↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最高神の〝依代〟 〜転生後も不遇で虐げられた公爵子息の、最高神成り上がり譚〜  作者: 蒼波季京
第二部 第六章 ヴィンテリオ公爵家騒動記

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

82/251

??.企みを持つ者の逢瀬

 女は、煌びやかなステンドグラスから差し込む光に、目を細めた。

 大きな神殿の『祈りの間』には、女以外に誰もいない。常ならば信心深い参拝者で溢れるここも、今は静寂に満ちている。

 不躾にも供物台に寄りかかって、色鮮やかなガラスを眺めていた彼女は、ふと何かに気付いて振り返った。


「遅い」

「申し訳ございません。神官との打ち合わせが長引きまして」

「それって、わたくしを待たせるほど重要なことなの?」

「いいえ、とんでもない」


 白を基調とした、豪奢な神官服を着た初老の男が、微笑みを(たた)えて歩み寄る。女の威圧は相当なものだったが、彼の態度はまったく揺らがない。

 女は、ふんと鼻を鳴らして顔を逸らした。その豊かな萌黄の髪が、勢いよく宙に散る。


「……計画は順調に進んでおります。どうぞお気をお鎮めください」

「順調? 〝依代〟候補に紛れ込ませた『器』は、どちらも使い物にならなくなったと聞いたのだけど?」

「帝国のほうは関知しておりませんが、こちらの――大司祭、セブラシト・フラメリネスは、身体だけは動きます。万が一の備えにはできるかと」

「ふーん。そんな名前だったのね、その子」


 と、さして興味も無さそうに、女は言った。


「でも、(かえ)って良かったわ。修正した計画のほうが、より理想に近づけるはずだもの」

「左様ですか」

「それで言うなら、こちらも順調ね。今日は、天界で罪人の罰が決定したところなんだけど――」


 言葉を切り、女は再び男を見遣る。

 男は、美しい女の視線にも動揺ひとつせず、貼り付けたような微笑みを浮かべ続けていた。


「どさくさに紛れて、〝依代〟を天界に召し上げるのを保留させたのよ。他にも――そう、『光』が熱心に〝依代〟を庇っていたわね。恋人なのかしら」

「『光』――〝依代〟候補を選び出す女神さまでしょうか?」

「ええ。あの子にも遂に春が来たの。もっとも、自分で選んだ〝依代〟に惚れるなんて、悲劇的なことだけど」

「では、()()()()に引き込む手もあるのでは?」


 男は、控えめに、しかし芯のある声音で口を挟んだ。


「〝依代〟たる少年を消耗させずに済む、と分かれば、あちらにも一考の余地はあるでしょう。少なくとも、悪い話ではないはずです」

 

 その提案を、女は軽く笑って一蹴する。


「ダメよ。あの子は、()()()()()()()()()もの。奔放に見せかけて規範に囚われているし、そう大それたことはできない。それに――」

「それに?」

「あの〝依代〟は、計画の邪魔になりかねない()()がある。早めに殺しておくのが良いわ」


 そう言われて、男は深々と頭を下げる。

 

「差し出がましいことを申しました」

「差し出がましくないお前なんて、ゾッとするわね」


 女は冗談めかして肩を竦ませてから、男のほうへ一歩、足を踏み出した。


「国の運営はどう?」

「滞りなく。貴女さまを始めとした、皆さまのお力とご威光あればこそです」

「変な世辞だけ上手いのよね。ほんと、胡散臭い男」


 一歩、また一歩。

 二人の距離は近づく。


「帝国は変な動きをしていないでしょうね?」

「今のところ、特に怪しい動きは確認されておりません」

皇帝(アレ)は、いつも余計なことしかしないもの。しっかり見張っておきなさい」

「仰せのままに」


 女は、男が手を伸ばせば触れられそうな、ギリギリの距離で立ち止まった。

 腕を組み、頭を下げたままの彼を、冷たく睥睨する。


「――お前にも言ってるのよ。余計なことをしたら、分かっているわね?」

「無論、皆さまのお気に召さなければ、即座に我が命を捧げます」

「お前が素直に死ぬとも思えないのだけど、まあ良いわ。今のところは信用してあげる」

「我らの目的は、世界を在るべき姿へ戻すこと。それを忘れたことなどございません」


 女は、その言葉には答えなかった。

 関心を無くしたかのように目を逸らし、すっと男の横をすり抜ける。

 そのまま、『祈りの間』を立ち去った。


 男は、足音が聞こえなくなったのを確認して、ようやく顔を上げた。

 女が消えたほうを振り返り、呟く。


「……裏切りなどするものか。〝世界を救う〟などと、そうできるものではないからな」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。