(108)コンティニュー?
「どうやって、相手を狩るんだ?」
「もちろん、宝箱の罠で釣る。 まだ開けられてないものを、罠の宝箱とすりかえる」
「……分かった」
内心、色々思う所は確かにある。
だけど、今の俺には戦うことの方が先決だ。
「(どんなダブルスタンダードだよ……)」
悲惨な殺し合いは嫌いだが、ここは、そうでないと生き残れない世界。
死にたくなければ相手を殺すしかない。
その狭間で、俺は揺れていた。
動揺しながらも、準備は進めていた。
俺たちはマップを確認し、まだ開けられていない(※イベント開始時から表示されたままの)宝箱をチェックすると、そこに向かう。
なんと龍真は、前回のイベントの際に、スキル「トレジャー・ディスクリミネイト」というスキルを覚えていたらしく、宝箱の罠、その有り無しだけは分かるらしい。
「これは大丈夫だな。 多分罠は仕掛けられてない。 開けるぞ」
「おい、多分って?」
「このスキルは76%の確率で判別できる、んだそうだ。 残り24%が出ないように祈るのみ、だ」
そして龍真は宝箱を開けた。
「おい、大丈夫か!?」
「大丈夫だ。 中は……おっ、義理チョコが7、本命が4、もあるじゃないか! 結構な収穫だぞ!」
「そうなのか?」
「ああ、本命が入ってる事はなかなかないからな! しかも4つ!」
あの龍真がやや興奮気味なのを聞いてると、奴もなんだかんだ言って、このデータで構成された魔法世界に魅了されてるんだなと思う。
「よし、じゃあこの地点で、宝箱を仕掛けよう」
龍真はそう言うと、今まで宝箱があった場所に寸分違わず、カラの宝箱を置いて、中に「シビレ網」を投入した。
これで宝箱を開けると麻痺する「罠」の完成だ。
「これで、麻痺した連中を君が倒してくれ。 良いな?」
「分かった」
「……それで、君が倒してゲットした、先輩の装備はどうなんだ? オリオン達と張り合えるレベルなのか?」
それは一応確認している。
メガテリウムソード
(片手剣:攻撃力125 水属性追加ダメージ:13%)
バイパーキングアーマー
(防御力:346 対麻痺:32% 対毒:57%)
龍神族の盾
(防御力:120 対睡眠:6%)
ガーディアンヘルメット
(防御力:82 対睡眠:35%)
先輩の装備は想像以上に強力だったが、オリオン達と張り合うにはどうか、と言ったレベルだろう。
「あと、所持金がおよそ130万Cen」
「それは良いな! 装備と合わせて売れば、結構な額になるんじゃないのか?」
確かにそうだが、現実価格13万円では兄貴を納得はさせられないだろう。
少なくとも、先輩に貸した分以上……せめて50万……いや、100万以上だろうな……が口座に残っていないと、俺が今後一人でもやっていけるとは認めてくれないはず。
どうあっても……オリオン達を倒す必要がある。
そんな事を考えていると、のこのこと誰かがやってきた。
「おっ、宝箱あったぜ! ここまで罠もないし、まだ誰も手を付けてないらしいな」
「やった! じゃあ、これ開けるね!」
「(……マジかよ)」
俺たちがハイドローブで隠れているとも知らず、(しかも大声を立てながら)獲物がやって来た。
しかもそいつらは、男女二人組のようだ。
「ねぇねぇ、これ、罠は大丈夫かなぁ……?」
「大丈夫、絶対に無いって! この宝箱、最初からマップに出てて、消えてないのは確認してるんだし」
彼らが宝箱に近づくと共に、龍真は彼らの背後に距離を取って回り込んだ。
彼らの意識が宝箱に向いてる隙に仕掛ける、保険の罠。
「じゃあ、開けるぞ……わぁっ!?」
「なに、これぇ!?」
だが、そんな用心をするまでもなく、二人は宝箱の「シビレ網」にまんまとひっかかった。
「レオ、今だ!」
その声と共に俺はハイドローブを解除すると、速攻で麻痺している二人組に斬りかかった。
「きゃーっ! 何これ!? いやぁ!!」
俺が最初に斬った相手は……「風忍やえちゃん」。
女の人だ。
その悲鳴を浴びて、俺は一瞬手が止まるが、先輩の装備の力は十分で……というより、相手が弱かったのだろう。
ブレードアーツの途中で「風忍やえちゃん」のHPは0になり、あっけなく倒れた。
「もう一人もだ!」
「分かった!」
「風忍やえちゃん」の装備を剥がすのは龍真に任せ、俺はもう一人に襲いかかる。
「な、何だ!? これ、罠だったのか……!?」
「シンジくん、酷いよ! 罠は無いって言ったじゃない!」
こいつら、やはりカップルパーティだったのか。
「風忍やえちゃん」が彼女で、その彼氏のアバターは……「猛犬チワワ」。
シンジってのはリアルネームだな、うん。
「きゃーっ!! いやぁ、やめて!!」
「やめろお前等! こんな罠を仕掛けて、汚いと思わないのかよ!」
猛犬チワワも、あっさりと俺のブレードアーツの前に倒れる。 麻痺していたから当たり前ではあるけれど。
「やめてお願い! 装備を奪うのはやめてよぉ!」
「……悪いが、こっちも必死なんだ。 勘弁してくれ」
龍真が、懇願する声を無視して装備を剥がそうとする。
「てめぇ止めろッ! 彼女に何しやがる! このハメ野郎がッ!」
俺も、チワワの装備を剥がそうとしていたが……。
「汚ねぇぞ! お前等には、良心てもんがねぇのかよ!」
そう言われ、思わずイラッとして、
「戦場に、何の準備もなしに出てくるな。 お前はここに参加した時点で……。 いや、何も考えてなかった時点で、既に負けてるんだよ」
そんな言葉が、口をついて出た。
「そんな事関係ねぇ! 女の嫌がることをして、それでも男かよ!」
こいつ……!!
「ならチワワ、一回だけチャンスをやるよ」
「あ!?」
「チワワ。 俺と正々堂々勝負しろ」
「おい、レオ!? お前、何を言ってるんだ!?」
「バール、悪い……。 でも、俺の言うとおりにさせてくれ」
動揺する龍真の忠告を余所に、俺はチワワに言う。
「そこまで言うんなら、デスペナルティデュエルで戦え。 お前が俺に勝てば、装備は返してやるよ」
「レオ!?」
「デスペナルティデュエルって……。 待てよ、テメェはその装備で戦うんだろうが!」
「心配するな」
俺はチワワを回復させると、装備を解除して、龍真に預けた。
「お前……!?」
「チワワ、約束する。 お前が俺を倒せば、ちゃんと奪った装備は返してやる。 これで戦わない理由はなくなっただろ」
「う……。 わ、わかったよ、やってやるよ!」
「デュエルのオプションはどうする? 魔法・道具なしでやるか?」
「……あ、ああ」
だが、チワワの声に覇気がない。
「どうした? ビビったのか?」
「何でお前、いきなりまともに戦う気になったんだよ……?」
「罠があってもなくても、俺はお前より上。 それを証明するためだよ」
「何だと……!!」
そして、俺とチワワは、デスペナルティデュエルを開始した。
分かっていた事だが、仮に装備の性能が同じでも、戦闘経験とブレードアーツの豊富さは俺の方が圧倒的に上だった。
相手のガチャプレイから来る予想不能の攻撃に、一発二発は貰ったが、それでも問題なく打ち倒した。
素人にしてはなかなか出来る方だったんじゃないだろうか。
「ちくしょう……。 何だよ、まともに戦ってもメチャ強ぇじゃねぇか……。 まさか、本当に負けちまうなんて……」
「そういう事だ。 さっきも言ったが、どうなろうとお前は結局負けていた。 だから、悪いが装備は貰うぞ」
「覚えてろよ、レオ……」
チワワのその執念めいた言葉に、俺は思わず身を固くするが、
「……次は、勝つ。 絶対勝つ! 正々堂々、お前を正面からぶっ倒してやるからな! 覚悟してろよ!」
「シンジくん……」
「心配するなよ、ヤエちゃん……。 次は絶対、俺のカッコいいところ、見せてやるからよ!」
何だよこいつ。
覚えてろ、ってそういう意味か。
「忘れるなよ、レオ! 俺の名前!」
コイツ、そんな悪い奴じゃない。
むしろ男らしいじゃねぇか……。
「ああ、覚えとく。また戦おう。 でも次は、もうちょっと覚悟と準備をしてから来いよ。 このゲームは……。 ゲームだけど、遊びじゃないんだ」
と、俺はどこかで聞いたような台詞を吐くと、
「君がその台詞を言えた義理か」
「ほっとけよ、バール」
即座に龍真からツッコまれた。
ま、そうだけどね……。
「次は負けねぇぜ、レオ!」
そう言い残して、魂炎と化していた「猛犬チワワ」と「風忍やえちゃん」は消滅し、イベントからリタイヤした。
「……レオ。 わざわざ正面から戦うなんて、さっきの先輩方の事が尾を引いていたのか?」
「そうかもしれない。 この世の中、世知辛い事ばかりだと、思いたくなかったのかもしれない」
「その考えは危険だぞ。 さっきの『猛犬チワワ』が、たまたま物わかりの良い奴だったから良かったが、これが悪知恵の働く奴なら足下を救われる可能性もあった」
「いや……」
確かにそうだけど、でもチワワと戦えて良かった。
そして、そのおかげで思い出した。
俺が、何故ゲームが好きなのかを。
「コンティニューだ」
「何だ?」
「そうだ。 リアルの人生にはコンティニューがないけど、ゲームにはある!」
コンティニュー。
失敗しても、リトライできる。
自分が何故悪かったのかを反省しながら、もう一度戦える。
何度もの「試行錯誤」が出来る。
……そう。
リアルの人生にも、必要なんじゃないだろうか。
コンティニュー。
きっと、人が生きていくために、必要なのは、それなんだ。
「なるほどな。 一理ある」
龍真は、同意してくれた。
「やりなおし、試行錯誤の機会がないと、大器晩成型の人間は評価されづらい。 そういう側面は確かにあるかもな」
「だろ? 人生には、コンティニューが必要なんだよ!」
転落した人間への救済策が!!
人間は、誰もが失敗する。
生きるためには、失敗を克服し、何度でも立ち上がらなくてはならない。
だから、争いは決して殺しあいであってはならない。
一度で人生が終わったら、克服なんてできない。
そうでなければ、人は一度の転落で、その人生を終えるしかなくなる。
このゲームは、安易なコンティニューを認めない時点で、確かに現実に似ている。
現実の悪意を凝縮して、醜悪にカリカチュアライズした世界。
だから……。
このゲーム特有の「抹殺を強要する仕組み」はおかしい。
素晴らしいデザインと世界観を持っているのに、その要素が、このゲームの良さを無駄にしている。
俺の独白を聞いた龍真は、噛みしめるように呟いた。
「なるほどな。 確かに、その通りかもしれない」
「だろ!?」
「でも、それは理想にしか過ぎない。 君がどんなにゲームシステムに文句をつけようと、このゲームの仕様が変更される訳じゃない。 現実だってそうだ」
「お、おい……」
「それにさ、君は忘れているかもだけど……。 確か、君が僕にプレイさせた、国民的なRPG……あれ、名前何て言ったかな? あれも、死んだらゴールドが半分になったぞ。 このゲームほど極端ではないにしろ、ペナルティはあった」
そういえば……確かにそうだ。
直前からやり直してたから、覚えていなかっただけで。
ゲームを作るゲームクリエイターの人たちとて、「人生にはリスクがつきもの」……そう認識していた。
「人生は……配られたカードだけで、戦うしかないんだよ、レオ」
「……」
「君の考えは素敵だと思う。 だから、僕は君と友人になりたいと思った。 だけど、目の前の出来事を直視しないと、勝てないぞ」
「分かってる……。 何度も忠告してくれて、済まない」
その気になれば、現実世界でだってやり直しはできる。
だけど、そのコンティニュー回数は無限じゃない。
一度一度の勝負を真剣に戦わないと、突然死ぬ可能性はゼロじゃない。
なんせ現実は、選択肢が見えないばかりではなく、コンティニュー回数すら定かじゃないんだから。
「さぁ考えよう、レオ。 このイベントも、そろそろ煮詰まってきたぞ。 連中はどう出てくると思う?」
俺は龍真にそう促され、オリオン達の思考をトレースする事にした。
連中の最大の目的は金稼ぎ。
つまり、他のアバターの抹殺。
推測ではあるが、連中にこのイベントがバトルものだと教えたのは、おそらくエルキッドの奴だ。
だから、罠を駆使しながら他の連中を抹殺しまくっているはず。
「連中が、僕らの存在に気づいているかがキーポイントだな」
「ああ」
だが、俺たちは姿を隠せる「ハイドローブ」を使って常時行動している。
それがある限りは、エルキッドの場所察知魔法にはひっかからない。
「連中が、雪山で使った『アプローチャー』のスクロールはどうだ?」
「それがあったな」
リストの中から、個人の名前を特定してその人物の元を訪れる魔法。
「だけど、それで飛んでこないってことは」
「屋内型ダンジョンでは使用できないか、まだ僕らの存在に気づいていないか。 まぁ、彼らのリストは膨大だろうからな」
いわれてみりゃそうだな。
俺たちとは違って、あっちは倒した人間多いだろうから。
「だがそれでも、生き残りを絞り込んでいけば、やがて僕らに行き当たる」
そう、激突は必至。
幸いにして連中はまだ俺たちの存在に気づいていない可能性は高いものの、それも時間の問題。
「……エルキッドに聞くか」
「そうだな」
金さえ貰えば何でも情報を売るあいつなら、現在のオリオンたちの動向も知っているはず。
連中が戦闘や罠を仕掛ける事に夢中の間に、奴らを背後から討つ。
「良い作戦だ。 それで行こう」
「ああ」
俺は戦う。
戦って、勝つ!




