちまう。
そんなプレイヤーを徹底して排除する策を、幾重にも講じているであろうのは想像に難くない。
俺は、自分の携帯が心配になってずっと眺めていたが…。
「…リカバリする様子がねぇな」
「仕方ない。 時間を無駄にするのも惜しいから、僕の携帯でプレイを続けてくれ。 きっと回復すると信じよう」
「分かった」
俺はとっくに冷たくなった紅茶をすすると、気合いを入れ直して龍真の携帯を借りた。
画面内に描画されているのは、どこかの草原。
そこに、龍真のキャラと、のぞみさんのキャラが寄り添って立っている。
龍真のキャラのニックネームが「バールハイト」、のぞみさんが「トラウム」だ。
…おい、俺の「レオ」と全然違うじゃん。
よく考えて、練って、愛情込めて名付けました感バリバリじゃん。
ってか、のぞみさんのニックネームは、絶対龍真の奴がつけたに決まってる。
おおかた、どっかの外国語で「望み」とか「愛してる」とか、そんなんに違いねぇ。
そして、二人とも、顔は本人によく似てる。
美男美女コンビで、白くてヒラヒラのお綺麗なお衣装を、お揃いで着飾っているのが、また妙に似合ってる。
てか、ゲーム内でペアルックかよ。
「課金装備なんだよ、可愛いでしょ? 結構強くて助かってるよ」
何、この童貞に厳しい残虐プレイは?
あのーもしもし、リア充は爆発して下さいよ、今すぐ。
なんだか一瞬でやる気失せたわー、もうどうでもいいわー。
「で、どうすりゃ良いんだよ、これ。 今、何かクエスト受けたりしてんの?」
「いや、今は受注していない。 基本的に、このゲームでは、何もかもが自由だ。 何をするのも、どういう行動をするのも。 ただ、僕の目的を述べるなら…」
「礼雄くん、こっち付いてきて」
龍真がのぞみさんに何かを促し、俺は彼女の後を追うよう言われる。
龍真の仕様である、ポイントカーソル式の移動は、オンラインMMO「ライン・エイジ」と同様のものだったものの、久しぶりなので、ちょっとカンを取り戻すのに時間がかかった。
やっぱり、疑似アナログスティックを使う、南原先輩の仕様の方が俺には向いてるな。
そして、彼女の後を追っていった先は…。
「…山?」
「ベルディスカ山って言うんだけど、あの山の頂上に、一緒に登ってくれる?」
画面には、アルプス山脈のような白亜の山嶺。
そしてその山の麓、短い草の生えた丘陵地帯には、カモシカとバッファローを足して2で割ったようなモンスターが、3匹ほど見えた。
「おっと、オックスホーンか。 珍しく数が居るな」
「普段は1匹だけなのにね」
「倒すのか?」
「突進攻撃が強力だから、できれば戦闘は回避して欲しいが…」
「何だよ」
「ここは、礼雄のお手並み拝見、といきたいな」
おいおい、借り物のアバターじゃ操作もおぼつかないってのに…。
でもまぁ良い、ちょっとやってみよう。
ポイント移動のカンは思い出した。
攻撃と防御に使えるアイコンが、「A」と「D」しかないのがやや頼りないが、ヒットアンドアウェイを徹底すればイケるだろう。
「おい、やたら慎重に近づくんだな」
この手のゲームには、大抵敵モンスターに攻勢範囲が設定されている。
俺は敵を分断して各個撃破を狙うべく、その野牛みたいなアバターの攻勢範囲に慎重に近づき、一匹だけをおびき寄せようとした。
その狙いは的中し、一匹だけが俺に気づいたが…。
「ウモォォオオオ!」
そいつの嘶きで他の2匹もこっちを向いた。
何だよ、慎重に近づいた意味ねーし!
しょうがないので、こっちに突進してくる3体の位置をおおまかに予測して避け、同時に最後尾の個体に張り付いて攻撃の「A」。
すると、龍真のキャラ…「バールハイト」は、野牛の尻めがけ、細剣による連続攻撃を繰り出した。
「ブモオォォオ!」と攻撃を喰らった野牛が怯むが、その間に他の野牛がこっちを振り向く。
おい、これ、攻撃の中断どうすんの? と焦った俺が慌てて「D」をタップすると、「バールハイト」は攻撃を中断して勝手に移動し、野牛の攻撃を避けた。
「…何だ、オートバトルのルーチンも結構頭良いんじゃん」
勝手に移動するキャラを抑えるべく、すかさずポイント移動、群れの端の個体を狙って、後ろから攻撃の「A」で連続攻撃をブチ込む。
そして、敵がこちらに向き直ったら回避の「D」。
これを、群れの全体の動きを見ながら、丁寧に繰り返す。
「…スゴい、礼雄くん初めてなのに、リョウくんより全然上手だよ」
「うん、そうだな…」
のぞみさんと龍真は、二人で一つのタブレットを見ながら、俺の戦闘を観察して、そんな感想を漏らした。
内心、龍真の声の覇気のなさが痛快だったが、ここでポカをやったら格好悪い。
俺は3体のうち、どの個体がダメージを受けているかを記憶して、そいつを重点的に狙っていく。
「ブモォ…オォオ…」
そんな断末魔を残して、その1体が倒れた。
よし。
俺は残る敵の直線上に入り、手前の敵を盾にしつつ集中攻撃して「ブモーン!」と2体目を倒すと、残る3体目を壁に突撃させて、その隙に猛連打をブチ込み、ゴリ押しで倒した。
「すごーい、早い! 礼雄君強い! 3体相手なのに、全然余裕だったよ!」
「…やはり、凄いな。 流石だ」
「まぁ、初プレイだからこんなモンかな。 それに、人のキャラだし」
と、余裕ぶっこいたセリフを吐いてみせた。
「…あれ?」
戦闘は終わったのに、RPGならお馴染みの、あの表示が出ない。
経験値とゴールド…いや「Cen」か、ここでは。
「モンスターの上に乗って、何かアクションアイコンを押してみろ」
言われたとおりにすると、俺が操る龍真のキャラは、腰からナイフを取り出し、モンスターを解体し始めた。
なんだ、これで経験値とゴールドが貰えるのか。
「オックスホーンの毛皮×3を入手しました」
「オックスホーンの角を入手しました」
「獣肉×5を入手しました」
…え? あれ? 経験値は? ゴールドは? どこ?
「このゲームに、家庭用RPGで言う所の、経験値はないぞ。 プレイヤーの体験そのものが、イコール経験値だ」
「何ぃッ!?」
「そして、モンスターを倒しても、お金は貰えない」
「何でッ!?」
「当たり前だろう? 現実の野生の獣が、金貨を持ってるか? 礼雄、お前、ゲームの常識に捕らわれすぎだぞ」
このゲームは、当たり前の事を当たり前のように表現しているだけだ、と龍真は締めくくった。
「そ、そうなのか…」
RPGのくせに、そういう考え方のゲームなのか。
で、でも、この入手した毛皮とかは、絶対村で売れるはず。
現実のマタギとかだってそうなんだし、そうでないとゲームとしておかしい。
だって、モンスター倒して儲からないんだったら、モンスター倒す意味ない。
こいつらは、マジで命を脅かすだけの害獣じゃん。
「さ、山に登ってくれ。 後は多分、もう大した連中はいない」
多少憮然としながらも、俺はのぞみさんと山登りを再開した。
大した連中はいない、という龍真の見立ては大ハズレで、俺はその後もモンスターに何度か襲われたが、まぁそれでも危なげなく敵を撃退していった。
「やべ、雪狼の動きが早かったから、結構ダメージ喰っちまったよ…。 龍真、このキャラ回復アイテムとか持ってるのか?」
「のぞみ、頼む」
「はーい。 礼雄くん、こっち来て」
…?
「違う違う、私じゃなくて、アバターに密着してよ」
「こ、こう?」
「じゃあ、いくよ。 『ヒーリング』。 どうぞー」
すると、のぞみさんのキャラ「トラウム」が、本人に似た可愛い声で呪文を唱え、大仰な動作で十字を切ると、「ヒーリング!」というキャラボイス、そして緑色のライトエフェクトと共に、俺のキャラの体力がゆっくりと回復を始めた。
「おお…。 こりゃ助かる」
「正直、礼雄がダメージ受けないから、相当にMPが保った」
「だね、これなら探索も余裕かも」
二人の楽しそうな声と共に、俺はのぞみさんに導かれ、山の頂上をさらに目指す。
ゲーム内の標高は相当なものになっているのか、やがて雪が一帯を覆いつくし始め、徐々に他の山脈の頂上までもが一望できるようになり始めた。
途中で、減ったスタミナと耐寒のための薬を飲むが、まだ頂上への冒険は続く。
「まだなのか?」
「もうちょっとだ。 その小高い崖の頂上に登ってくれ」
そう龍真に指示を受けた俺は、のぞみさんと共に、雪山の崖を素手でよじ登る。
「…そこだ。 そこが今回の目的地だ」
「ここ? 何もねぇじゃん」
「カメラを移動させてくれ、そこからちょっと右側だ」
「…おお」
遙か遠くに見えるのは、海を隔てて彼方に浮かぶ、巨大な大陸。 その奥は、雲海に隠されて果てが見えない。
「分かるか? アレだ」
「…何だよ、アレ…? 島、なのか?」
「違う。 おそらくは、僕らが居る方が島だ。 あっちが本土だ」
「へぇー…」
「あそこの海…この島と本土を繋ぐ海峡に、このゲームの目的である海神『リヴァイアサン』の一柱が棲んでいる。 奴を倒して、本土に渡りたい。 僕の当面の目的は、それかな」
「はぁー、何か凄く冒険ロマン溢れるセリフだな…。 ってか、マップは公開されているんだろ?」
「されていない。 海神リヴァイアサンも、総数で7柱居ると言われているが、実数は不明だ」
「え、メーカーから発表されていないの?」
「ああ。 現代においてはもう不可能な『未知の大陸を開拓する喜び』を味わって欲しいから…と、インタビュー記事に書いてあった」
「でも、wiziとかに載ってるんじゃ」
「wizi? あのネット辞書の?」
「…特定のゲーム攻略に特化した、な。 いわゆる攻略サイト、だ」
「それは知らなかった、今度調べてみる」
龍真は苦笑しながらそう言った。
でもまぁ、今の発言はロマンがあって嫌いじゃない。
俺も、この風景を見て久しぶりにワクワクした。
wizi見たら興ざめするから、情報をシャットアウトして楽しんでも良いかもな…。
そして俺たちは村に戻る事とした。
このゲームでは、崖から落ちると落下ダメージがある事を知らなかった俺が、うっかり崖から飛び降りて、瀕死になりかけ「あやうくデスペナルティを貰う所だったぞ!」と激怒された以外は特に何もなく、楽しい冒険だった。
「うおー、もう3時間経ってる。 早えなー」
「どうだ、感覚は掴めたか?」
「ああ、大体分かった。 後は自分でどうにかなるだろ」
「一応、デスペナルティについて伝えておくが、このゲームにおいては、HPが0になると、厳密には『行動不能』扱いになる。 回復薬や魔法で体力は回復できるが、意識が戻るまでにちょっと時間がかかる…という設定だ」
じゃあ、さっき崖から落ちたのは、別に問題なかったんじゃん。
「この山に、僕たちしか居なかったからな。 だが、行動不能プレイヤーからは、装備、アイテム、所持金が奪い放題だ。 もし、あの時、崖下に他のプレイヤーが居たら、僕の課金装備は丸ごと奪われていたぞ」
…わ、悪かった。 わざとじゃないんだから、そう睨むなよ。
「ちなみに、モンスターとソロで戦って破れた場合は、約1分後に、教会で復活する」
「その場合、やっぱり所持金は半分になるのか」
「その通りだ。 だから、僕はあまりモンスターと戦うのは好きじゃない。 ただ単にリスキーなだけだからな」
「いきなり電源を切ったら?」
「おい、切るなよ? アバターは無防備な状態で放置される。 …だから、電源を入れた時には大半が死んでる」
「なるほど、気をつける」
あ、そうだ。
俺の携帯、どうなってる?
「…よかった、大丈夫! インストール終わってるよ、充電も100%」
「礼雄、ログインしてみろ」
携帯を渡され、俺は内心、ちょっとした不安を抱えつつ、ホーム画面に表示された「還魂のリヴァイアサン」をタップ。
…アプリが起動、いくつかの企業広告が過ぎ、タイトル画面に移行したところで、俺は鍵のアイコンを「START」の文字にガチャと差し込み、アナウンス表示が出ると同時に「リヴァイアサンズ・メルヴィレイ」というボイスパスワードを発声した。
あ、もしかして、のぞみさんのキャラの声って、このボイスパスワード入力で、似た声が選択されたんだろうか…?
そんな事を考えている間にも、画面は白く発光し、画面が切り替わった時には、どこかの村の広場で、俺の姿を模したアバターが直立不動の体勢で立っていた。
「成功してる! よかったねー!」
「ステータスをチェックしてみろ」
「どうするんだよ」
「右上の『機能』アイコンで見られる」
俺は言われるがまま、俺の分身…アバターのステータスを表示する。
俺が見る限りは…何の問題もない。
龍真も、俺のアバターのステータスをしばし眺めていたが…。
「問題なさそうだ。 …というか、プレイできる時点で、そう判定されているはずだしな。 気にし過ぎか」
「ふう、安心したぜ。 疲れたから、ちょっと一休みしないか」
「そうだな、そろそろ夕飯にするか」
「だな」
そして、俺たちのささやかなコンビニパーティが始まった。
「ところで、このゲームどうなってんだ? RPGのくせにレベルアップがないんなら、どうやって強くなるんだよ」
「課金がてっとり早い。 少しお金を出して強い装備を買えば、ちまちました作業は全部すっ飛ばせる」
「いやいや、そうじゃなくてな、もちろん無課金で。 課金でしか強くなれないんじゃ、それはRPGじゃねぇだろ?」
「無課金で? それだと…」
龍真は、何やらゲーム画面を操作し始め「これしかない」と、携帯の画面を突き出してきた。
どうやら、装備を全解除していたらしい。
「何これ」
「お前のアバターと比べてみてほしい。 このゲームは、その人のプレイスタイルが、そのままアバターの強さとして反映される。 僕らのアバターは、お前のアバターに比べて、防御力や体力がかなり多いはずだ」
「…本当だ。 何で?」
「僕らが下手だからだ。 ダメージを喰らいまくっていたら、徐々に『体力』や『防御力』が増え始めた」
なるほど、プレイスタイルが経験値、って意味が分かった。
攻撃すればアバターの攻撃力が上がり、防御すればアバターの防御力が上がる…。
いわゆる「熟練度システム」か。
「だがな…」
龍真は、再び携帯を操作し、俺の目の前に差し出した。
「…!」
今度は、さっきの課金装備を装着した状態。
だが、今度はパラメータの数値が倍ほどになっていた。
「課金して、上質な武器防具を装備した方がてっとり早い。 デスペナルティが厳しいこのゲームでは、防具の充実が不可欠なんだ」
「でもな、俺、ちょっと課金には抵抗あるんだよ。 ゲームの強さを金で買うのって、何か違うような気がしねぇ?」
「…何かって、何がだ?」
二人は、きょとんとした顔で返事した。
…う、ここらへんのこだわりは、一般人には分からないのか?
強さを金で買うのは、ゲームとして違うってこと。
それに、娯楽にお金をかけ過ぎるのは、いろいろマズいと思うのだが。
「なら、僕のスペア装備を渡そうか?」
「えっ!?」
いや、課金がダメって、そういう意味じゃないんだけど。
「以前使っていた装備で悪いんだが、それでも十分に強力だぞ。 これで行動範囲が大幅に広がるから、早くゲームに慣れてくれ」
「あ、ああ。 …分かった」
…龍真って勉強だけじゃなくて、ゲームでも効率を追求するタイプなんだな。
スカウトされた時は嬉しかったし、武器防具をくれるのも、奴なりの親切なんだろうけど、ここまで進行管理を徹底されるのは予想外だった。
「…よし、装備は移動できたな。 後、これはアドバイスだが、ソロプレイはなるべく止めといた方が良い。 難易度が跳ね上がるからな」
「…ああ」
そこまで制限すんのかよ。
少し、さっきまでのワクワク感が目減りして、俺はカルボナーラを無言でかき込むと「もう夜も遅いから」という事でお暇する事にした。
実際に、もう夜11時近かったし。
<続く>