表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最高神の〝依代〟 〜転生後も不遇で虐げられた公爵子息の、最高神成り上がり譚〜  作者: 蒼波季京
第二部 第五章 父との衝突

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/251

間話.ある男の半生

 男には、生まれた時から全てがあった。

 地位があり、美貌があり、力があった。周囲からの愛もあった。人々は赤子に過ぎない彼を持て(はや)し、神童だと崇めた。


 けれど、彼には、なにもなかった。


 喜び、悲しみ、怒り、楽しみ。人が当たり前に持つ感情を、彼は遠いもののように眺めていた。

 なぜって、彼には、全てがあるのだ。


 生まれた時から、当たり前のように行使できる力。飢えを知らない満たされた生活。友達というものも親から当てがわれたし、挫折も失敗も起こりようがなかった。

 失敗がないから、向上もない。悔しさもない。ただ、毎日が事象として過ぎていくだけ。


 恵まれた環境に感謝もしない。

 もともと当たり前に在るものに、どうやって感謝をしろと言うのだろう?

 人間が、呼吸に感謝をしないのと同じことである。


 彼は、順調に育った。病気ひとつしなかった。

 十を過ぎたころ、両親が相次いで亡くなって、彼は「公爵」を継いだ。

 やはり、悲しみはなかった。


 魔術学院では、ひと回り歳が上の王太子と友達になった。

 王太子が見るからに成績不振で、周囲から「落ちこぼれ」と嘲笑われていても、男は気にせずにつるんでいた。

 友を気にかける優しい心から、ではなかった。

 ふざけているわけでもないのに失敗を繰り返す王太子が、興味深い生命体だったからである。


 時は過ぎ、男は成人した。

 父が亡くなった時から、名目上は「公爵」だったが、これで名実ともに爵位を継げることになる。

 それに対しても、感慨はない。ただ粛々と現実を受け入れるのみだ。

 男が淡々と執務をこなすのを見て、幼い頃からの「友人」は大いに笑った。


「ホントに、変わんないすね。無愛想が極まり過ぎて、心まで固まってんじゃないすか」


 そう言う友人は、十代後半の青年の姿をしている。

 男が物心ついた時には、すでに出入りの貴族として、彼によく構っていた。年月が経ち、男は成人したが、友人は変わらぬ姿のまま。

 だが、家の使用人も出入りする貴族たちも、まったく違和感を持った様子はないので、「友人」は人ではないのだろう。

 たまに、予言ができるという陰気な男を連れてきて、予言させるでもなく遊びに付き合わせるという不可解な行動以外は、面倒のない青年である。


「アイツはたまに日干ししないといけないんで」


 というのが、その時の友人の言い訳だった。



 

「なんか、王弟からお手紙が届いてますけどー」


 手紙をひらひら降りつつ、友人は執務室の扉を蹴破った。公爵たる男も特に気にしないため、注意するものは誰もいない。

 男は、公爵家の領地から届いた報告書に目を通しながら、端的に言った。


「婚約を受けたからな。そこの娘との」

「え、王弟のとこって、一人娘じゃなかったんすか? 王弟妃も亡くなってんでしょ? 後継ぎいないんで、てっきり婿養子でも取るのかと」

「さあ。王弟の事情だ、俺には関係ない」

「はー、さっすが、ブレませんねえ。ま、いいや。これは王弟からっすけど、婚約者から来た手紙には半日以内に返事出したほうが良いすよ。これ、人生の先輩からの豆知識です」

「分かってる」


 本気で言ってんすか? と、友人は腹を抱えて笑った。いかにも、「公爵にそんなことができるわけがない」という態度である。

 それを無視していると、ひとしきり笑って満足した友人は、手紙を魔法でくるくる飛ばしながら言った。


「じゃ、オレはその辺散歩してます。なんかあったら呼んでください」

「俺一人でどうとでもなる」

「はいはい。強い強い」


 王弟からの手紙が、ひとりでに執務机に落ち着いたかと思うと、既に友人は部屋から出ていた。

 特になにも思うことなく、しばらく仕事を続ける。

 どれほどの時間が経ったのだろうか。部屋の外がばたばたと騒がしくなり、誰かが執務室の中に転がり込んできた。


「あの! ここに! えっと、リュカオンは!」

「庭にいるらしい」

「あ、ありがとう! 命の恩人!」


 肩で息をする男は、公爵よりも少し年嵩(としかさ)に見える。例の、『予言ができる男』だ。友人とは長い付き合いであるらしい。

 普段は頼りなげな振る舞いで、太陽さえ嫌がる男だが、今はそんな態度は微塵も窺えない。大袈裟な物言いはいつものことではあるけれど。


「さ、さっき、ここの家政婦長に告白された。『伝れ』――リュ、リュカオンから焚き付けられたらしい」

「そうなのか」

「と、と、問い詰めてやる! だから、探してた! この恩は一生忘れない!」


 そう言って出ていきかけた予言男は、しかしすぐに戻ってきて言った。


「お、恩はすぐに返したほうがいい! ええと、そうだ。お、おまえの二番目の息子は、長生きするぞ。い、い、今、祝福をやった」

「感謝する。だが、どうして二番目の息子なんだ?」


 特に興味があったわけでもないが、なんとなく尋ねる。予言男は、下手くそな笑顔を浮かべた。


「き、決まってる。おれの性質と相性が良い。き、きっと、引き篭もるのが好きな人間になる。太陽も嫌うだろう」

「そうか」

「だ、だ、だが――」


 予言男は、少し言葉を切った。まじまじと公爵の顔を見て、見る間に顔を青くしたかと思うと、まごつきながらも続ける。


「お、おまえの、三番目の息子は、〝依代〟になって、十四で死ぬ。これは、さ、避けられない。よっぽどのことがない限り」

「なるほど。まあ、男児が一人生き残れば、公爵家は存続する。別にいい」

「い、良いのか? み、未来では、後悔しているぞ」


 ――そうして、後年。

 本当に、後悔することになった。




「リーザの子が欲しい」


 公爵は、一目惚れに近い形で、愛を知った。

 平民だった相手の娘は、魔力が豊富だったため、あまり抵抗なく社交界に受け入れられた。本当は、愛のない婚約など蹴って、彼女を第一の妻に据えたかったのだが――仕方がない。

 猛反発を受けては、愛する女の方に危害が及ぶ。


 婚約を一方的に破棄されそうになって、第一夫人は尽きぬ怒りを抱えているようだった。

 それに配慮した第二夫人は、輿入れの前に公爵の許可を取り、秘密裡に「子を成せない身体」となった。

 公爵も、愛する女さえいれば、他になにもいらないと思っていた。

 

 だが、第一夫人との間に子が生まれ、少しずつ成長している様を見ていると――

 決して成せない第二夫人との子が、欲しくなった。


「って、言われても、オレは医術専門じゃないんで……」


 相談を受けた友人は、難しい顔をして答えた。


「頑張れば、まあできなくはないすけど、女性が子どもを育む器官って繊細なんですよ」

「分かっている。治療は請け負う」

「うーん。繊細っていうのは、いったん壊れたのを治し切れるか分からないってことっす。『死』と同じように、『生』も、例え神にだって弄れるもんじゃないんです」


 今は亡き最高神なら、もしかしたら……って、感じすね。

 友人は肩をすくめた。


「まあ、叶わない望みがあっても良いじゃないすか。第二夫人が子どもを産めなくなったのは、アンタのせいでもあるんすよ? 罪を噛み締めて生きていけってことです。いちばん苦しいのは、第二夫人でしょ?」

「そうだ……俺は、リーザを苦しませている。だから、なんとかして産ませてやりたい」

「うわ、それ、第二夫人に言ったんすか?」

「いや。だが、そうに決まっている」


 友人はなぜか「あちゃー」と渋い表情をしたが、公爵は真摯に彼を見つめた。

 彼なら、なんとかしてくれるのではないかと思った。


 友人はしばらく考えてから、溜め息をつきつつ言う。


「ああもう。分かりましたよ、分かりました。オレにも、まったく解決策がないわけじゃないです。やってはみますけど、ホントに、第二夫人から許可取ってくださいね」

「ああ」

「仕組みを説明しますよ。まず、冥界に行くことができなかった魂を――」


 その「方法」を教えてもらった公爵は、喜び勇んで第二夫人のもとを駆けつけ、さりげなく言質をもぎ取った。


 そうして、万事が上手くいき、第二夫人は公爵の子を産んだ。

 男児である。第一夫人の子と合わせて「三番目」の息子だが、〝依代〟になるほどの魔力は持ち合わせていない。

 あれは予言男の戯言だったのだろう、と安堵した。



 急転したのは、十数年後。

 王国の遠い属国の地にて、〝依代〟が定まったという報を聞いたときだった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ