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Chapter.1 サスピシャス・ニューカマー

負傷したエマの療養期間、タイラーはCLAWの代理リーダーに任命される。

そんな中、欠員補充として新たにエイヴァ・バットリー・キャンベル四等巡査<愛称:エヴァ>が派遣された。エヴァはCLAWの奇行に少し驚きつつも交流を深める。そんなエヴァの隠された目的とは──

テロ組織〝マズバハ〟のアメリカ支部壊滅事件から三週間が経過した。

CLAWの指揮を執っていたアンパサンド・1ことエマ・カストロ・マルチネス二等巡査部長はこの事件において爆発からエリス・アンフォーチュン一等巡査を庇い、全治三ヶ月の重傷を負った。

タイラー・ナイトウッド一等巡査部長の必死の心肺蘇生によって息は吹き返し、病院へと無事に搬送されたが外見では判断できない内傷が多く、数時間にわたる手術がなされて絶対安静の状態であった。

今日は三週間経過してようやく面会が許されるまでに回復した為、CLAWのメンバーは病室に集まっていた。

「お、いたいた。巡査部長!お元気ですか!?」

タイラーはそう大声で叫ぶと足を吊り具で吊るし、腕や胴体を包帯で覆われた顔色の悪いエマが「これが大丈夫そうに見えるか…」と弱弱しさがありつつも少し微笑みながら返事をした。

「巡査部長!今日はようやく面会できるまで回復したってことで、お見舞いにフルーツの詰め合わせを買ってきましたよ。」

そういってタイラーは後ろに隠していたフルーツの盛り合わせを出すとベッドのテーブルへと置いた。

「ああ、ありがとう……それでみんなは?」

「一緒に来てるはずなんですがね…お~い!何やってるんだよ!巡査部長は元気そうだぞ~!」

タイラーは病室を出るとそこには体育座りで縮こまったブルーを全員が必死で病室に押し込もうとしている姿が見られた。

「おい、ブルー!確かにボスの怪我は自分のせいだと思ってるかもしれないが、ちゃんと面と向かって謝るって行く前に決めたじゃないか!」

「でも……でも……やっぱり私、ボスに会う資格ない……」

「ここまでやっと来る勇気を持てたんだから大丈夫ですわ!早く……行きますわよ!」

「図体デカい癖に小心者だね!バカアンジーの図太さ見習えよ!」

そういって全員が病室内に強引に連れ込むとブルーはカーテンに隠れながらチラチラとエマの方を隠れながら向いた。

「ブルー……別に私は怒ってないし、この怪我はそもそも私の判断でこうなったんだ。お前が気に病む必要はない。」

「でも……でもでも……リタとかアレックスに迷惑かけた…何よりあの襲撃は私が勝手に起こした……」

「だがその襲撃を起こしたお陰で結果的にアメリカで最も危険なテロ組織の一部を排除できたんだ。むしろ胸を張って堂々とした方がいい。」

「でも……せめて謝らせてボス……本当にごめんなさい……」

エマは謝っているブルーの頭を軽傷の方の腕で優しく撫でると小さく微笑んだ。

「はいはい、湿っぽいのは無しだ。ボス、リンゴを切ったから食ってくれ。」

アンジーは爪楊枝を刺したウサギ型に切ったリンゴをテーブルの上に置いた。

「あのガサツなアンジーがリンゴを切るなんて意外だな。」

「ガサツは余計だろボス。あんたに言われてから左手を利き手にするために細かい動作ができるよう色々訓練してんだ。裁縫とかもな。スナイパーは繊細さが求められるからな!」

「ちゃんと私の指導を聞いてるあたり、お前根は割と真面目なんだな……」

その言葉を聞いたアンジーが顔を赤くすると辺りは笑いに包まれていた。

「ははは……それで巡査部長。今後についての話ですが……」

「あぁ…今私はとても戦えるような状態じゃない。そこで…タイラー、お前が私が復帰するまでの間、アンパサンド・1としてCLAWクルーを率いてほしいんだ。」

その言葉を聞いたタイラーは少し動揺した。確かに簡易的にチームを率いることはあったが、一時的とはいえ完全にチームの指揮権が移譲されるとなると話は別で、自分に大きな責任が圧し掛かったような感じがした。自分ははたして巡査部長のように本当に上手くやれるのだろうかと心配になった。

「不安になる気持ちはわかる。だがお前は私のもとで学んでたくさん実践してきたじゃないか。お前ならやれるさ。私が保証する。」

「なら、新しいボスにこれ渡したい。」

ブルーはそういうと腰のSOBホルスターからキンバー・TLEⅡを取り出してタイラーに渡した。

「キンバー?大事なものって昔言ってなかったか?」

「前の事件でタイラーは前任者が使ってたSCARを使ってた。なら、こっちも持っててほしい。私たちにとっては思い出の証だから。」

「だけど別にSCARを毎回使うってわけでも…」

「いいから。」

タイラーはブルーが持っているキンバーを恐る恐る手に取り、マガジンを取り外して左手の小指と薬指の間に挟み、銃の薬室に弾が入っていないかを確認すると上着の内ポケットの中に仕舞い込んだ。

「決まりだな。」とエマが言うとタイラーは静かに覚悟を決めた。




エマの見舞いから一日後、CLAWクルーはアニマル市警の武器庫係にカルラに頼んだ新しい装備や機材が届くのを楽しみに待っていた。

以前のテロ組織壊滅の件で世間的にスワットのイメージ向上に一気に貢献できたこともあり、警視が上手く予算を取り合って型落ちではない新型装備のいくつかを調達することが可能になったためだ。

車のエンジン音が聞こえ、クルーが外を向くとカルラが大量のペリカンケースを積んだトヨタ・タンドラに乗ってやってきたのだった。

「やぁ、久しぶりだなみんな。元気にしてたか?今日は新しい装備のデリバリーに来たぞ。ウーバー・ウェポンディーラーだ!」

「まぁ、カルラ!会いたかったですわ…」

そういってルフィナはカルラに抱き着くと地面へと押し倒して胸に顔を埋めると、カルラの股をしたから人差し指で一直線にゆっくりなぞった。

「ルフィナ、ちょっとここじゃマズいって…」

「でもでも!最近ご無沙汰でしたわ…!あなたが欲しくて欲しくて…何度体を一人で慰めたことか…もう我慢なりませんわ…!もう、いっそのことこの場で…」

発情しているルフィナの肩をタイラーは叩くとプレハブ小屋の方向を指差してジェスチャーで「行ってこい」と伝えた。

その意図を汲み取ったルフィナはカルラをプレハブへと連れ込むと、途端にCLAW本部に激しい女の喘ぎ声がこだまし始めた。

「相棒、いいのか?ありゃ半日は続きそうだが。」

「まあ、あの事件の後はみんな暇が無かったし、このぐらいの息抜きはいいだろ。愛する人を好きなだけ愛す時間は大切だと思うし。」

「そうか。まあ、CLAWのボスとして言うことならオールオッケーだよな。」

「…で?今回注文した品ってのはなんなのさ?」

「ちょっとまってくれ…納品書を確認するから…えぇと。」

書類を確認すると最新型のNGALレーザー・デバイス、訓練用のAR-15とグロック用のシムニションコンバージョンキット、パラ・オーディナンス製P-14ピストルと予備マガジン十本、PVS-31ナイトビジョンゴーグル、1911用のサファリランド製ホルスターとQLSが中には入っているようだった。

「今までずっと実弾で訓練してきたから、シムニションなんて驚きだな~。ま、僕は実弾でも絶対誤射なんてしないけどね!」

「おい、見てくれよNGALだ。法執行機関と軍じゃないと買えないレーザー・デバイスだからチョーレアもんだぜ。悪いことしてる気分だ。」

「一丁しか頼んでないP-14は私の。タイラーにキンバーあげたから新しいの頼んだの。いいでしょ。このホルスターはタイラー用に頼んだ。上着の中に入れっぱなしじゃ抜きづらいでしょ。」

「気が利くなブルー。助かるよ。」

そんな話をしていると、そとから派手なV8エンジンのエキゾーストサウンドが聞こえてくる。

「…?」

タイラーは腰からグロック19を抜いて全員もそれに続いて銃を抜いて隊列を組んだ。

武器庫から出て外を見るとそこには赤い五代目フォード・マスタングが停まっている。

「ブルーのシェルビーって赤かったっけ?」

「いや、私のは黒い。それにあれはシェルビーじゃない。ボス302。」

小さな声で話しながら徐々にマスタングのもとへと向かうとそこは既にもぬけの殻で誰もいなかった。

「誰もいない…まさか正義のオートボット…ってわけじゃないもんな。」

「いや、わからんぞ相棒。地球侵略にきたディセプティコンかもな。」

「テラーコンかもしんないッスよ。」

「誰だ!?」

タイラーとアンジーは聞き覚えのない声の聞こえた方向へグロックを向けると、一瞬のうちに両者のグロックのスライドは外され、地面へと投げ捨てられ、予想もしない方向から投げを食らうと気が付けば地面に仰向けで倒れている。

ノスフェラトゥは異常に気付くが、リードが邪魔で吠えることしかできない。

シバも焦ってグロックを向けるが、またもや一瞬の内に分解されてしまった。

だがシバに気を取られている隙にブルーが謎の人物の頭にM45A1を突きつけた。

「はぁ…1911にはできないんスよね…」

「お前…何者?あの技はクラヴ・マガ?何しに来た…?」

「いやいや、これは失礼したッス…」

すると怪しげな女は手を上げた。容姿はワンレングスの金髪で肌は色白だがアジア系の血が混じった目付きをしており、腰にはリボルバーを携帯している。

ブルーは銃を向けつつも彼女の腰つけてあるポリスバッジを手に取って身分証を確認する。

「スネークビーチ市警、エイヴァ・バットリー・キャンベル四等巡査。25歳…なんでスネークビーチの警官がこんなところに。」

「自分、誤射をやってしまって…マスコミからの批判を避けるために人手不足のアニマル市警に行ってこいって言われたんス。そこで異動したら欠員が出たCLAWに行けって警視に言われたんスよ。つまりは…」

「新人ってことか。」

タイラーは起き上がると土で汚れた手をズボンで掃うと、握手を求めた。

「私はタイラー・ナイトウッド一等巡査部長。一時的だがここのリーダーを任されてる。よろしく。そこで伸びてる顔色悪い奴がアンジー、そこの日本人がシバサン、お前に銃を向けてたのがブルーだ。」

「よろしくッス。自分はエイヴァ・バットリー・キャンベル四等巡査。気軽にエヴァって呼んでくださいッス。せ~んぱい。」

「その、なんだ。こんなところだけど…」

「まあ、どっからどう見ても警察関係の建物には見えないっすね…あちこち錆びだらけでスプレーで落書きされてるし…犬はなんか目付きが怖いし…何故だかスポーツカーが大量に鎮座してるし…どっからどう見てもギャングの建物って感じッスね。

「とりあえず落ち着いて話をしよう。そこのプレハブ小屋でいつも作戦を建ててるんだ。いい紅茶もあるしな。」

「お、自分紅茶にはちょっとうるさいっスよ──」

タイラーがエヴァを連れてプレハブ小屋を開けると、中から途轍もない喘ぎ声が聞こえ、ペニスバンドを付けたルフィナがカルラの首筋を甘噛みしながら乳首を責めて尻を突き、女性用バイブが抜けないようにカルラの女性器に無理矢理押し込み続けている。仰け反りながらあたり一面に失禁したカルラは何度も痙攣しながら尿をまき散らしていた。

「こ…紅茶ってそういうことじゃ……ないッス……よね?」

「忘れてた…」

誰ともわからぬ輩に性行為を見られたはルフィナは赤面すると、その辺に落ちていた枕をエヴァに向かって投げた。

「人の行為を覗くなんて趣味が悪すぎますわ!この変態!鬼畜!サディスト!そもそも誰ですの!」

「ペニスバンドを付けてハードなプレイしてる全裸の女に変態の鬼畜のサディストって言われても、どの口がって思うんスけど!」

「み、み、みみ、み、見られた…見られた…!見ないで、見ないでぇッ!」

カルラは錯乱したようで顔を必死に隠しており、その様子に嗜虐心を刺激されたルフィナは何とも言えない幸福そうな表情をしている。

「まあ、ほら、一回戦も終わったっぽいし…この新入りをルフィナにも紹介したいからとりあえず、服を着てほしい…かな。」

タイラーからの言葉を選んだ優しい一言を聞いたルフィナとカルラはばつが悪そうにあたりに脱ぎ捨てた服を着始めたのだった。




メンバー全員は訓練のために装具と訓練用ヘルメットを装着し、ルフィナが裏にDIYしたキルハウスでシムニション弾の準備をしていた。

既存銃器のボルトやスライドをを入れ替えて訓練用弾薬を装填するだけの簡単な作業で非致死性弾薬で訓練ができるという画期的なシステムだ。

今までは実弾で訓練を行っていた為、死と隣り合わせの中で実力を磨いてきたが、これによってリスクは著しく下がった。なお、訓練だけとはいえコンバージョンキットが手に入らなかったことから1911ではなくグロックを持たされたブルーは少々不満そうな表情をしていた。

「それで…まあまずは新人の実力を確認するわけだが…ライフルは?」

「自分はあんまりライフルを使わないんスよ。」

エヴァは壁に立てかけたプロテック製パーソナル・バリスティック・シールドを手に取り、腰のS&W TRR8リボルバーを抜いた。

「おいおい、今の時代にリボルバーなんて使ってんのかよ。クリント・イーストウッド気取りなのか?それに一人だけオリーブドラブの装備を着てるなんてな。」

「いやいや、リボルバーだって悪かないッスよ。このモデルはスワット隊員の要請で作られた専用の高級リボルバーッスから。あと、オリーブドラブはスネークビーチ市警スワットの標準カラーッス。アニマル市警みたいに青くないんスよ。それに、ジンクスがあるんスよ。」

「ジンクス?」

「えぇ、自分が〝オートマチックピストルを抜くと毎回悪いことが起きる〟んスよ。それに経験則ッスが、オートマチックのジャムで何度か死にかけましたから。」

「今の時代にオートマチックでジャムねえ…整備不足とかじゃねーのか?」

「そんなことないッスよ~」

「まあいい、まずは実力を見ないといけない。アンジー、ブルー、シバサンは標的役を頼む。エヴァと私とルフィナで突入する。」

その命令を聞いた三人はキルハウスの中へと入っていき、それぞれがバラバラに散らばった。

エヴァはTRR8に訓練用弾薬を装填すると、弾倉を回転させながら本体を振って装填を終えた。

タイラーが大声で「ポジションは取れたか?」と叫ぶと中から三人の「OK」という言葉が聞こえてくる。

その反応を受け取った瞬間に隊列を組んでエヴァを先行させ、ライフルを構えて突入準備を行った。

そしてタイラーのゴーサインが出ると同時にルフィナがドアを開け、エヴァが先導して侵入していく。

TRR8のTL-8フラッシュライトで暗い内部を照らしていき、あたりの遮蔽物や死角を念入りに確認して進んでいく。

盾があることによって大胆なエントリーが可能となり、突入が迅速且つ正確且つ流動的に行えた。

そうして三つ目の扉を潜った瞬間、死角に隠れていたシバがエヴァを射撃する。シバの射撃は正確無比だったが、それを全てエヴァが受け止めている隙にタイラーがシバの頭を撃って脱落させた。

「僕、盾はズルだと思うな!CQBじゃ勝てっこないじゃん!タグゲームで捕まるときにバリア~ってやってくる奴のこと思い出しちゃった!」

そんなぼやきをするシバを横目にさらに次の部屋へと進んでいく。

するとアンジーが他の部屋を跨いで奇襲を行い、気を抜いていたルフィナが胸に着弾して脱落となる。

「やられちゃいましたわ…悔しいですわ!」

「へっ、気を抜いてるからそうなるんだよ!CLAW最強のスナイパーであるアンジー様のことを舐めるんじゃねーよ!」

タイラーは部屋の壁を盾にしながら威嚇射撃をするが、もちろん当たるわけはない。

「クソ、シムニション弾はやっぱり精度がイマイチだな…やっぱりあれで着弾させられる相棒は凄い。」

「でもこっちだって盾があるッス。距離を詰めていけば勝機はあるッスよ先輩。」

「違いない。」

エヴァはどんどんと先行していき、やがてシムニションの汚れで盾の視界が塞がれて見えなくなるが我武者羅に突き進んでいく。

すると斜め側から隠れていたブルーが現れ、タイラーは撃たれて脱落してしまう。

二方向から集中射撃を食らうエヴァはやがて壁へと追いやられていく。

「もうおしまいだぞ。諦めろ新入り!」

そうアンジーが言った瞬間にブルーのAR-15のボルトがストップして弾切れを起こした。

その一瞬の隙を突くとエヴァはアンジーに向けて盾を投げつけ、弾切れを起こしたブルーの腹に一発命中させるとそのままアンジーの頭にヘルメット越しにリボルバーを突きつけた。

「私の勝ちッスね…!先輩。」

「クソッ…やられたなぁ…だが、ちょっと爪は甘いかもな。」

エヴァは腹に金属の感触を感じ、下を向くとアンジーが抜いたシムニション・グロックが腹に突き付けられていた。

「引き分けッスか…」

「そうだ。」

訓練が終わったと分かった瞬間、エヴァはその場で寝っ転がるとTRR8に入っていた訓練用弾薬を抜いてホルスターへと仕舞った。

「まぁだが…実力は証明できたな。ホントに誤射したのか怪しいぐらい正確な射撃だったが…」

タイラーは起き上がると全員に外で集まるように命令し、キルハウスの前にクルーを集めた。

「さて…エヴァの実力が分かったことだしここでもう一つ重要な話をしたいんだ。」

「重要な話?」

「元々私はアンパサンド・2、つまりは二番手だったわけだけど、三ヶ月の間は1になるわけだ。ということは新しいアンパサンド・2を決めないといけない。」

その言葉を聞くとアンジーは手を上げる。

「階級順なら私だな。このメンバーの中で一番階級が高いのは三等巡査である私だ。」

だがそんなアンジーにエヴァは異を唱えた。

「いや、階級順なら自分ッス。自分は盾の技能とデジタル関係の資格保有で四等巡査ッスから、先輩よりも階級が上ッス。」

「ハァ…?お前はまだ入って1日どころかまだ三時間ぐらいじゃねえか何言ってるんだ?入ったばかりの外様に副リーダーの座なんて渡せるわけねえだろ。まだ年功序列でブルーの方が適任だと思うぞ。あいつは元一等巡査部長だし、歳だってエマを除けば二十九歳で一番上だ。」

「三十歳…」とブルーは悲しそうな声で言った。

「は?」

「私、一週間前が誕生日。三十歳…もう二十代じゃない…私はもう若くない…」

辺りにめんどくさそうな雰囲気が漂い始める。

「じゃあルフィナは?」

「私はボスって柄じゃありませんわ。シバサンは?」

ルフィナが話題を振った瞬間、シバはシュンとした顔でうずくまり始める。

シバの脳裏にはかつての事件で失った元チームメイトの顔がフラッシュバックしていた。

「ぼ、僕が指揮したらぜ、全滅しちゃうかもしれないから…うぅっ…」

「これで決まりっすね…まあそもそも、この会話自体無駄なんスけどね。」

エヴァは懐から書類を取り出すと、そこにはアニマル市警警視総監のサインとスネークビーチ市警のエイヴァ・バットリー・キャンベル四等巡査をCLAWの副リーダーに任命すると書かれていた。

「はぁ!?なんだよこれ、警視はこのこと知ってんのかよ?」

アンジーはエヴァの胸倉を掴むと壁に押し付けて凄んだ。

「知ろうが知るまいが…アニマル市警の後任は取れてるッスから…」

タイラーはアンジーをエヴァから引き剥がすと

「命令なら仕方ない…副リーダーになれなかったのは残念かもしれないが、どうせ三ヶ月だ。ステイだ相棒。あとそうだ…エヴァ。デジタル関係の技能を取得してるって言ってたな?」

「ええ、証拠解析から行方不明者探しまでなんでもござれッスよ。」

「調べてほしいことがあるんだ。」




タイラーはUSBメモリを取り出すとエヴァが持ち込んだラップトップに挿入して映像を見せた。

「この映像は三週間前に起きた事件の様子なんだが…ここを見てほしい。」

タイラーが映像を止めて拡大するとそこには例の傭兵の映像が映っていた。

「民間軍事会社ッスか?妙に豪華な装備を着てるッスね。身元を特定できそうなものは一切つけてないッスね。」

「ああ、ブルーが言うにはメキシコ系だけじゃなくて元海兵隊員と思しき白人までいたようだ。だが、鑑定をかけても死亡した全員の身分が見つからなかったんだ。顔面を整形してる奴もいた。」

「とりあえずグーグルからダークウェブまで色々と調べてみるッス。」

エヴァはひとまず初歩的に拡大した画像のスクリーンショットを撮影して画像検索にかけるが、どれもこれも他国の軍隊やエアソフターが出てくるばかりでなんの手掛かりにもならなかった。

次にダークウェブ上に存在するビットコインで雇える傭兵も探してみるが、どれもこれもメキシコのチンピラ上がりの連中ばかりでここまでの高級品ぞろいの装備は着ていなかった。

「他に手掛かりは?」

「テロ組織マズバハ及び麻薬カルテルロス・クルティードとの関係の疑いがあるかな。」

「その方面でも探してみるッスね…」

マズバハ関連のプロパガンダサイトや戦場カメラマンの画像もしらみつぶしに当たるがやはりヒットはせず、ロス・クルティードの構成員の情報を漁っていたところ、インスタグラムをやっている下っ端や幹部の画像を探す。

「あ、もしかしたらコレかもしれないッスね。ダークウェブで探す必要なんてなくて灯台下暗しだったかもしれないッス。この画像を見てください。クルティードの構成員が撮った自撮りの中に似たような装備を着てる連中がいるッスよ。」

エヴァはそういってラップトップに表示された画像を指差すと、確かに見覚えのあるカスタムカービンと装備を着た兵士の画像が紛れ込んで映っている。

「よくみたらパッチが貼ってあるな…もっと鮮明にできるか?」

画像をさらに拡大するとそこには「ロス・ビソンテス」と書かれたパッチが貼られていることが判明した。

「ロス・ビソンテス…そういう名前の民間軍事会社みたいッスね。この名前で検索をかけたら色々情報が出てきたッス。主な事業は中南米内の要人警護や訓練、指導を行ってる表向きはクリーンなとこみたいッスよ。CEOの名前はカレン・パッカード。元DEAでコンステリス・ホールディングス、つまりはブラックウォーターUSAの元社員だったみたいッス。」

「軍事会社の社長か…どうにかコンタクトを取れないものかな。こういう時は…そうだ。おい、ルフィナ、ちょっと来てくれ。」

「どうしたんですの?」

「例の事件の謎の傭兵について探してたらアメリカの民間軍事会社に行きついた。ルフィナのコネを使ってこいつのいるパーティなりなんなりに参加することはできないか?」

「軍事産業の方でしたらOdin.incの社長に聞けばなにかわかるかもしれませんわ。昔からお世話になってるとこですの。」

「その社長にコンタクトを取ってほしい。まずはこのカレン・パッカードの足を掴まないといけないが、現状摘発できるほどの確固たる証拠がないからな。」

「わかりましたわ。」

ルフィナはそういうと懐からスマートフォンを取り出してOdin.incの社長の連絡先に電話をする。

「あーあーあ、おじさま?私ですわ、ルフィナですわ。久しぶりですわ~お元気にしてました?え?なんの連絡かって?実は、折り入って頼みたいことがありますの……」

ルフィナは数十分電話を続けた後でタイラーたちのもとへ戻った。

「やりましたわ。一週間後にこのアニマルシティで軍事産業関係のカジノパーティが行われるみたいですわ。そのパーティには賭け事が好きなロス・ビソンテスのCEOも参加すると…おじさまに頼んでそのパーティに出席できることになりましたわ!」

「でかしたぞルフィナ。これで連中の尻尾を掴めるぞ。よし、全員を集めろ作戦会議だ。」

タイラーはプレハブに全員を呼び出して集めると作戦会議を始めた。

「場所はアニマルシティ中央にあるハリネズミウッドパーク・カジノ&ホテル。セレブ御用達の場所だ。目的はカレン・パッカードとの接触による情報収集。」

「だが、接触するだけだと旨味が少なくないか?カジノらしくもっと派手にやるべきな気がするが…」

「ホテルの従業員を買収して居場所を特定する。そんで部屋にある通信端末の類を掻っ攫うってのはどーだ?」

「それがいいな。採用。」

「ちょ、ちょっと待つッス。そもそもこの作戦ってアニマル市警の許可取ってるんスか?どちらかと言えば諜報機関がやるような仕事じゃないッスか?」

「ウチは表じゃできない仕事やる。それだけさ。ルフィナはカジノに参加。ブルーとアンジーを護衛にしよう。お嬢様に護衛がいないと怪しまれそうだし、何より二人は体躯が大きいから向いてて雰囲気も出る。シバサンは逃走車両で待機してほしい。私とエヴァは…通信端末を盗みに行こう。」

タイラーのその言葉を聞いたエヴァは困惑していた。正規の手続きも踏まずに法を無視した盗みを公共の場で行うためだ。

「私に盗みをやれって言うんスか!?」

「CLAWってのはそういうとこだ。私も最初は困惑したが…時期に慣れる。」

「となると…逃走用の車両が必要になるけど6人全員が乗れる車両は今グルカしかないけど…グルカでカジノのど真ん中は流石に目立ちすぎじゃない?」

「そうだな…じゃあ新しい乗り物を調達しに行くか。バンかワゴンが必要になるな。」




六人はCLAW本部の近くにある中古のバンやワゴン専門のカーショップへと足を運んでいた。

大きな錆びた看板が目印の店で辺り一面にはベンツの高級車からダイハツの安物まで様々な状態の車が所せましと並んでいる。

ここら一帯に住んでいる農家や企業は大体ここから中古車を仕入れて使っているといっても過言ではないだろう。

「とはいえバンやワゴンでスピードが期待できるものはないだろうからなあ…やっぱり私はスポーツカーがいいよ。」

「タイラー、予算はいくら?」

「警視に頼んで捻出したのが二万ドル。まあ型落ちの中古車なら十二分に良いものが買えるだろうよ。」

「このプロボックスなんてどうだ?このシボレーの七十年代のバンなんかもイカしてると思うけど。」

「いんや、使い古され過ぎて足回りが錆び錆びのガタガタになってる。逃げる最中に空中分解するかも。それに七十年代は流石に旧車すぎて逆に目立つだろ。」

「このステップワゴンは?このプジョーなんかも悪くないと思うけど?」

「見た目が趣味じゃない。」

そんなことを話しているとシバはとある一台の車を見つけると走りながら駆け寄った。

「おい、シバサン何やってるんだよ。」

「これだ…これだよ…これ以外には考えられない…!まさかこんなところで巡り合うなんて!」

シバは店員を呼び出してその車の鍵を貸してもらうとボンネットを開けて内部に格納されたエンジンをチェックした。すると中には日産のRB26DETTエンジンが格納されている。

「RB26DETT?エンジンスワップなのか?」

「いや、違う。この車は日産ステージア260RSだ…見た目はちょっと野暮ったいけど中身はR33型GT-Rと全く同じ…つまりはGT-Rワゴンだよ!初めて見たなあ…!」

「ステージア…マッスルカー好きの自分の好みから外れるけど、なかなか良いチョイスじゃないッスか?」

「おい、待て。これ五万ドルするって値札が付いてるぞ。三万ドル予算オーバーしてる。」

「やだ!僕はこの車がいい!それに逃走に使う車なら早い方がいいじゃん。」

「だがこの車は五人乗りだし…」

「バカアンジーを後ろに押し込めばいい!」

「だが予算が…」

「あら、三万ドル程度でしたら私のブラックカードで一括払いできますが…」

「お願いルフィナ!僕をこのステージアに乗らせて!」

「みんなでちゃんと共有できますの?」

「できる!」

「ダッジみたい独占しない?」

「しない!」

「じゃあ、すみません定員さん。カードで。」

店員はルフィナに渡されたブラックカードに驚きながらも支払いを行うと、ステージアの鍵と書類を渡され購入を完了した。

シバは鍵を奪い取るように装填すると、RB26DETTエンジンをふかして派手なエギゾーストサウンドをあたりに撒き散らし始める。

「ハハハッ!こりゃいいねーーー!」

「まあ、シバサンが楽しそうで何よりだが一応作戦用の車だぞコレ…」

タイラーは呆れながら後部座席に座るが周りでは何やら誰が運転するかを話し合っている。

「僕が先に運転席に座ったから僕が運転するもんね!」

「あっ…私も運転したい…」

「私だってRB26でかっ飛ばしてえよ!」

「自分も乗ってみたいッス!」

「じゃあ、ロック・シザース・ペーパーで決めてくださいまし。喧嘩したらお店に返しますから。」

楽しそうな四人はロック・シザース・ペーパーをするが最初にブルーが負けてバックドアの中に幽閉され、二回目はアンジーが負けてタイラーの隣に座らされた。

「よし、じゃあ行くッスよ…ロック・シザース・ペーパー…ワン、ツー、スリー!」

結果、シバサンは敗北して助手席に乗ることになり、エヴァはCLAW本部に帰るまでステージアを堪能したのだった。




作戦が決定してシフトが終了し、全員が帰路につく中でエヴァは隠し持っていた携帯を取り出すとある連絡先へと電話をかけた。

「はい、私です。」

「エイヴァ、CLAWはどうだった?」

「思ったより単純な連中の集まりのようです。馬鹿で間抜けでアホ面の連中ばかりだ。法や秩序を守ろうという気概は感じられない野蛮な連中です。それにもう既に音声記録は回してありますがあれだけバカげた荒唐無稽な作戦を立案するとは…」

「いい感じだな。引き続きCLAWの不正の証拠を集めてほしい…それで、例のデータの件はどうだ?」

「まだ今日は初日ですから、馴染むので精一杯でした。ですが、上手く騙せたと思います。上手いこと考えましたねスネークビーチ市警出身とは…明日から徐々に探っていこうと思います。」

「頼むぞ。〝あのデータ〟は重大な証拠が入っているからな。」

「ええ、わかっています。あのデータさえ手に入ればもうCLAWに用はありません…」

「今後とも上手く潜入してくれ。〝エイヴァ捜査官〟。」

「ええ、FBI副長官。」

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