第5話 できること
今週は増刊号です。
序章も終わり、第二章の入り口だけをお見せします。
この章からは神様ヒロインのラキのキャラがあらわになっていきます。
ちなみに第二章のタイトル変えました。その名も、
異なる世界と共に
では、どうぞ。
俺の名は、白銀鏡。この世界の創始者である。
訳あって自らが書いたファンタジー小説の、天の声として存在している。俺はマルク一行を導くことで、かつて帝国によって滅ぼされ、女神の力を有するアリヴェル王国を復興させる為に日々尽力している。
——先日マルクは、強くなりたいと願う少年“ルキ”を仲間に加える。
彼はこの世界の重要人物なのだが……。
筋書き通りルキの住んでいた村は盗賊によって滅ぼされ最愛の姉である“ラキ”もこの世を去ってしまった……はずだった。
……しかし。
村を出た道中にて、絶えず襲いかかる盗賊を蹴散らすマルク一行。
その頭上には……。
『見てください神様! またうちのルキが盗賊を倒しました!』
ラキは、こうして生きている——。
ていうか生きているという表現は正しいのか?
確かにラキの死体は村の墓に埋まっているはず。
だが、こうして俺の隣に存在している。
『ルキったら、あんなに強くなって……』
(……)
成長する弟に、ただただ感心する姉。
……やはり幽霊というやつなのか?
いや、そうは思えない。
この世界に幽霊の設定は作ってないはずだし、そもそもそんなものは眉唾物だ。
この大陸に存在する魔法とかだったら、その辺の設定は俺が事細かに作ったはずだから説明がつくが、このような魔法の設定はない。一体なぜ……。
『……様。』
くそっ、自分の作った世界だってのに予想外なことが起きるし、わからないことが多すぎる。
『神様!』
(わっ! なんだ?)
ラキの呼びかけにやっと気づいた俺は、驚いた。
『どうしたんですか?急にだまって……』
(すまん、考え事をしていてな。……それよりラキには俺の姿が見えているのか?)
ラキは先ほどからしっかりと俺の方を見て、言葉を発していた。
『姿は見えてませんよ。ただなんとなくここにいるようなって気配を、確かに感じるんです』
(気配?)
『はい。よ〜く目を凝らせば、ルミナさんや、マルクさんにも、光っているものが見えますよ!』
(ルミナたちにも?)
……もしかして。
(ラキ! もっとよくルミナ達を見てみてくれ!)
俺はラキに頼み、ラキは腰を落ち着け休憩するマルク一行に目を向け、両手を使いまるでメガネを作る様なポーズで皆を観察した。
『……ふむふむ』
(何か見えたか?)
『マルクさんと、ルミナさんと、ルキ。それぞれに青白い光が見えますね。』
青白い光か……なるほど。
『それからルミナさんだけは、緑色の光が重なって見えてますね。……これは一体?』
三人に宿る青白い光と、女性であるルミナにのみ宿る緑の光。
——なんとなくだが俺は、この二つの光の正体がわかっていた。
(間違いない。これは、マナとエギルだ)
『マナとエギル?』
俺はラキに説明する——。
この世に生まれた人間には、必ずエギルという生命エネルギーのようなものが存在し、エギルを失うことで人間は死に至る。
またエギルを分け与えることで死者を蘇らせる“転生魔法”というものがこの世にはある。
そして、魔法には必ずマナという力が必要であり、この世の法則として基本的に女性にのみ発現する力であると。
『本当に、そんな力があるんですか?』
(青や緑っぽい色も全て俺の作った“設定”だ、間違いない……それから、自分の体も見てみろ)
「私の……?」
ラキは自分の体を、目を凝らし見てみる。
その体には、青白い光を発していた。
『やや! 私にもエギルが!?』
(やはりな……おそらく今のお前の体は、エギルそのものでできているようだな)
『はて?』
俺は続けて説明する。
(エギルは死後、体内から天に向かって消えていくはずなんだ。だが、何故か俺の呼ぶ声に反応して、エギルだけのラキがここに残ったと考えられる)
『なるほど! じゃあ神様の力で私のエギルを呼び戻したんですね!』
(俺の仮説だが、多分間違いないと思う)
——だが俺は引っかかっていた、俺が何者かわからないが、エギルを自由に操るなんてこの世界では、アリヴェル王国の女王“アリステラ”ぐらいのものだ。
ラキには見える光も俺にはいまいち見えてないし、ますます訳がわからなくなってきた。
『……おや』
ラキは何かに気づいた。
『よく見るとマルクさんにもほんの少しだけマナが見えますよ!』
(マルクにも?)
——するとラキの顔は、一気に青白くなった。
『まさかマルクさんって……実は女!?』
俺はキョトンとした。
そんなわけないだろ……。
『私! 確かめて来ます!』
ラキは一気にマルクの下半身に目掛け、突っ込んでいく。
(バカ! よせ!)
マルクたちには触れもしない俺たちが行っても何も起きないが、美少女ラキがこの世界の主人公の股間を確かめに行くなどモラルに反するような事は人間?として止めないわけにはいかない。
マルクの元へと近づいたラキ。
彼女はそこを見つめながら……。
『むむむ。やはりこの場で脱いでくれないと確認できませんね……』
やれやれ、自分が何を言ってるのかわかってるのか……。
(もうよせ。女の子がはしたないぞ)
『私気になるんです! 男の人のがどうなってるか……へへ』
ラキはニヤニヤしながら言う。
(どうなってると言われても……着替えて服を脱ぐ瞬間なんていくらでもくるんだから勝手に確認でもなんでもしてくれ)
すると、ルミナがピクリと動いた——。
『着替え?……脱ぐ?』
……え? 聞こえてた?
「やっぱり見てたのね!? 出てきなさいよ!」
ルミナは震えながら立ち上がる。
そしてその手には、微かに炎が燃えている……。
まずいぞ……。
「落ち着くんだ! ルミナ!」
マルクは狼狽え、
「出たな! スケベ野郎!」
ルキは叫び、
『神様! なんだか楽しそうですね!』
ラキは歓喜していた。
(楽しいわけねえだろ!)
こないだはこれで一度、弟は死にかけたんだぞ!
全く、呑気な姉貴だな……。
一同はもう、てんやわんやだった—— 。
——数分後、
日も暮れ始めなんとかその場は収まり、一同は道ゆく森で腰を落ち着けていた。
俺とラキは、天の声が漏れないように、マルクたちと極力離れ会話を進めることにした。
(ふぅ……なんとかルミナもおちついたな。しかし今後のためにもルミナにはこの天の声は、なんとか慣れてもらいたいものだな)
『神様がエッチなのがいけないんですよ〜』
ラキがすかさずツッコむ。
(なっ!? 俺は神に誓って、覗きなんてしない!)
しかしラキは、疑いの目で俺を見つめる。
(そもそも俺には実体もないわけだし、最初は興味本位で見ていたが、今は全く興味がない。……嘘じゃないぞ。)
多分。
『こないだだって、私の着替え覗いてたじゃないですか!』
(あれは不可抗力だ!)
ヒートアップしていた俺とラキだったが、遠くの方でルミナがピクリと体を反応させているのを俺は見逃さなかった。
まずいっ——!
(ラキ! お前はもう引っ込んでくれ!)
いちいち騒ぎ立てるラキに、俺は注意した。
すると……!
パッ!!!
——突然、ラキが消えた。
(え?…‥ラキ?)
どういう事だ!? ラキが消えてしまった……。
俺がラキにいなくなってほしいと念じたからか?
俺は、とんでもない事をしてしまったかもしれない……。
ラキ……ラキーーーっ!
俺は急に不安になり、心の中でラキを呼ぶと……。
ポンっ!!!
『はい!』
——出てきた。
(……)
『急に引っ込めるんですから、びっくりしたじゃないですか〜』
(もう感情が追いつかん……)
これはつまり、心の中でラキを呼ぶと出てきて、引っ込めなどと念じたら消えるというシステムなのか?
少し試してみよう——。
俺は心で、ラキの名と、引っ込めという単語を繰り返した。
(引っ込め!)
パッ!!!
(ラキ!)
ポンっ!!!
『お呼びでしょうか!』
(おお、なるほど)
パッ!!!
ポンっ!!!
『お待たせいた——』
パッ!!!
ポンっ!!!
『ラキちゃんだょ——』
パッ!!!
ポンっ!!!
ラキで遊んでいると……。
『私を出し入れしないでくださいよー!』
流石に怒った。
(ああ……すまん、つい)
だがこれで俺は、ラキを自由に出し入れできる事が完全にわかったぞ。
わからないことがまだまだあるからどんどん潰していかないとな——。
『あ!?』
今度はなんだ?
『見てくださいあれ! なんだか美味しそうですよ!』
いつの間にかルミナたちは、遠くで食事の用意をしていた。
『ルミナさんは料理がお上手なんですね! 私、行ってきます!』
ラキは三人の元へ駆け寄ろうとするが……。
(待て、ラキ!)
ラキはビクンとなって立ち止まる。
(不用意に近寄ったらまたトラブルの元だ。それにその状態じゃ、一緒に食事などできないだろう)
——ラキは、……振り返らず語り出す。
『……私いつも、両親が忙しくていつもルキと二人だけの食事でした……だから、あんなふうに楽しそうに食卓を囲むのが、なんだか羨ましくて……』
ラキの顔は見えなかったが、その背中は当時の寂しさを物語っていた。
ずっと弟の面倒ばかり見ていて親に甘えることなどできなかった娘だからな、こうして寂しがるのも無理もないか……。
(……見ているだけだぞ)
『やったぁ! 行ってきます!』
ラキは振り返り、笑顔を見せ、三人の元へ飛んでいった。
やれやれ、その顔は反則だろう。
結果的にラキを甘やかしてしまった俺も、ゆっくりと三人の元へ行った——。
「——う、うまい……! こんなの、食べたことねえ!」
ルミナの料理が、三人の食卓に温もりを与えていた。
弟の笑顔を、それ以上の笑顔で見守るラキ。
——すると、ルキが……。
「……姉ちゃんの料理を、思い出すな……」
『……っ』
……ラキは一瞬驚き、少し悲しそうな顔で俯いた。
きっと、ルキに寂しい思いをさせてしまった自分を、責めていたのだろう……。
すると……。
「……私のこと、お姉ちゃんだと思ってくれてもいいのよ。辛いときは、そばにいるから」
その空気を包む様に優しい言葉が聞こえた。
声の主はルミナ、彼女がルキの寂しさを和らげてくれた。
(……ルミナさん、ありがとう)
自分の代わりに弟を慰めてくれたルミナに、ラキは心の中でつぶやいた。
俺は何か言葉をかけようとしたが、こんなとこで何かが聞こえてきたら、この楽しい食卓が台無しだ……。
悲しい事だが、俺もラキも今はこいつらのそばにいることしかできない。
だからこそ俺は、できることだけを全力でやろう。
——三人は食事を終え、寝静まる。
その一方で俺たちは、相変わらず三人とは離れた場所で、二人黙していた。
……すると、ラキが俺に言った。
『神様、私が神様の為にできることはありませんか?』
俺は、急な彼女の要望を黙って聞いた。
『私、これからもずっと神様についていきたいんです! こんな私なんかでも、何かできることがあると思うんです! だから……』
弟を残し、命を落としてしまったラキ。
その無念を察した俺は、彼女に対し答える。
(当然だ、お互い死んでるようなもんだしな。気楽に行こう……それに)
この世界で孤独だった俺は、笑顔が眩しいこの娘と……ずっと一緒にいたいと思っていた。
『それに?』
(なんでもない。行くぞ)
そんな恥ずかしい言葉を、俺はそっと胸にしまったつもりだったが。
『ふふっ……ちゃんと言ってくれないんですか?……笑顔が眩しいこの娘と〜ってやつ!』
(漏れてたんかい!)
ラキにはだだ漏れだった——。
一つ、また一つ、俺たちにできることを整理する俺とラキ。
二人は、マルクたちと共にアリヴェルを復興することを強く心に誓っていた。
ご愛読ありがとうございます。
ヒロインであるラキがこれからどんどん暴走して、神様サイドを明るくしてくれるので、ぜひ彼女を見守っていただければと思います。
今後はいつも通り週一投稿に戻していきたいと思います。
何かあればまた、増量ウィークを提供します!