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「相川君」
最近俺にちょっかいを出してくる同期。今まで一切絡んでこなかったのに、今年に入ってから飲みに誘われる回数が増えた。同じ部署ではないので、同期と言ってもあんまり仕事の話をしない。
「何かあったか」
あえて気にしないふりをしている。知らないふりをしていれば壊れない関係でいられる。男と女。変な噂が立てられても困る。男が好きだと会社では一言も言っていない。以前路上で口論をしていたのをどれくらいの人に目撃されたかわからないけど、痴情のもつれだと思う人は少ないだろう。
少なくないと困る。世間の目を気にして恋をしている俺には堂々と男が好きだと公言する勇気を持ち合わせていない弱虫。己の好きを隠すことなく直球で俺に投げてきた侑真が羨ましい。伝えようと思う気持ちが多くて。大切にしてほしくて、大切にしたくて。
振ったからには、他に誰か恋をするかわからないけど、俺の持っている言葉で全部伝えられたらと思う。
「仕事以外の用事で話しかけちゃダメ」
女性らしい背丈の同期は百五十六センチほど身長がある。本人はもう少し身長が欲しかったと言っていたが、俺にはわからなかった。
女性と付き合ったことがないから、どのくらいの身長が理想的な身長差かなんてわからない。どちらかと言えば陽翔は俺よりも身長が高かった。
侑真も細身で身長が高かった。
途中で運動をサボり始めた俺は、筋トレをしてていたとしても、かっこいい感じの肉付きにはならなかった。
「飲みには行けないよ」
相手の感情を無視することは、下手な期待をさせて自分が嫌われるのを恐れた臆病者の行動。侑真には無駄な時間を過ごさせてしまった。振り向く可能性が俺の中に一ミリもなかったなら、もっと早くに線を引いておけばよかったのに、曖昧にしてしまったから無駄な期待をさせていた、
俺の勘違いならそれでいい。仕事一筋で勤務歴が十年ほどになるけど浮いた話を聞いたことがなかった。そこで噂で実は俺のことをずっと好きだったと聞いた。
人生で三度はくるモテ期というものなら、こなくていい。
ただ一人にしか、好かれるつもりがないから。他の誰かに好かれる必要がない。好かれたとしても器用じゃないからライクとラブの境目がわからなくなる。
無駄な期待をさせたくないから。
相手を傷つけるだけの俺なんかいない方がいいから。
「今までは行ってくれたのに」
「曖昧にさせない方がいいかなって思ったんだ」
「私、分かりやすかったかな」
珍しく弱々しく笑う。普段髪の毛を触る癖がないのに、彼女は髪を触り、自分の気持ちを隠そうとしているように見えた。
「相川君はずるいよ」
何を言われても怒れない。下手な期待をさせていたのは侑真に続き彼女にも悪いことをした。拗らせた初恋はタチが悪く結婚指輪を見ても、諦めるという言葉を飲み込むことができず、振られたとして思いを断ち切れるかは保証がなかった。
仕事ができても人としての欠点が大きすぎる俺を好きになってくれたことに感謝する。
「女の影がなくて、仕事に一生懸命で。後輩の指導もちゃんとできてるのに」
そう、見えるように装っていた。後輩に対する指導は元々興味があったからだが、それ以上に女の影があるはずがない。可愛いと感じた人がいたとしても恋慕であるとは思えなかった。ラブではなく、ライクの感情。
「私が好きになったの、笑う?」
「笑わない」
男が男を好きという方が笑えるだろと、彼女の心を軽くするセリフをいうより、守るのは自分の心。
「ごめん、俺初恋の人が忘れられなくて」
会社の人に初めていう。飲み会でも言わないようにしていたから。
「マジか」
「マジ」
俺の言葉に何か納得したようにその場にしゃがみ込んだ。
「分かった。相川くんが不落なのは」
「ごめん」
最近謝ってばっかりだな。好かれる要素が自分にここまであるとは思ってなかった。
「好きになってくれてありがとう」
「今夜はやけ酒だわ」
「おう、頑張れ」
「仕事で絶対に泣かせてやる」
「受けて立つ!!」
短期間でこんなにも好意を寄せられるとは思わなかった。
男女共に想いを寄せられたとして、でも俺が好きなのは一人だけ。
その一人に想われなきゃ。
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