第4話 かっこいいもん
ナナとのデートも終わりまして、お次の舞台は少年隊。
そこにいたのは、ルキを慕う——あの二人。
黄色い声援をものにする彼に何を思うのか……。
かっこいいもん
どうぞ。
少年訓練場にて。
「休み明けで体が重いものもいるだろう。十分にほぐし、訓練に臨むように——」
「「「はっ!」」」
教官リデルの掛け声の元、戦士を志す少年少女の日常が始まった。
剣戟の音に包まれる少年隊。
今日も皆の注目を集めるのは——あの少年だった。
「おりゃぁぁ!」
「うぐっ!」
群を抜いた身体能力。
度重なる実践により洗練された動きで、鋭い一撃を見舞う。
「既に、一般兵をも超え得るな……」
余裕の勝利を収めた少年の名は——ルキ。
伸び続ける彼の剣に、リデルは大きな可能性を見ていた。
すると。
「きゃー!」
「ルキくぅん!」
「素敵!」
ナポルの一戦以来、少年隊一の実力を見せつけた彼は、今や黄色い声援を欲しいままにしていた。
「やれやれ……なんだかやりにくいぜ」
剣を振る度にざわつく外野に、ルキはため息を吐く。
——そして。
少し離れた場所から、その様子を見守っていた二つの視線。
「わぁ——やっぱり、ルキ君はすごいね!」
そこには、目を輝かせる少女兵テゴラと——すっかり人気が停滞したナポルが、眉をひそめていた。
「ふん! 実力は認めるが、あんな男何がいいんだか……」
隣から聞こえる嫉妬混じりの言葉に、テゴラは思わずムッとする。
「仕方ないじゃない! だって、ルキ君優しいし——」
しかし、反論しながら、再び視線を戻した彼女は。
「……かっこいいもん」
頬をほんのりと赤く染めていた。
——初めて会ったあの日。
迷っていた自分の手を握り、背中を押してくれたルキ。
あの時から彼女の中には、感謝とは別の何かが芽生えていた。
そして、その感情を隠すかのように目を伏せていると——。
「——そういえば」
ナポルが口を開く。
「昨日あいつがデートしてんのを、誰かが見たらしいぜ?」
「……えっ⁉︎」
その言葉にテゴラの肩が揺れた。
「へ、へぇ……そうなんだ」
やがて、頬傷を掻き、目を泳がせる。
「……ルキ君、モテるもんね」
——仕方がない事だ。
彼の周りには、いつも誰かがいる。
休日を共に過ごす女性がいても、何ら不思議ではないと——テゴラも、そう理解していた。
それでも、彼女の胸には。
チクリと。
確かな痛みが走っていた。
——すると。
「い、いつまでサボってんの⁉︎ 私たちもやるわよ!」
テゴラは勢いよく木剣を構えた。
「お、おう」
突然やる気に満ちた彼女に押されるまま、ナポルも慌てて剣を構える。
その木剣を握る手に、いつになく力がこもっていることに気づきながら。
* * *
——就業後。
兵舎へと戻り、汗にまみれた衣服を急いで着替えたルキは、再び部屋を飛び出した。
「二日も休んだんだから……今日は頑張んねーと」
疲労など気にせず、自主訓練場——剣庭へと向かう。
“最強”を追い求める彼にとって、わずかな時間も無駄にはできなかった。
——すると。
「ルキ!」
声に呼び止められた彼は足を止める。
「あれ——なんでこんなとこにいるんだよ?」
鉢合わせたのは、白銀の魔法使い——ルミナ。
共に旅をしてきた、大切な仲間である。
「いいじゃない。元気にしてるかなって思って」
魔法使いたちが集う魔導院で、違う土俵の修行に励んでいた彼女は、彼の様子を見に来ていたのだ。
「そりゃもう、バッチリだぜ!」
大きく握った拳を見せるルキ。
だが。
「それより、聞いたわよ——」
ニヤリと笑ったルミナが口を開く。
「昨日、ナナちゃんと一緒にいたらしいわね?」
「なっ!」
腰に手を当てて目を細める彼女に、ルキの怒鳴り声が響いた。
「お前! なんで知ってんだよ⁉︎」
「アバンが見たんだって。それをどっかの店で話して、噂が広がったみたい」
「あんのエロ盗賊ぅ……!」
すっかり顔を赤くしたルキは、拳を震わせる。
しかし、その怒りを遮るようにルミナは言い放った。
「それよりあんた! 手ぐらいは握ったの?」
「手ぇ⁉︎」
その言葉に後ずさった彼は、慌てて両手を振る。
「握ってねえよ! 俺たちまだガキだし……ナナだって、そんなの求めてねーだろ」
まるで分かっていない少年に、ルミナは深いため息を吐いた。
「……はぁ、本当に分かってない。確かにガキだわね」
やがて彼女は、ずいっとルキの目の前まで詰め寄る。
「いい⁉︎ ルキ——」
そして、胸を突くように指を立てた。
「ナナちゃんは明らかにあんたに気があるのよ? それに、恋する乙女ってのは——みんな大人なの!」
「う……」
ルキが言葉を詰まらせた隙に、ルミナはさらに畳み掛ける。
「まず褒めなさい! 髪型でも服でもいいから! それから、あんたも少しは身なりを気にすること!」
「身なりぃ?」
「そうよ! 髪を整えるとか、服を選ぶとか! 女の子ばっかり頑張らせるんじゃないの!」
「うぐ……」
「それと、女の子の右手をお留守にしちゃだめ! わかった?」
ようやく彼女の言葉が止まった。
「そんなこと言われてもよ……」
それでも、聞き分けのない返事をするルキを、ルミナはじろりと睨む。
「わかった⁉︎」
図々しくも人の恋路に踏み込んでくるルミナに腹を立てながらも、ルキは半ば投げやりに答えた。
「わかったよ!」
「うん! よろしい」
満足そうに頷いたルミナは、くるりと踵を返す。
そして、ポツリと呟いた。
「お姉さんが生きてたら、きっと同じように言ってたわよ……」
「……姉ちゃんか」
それを言われると弱かった。
姉だと思ってくれていい——そう言ったルミナの言葉を、ルキも覚えている。
彼女がいてくれたおかげで寂しい思いをせずに済んだことも、彼女なりに気を遣ってくれていることも、すべて理解していた。
しかし——。
「お姉さん代わりの、ありがたいお言葉よ——そういうわけで、せいぜい頑張りなさいよね。おほほほ」
どこか面白がっているような背中に、ルキは再び血の気を上らせる。
「ふん! 何が姉ちゃん代わりだよ——このブス」
——言葉を放ったその瞬間。
ルミナの足が止まった。
先ほどまで笑っていた背中から、すっと感情が消える。
「次言ったら、灰にするわよ?」
ルキの目には、彼女の手のひらから漏れ出す小さな炎が映っていた。
「……はい」
再び血の気を引かせたルキは、背筋を伸ばす。
「よろしい」
そう言って見せたルミナの笑顔が、ようやく長い問答に終止符を打ったのだった。
ルキを密かに想っていたテゴラ。
しかし彼女は、彼の休日の出来事を知ってしまいます。
早くも痛む乙女の恋心でした。
お次は金曜日!




