表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最高神の〝依代〟 〜転生後も不遇で虐げられた公爵子息の、最高神成り上がり譚〜  作者: 蒼波季京
第二部 第五章 父との衝突

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/251

70.怒り

「殺して良かったんですか。後継ぎでしょう。あと、娘が殺されたら、王弟が黙っていないと思いますが」

「問題ない。後継ぎならツィロがいる。ローゼルは急病で死んだ」


 どう見ても急病どころではない女の骸を跨いで、公爵はパウロの服を掴んで持ち上げた。死体は未だぼたぼたと血を落とす。

 仮にも、子まで成した仲の妻と、自らの血を分けた息子だというのに。他人よりもぞんざいだ。


「これは、テオドアくんの仮の肉体だ。『楽園』に帰ったら、女神たちが別の肉体を用意しているらしい。ずっとパウロのまま生きるわけじゃないから、安心してくれ」

「……やっぱり、そうでしたか」


 光の女神が疑念を呈した、「パウロに流れる王家の血」の問題。

 愛する男――前世のテオドアだ――を殺した者の血筋。百年の時を経ていても、彼女たちの憎悪は並ならぬものだった。そこへ、魂は異なるとは言え、憎い血筋の者と共同生活を営めるだろうかと。


 ――答えはおそらく、否。


 『森の番人』の亡骸を修復し、『夢と眠りの女神』が付きっきりで世話をしてまで〝保存〟していることからも、分かる。

 準備が整った時点で、再び禁術を使い、『森の番人』にテオドアの魂を移す。そして、不要になったパウロの肉体は、今度こそ捨てられる。


 そして、パウロとテオドアの父たるヴィンテリオ公爵も、それを容認していた。


 ある程度、予想はしていたが。本人の口から答えを得ると、推測を立てていた時とはまた違う「腑に落ちた感覚」がするから、不思議だ。

 テオドアはふと、肩の力を抜き、自然体になって問うた。


「……貴方にも聞きます。どうして、こんなことをしたんですか?」

「どうして? 自分の家族を守りたい、みすみす死なせたくない、と思ったからだが」


 公爵は何の気兼ねもなく、当たり前のように言い切った。


「俺はリーザを愛している。もちろん、リーザが産んだテオドアくんもだ。俺は家族を守る。幸せな家族を。やっと産んだ子どもが死ぬなど、リーザはきっと耐えられない」

「だから……女神さまたちに協力を?」

「ああ。秘密裡に協力を持ちかけられた。テオドアくんの魂は、女神たちも欲しがっていた。リーザの子としての肉体が喪われるのは惜しいが、背に腹は変えられない」


 女神たちは、「表向き王弟と手を組むフリをするから、お前もその通りに動け」と言った。

 「王弟とその血族を騙し、利用する。利用できた後は殺しても良い」とも。

 公爵は了承し、王弟に協力をするかのように動いた。国王を眠らせ、王城の皆を眠らせ、適切に記憶を操作した。

 だが、王弟が王位に就こうが就かなかろうが、もうどうでも良い。

 そのようなことを、公爵は淡々と言った。


「そうだ、パウロの魂も捕まえておかなくてはな。でなければ、殺した意味がない」


 パウロの死体を捨てたかと思うと、公爵は右手の剣を持ち直し、切先を天井に向けた。

 すると、俄かに剣が光を帯び始める。それと呼応するように、薄く透けた人影が二つ、現れた。

 誰の姿かは判然としない。男か女かも分からない。辛うじて判別できるとすれば、ひとつはほんのりと青みを帯び、もうひとつは薄紫に色づいていた。

 「彼ら」は、戸惑うように、辺りをうろうろと歩き回っている。


「青い方か」


 公爵は、ためらいなく青い人影を切り裂いた。

 斬られた人影は、悲鳴を上げるかのように大きく仰け反り、見る間におびただしい光の粒と化した。そうして、剣の中へ吸い込まれていく。

 青い人影は、その場から消え失せた。


「冥界では、魂は生前と同じ形を保つそうだ。だが、地上には『冥界の神』の加護がない。生前の姿は保てない」

「じゃあ、あっちは第一夫人ですか」


 テオドアは、動きを止めたもうひとつの人影に視線を向けた。

 先ほどまで落ち着きなく動いていたというのに、今は少し離れたところで棒立ちになっている。呆然と立ち尽くしている、ようにも見えた。


「自分の妻と息子なのに、容赦がないですね」

「……? 喜ばないのか? テオドアくんが復讐しないなら、俺が、と思ったんだが。リーザとテオドアくんは、コイツらに虐められてたんだろ」

「そうです。理由は知りません」


 魔力無しとして生きていた頃が、ずいぶんと遠い昔のように思える。

 憎しみに身をたぎらせ、しかし諦めと共に生きていたのが、嘘のようだ。この数ヶ月に起きた出来事があまりにも多く濃密すぎて、数年は経ったような気がしてしまう。

 テオドアは、「第一夫人の魂」を眺め、次いで二人の死体を見た。

 それから目を閉じ、自分の心の動きを確認してみる。


 ――うん、やっぱりそうだ。


 テオドアは、ゆっくりと(まぶた)を上げた。


「……何十年も地上を彷徨っていて、魔物になりかけていた魂を、母の胎に宿らせたもの……それが僕なんですね。リュカが白状しました」

「ああ、方法を教えてくれたのもアイツだ。死んだことに気付かない魂は、冥界への道を見失いやすいと――」

「分かりました」


 公爵の言葉を遮って、テオドアは彼の顔を見る。

 相変わらずの無表情だった。

 だが、無表情でも、なんとなく浮かれているようなのは感じ取れた。

 ……全てが上手くいっているから、だろうか。


()()()、僕はね。優柔不断だし、自分よりも他人の都合を優先してしまうお人好しです。いくらでも悪ぶれるけど、結局中身は、虐げられていた頃の精神のまま、卑屈なままです」

「テオドアくん――」

「だから、僕の代わりに、復讐を果たしてくださってありがとうございます――




 ――なんて言うと思ったか? クソが」


 


 テオドアは足を踏み出した。

 血溜まりを跳ね上げ、公爵のもとへ真っ直ぐ、あらん限りの()()()()()()


「おめでたい頭をしてるのは、パウロやツィロと同じですね。いや、あの人たちが貴方に似たのか。可哀想に」


 自分より上背のある公爵の胸ぐらを掴み、力を込めて引き寄せる。

 突然のことだからか、それとも虚を突かれてしまったからか――公爵は二、三歩引きずられてよろめいた。

 その瞳は、わずかに見開かれているようだった。


「どうして貴方が首を突っ込んでくるんですか? どうして自分が何もかも決められると思い上がっているんですか? 僕の死も、憎しみも、過去も、未来も、貴方に決められるものじゃない――僕が! 僕自身の意思で! 乗り越えるべきものだ!!」

「テ、」

「気安く名前を呼ぶな!! 貴方は――()()なんか、父親でもなんでもないッ!!」


 ひと息入れて、テオドアは公爵を、突き飛ばすように離した。

 湧き上がるのは、震えるほど強い怒り。十数年、「テオドア」として生きてきて、少しずつ心の奥に降り積もっていた感情だ。

 

 未だ困惑している様子の公爵を睨みつけ、テオドアは低く言い切った。



「――終わりにして差し上げます、ヴィンテリオ公爵。ふざけた夢物語を見続けるくらい、耄碌(もうろく)しきっているようですから」

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ