最終回 いつの日か王宮で
本日も閲覧ありがとうございます。
第3話最終回でございます。
「最後に、そのう、レオンティーヌ様に一つお願いがございまして……」
「たいへん御世話になりましたのに、その上まだ……と、思われるかも知れませんが……」
「わたくしからも、お頼みしたく……」
えっ? はっ? 何で廊下にいたベルトルードまで入ってきて、一緒にわたしにお願いしているの?!
「バダンテール(様)と今すぐ婚約していただきたいのです!!!」
「……!!」
わたしは、ソファに沈み込んだ。どこから、そういう話になったのだろう? 何もかも解決したのだし、これで、国王陛下も安心して、王女様とバダンテール様の婚約話を進める決心がついたと思うのだが……。冷静になっていただかなくては! 皆様、終着地点を間違えてますよ!
「あの、よくお考えくださいませ。わたくしがここにおりますのは、バダンテール様に、王女様の婚約者として相応しい方になっていただくため、陛下から再教育を命じられたからなのです。
すべてが丸く収まった今、国王陛下からは、すぐにでもお二人のご婚約の命令が出ると思います。
なのに、なんでわたくしが……」
「だから、今なのです! 陛下からのご命令には、背くことなどできません。ご命令が出る前に、あなた様にバダンテールと婚約していただきたいのです。
正直申し上げまして、バダンテールには、とても王女様のお相手が務まるとは思えません。領地を経営しながら、王家に気をつかい、王女様のご機嫌をとる暮らしなどできるわけがないのです。癇癪でも起こして、逃げ出したりしたら大変です。我が家は、爵位も領地も返上せねばなりません。
バダンテールの相手は、レオンティーヌ様以外考えられません。領地の経営や蓄えの運用も、社交界での付き合いも、家臣や領民との関わりも何もかも、あなた様にならすべてお任せできます。あなた様が、力を貸してくだされば、バダンテールでも何とか侯爵家の体面を保っていけると思います。
こう申しては何ですが、あなた様は、表向きは王宮を追われた悪玉令嬢。ご結婚やご婚約のご予定はないと聞いております。
正式な婚約の儀式は、レオンティーヌ様のお役目が終わり、バダンテールの社交界へのお披露目が済んでからで構いません。まあ、できればお披露目には、あなた様を伴って参加させ、最初のダンスを踊っていただきたいと思っているのですが……」
三人とも必死な目をしているから、冗談扱いして笑い飛ばすこともできない。どうしていい大人が、そんなことを思いついてしまったのだろう?
―― ダッ、ダッ、ダッ、ダッ……、ダン!
「父上! 母上! ベルトルード! どうなりましたか! レオンティーヌ様から、いいお返事はいただけたのですか? 居間で待つように言われましたが、待ちきれずに来てしまいました!」
「バダンテール(様)!!!」
とうとう、ご本人登場だ! 後ろからついてきたギーが、ひょこっと横から顔を出し、呆れたように肩をすくめて見せた。居間で、いらいらするバダンテール様に、ずっと付き合わされていたのだろう。辛い役回りだったわね! わたしは、ソファから立ち上がり、このドタバタ騒ぎを終わらせることにした。
「仰るとおり、今はまだわたくしは、表向きは断罪され宮廷を追われた悪玉令嬢です。この身は、ユノシーの神殿に預けられたことになっています。両親も弟も、わたしの身を案じながらひっそりと暮らしております。とても、婚約話など話題にできる立場ではございません。
それに、わたくしには、王の密偵としての務めがございます。まだまだ、旅を続けねばなりません。もし、わたくしが無事に任務を成し遂げ、王宮に戻ることができましたら、そのときに改めてお話を伺いたいと思います。それでよろしいでしょうか?」
四人で顔を見合わせている。バダンテール様は何だか不満がありそうだが、大人三人はそれもそうだという雰囲気で、意見はまとまりつつあるようだ。そうそう、冷静に考えるのよ! だいたい、わたしの方が五つも年上だってことを忘れてません?
やがて、侯爵が少し残念そうな顔をしながら、わたしに告げた。
「わかりました。レオンティーヌ様が王宮にお戻りになる日まで、お待ちすることにいたします。
国王陛下には、しばらくの間、バダンテールは王都の王立研学院で勉学に励むので、ご婚約のお話はお待ちいただくようお頼みしてみます。王女様はまだ12歳ですから、お聞き入れいただけると思います。まあ、どうしてもすぐにとおっしゃいましたら、メルヒオールと婚約させていただきましょう!」
えーーっ?!
その晩は、立派な晩餐が用意された。わたしたちが明日出発するので、別れの宴を催してくれるという。特別に家臣たちも乾杯に加わり、晩餐会は賑やかに始まった。わたしは、再び着せ替え人形となり、侯爵夫人まで加わって飾り立てられた。この前とは別の露草色のドレスは、侯爵夫人のお見立てである。
食事の後は、居間でリュートを弾いた。侯爵夫人の希望で、『亡き人に捧げるバラッド』を奏でた。最後は、トビネズミ横町の居酒屋で好評だったリオリワーナの民謡を披露した。
わたしは、この城に来た最初の晩の少しぎくしゃくとした晩餐を思い出していた。あの日から、それほど長い時間がたったわけではない。だが、いろいろなことが大きく変わった。今、笑顔を浮かべながら、侯爵夫妻と共にわたしのリュートを聞いているバダンテール様は、あの夜の傲慢で気難しい少年とは別人だ。これからもどんどん変わっていけばいい。なりたい自分になれるまで――。
というわけで、国王陛下、これにて若様の再教育は終了させていただきます!
そして、翌朝。いよいよ、デルフィーネ城を旅立つ日がやってきた。
ゴルチャナを出る前に、天空の神殿と大地の神殿に立ち寄り、お世話をかけてばかりの御子神様たちにお礼を述べていくつもりだ。もちろん喜捨もたっぷりと!
早朝だというのに、公爵夫妻、バダンテール様、そして、すっかり顔なじみになった家臣たちが、城の入り口に並びわたしたちを見送ってくれる。
ギーは、夕べパオラに紙とペンを用意してもらい、覚えたばかりの文字で、バダンテール様にお礼の手紙を書いていた。矢場でもらった旅鞄代の銀貨を、手紙と一緒に渡すのだと言っていた。
ギーが、恥ずかしそうに手紙と一緒に銀貨を差し出すと、バダンテール様は手紙だけを受け取り、
「それは、わたしの生徒役を引き受けてくれたことへの謝礼としよう。ギーは、素直な良い生徒であった。お前のおかげで、マインラート先生の気持ちが少しわかったよ。ありがとう。
金は、しっかり貯めておくのだぞ。わたしたちの婚約披露のときは、ギーも礼装で出席しなければならないからな!」
と言って、ギーを抱きしめた。
笑いと涙の中、ギーとわたしは、城の人々と別れの挨拶を交わしオドレイに跨がった。
あの日、侯爵家の豪華な二頭立て馬車で、少し不安な気持ちを抱えながら入った門を、今朝は、オドレイに乗って、晴れやかな思いを胸に颯爽と出て行く。
さようなら、デルフィーネ城! いや、きっと近く呼び名も変わることだろう。リオリワーナ城か、ゴルチャナ城か、それとも――。どうか、いつまでも、侯爵家の人々を見守ってください!
「姐さん。一つ聞いておきたいんだけど……」
「何でしょうか?」
「姐さんは、旅が終わったら、本当にバダンテール様と婚約するの?」
「フフフ……、さあ、どうでしょうねえ?」
バダンテール様は、王都に戻り王立研学院に通うことになった。新しい生活が始まれば、新しい出会いもあるだろう。世界は広がり、気持ちも変わるに違いない。
次に王宮で出会うとき、バダンテール様はどんなふうに変わっているだろうか? 楽しみだ!
そうだ! わたしも、ギーに聞いておくことがあったのだった!
わたしは、天空の神殿に向かってオドレイを歩かせながら、前に座るギーに尋ねた。
「ねえ、ギー。領地裁判所でのあの口上、いったい誰に教わったのですか?」
「えっ? 姐さんの真似をしてみただけだよ。誰からも、教わってなんかいないよ。なかなか上手くできていたでしょ? 合格だよね?」
怪しいわね。まあ、「神に愛でられし者」だから、どこか不思議なところはあるのだけど――。
魔の気配に敏感になったり、御子神様からのお力の借り方が変化したり、旅での経験を通して、ギーも確実に成長している。気になるが、今日のところは、ギーの言葉をそのまま信じておこう。
それにしても、ギーは、仮面の男から、なぜ魔の気配を感じたのか? あの男は、間違いなく陛下に従う者なのに。きっと、今もどこかで、わたしたちの出発を見守っているのに違いないのだ。旅の中で、いつか謎が解ける日は訪れるはずだ。前世の物語の記憶と旅の仲間を信じて、この世直し旅を続けていこう!
― 第3話 完 ―
― 第4話へ 続く ―
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
第3話は、詰め込みすぎて、予定の2倍の長さになってしまいました。
全回お付き合いくださった方、本当にありがとうございました。
いつの間にか15万字を超え、50部分を越えていました。
何の評価も反応もなかったら、続けられたかなあ……。感謝しております。
明日は更新をお休みして、あらすじやタグを整理し、誤字チェックなどしようと思います。
そして、火曜日から「第4話 悪玉令嬢 聖女様を演じる」スタートの予定です。
長い後書きになりました。ごめんなさい。火曜日にまたお目にかかれますように!




