最終話
最終話です。文字数多くてごめんなさい
短期間で二人の人間に告白された。
その勇気をもらったから自分も告白しないと、クズ男の俺のレベルがあがっちゃうよね。
「この間二人きりであったんだって?」
飲みに誘うとすぐにOKが出た。今日は二人きりで会えるのが嬉しい反面、自分の気持ちをしっかり伝える。ノリで告白しようとした自分馬鹿じゃんって後悔し始めた。
個室のある酒屋でサシで向かい合うと、ドキドキが止まらない。
「いや、そうなんですけど」
「お昼から帰ってきたらいきなり“今日はもう仕事ができそうにないので帰ります”って宣言して帰るし。翌日からは今までにないくらいに全力で仕事してるから、職場のみんな困惑してる」
「どうしてそれが俺のせいだと」
真っ直ぐ生きるを具現化しているような存在の侑真。答えを聞くのが本当に怖い。
「振られた相手をギャフンと言わせるためにまず、男力と仕事力を磨こうと思いますっていったんだ」
届いていたハイボールを一気飲みする陽翔。明らかに怒っている。どこに怒る要素があるのかな。俺が侑真の告白を受け入れるべきだったのか。
「仕事ちゃんとやるならいいんじゃない」
「久我くんの見た目忘れたの?あれで仕事ができるようになったらおれの負担が違うところで増えるんだけど」
「ご愁傷様です」
男を磨くことと仕事をしっかりやることがイコールなのがなんとなく可愛い。
「おれの愚痴はいいや。それより今日はどうして飲みに誘ったんだ」
「なんだかんだで、離れている間の話ゆっくりできてなかったし」
「確かに、二人で飲みに行くってなかったな」
どこかお互いに踏み込んでは行けないって距離を測りあぐねていたところがあった。
陽翔は考える素振りをして、手にしていたグラスをテーブルの上に置く。俺は聞き役に徹しようと、運ばれてきていたローストビーフに手を伸ばす。
「本当は俺、医者になりたかったんだ」
突然の告白に俺は手にしていたフォークを落としそうになる。陽翔は笑っていた。小学校からずっと一緒に居たのに、陽翔が野球以外に興味があることを知らなかった。
「と言っても、仁が怪我してから、仁みたいな人を助けられたらって考えたんだけど、今まで勉強全然してこなかったから、いきなり医大に行けるわけ無かったんだけどね」
当たり前だよねと言いながら、二ヘラと笑う、その顔を知っている。恥ずかしさを隠すようにしていて、でも自分の信じた道を進んでみたかった時の顔。
「野球一筋だったから何も他に出来ることが無かった。薬を開発するいことはできないけど、それを作ることに携われる営業職でも医療系の仕事に就けたのは嬉しいんだ。仁はおれのヒーローだから」
違う、俺にとってのヒーローは陽翔で太陽のように温かくて、優しさに付け込んで自分の想いを押し付けようとしている俺なんかが本当は一緒に居ちゃいけないんだ。
俺が汚していい人じゃない。甘えている俺はもう、辞めなきゃいけない。じゃないと陽翔の事を鎖でつないでしまいそうだ。他の誰にも見えない所に閉じ込めてしまいたい。
俺だけのものだって誰にも文句を言わせたくない。
「仁は誰からも人気あったからおれ、本当は少し嫉妬していたんだ」
「陽翔が、嫉妬?」
してくれると言うのなら喜んでしまう。友達以上に慣れなくて当たり前だとおもっていたから。
「仁は自分が思っているよりも人気があるんだよ」
「マジか」
学生時代に告白された記憶がない。ずっと野球と陽翔を追いかけていた。歴代の彼氏に関しては相手に告白されるように仕向けていたけど。
「野球にひたむきだった仁の気持ちを乱さないようにみんなでけん制しあってたんだよ」
「嘘だ」
「本当だよ」
「いらない期待させるなよ」
陽翔の事をずっと見てきた。俺が感情を押し殺していたのを知っているのか。知っていてずっと、側に居てくれたのか。
そんなこと言われたら、十数年分の想いが口からこぼれ出ていた。
俺口硬いはずなのに、こんなにぽろっと出ちゃうんだって。びっくり。
「小学校の頃からずっと好きだったんだ」
伝えるならちゃんとした場所でと、思っていたのにどうして俺は家に陽翔を呼んで飲んでいて。家に奥さんも待っているはずだから早く返さなきゃって思いながらもいつも付き合いがいいから甘えてしまっている。
陽翔はいつも俺の気持ちを言わなくても察してくれる。
「知って欲しかっただけなんだ」
困らせるつもりは無い。だってお前は愛する妻が居るんだろう。
高校時代から一ミリも俺は成長できていない。
好いてくれる保障なんてないのに、期待している。期待しても無駄なのに。
「泣いてる」
聞きなれた声は、俺の事をからかうかのように、顔を隠そうとしていた腕を掴む。知っている温度の筈なのに、掴まれたその場所から新たな熱が産まれるような気がした。
「泣いてない、ごめん陽翔」
「謝る理由は何」
再度顔を隠そうとしたが、手で押さえつけられた。正面に向き直って座る陽翔。
ミットを構えている時のように真剣な眼差し。相手の動きから本心を見つけ出そうとしている。
「奥さんいるのに、俺なんかに告白されても困るだろ」
一度も家に呼ぼうとしないのも、きっと俺がお前のことを好きなことに気が付いているから近づけたくないから。幼馴染に恋愛対象として見られていて、自分は結婚して、応えられるはずなくて。
「嫁は居ないよ」
陽翔の声は震えていた。俺を掴んでいた手の力も弱くなる。
「言ってなかったっけ?元々体が弱くて、子供産むのも本当は両親に反対されててそれで産もうとしたら」
高校の時に俺が肩を壊したときに一度だけ見た、陽翔の泣きそうな顔と重なって、あの時は逃げてしまったけど今は逃げたらきっと同じことの繰り返しで。
俺は思わず陽翔の事を抱きしめていた。肩に埋もれた陽翔の声は振るえていた。
「二人で居られたら幸せだった。でもあいつは俺の子供が欲しいって言って、俺があいつを止めてれば死なずに済んだんだ。止めてれば今も一緒に居られた」
「うん」
「もう恋愛はしないって決めてたんだ」
自分が試合に出るとなると、誰かが試合に出られなくなる。それを分かった上でレギュラー争いをしている時に、陽翔はよく自分の事を責めていた。試合に出たい気持ちもあるけど、その反面涙をのんでいる人が居て。優しすぎてみている方が辛くなるくらいに陽翔は優しかった。
「仁は中学くらいからおれの事好きだったろ」
陽翔は俺の肩に顔をうずめたまま。俺は抱きしめている手の力を強めていいのか悩む。実際は小学生の頃から好きだった。
陽翔が初めて女子に告白されているのを見て嫉妬した。
俺のがずっと一緒に居て、試合も共に戦ってきたのに、それなのに、ひょっこり出てきた女子に陽翔の心が奪われるかと思うと納得がいかなかった。
「隠したたつもりだったんだけど」
「そりゃ気が付くよ、何年バッテリー組んでると思っている」
俺の肩から顔を上げた陽翔の目は赤く、少し潤んでいた。家族の事を率先して話そうとしなかったから聞かなかったが、それがよかったのかもしれない。
大切な人を亡くした心の傷。俺は大学生の時に父方の祖父を亡くしただけで、よくわからなかった。元々正月などのイベントの時にしか顔を合わせないでいたため、お葬式の時に泣きじゃくる身内に共感できなくて、母親に冷たい子ねと言われたのを覚えている。
「仁も学生時代付き合ったことあるじゃん」
高校の時、一度だけ付き合ってみたことがあった。肩を壊す前で、先輩には野球に集中できなくなるから辞めろと止められて、案の定怪我をして、その女子も俺がエースじゃなくなったら向こうから振ってきた。俺の事が好きというより「野球部のエースの彼女」の立場が欲しかっただけなのかもしれない。
「正直言って好きで付き合っていたわけじゃない」
俺は顔を上げた陽翔の頬に触れてみる。泣いた後の顔はどこか艶があり、俺を求めてきているのかと錯覚してしまう。
「小学生の頃からずっと片思いをしている奴がいるから、そいつの事を忘れたくて付き合ったけど誰も忘れさせてくれなかった」
「すごい長い間片思いしてるんだな」
「お前のことだよ。さっき告白しただろう」
陽翔はその言葉に目を丸くする。
「何年片思いしてたんだお前」
「知らないよ」
簡単に諦められると思っていた。初恋は叶わないといつの時代も言われているから、俺の恋が叶わないのも当然だと割り切りたかった。
でもいつも思い出してしまうんだ。
楽しいことをしていても、美味しいご飯を食べていても、陽翔の顔がチラついて、例えば目の前に今の恋人がいたとしても、その人の事を見ていても、いつもお前のことを考えてしまうから。
「告白の返事は、聞かない」
「なんでだよ」
「だってお前ノンケだろ」
触れている手を振り払おうとはしない。直ぐに払われると思っていた。俺の返事を聞いて陽翔は逆にその手にすり寄ってきた。
心臓が先ほどよりも早く脈打つ。慰めるつもりで抱きしめたのが悪かった。試合に勝ったときとか自然と抱き着いていたけど、それでも少しだけドキドキしていた。
「おれがお前を嫌いだっていつ言った?」
陽翔の手が俺の手に触れる。
「嫌いなら今ここに居ない」
そっと俺の顔に手を差し伸べる。
「確かに男と女なら、女が好きだね。柔らかいし」
言いながら俺の頬をぷにぷにつまみ始める陽翔。
「女の子のが好きだけど仁がおれの好みの女の子になってくれるの?」
学生時代、女の子になれるのだとしたら、陽翔が振り向いてくれるのか考えた。一緒にバッテリーを組んでいられるのは、男だからかと思ったけど、それでも恋愛対象になりたいのは、恋心が強くなると、一緒に居られているのに、距離がもどかしくなる。
隣に居られてもそれ以上の距離をつめることが出来なくて。詰めたいけどしてしまうと簡単に壊れる関係になるのも怖かった。
「女になれば好きになってくれるの」
「好きになるのに性別が大切」
首を傾げる陽翔。奥さんが居たり学生時代に彼女が居た陽翔が言うと不思議に感じてしまう。俺は恋心を必死に隠して生きていたのに。陽翔に彼女が出来た時に嫉妬で狂いそうになったのに。
初恋は叶わないと言われていて、だから諦めて、それでも告白しないと自分の気持ちに区切りを付けたかった。それなのに。
「陽翔はずるい」
試合を組み立ててた時と同じ。陽翔はいつも俺の感情をくみ取っている感覚がある。奥さんが居なくても、それでも恋愛対象は女で。女の子のが好きだと言っていたのに。
「おれは学生時代女の子が好きだったし、気が付かないフリしてた。怪我してから元気なくて近づけなくてそれで再開して告白されて今に至るから」
「学生時代に告白しても、駄目だっただろう」
陽翔が自分のいじっていた手を止める。
「そうだね」
ずんと、胸に重いものがのしかかる。確認しなくても分かっている。だってそういうものだと分かる。普通は男女で恋愛をする。
共学で、自分の周りには男女の恋愛をしている人たちだらけの中で、どうして自分だけ同性が好きなのか誰にも相談できなくて。
陽翔以外の人たちにも気づかれていたのだとしたら、同窓会に行かなくてよかった。
傷を自分で広げていきたくない。好きという感情を誰かに否定されたくない。
「今だから好きだと言えるって言ったら信じる?」
陽翔が再度俺の顔に手を伸ばす。今度は両手で俺の顔を挟むように。
「奥さんが死んだからっていうのは言い訳だけど、大切にしたい人を考えるようになったんだ。そしたら仁の顔が浮かんできた。久我君が真っすぐ仁の事を想っているのがすごくむかついた」
至近距離で見る顔。見慣れているはずなのに、ドキドキしてしまう。
「仁が好きだと、気が付けた。都合いい言い方かもしれないけど」
「陽翔」
試合に勝って何度も何度も見てきた嬉しそうな笑顔に俺は気が付いたら涙を流していた。
「嘘つくなよ、陽翔」
「おれが嘘つかない性格なの忘れたのか」
「忘れた」
陽翔がそっと俺の唇に自分の唇を重ねる。今まで付き合っていた人と何度もしてきた動作の筈なのに、顔に熱が宿るのが分かる。
「ファーストキスでもないのに、どうして照れてるんだよ。おれが助けた相手ともしてたんだろ」
少し不満げに言う陽翔。陽翔も結婚していた間何度もしてきているはずなのに。
「お前とは初めてだろ」
そう言って俺は陽翔の唇に自分から噛みついた。
ここまで二人の物語を読んでいただきましてありがとうございます。




