先生が来た
ペン先が紙面を削るさらさらという音が、がらんとしたギルドの大広間の中で何倍にも増幅されていた。一筆一筆の終わりには、紙の繊維が押し断たれる細かな脆い響きが伴い、まるで静けさの中で何かが静かに砕け、また砕けていくようだった。理不尽に、しかし力強く砕けるその音は、この夕暮れに唯一まだ動いている部品のように聞こえた。団長の指の関節はペンを握りすぎてわずかに熱を持ち、皮膚の下の薄い血脈が、ペンを置くたびの力の込め方に合わせて微かに鼓動していた。頭上の照明石がまた暗くなった。この古い石は十数秒ごとに息を一つ吐くように明るさが落ち、暗くなるその半秒の間、机上の字跡は墨の影のようにぼやけ、そして光が戻り、字跡が戻り、ペン先が先ほど止まった位置を見つけて再び削り始める。その瞬間、彼の肩が無意識に半寸前へ傾いた。まるで身体の重さをそこに押し込んで、その半秒の空白を埋めようとするかのように。団長の左手の側の保温カップの外壁には、誰でも知っているような基礎の温存術式が刻まれていた。術式の紋様の間には埃が積もり、カップの中の茶は二時間ほど前にすっかり冷めていた。しかし彼はそのカップに手を伸ばしたことはなく、そもそも手を伸ばすつもりもなかった。指には墨が付いている。もしカップに触れれば壁に跡が残るだろう。そんなどうでもいいことに彼が気にするのは、おそらくあまりにも静かすぎるからだった。静けさが、脳の中に残った計算のすべてを些細なことにまで使わせてしまうほどで、しかし身体の方は先に、カップの壁に残る薄い冷たさと自分の掌の温度の間にどれだけの差があるかを覚えていた。
椅子が彼が姿勢を変えたときにぎしりと鳴った。木と木が擦れ合う重い響きが椅子の脚から伝わり、座布団の中に何が詰められているのかわからない詰め物を通り抜け、最後は尻の下の磨き込まれて光る古い革の面にほとんど吸い込まれた。残った振動は脊椎を伝って後ろの首筋まで這い上がり、そして散った。散ったと同時に、彼の腰の皮膚が何故かびくりと緊張した。まるで見えない糸が引っ張っているかのように。ギルドの机と椅子はすべてこの調子だった。誰かが毎日拭いている。木目の中に油の光がにじみ出るまで磨き込まれている。しかし傷跡は拭えない。角の欠けも拭えない。ある一本の机の脚が他の三本よりわずかに短いせいで、カップを置くと揺れる。その程度のことは拭えない。任務掲示板が右手の壁に掛かっていた。五枚の依頼書がまばらに画鋲で留められていた。そのうちの一枚の締め切りは先月の十七日で、紙の角がめくれて黄ばみ始めていた。しかし誰もそれを剥がさなかった。もしかするとそのままにしておいた方が見栄えが良いからかもしれない。剥がせば四枚だけになる。四枚は五枚よりさらにみすぼらしい。このような見栄のための工程は、倒産寸前のギルドでさえも維持しなければならなかった。
遠くの学院の鐘が鳴った。低く沈んだ銅の音が、何本もの通りを隔てて届いてきたときには、すでに壁に削られて尾音のさらにその先だけになっていた。うーん、と一つ響いただけで消えた。まるで遠くで誰かが曖昧に咳をしたかのようだった。夕暮れの六時。鐘の音が消えたあと、静けさが再び閉じ込めてきた。さっきよりさらに厚く。厚すぎて、彼は自分が書類のページをめくるときに、紙の端が空気を切り裂く音を聞き取ることができた。薄い音。少しの紙の埃が舞い上がる乾いた匂いと共に。
それから廊下の向こうから、一連の細かな、金屬が金屬に触れる清らかな響きが聞こえてきた。
ちん、ちんちん、ちん。
銀の鎖が足首の骨に当たるリズム。急ぎもせず、遅れもせず、すべての歩みが静けさのまん中を正確に踏みしめながら、近づいてくる、近づいてくる、はっきりと。まるで誰かがとても小さく小さな銀の匙で、とても薄く薄いカップを叩いているかのように。廊下の向こうからずっと叩いてくる。団長のペン先は止まらなかった。しかしその一連の音が鼓膜に染み入った瞬間、彼の呼吸がわずかに詰まった。胸の空気が何かにそっと押さえつけられたように、半拍遅れて再び流れ始めた。
門が押し開けられた。木の扉がレールの上を滑るように動き、外の涼しい空気と、何か甘く、焼かれた小麦粉の匂いを連れてきた。
ああ、やっぱりいる。
八千代は片手で紙袋を提げ、もう片方の手で濡れた傘を畳んでいた。傘の面に残った雨粒が、照明石の光を受けて一瞬光っては消えた。彼女の全身が外の温度をまとって入ってきた。涼しい。しかしその涼しさの中に彼女自身の体温が包まれていて、団長の傍らを通り過ぎたとき、その混ざり合った気配がそのまま擦れていった。雨の匂い、甘い匂い、そして彼女の薄手のシャツの布地が一日中体温で温められた後の、なんとも言えない香り。動線は目をつぶっていても歩けるほど慣れていた。足取りに少しの迷いもなく、敷居を回り込み、脚の長さが揃っていない机の角をかわし、団長の横を通り過ぎるときに、ふと彼のカップに視線を落とした。その視線の留まり方は普段より半秒長かった。視線が、カップの壁に積もった埃だらけの術式の紋様にそっと引っかかったかのようだった。
このお茶、どれくらい置いてあるの。もう冷めてるでしょう。
質問の尻尾がまだ空気の中に残っているうちに、彼女はもう通り過ぎていた。紙袋が彼女の決まった席の椅子に放り投げられ、袋の中身が床に落ちた衝撃でむにゅっと音を立てた。そして彼女はもう壁際の茶器棚の前に立っていた。団長に背を向けて茶缶を漁っている。古式の薄手のシャツの広い袖が、腕を上げる動作で少し滑り落ちた。襟元の衣襟が肩の外側へとずれ、半分ほど真珠のように白い肩の線、鎖骨の端、肩の先で薄手のシャツに守られて日光に当たったことのない皮膚、そして三角筋の一番柔らかい弧の頂点が、すべて不安定な照明石の光の中に一瞬現れては、衣襟がゆっくりと滑り戻って隠した。まるで何も起こらなかったかのように。彼女は全く気づいていなかった。
今日のあの授業、危うく大変なことになるところだったわ。彼女は茶缶を漁りながら言った。語気はまるで食堂の昼食の値段がまた上がったと話しているようだった。ある生徒が古い交易路が断たれた理由を尋ねてきて、私は危うく、ええ、危うくあまり適切ではない言い方をしてしまうところだったわ。
あまり適切ではない、という言葉が八千年を生きた精霊の口から出るというのは、おそらく「その年私はちょうど道の角に立っていた」みたいな、実際に体験した者としての口調で話し始めてしまうところだったのだろう。
彼女は爪先立ちになって上の棚の茶缶を取ろうとした。小脹の筋肉の線が張ったとき、全身の姿勢が連動した。高いスリットのロングスカートの裾が横から開き、そのスリットが足首から太ももまで続いていた。爪先立ちのこの動作で、スカートの境目が太ももの中央よりやや上の位置まで引き上げられた。下の脚は足首の銀の鎖から太ももの側面まで、すべて外に晒されていた。彼女が着ているのは、精霊族の古い祭服を基に日常着として仕立て直したもので、布地は薄く、スリットは高い。デザインした人は、おそらく着る人が緩やかに歩く以上の動作をしないことを前提にしていたのだろう。しかし八千代が物を取るために爪先立ちになるのは、おそらく一日三回以上で、彼女は全く気にしていなかった。スカートがどうなろうと。団長の視線がその瞬間に引き寄せられ、スカートの裾と太ももの境目の線に留まった。半秒後、ようやく書類に戻った。ペン先が紙の上で半秒余分に止まり、そして彼は目の前の開いた書類を左へ五センチずらした。ちょうど、机の右側、彼女が毎回来るたびに置くおやつの場所を空ける位置に。動作はほとんど目立たないほど小さく、顔を上げず、言葉も発さず、書類をずらし終えたあと、ペン先を再び紙に戻して書き続けた。
八千代は二杯の淹れたての熱いお茶を運んで 돌아와, 机の端に着いたときに、 空けられた場所に気づいた。
足が一秒にも満たない間、止まった。
とても軽く、口の端がわずかに曲がった。彼女が普段悪戯をするときに見せる、背筋を寒くさせるようなgremlin笑いとは違う。ただ唇の弧が少し上に動いただけ。目がそれに合わせて柔らかくなり、顔全体の表情が呼吸のように軽かった。
うん。
一つの言葉。喉の奥から鼻にかけて吐き出された、鼻にかかった声。
熱いお茶が団長の手元に置かれ、ついでに冷めきったカップが片付けられた。二つの動作の間のつなぎ目は、途中に何の間もなかった。まるで巻き戻し再生の途中で、古いものが抜き取られて新しいものが差し込まれたかのようだった。そして紙袋が椅子から拾い上げられ、袋の口を机に向かってひっくり返された。じゃらじゃらと、二袋のサクサクした焼き菓子、一缶のソース、一箱に「試食用」と書かれた小さなものがごちゃごちゃと転がり出た。焼き菓子の袋の封口が彼女の二本の指で摘まれ、団長の書類の横に押し出された。彼が今書いているペン先からおよそ三センチの距離に。
多すぎず少なすぎず、ちょうど彼がこの行を書き終えて手が通る軌道の上に。
八千代は自分のカップをお茶を手に持ち、机の角を回って彼女の決まった席に腰を下ろした。椅子がぎしりと、団長のものと全く同じ調子で鳴った。そして彼女は片足をもう片方の脚の上に組んだ。スカートの裾がその動作について滑り開いた。しかし彼女の注意はすでに焼き菓子の袋を破っている。歯で封口のぎざぎざの端を噛み、引っ張っても開かず、口の中で何か含み含みにつぶやき、もう一度引っ張る。プラスチックの袋が降参したかのようにぱりんと音を立てた。
そのソースを味見してみて、彼女は半分に割った焼き菓子を噛みながら言った。口の中に物が詰まっているせいで声が少しふくらんでいた。市場に新しくできた屋台よ。店主は南の作り方だと言っていたけど、私が食べてみたところ、うん、悪くないわ。でもどこか変なところがあるのよね、はっきりとは言えないけど。
団長の手が伸びて一枚の焼き菓子を取った。ペンはもう片方の手の指の間に挟んだまま。
照明石がまた暗くなった。暗くなった半秒の間、八千代が焼き菓子を噛むがりがりという音が大きく聞こえた。脆く、焼き皮の欠片が机の上に落ちる細かな音と共に。そして光が戻ると、彼女は指でスカートの上に落ちた欠片を弾き飛ばしていた。爪が薄手のシャツの布地に軽く当たってぱちぱちと音を立てる。その瞬間、彼女の指の腹が布越しに押す力で、薄手のシャツがわずかにへこみ、また弾き返った。まるで布地自体が彼女の体温と競い合っているかのようだった。
ギルドは相変わらず小さく、古かった。任務掲示板には相変わらず五枚の依頼書しか貼られていない。
しかし椅子のぎしぎしという音は二つになっていた。
焼き菓子を噛み開く音は思っていたより脆かった。欠片が八千代の胸元の古式薄手のシャツの交差した襟の上に落ちた。彼女の指が一弾きすると、淡い光が指先から布の表面を滑って欠片を連れ去った。動作は机を拭くくらい気軽で、口はもう話していた。
商業街の真ん中あたりにあるあの店、新商品に変えたらしいわ。店主は北の港から仕入れた原料だと言っていたけど、私は嘘だと思ってる。あの港は三年前からもう香辛料を扱ってないのよ。
脚を机の上に組んだとき、足首の銀の鎖が机の縁に当たって、ちん、とギルドの静かな空気の中で跳ねた。団長の視線がその音に半秒引き寄せられ、彼女の足首の上の、真珠のように光る皮膚が、脚を組む動作で細長い筋を浮かび上がらせているのを見た。高いスリットのロングスカートの裾が太ももの側面から滑り落ち、露わになった脚の、膝から足首までが、窓から差し込む光に温かみのある白い層をまとっていた。
あの港の話はあなたにはおそらく興味がないでしょうけど、でもね、今日の授業で生徒が質問した問題が本当に面倒だったの。彼女は焼き菓子を噛みながら話した。頰がぷくぷくと動く。声は口の中に物が詰まっているせいで含み含みだが、妙に明瞭だった。古い交易路がなぜ断たれたのか。教科書に書いてあるあの説明、私はもう暗唱して吐き気がするくらいよ。
団長の目は決算表に戻っていた。しかし彼女の声は二歩ほどの距離にあった。焼き菓子の甘い味と、欠片が口の中に落ちて舌で拾い上げられる含み含みの口当たりと共に。八千代が首を傾げる動作には慣性があって、その銀と粉が混ざった長い髪が肩から滑り落ち、 一番粉がかかった先端の部分が椅子の肘掛けに擦れた。まるで一本のサテンのリボンが指の間から滑り落ちるかのようだった。
私、危うく何て言おうとしたかわかる? 危うく「あの頃の私たち」って言いそうになったのよ。
彼女は焼き菓子を掲げて半分の顔を隠した。残ったのは上の、上 がピンクで下が青い目だけ。間違ったことをして捕まった子供のように笑っていた。目尻に浮かんだ弧には、少し得意げで、少し後ろめたい感じが混ざっていた。口元に付いた欠片も拭わなかった。
幸い、口に物を入れて塞いだわ。食べるって本当に万能よね。あなたも食べなさい。
団長の右手が書類から離れて一枚の焼き菓子に触れ、見ないで一口噛んだ。サクサクしていて、少し甘く、紙袋の中で温められていた。
私たち。
八千代の咀嚼の動作が半拍止まった。口の中のその一口の焼き菓子が舌で頰の内側に押しつけられ、目が上へ泳ぎ、口元にまだ欠片を付けたまま笑った。うん。
その引き伸ばされた尾音は、彼女がよく使う引き延ばし戦術だった。団長は八百回は聞いていた。
あの頃の私たちの商人たちは本当に必死だったわ。つまりあの「私たち」。泛指よ。歴史の「私たち」。彼女の語気はわざと半段階高くして、まるで教室で生徒を相手にしているようだった。没入型教育法って聞いたことあるでしょう。流行ってるわよ。
綻びが大きすぎて、まるで焼き菓子を全部詰め込めるほどだった。彼女自身もわかっていた。また大きく一口噛んで口を塞ぎ、頰を食べ物を溜め込んだリスみたいに膨らませた。
「まんごう好七的」。
団長は彼女を一瞥した。
彼女は飲み込み、咳払いをして、言ったわ。この、なかなか美味しいわね。どう思う? 話題のすり替えは成功したでしょう。
全く成功していなかった。しかし彼女はすでにソースの缶を出していた。瓶の蓋を回す動作は、まるで八千回やったことがあるかのように熟練していた。もしかすると本当に八千回やったのかもしれない。二枚目の焼き菓子に塗り、ナイフの面が焼き菓子の表面を削るさらさらという音が、彼女が小さく鼻歌を歌う低い声と混ざった。
このソースは一緒に食べないと本当の味が出ないのよ。さっきのあなたのはゼロ点体験だったわ。はい。
塗り終わった焼き菓子が団長の口元に差し出された。指が唇から二センチ離れ、指先には少しソースが付いていた。彼女が身を乗り出してきたとき、古式薄手のシャツの交差した襟が少し開いた。鎖骨の下の線が弧を描いてさらに深いところへ伸び、布の端に引っかかっているその位置は上でも下でもなく、中途半端だった。その内側の、真珠のように光る肌が、布地の陰影の中で、外に露出している部分よりさらに細かく、さらに暖かい色階を帯びていた。
団長は焼き菓子を彼女の手から受け取り、八千代に向かって「あなたの服が」と言った。
八千代は下を向いた。うん、ああ。一本の指で襟を直した。直し終わった襟は少し内側に引かれたが、すぐにまた反対側へほぼ同じだけ滑り開いた。ほとんど良くはなっていなかった。彼女も全く気にしていなかった。すでに三枚目を食べていた。
ソースを付けた焼き菓子は確かに美味しかった。団長は言わなかったが、二口目の速度は一口目より速かった。
そして静かになった。
団長のペン先が決算表の紙面を削り、三番目の欄を埋めているとき、照明石がまた暗くなった。八千代は見向きもせずに照明石の方へ指を一つ弾いた。音がした。石は反応しなかった。
あなた、この壊れた石は一体何年ものなの。
団長は答えなかった。彼女も答えを必要としていなかった。視線はすでに別のところへ移っていた。手には団長の机から取ったペンを回していた。団長が書きかけでペンがなくなっていることに気づき、手を伸ばして探したが、空を掴んだ。彼女は脚を組んだままペンをもう片方の手に回し、身体を後ろに預け、逆さにして決算表の字を見ていた。
ほら、あなたのこの任務評価、また変わってるわよ。昔のギルドにこんなにたくさんの規則があったかしら。彼女の語速が半拍遅くなった。尾音には、何度も歴史の授業をやってきた疲れのようなものが乗っていた。冒険者ギルドができたばかりの頃は。
少し間を置いた。
教科書に書いてあるあの頃は、ただ任務を受けて、働いて、お金をもらう。三ステップだけだった。今は決算表一枚に六つの欄を埋めないといけないのよ。
ペンが返ってくるやり方は、渡すのではなく、直接団長の指の間に差し込むやり方だった。角度がちょうど、彼の人差し指と中指の間の、いつもの持ち方の位置に収まるようになっていた。彼女は彼がどのようにペンを持つかを知っていた。その正確さが、団長の指をわずかに止まらせた。まるで突然、自分より自分のペンの持ち方を知っている人がいることに気づかされたかのように。
あなたここ、照明石まで旧式ね。外の商業街の店はみんな新しいのに変えてるわ。あれは色温度を調節できて、時間も設定して自動で点くのよ。
彼女は舌打ちをした。視線を机から上げて、ギルドの中を一回り見回した。空の椅子、空の机、任務掲示板にまばらに貼られた依頼書。光が窓から斜めに差し込んで、埃をはっきりと照らし出していた。
あなたここ、もう少し人がいてもいいんじゃない。
語気は照明石の話をしていたときと全く同じで、気軽なものだった。まるで天気の話をしているようだった。彼女はお茶を一口飲んだ。まるで自分でもその言葉を本気で言っているわけではないかのようだった。
団長のペン先は止まらなかった。
あなたがいるじゃないか。
声は天気の話をしているときと同じくらい平坦だった。
八千代のお茶を飲む動作が止まった。カップがまだ口元に掲げられたまま。カップの中のお茶の面がわずかに揺れた。波紋が縁から跳ね返り、また跳ね返っていった。彼女の喉が微かに動いたが、飲み込んではいなかった。二秒ほど静かだった。彼女が普段見せるgremlinのような間とは違った。首を傾げることも、引き伸ばした「うん」もない。ただの静けさだった。
うん。
声はとても小さく、鼻腔から出て、少し湿っていた。
彼女はお茶のカップを下に置き、机の上を片付け始めた。おやつの袋を二つ折りにして紙袋に詰め、ソース缶の蓋をきつく閉めて一番上に置き、欠片を指先で掌に掃き集めてから弾き飛ばした。動作は来たときよりずっと滑らかで、まるで手が自分で道を知っていて、目で案内する必要がないかのようだった。団長の古いお茶のカップが彼女に手に取られ、新しいものが手近な位置に押し出された。
彼女が団長の椅子の背中を通り過ぎるとき、足取りが一拍遅くなった。銀の鎖が足首でとても軽い音を立てた。ペン先が紙を削る音にかろうじてかき消されそうになるほどの軽さだった。
門口。手がドアフレームに置かれ、振り返って一瞥した。空の椅子の上、彼女が座ってできたへこみがまだ元に戻っていない。古い照明石がまた暗くなった。任務掲示板の依頼書が吹き抜けの風で軽く一角をめくっていた。団長は頭を下げて字を書いていた。背中があの壊れた石に照らされて、明るくなったり暗くなったりしていた。
明日、新しい味のを持って来るわ。あなた、あのソースの食べ方がまだ間違ってるのよ。私が見張って食べさせないと。
門が閉まった。
銀の鎖の音が廊下でちんちん、と遠ざかり、細くなり、一本の線になって、途切れた。
ギルドに静けさが戻ってきた。ペン先が紙を削る音がその隙間を埋めた。照明石がまた暗くなり、また自分で明るくなった。しかし机の上にはお茶の輪染みが残り、椅子の座布団には彼女が座ってできたへこみがあり、空気の中には焼き菓子とソースが混ざった匂いがゆっくりと広がっていた。
団長のペンが三秒止まった。
そしてまた書き続けた。




