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建春門院御髪事(「滋子の婚礼」)

 院の建春門院をめでたくもてなし給ふ事なのめならず、寵愛第一の后の誉れ、羨まざる者のなく、院近臣の娘を召すべく思へども、院の御目に適ふ事もなければ、いみじくそねみ給へども、すぐれてときめき給ふ御心の移る事ぞなき。

 そもそもこの建春門院と申さるるは、右少弁平時忠妹、参議平清盛には義妹なり。御名を滋子と仰せ給ふ。上西門院が女房にて、歌の才、楽の才、めでたきものにて、女院のおぼえもめでたくて候が、清盛、これを帝に参らせばやと思ひ、北の方を御乳母になし、様々にもてなし給ひて候へども、公卿列座の宴席に、院の滋子を御覧あれば、眉目も容貌も優なりければ、忽ち傍らに召さむとし給ふなり。

 然れども、上西門院、滋子の髪のちろちろと、固く巻きて蛇のとぐろの如くなるをあやしびて、院に参らせ給ふをはばかり、下がるべき旨申し付けらる。

 泣く泣く滋子は姉がもとに参りけるが、髪の固く醜く、和布の如く生い茂りたる有様に、「これより下がりて今再び院に見え奉る事よもあらじ」と申して思いのあまりに煩いついぞ伏せてんげり。然れども御懐妊の兆しありければ、北の方をはじめ女房ばら「いささかもよからむ」とてこぞりて御髪を引き奉るが、泣き煩ふばかりにてかひなし。然れども院の御召しの再三に及びければ、いよいよはばかり奉るもえず、清盛、様々に婚儀の調度をもてなして、滋子を院御所に参らせ給ふ。

 公卿列座の宴席に、人々滋子の髪のおそろしげなるを聞き、「如何様にてやあらむ、さてもいやしき武門の子」などと悪し様に申しけるが、さて滋子は、その日の装束に、白綾の練り衣、袖振りたるひれを引き、きよげなる翠玉の簪御髪に挿し、高らかに結ひなして、さながら天人の如き御風情、見る人嘆息せざる者ぞなく、添ひ奉りける女房ばらの眉目よく清らかにて、めでたき事限りなし。院の御悦びなのめならずと云々。清盛、列座の人々に申して曰く「御髪の引きたるも縮れたるも、よも人の貴賤を問ふべきか。引きたるを美女、縮れたるを醜女と申すはこれ往古の習ひ、新たなる世の習ひにはこれさるべき装束をもてなすべし」とありければ、人々「尤もなり」とて清盛が御志の深きに感じ入り給ひけり。

 そもそも、これは異朝の女の装束にて、本朝には見えざるものにて候が、清盛の義妹の有様を悩みて、郎党ばらに申し付け、大宰府にて求めさせたるものにて候とかや。院のおぼえめでたくありけるも、偏に清盛が御志の厚きが故と云々。

 これより一門栄華のはじめ、遠き異朝の装束より始めらるるは、げにおもしろき事とぞ人々の申せらる。異朝の有様、これ天人のそれと異ならず、仏国土を参らせ、平家に御仏の慈悲を与え給ふぞ、げに女院が前世の功徳なりとも思はれけり。

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