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最高神の〝依代〟 〜転生後も不遇で虐げられた公爵子息の、最高神成り上がり譚〜  作者: 蒼波季京
第三部 第一章 イリュソリヤ魔術学院へ

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80.潜入入学作戦・準備中

「それで? どうしてお前が、身分を隠して留学することになった?」


 その日の夜。

 王子を含む使者たちを(ふもと)の屋敷に泊まらせ、テオドアは山の上に戻ってきた。

 そこで待ち構えていたルクサリネに、女神の屋敷へと連れて行かれ、一部始終を話すこととなったのである。


 言外に「説明しろ」と目で促す女神に、テオドアは考えつつ答えた。


「いろいろと案は出ました。先に帝国へ視察に行くとか、僕が学院に堂々と出向いて妙な動きを抑止するとか。……でも、根本から解決するには、〝依代〟の顔があまり知られていない現状を、利用したほうが良いと思ったんです」

「あの第二王子は、忍ぼうと思っても忍べないから、か」

「はい。潜入をするなら僕が適任です」


 話を聞いて分かったが、ルチアノも、(くだん)の学院の卒業生だった。

 どこの国でも、学院入学の下限は十歳。最短で学び切って卒業すると十七歳。

 今年で二十歳になるらしい彼は、もちろんその道を辿ったため、学院関係者のほとんどに顔を覚えられている。

 在学期間が被っていた者も、まだ相当数いるらしい。


「そもそも貴族階級が、自国の王子の顔を知らないのも無理がありますし……。ええと、無理なら別の作戦を考えますが……」

「いや、問題は無い。どうしてその結論に至ったか聞きたかっただけだ」


 光の女神は、ふっと息を吐き、目を閉じてソファの背もたれに身を預けた。


「となると、潜入するために身分を考えなくてはな。設定は固めたのか?」

「少しだけ……ヴェルタ王家の遠縁で、数代前からアルカノスティアに移り住んだ家筋の子、という設定にしようかな、と」

「ふうん。無理はなさそうだ。王子が身元を保証するなら、疑う者もそういないだろう」


 それからしばらく、女神は黙って何か思案していたが、不意に目を見開いて立ち上がった。

 つかつかとテオドアの前にやって来て、勢いよく肩に手を置く。

 突然のことに驚いていると、彼女はこちらの顔を覗き込んで言った。


「やるなら徹底的にやるぞ」

「え?」

「徹底的に設定を作り込む――安心しろ。協力は惜しまない」


 言って、応接間の扉を振り返る。

 合図も何もなかったはずだが、示し合わせたかのように扉が開き、女神付きの女性使用人たちが数人入ってきた。


「お呼びでしょうか、光のお方」

「ああ。テオドアを平凡な男子学生に作り変えたい。架空の身分も作る」

「承知いたしました。私ども一同、腕によりをかけて、〝依代〟さまを平凡な人間に作り変えます」

「え? あの――」


 置いてけぼりを喰らったテオドアが、困惑気味に声を上げるが、それは全く無視された。


 いつぞやと同じように、両脇を抱え上げられ、部屋から連れ出される。今なら抵抗はできるだろうが、後が怖過ぎる。

 何もしないのがいちばん無難だと、直感してしまった。


 テオドアが応接間から出される寸前、ルクサリネは美しく微笑んだ。


「こんな面白いこと、私にも()()()()()()くれなくては困る。そうだろう?」




 女神の悪ノリ――もとい、熱心な協力により。

 ルチアノたちがとうに帰った三日後には、「架空の身分」がほぼ完璧に作り上げられた。


 テオ・カヴァルロ。

 十五歳。ヴェルタ王家の遠縁に当たる家系の出身。アルカノスティア王国では全く社交界に関わっていなかったが、一応は貴族である。

 テオ自身、学院に入学してのし上がろうという意識はなく、家庭学習でひと通りの知識を身につけるつもりでいた。

 しかし、先の〝依代〟選出の折、魔力検査の間違いが起きていたという噂を知り、再検査。――想定以上に魔力を持っていたことが判明。

 家庭学習では、とても賄いきれない。下手をすると暴走の可能性もある。


 そういうわけで、父母の後押しもあり、ヴェルタの王家の伝手を頼って、学院に留学してきた。


「どうだ?」

「いや、どうだと言われましても……」


 『設定』が書かれているらしい分厚い紙束を、楽しそうに抱えて持ってきた女神に。

 立ったまま微動だにできないテオドアは、弱々しく言葉を返した。


「貴族という設定にすると、同郷の留学生がうるさそうだが……アルカノスティアの国王に話を通しておけば、なんとかなるだろう。いや、新しく貴族を作らせるなりして()()()()()()()

「でも、了承してもらえるかどうかは……」

「心配いらない。お前は国王の恩人だからな」

「あ……はい、分かりました……」


 女神は弾むような声で怒涛のように語りながら、ぺらぺらと紙をめくっていく。

 話を聞くに、精霊たちの手を借りつつ、おおむねは一人で『設定』を書き上げたらしい。

 その情熱はどこから……とはとても言えず、テオドアはただ頷くに留めた。


「ああそうだ、家系図も作った」

「家系図も!?」


 テオドアは思わず身を乗り出した。

 凄すぎる。情熱のひと言で片付けていいものでは無いのかもしれない。

 しかし、女神が広げた家系図を覗き込む前に――後ろから襟を掴まれて、物凄い勢いで引き戻された。


「〝依代〟さま。採寸中です。じっとしていてください」

「……はい……」


 すごすごと元の位置に戻り、両腕を上げる。

 厳しい顔つきの女性精霊たちは、テオドアを取り囲んで、ああでもないこうでもないと言葉を交わす。時折、紐を体に当てて採寸するが、ほとんどは話し合いである。

 だと言うのに、少しでも動くと怒られるのだ。


「大変だな。天下の〝依代〟も、精霊の前では形無しか」

「元はと言えば、貴女さまのご命令では?」

「そこまでしろとは言っていない。素材が良いからやり甲斐もあるんだろう」


 適当なことを言う。かれこれ三時間は立たされている身にもなってほしい。

 テオドアの無言の訴えを察したか、さすがに不憫になったか――女神は精霊たちに歩み寄り、「今は何を決めかねている?」と問うた。

 精霊の一人が、うやうやしく頭を下げてから、答える。


「〝依代〟さまのお(ぐし)のお色を。私は、白で良いと思うのです」

「いいえ! せっかく質が良い髪なのですから、金の色が映えるに決まっておりますわ!」

「澄んだ空色がいちばんです。分かっていないわね」

「分かっていないのはあなたでしょう!?」


 精霊たちは口々に争いながら、意見をぶつけ合う。

 女神の前だということを忘れていそうな勢いだ。


「そうか……」


 女神はゆっくりと、噛み締めるように頷き、彼女たちに注意を――


「私は光らせるのが良いと思うぞ」


 ――促すことはせず、嬉々として話題に飛び込んだ。


「光らせる? 悪目立ちしてしまうのでは?」

「いや。月明かりのように控えめに光らせる。昼は白銀に見えるだろう。夜も光って便利だ」

「夜道は危ないですものね」

「お待ちください。それならば金に光らせるのでも良いのでは?」

「だから、それだと目立ってしまうでしょう。バカね」

「でも、金も捨て難いのは分かってください――」

「それは――」

「――」


 今までより白熱し始めた議論を眺め、テオドアはそっと腕を下ろした。

 誰も見咎めなかった。

 

 放置されたテオドアが、自らの部屋に帰り着けたのは、その五時間後のことであった。

 

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