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天声だだ漏れ転生〜女神の温もりと共に〜  作者: 白銀鏡
【第二部】 第四章 力と共に
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第40話 帝都を抜けろ

マルクとガンツの脱出劇が、ついに始まります!

そこに待ち受けていたのは……。


帝都を抜けろ


どうぞ。

 帝都の地下牢に、再び静寂が立ち込める。


「——なるほどな……姿の見えない声だけの人間。お前があの、転(・)生(・)者(・)ってやつだったのか」


 そこには、腰を落ち着けるガンツ。

 その単語には聞き馴染みがあったらしく、弁解にはそう時間はかからなかった。


(思ったよりも、理解が早いんだな……)


 バルナの王宮にて、皇帝は既に、俺を転生者だと呼んでいた。

 おそらく、帝国側には俺の存在は知れ渡っているのだろう。


「噂には聞いてたからな——それに、味方なんだったら何でもいい」


「僕が保証する。天の声である彼は——間違いなく味方だよ」


 マルクの言葉もあり、話は流暢に進んでいったが、ガンツは一瞬だけ立ち止まる。


「それより——マルク……」


 転生者の存在よりも、彼には明確にしたい事実があった。


「最後に聞くが、あ(・)い(・)つ(・)は本当に生きてるんだよな?」


 それは——弟の安否。

 

 既に後戻りできないところまで来ていた彼は、今一度それを確認する。

 

 彼にとって、その答えは最後の一歩を踏み出すために必要なもの。


 やがてマルクは、その覚悟を受け止めるように大きく頷いて見せた。


「ああ。フラッツはおそらく、アリヴェルの地にいる——無事脱出して、必ず会いに行こう!」


 はっきりと言い切られる言葉。

 その一言で、全ては決まった。


「……そうか。——わかった」


 最終確認を終え、ガンツの瞳に再び決意が宿る。

 その眼差しに、マルクもようやく胸を撫で下ろすことができた。


 ——弟の生存を知り、彼の脱出に手を差し伸べるガンツ。


 物(・)語(・)通(・)り(・)、彼が味方でいてくれた事に、俺も同様に安堵を覚えていた。


 

 そして、深呼吸をしたガンツは、手錠の穴に鍵を差し込んだ。


「——ふぅ」


 鉄の鎖はドサリと落ち、囚われの身から解放されたマルクは嬉しげに肩を回す。


「いいものだね。自由というのは」


「こいつも持っていけ」


 さらに差し出されたのは、ここに連れてこられた時にひっぺがされた武具の数々。

 彼が席を外してた間、どこかからこっそりとくすねてきたようだ。


「ありがとう。助かるよ——ガンツ」


 それらを受け取り、いつもの姿へと戻っていくマルク。

 立ち上がり扉へと足を向ける二人の戦士に、俺はようやく口を開く。


(二人のことは、俺が目となって誘導するよ)


「なるほど……幽霊のお前さんには、ピッタリの仕事ではあるな」


「うん。無駄な戦いは避けたいし——いい作戦だ」


 すぐに同意してくれたマルクだったが、ガンツは拳を握り、釘を刺した。


「頼んだぜ。もし裏切りやがったら、ぶっ飛ばすからな……!」


(ああ……わかってるよ)


 早速、扉の方へ体を進める中、治癒の手を止めたマリラだけは口を尖らせる。


『この人が味方なら、先に言ってくれればいいのに……カガミさんったら!』


(すまんすまん……後でマリラにも説明してやるからな)


 事情もわからず、一人だけ取り残されてい彼女に、俺はひっそりと呟いた。


「おい待て。まだ幽霊友達がいるのかよ……」


 噛み合わない俺の言葉に、再び後ずさるガンツだったが。


(男が細かいこと気にすんな! 行くぞ——)


 俺はさっさと牢屋を後にし、作戦の決行へと移っていった。


 ——ガンツには、意外と小心な一面もあるらしい。


 * * *


 響いては止まる二人の足音。

 暗い地下道を飛んでいた俺は、進んでは合図を繰り返し、マルク達を誘導していた。


「なぜだ……さっきから帝国兵が一人もいないじゃないか」


「なんで、今日に限って……珍しいこともあるもんだな」


 順調すぎる歩みに皆違和感を感じていたが、敵がいない以上、彼らは進む他なかった。


『変ね……ここにも誰もいないわ』


(俺達が来た時も、かなり手薄だったな……だが、今はとりあえず進もう——おい、二人ともこっちだ)


 俺はさらに声を送る。


 たびたび発生する幽霊(マリラ)との会話に、ガンツが身震いを見せながらも、一行の足は、地下を抜ける階段へと辿り着いていた。


(明かりが見える……ここから、上(・)に繋がってるんだな!)


 そして、階段を上がった俺は、少し慎重になりながら顔を覗かせる。

 

 ——だが、そこは。


(……はぁ。誰もいないぞ)


 大広間に、風だけが通り抜ける。

 

 明かりの届かない地下を抜けたと言うのに、人の気配が感じられない。

 釈然としない光景だったが、ガンツが——提案をした。


「本当に誰もいねえのか……だが、ここを抜けて裏口まで行けば、逃げる確率は格段に上がるぜ——」


 城内をよく知る彼が言うには、ここから裏口までの距離はそう遠くないらしい。

 腑に落ちない点がありながらも、目標地点は確かに近くまで迫っていた。


「——少人数の敵なら、今の僕たちでも切り抜けられる」


「わかってるじゃねぇか……」

 

 二人は、剣を握り見つめ合う。

 言葉を交わさずとも、互いの意図はわかっていた。


 強行突破——。

 

 頷き、息を合わせるマルクとガンツ。

 そしてついに、彼らは階段を駆け上がり——外の明かりへと体を乗り出した。


 しかし。


「——おやおやぁ?」


 羽音と共に降りてきたのは——あの男の声だった。

 

「この声は……!」


 聞き慣れた不快な音に足を止めた二人が、見上げた先にあったのは——黒い翼。


「後ろにいらっしゃるのは、マルクさんですよねぇ? ——二人で仲良く、お出かけですかガンツさん?」


 その正体は、“千里眼”と呼ばれる帝国の戦士、シュダ。

 半妖の力を有し、空の支配を許された悪魔の人造兵器である。

 

 さらに、彼は間髪入れず、乾いた音を大広間に響かせた。


「さぁさぁ皆さん。裏切り者のお馬鹿さんが、ノコノコとやって参りましたよ——お集まりなさい」


 その掛け声に応えるように、床や地面の隠し扉が次々と開いていった。


 そして、姿を現した黒甲冑どもが、あっという間に雪崩れ込む。


「ちっ——あのチビ。最初から……」


 歯軋りをする表情を、右往左往とさせるガンツ。


『そんな……これじゃまるで——』


 袋の鼠——。

 数にして、五十にも及ぶであろう帝国兵に、俺たちの退路は塞がれた。


(おいガンツ! これは一体どういうことだ⁉︎)


「さあな……こんな隠し扉は知らなかったし、俺はよっぽど嫌われ者だったらしい」


 開き直るように笑うガンツだったが、彼の頭上にはひらりと舞い遊ぶシュダの姿。


「アハハハ! 本当に馬鹿ですねぇ! アリヴェルの人間など、最初から信用するわけがないでしょう」


「おっしゃる通り」 

「馬鹿なやつだ」


 降り注ぐ高笑いに連られ、群衆から笑い声が漏れていく。


「そういうことかよ、てめぇら……!」


「落ち着くんだ! あんなやつらの言葉に耳を傾けるな——」


 今にも飛びついて行きそうな大剣を、冷静に抑止するマルク。


 満を持したように語られる謀反と。

 恍惚と笑うシュダを見て——二人は悟っていた。


 自分達は、初めからここに誘い込まれたのだと。


 ——すると、一触即発の空気が漂うその場に、もう一つ声が投じられた。


「四天王ごっこは——楽しかったか?」


 帝国兵が作る包囲の一角が、音もなく左右へと割れる。


「まあ……そうくるよな」


 低く呟いたガンツの視線の先——その中心から、もう一人の男がゆっくりと歩み出てきた。


(あいつは……まさか)


「俺の同(・)僚(・)だ……」


 血の通っていないかのような、真っ白な肌と冷たい瞳。

 その男に該当する人物を、俺は一人しか知らない。


 ——デノイル。

 “氷の男”と称される、帝国四天王の一人だ。


「二人がかりとなると……さすがにまずいな」


 先程までの勢いが嘘のように、ガンツは半歩後ずさる。


 そのわずかな動きが、状況の深刻さを物語っていた。


『あの人、マナが……』


 そして、同じ力を扱うマリラには、彼の力が見えていた。


(見えたか……そう。あいつはただの剣士じゃない。レオンと同じ——魔法剣士)


『あの人も——』


 男としては珍しくマナを持つ存在。

 彼女がよく知るレオンと同じく、魔法剣士の力を持つデノイルに——彼女は得体の知れない恐怖を覚えた。


 さらに、人知れないはずの俺たちを、千里眼の瞳が貫いた。


「あなたもおいででしたか……会えて嬉しいですよ——転生者さん」


(へっ……そーかい)


 シュダ——。

 やはりこの男は、全てを見抜く力を持っていた。


「隣にいらっしゃるのは、お友達ですか? 小さくてかわいいエ(・)ギ(・)ル(・)の塊が見えていますが」


『えっ……!』


 当然、エギルで動く以上彼女の存在も、やつには視認されるだろう。

 

 焦るマリラを心配するが。

 それよりも——。


「はぁ……はぁ」


 俺が気にしていたのは、既に肩で息を始めるマルク。

 過度の緊張状態が、万全の状態ではない彼の呼吸を早めていた。


(……どうしたものか)


 ——遠く閉ざされてしまった、裏口までの道のり。

 

 四面楚歌を迎え、女神の国の戦士達の脱出劇は、今ここで終わろうとしていた。


「さて——駆除の時間だ」


 そして、待ってはくれない絶望の時を告げるかのように、氷の男デノイルは、ゆっくりと剣を抜くのだった。

待ち構えていたのは、二人の四天王でした。

さらに、負傷していたマルクは満身創痍……。

彼らに勝ち目はあるのでしょうか。


お次は火曜日!

バトル開始!?

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