第0話 突然の知らせ
(……まぁ本名は出せないから、「えっちゃん」と名乗ることにしよう。)
えっちゃんこと私は、小さい頃から落ち着く場所を知らなかった。
父の仕事の都合で、都道府県を転々としてきたからだ。友達ができても、また別れが来る。そんな生活は、もう当たり前になっていた。
中学一年生のころ、父から言われた。
「海外に引っ越す可能性がある」
へえ、海外か。アメリカとかかな。
私はちょっとワクワクしながらも、軽く考えていた。
しかし、中学三年の夏、状況は一変する。
ある日のこと。
「帰ってきたぞぉ〜」
父が酒に酔って帰宅した。片手にはあずきバーの入ったビニール袋を持っている。……なんであずきバー?
「今、音ゲーやってるから静かにして……って酒臭っ!どんだけ飲んだん?」
「えーっと……こんくらい?」手の指が8本上がる。
「飲みすぎじゃい。」
父は酒に関しては本当にどうしようもない。
真ん中の妹がソファでゴロゴロしながら、「パパ、帰ってきたんだ…」と呟く。機嫌は良さそうだ。いつものことなら「私のそばに近寄るなぁーー‼︎」って叫ぶんだけど…。正直安心した。
一番下の妹は寝室で爆睡中。
母は台所で、手際よく夕食の準備をしながら、父に耳打ちする。
「パパ、お知らせがあるんでしょ?早く言ったら?」
「あぁ、そうだったな。なんと……引っ越しが決まりました!」
父の声が大きすぎて、耳鳴りがした。
「あっ、そう。で、どこ?」
私は音ゲーに夢中のまま無意識に聞き返す。
「スイスだ!」
父が大声で言う。
「……あ、スイスね」
最初は音ゲーに夢中だったが、現実が追いついてきた。
一瞬で私の意識が宇宙に放り出される。まるで宇宙猫の如く。
(えっ…すいす?SUISU?……スイス!?)
そして音ゲーのコンボは243から一気に0になった。
「え、ちょ……(ドンガラガッシャーン)は、はぁ!?スイス!?」
椅子から転げ落ちる。心臓がバクバクして、空気が震えるようだった。
小さい頃から転校には慣れていたはずなのに、これはまったく別次元の話だ。
「で、で、引っ越しの日はいつなn……」
父がソファーで爆睡
「ね……寝るんじゃあねぇ――‼︎」
真ん中の妹は小さく眉をひそめる。母は「もう……」と小声でため息をつく。
私は思わず頭を抱えた。




