(ガゼイン)139 ガゼインという男
(ガゼイン)
「このクソガキがぁぁぁぁ!!!我慢もここまでだ!!」
大激怒した私が身体強化術を使い、生意気なクソガキ、ルークとかいう無法者に向かい走り出すと、周囲の試験官達が慌てて止めようと動いたのが見えたが、もう遅い!
実力は俺の方が上。
だから全力で飛び出せば、もう俺を止める事などできはしない。
「所詮ココは戦えない弱者の集まり!中立派など無力!無駄!無能集団だぁぁぁぁぁ!!」
大声で笑いながら、直ぐ目の前に見えるガキの首に向かって、即死効果付きの剣を突き出した。
◇◇
<ガゼイン・セル・マノース>は、現在聖グラン学院のデバフ特化の魔法授業を受け持つ教員として働いている。
我がマノース家は、代々優秀なエリート教員としてこの学院に努めている子爵家で、この学院にて発言権は強い。
それはもちろん、今までの学院へ対する貢献度が関わってくるのもあるが……大きな原因の一つは、この学院が持つ中立という立場にもある。
学院は、『どの勢力にも属さず、常に己の心と戦い続ける事』という、実力重視の中立派を掲げているのだが、これは『他』への批判や拒否を禁止するモノでもあり、それこそがこの学院の歪みを生み出しているのだ。
多様性、他価値観を重視、常にそれぞれの価値観をリスペクトするという、他との共存を望む中立派は、一見平和で夢のような世界ができそうに見えるが、それを望まぬ一強派閥が多い中では、成り立たせるのが難しい。
つまりこの学院は、どんなに攻撃されたとしても防戦一方しかしてはならないという、侵略する側からすれば最高の環境であると言える場所でもあるということ。
これはあくまで戦うのは己の心であるという、それはそれはご立派な初代学院長が残した美学から来ている価値観らしい。
そしてそれを学院長を代々務めている<グラウンド家>は律儀に守り続けているのだ。
確かに当時はそれで良かったのかもしれない。
しかし、今の派閥が入り乱れる世では、自分たちに都合がいい存在にしかなれないって事だろう。
侵略者側の俺としては好都合♡
だから俺は、第一王子である<ライン>様の派閥代表としてココで声を上げているというわけだ。
次代の王は、ライン様が相応しい。
それはその派閥に属している高位貴族達の数でも圧倒的なのは分かるし、ライン様についていけば、子爵の俺も大出世する事が約束されているため、その派閥を選ぶ事は当たり前。
戦争?────大歓迎!
だって、それで俺が損する事がないから〜♡
寧ろ自領の鉱石や、武器、防具、お抱えの兵士達を派遣すれば儲けが出るし、更に戦争で土地が奪えれば、派閥内で分配される土地を使って更に儲けが期待できる。
それって良い事しかないじゃん?
汚ねぇドブネズミみたいな平民達がいくら死のうとも、直ぐに増えるんだからいいだろう?
そもそも増え続けるネズミなんて、定期的に間引きが必要なんだから、人間だって同じ。
だから俺達の様な選ばれた人間達が、有効に使って人口をコントロールするのって、この世界が平和でいるのに絶対に必要な事なのだ。
その選ばれた優秀な人間こそが貴族。
これは何も間違っていないと思うのに、他の派閥がごちゃごちゃと煩くて本当に嫌になる。
1番厄介なのは、古くから王族を支えてきた<守柱会>
コイツらは、『国のためになる最善の道』のためなら、かなり強引な手を使ってくる輩である上、教会の一部とかなり密接に癒着しているからこそ注意すべきだ。
ただし、王位継承については見守りの体勢から動かない所を見ると、傍観という選択を取ったと思われている。
つまり国のためになるならライン様の考えを通して良しであると、そう考えているのかもしれない。
まぁ、とにかく今は地盤固めの時。
学院にいるライン派閥の同志達は、一丸となって将来の同志候補達と繋がりを作るため、中立派の教員や他の派閥の教員達とバチバチしながら日々戦っているという事だ。
そんな中、つい半年ほど前の事。
今まで頻繁に顔を出していた我が派閥の大事な柱の一人であるグリード家が、集まりに来られない日が続いた。
それに対しおかしいなと思ってはいたのだが、なんと久しぶりに顔を出したグリード家の御当主、ルストン様はとても憔悴した様子を見せていた。
「どうかされたのですか?とても疲れている様ですが……。それに、フルート様は……?」
いつもはそれはそれはお美しいフリート様が必ず傍らにしたので、それも合わせて気遣う様に尋ねると、ルストン様はビクビクンッ!!と驚く程に大きく震える。
「フ、フルートは……た、た、体調を崩していてな!
わ、私も少々体調が悪くて……今日まで寝込んでいたのだ。ライアーとスティーブも……。」
「そうだったのですか。季節の変わり目は体調を崩しやすいですから、どうかお気をつけてください。」
なんとご家族全員が病に倒れていたそうだ。
その話が聞こえていたらしい他の同志達も集まりだし、口々にルストン様への心配を口にした。
「そうだったのですか。心配しておりましたぞ。
そうそう、お会いしたらお聞きしたいと思っていたのですが、ルストン様の自領の一つであるアクアドリム、現在凄い勢いで発展していっているとか……。
一体どうやったのか、少しだけでも教えてくださいませんか?
家畜である平民達をあそこまで見事に使う方法をぜひ伝授していただきたい。」
「我が領もアクアドリムの話で持ち切りですわ〜。
流石はグリード家!あの小汚いドブネズミ達をよくぞあそこまで動かせましたね。
我が領のドブネズミ達は、黙って働けばいいのに、グチグチと煩くて……家畜の分際でうっとうしいったらありませんわ。
あのネズミ達をあそこまで上手く働かせるのには、どうすればいいのか、私もぜひお聞きしたいです。」




