第4話 笑顔をもう一度
序章の最終回になります。
文字数が増えましたが、最後まで読んでいただけたら少しびっくり展開もあると思いますのでぜひ!
笑顔をもう一度、どうぞ。
俺の名は、白銀鏡。
生前での職業は小説家で、今は自作ファンタジー小説の神様的ポジションに転生し、天の声として活動をしている。
現在俺は、叶えられなかったこの物語の“続編”の世界を作るために、ここにいるマルクたちとアリヴェル復興を目指しているのだが……。
——マルクたちがいた森は今、焼け野原状態になり、以前の自然あふれる景色の面影はなかった。
そう……ひょんなことからルキがルミナに暴言を吐き、怒り狂ったルミナが付近を焼け野原にしてしまったのだ。
そして、ルミナは回復魔法でマルクを治療していた。
「ごめんね、マルク……」
「ああ……気にしてないよ」
……相変わらずマルクは心が広いな。
一方、既に治療を終えたルキはというと……。
「あんなに怒ることねえだろ……ったく」
隅の方で腰掛け、文句を垂れていた。
(今回のは、お前が悪いぞ……ルキ)
「なっ!? またてめえかよ!」
思わず漏れてしまった言葉だったが、この際言わせてもらおう。
(年頃の女の子に対しあんな発言をしたら怒るに決まってる。お前はもう少し女心を知れ。ラキが聞いたら叱られるぞ)
「……わかってるよ!」
(神様として教えてやるが、アリヴェル復興の為に今後お前は、とある女の子と結婚しないといけない使命があるんだ。だからこれはお前にとっても必要なことだ)
「はぁっ!? け、結婚って……余計なお世話だよ!」
ルキは赤面しその場を離れていった。
……確かに、余計だったかな?
語り出すと止まらなくなる傾向があるな、俺の声は。
しかし、マルクにはルキに剣を教えてもらわないといけないのに肝心のマルクが負傷してしまった。
これではルキもマルクに剣を教わることができない。
……さて、どうしたものか。
マルクに語りかけようとしても今はルミナがつきっきりだし、俺の声が聞こえた途端ルミナはまた怖がってしまう。
下手したらまた辺りが爆炎に包み込まれかねない。
ここはもう手詰まりだ……どうしようもない。
一旦ラキの元に帰り、神様の話し相手にでもなってもらうか……。
——俺は一瞬のうちに、ラキの元に飛んでいった。
すると、なんと——。
バイーン!
ラキが、その……着替えていた。
(おおっ!)
——しまった!?
思わず声を出した俺に、胸を隠すラキ。
「誰ですか!?」
(いやいや、俺だよ俺、“神様”だ)
不意を突かれると思わず発しちゃうな……。
「あなたでしたか……」
ラキは早々に着替えを済ませ、赤面し言葉をつなげる。
「あの……見てらしたんですか?」
(……ごめんなさい、見てました)
「もうっ! 神様はスケベなんですね!」
……なぜこの子はまんざらでもない様子なんだ。
ラキってこんなキャラだったのか……。
(そんなことよりルキは見つかったぞ)
キャラの視点に瞬間移動できる俺にとっては、人探しなどお茶の子さいさいだった。
「本当ですか!? 一体どこに?」
(無事マルクの元に、剣を教わりに行ってる。まあ実際のところ一度黒焦げにされて無事とは言えないかもしれないが……)
「黒焦げですって!?」
(色々不都合があってな……まあ大袈裟に言っただけだから気にするな)
「……本当かしら? まあ無事ならいいのだけど」
弟を心配するラキだったが、それを拭うように俺は言葉を重ねた。
(ルキはきっと強くなるよ。……ラキの事が大好きだからな)
「もうっ! お世辞がお上手ですね」
少し照れながら、横を向くラキ。
(本当だぞ、神様の俺が言うんだからな)
ラキが姿の見えない俺と談笑しているのも束の間……。
遠くから誰かの悲鳴が聞こえた——。
ぎゃあああああっーー!
「なにっ!?」
(……!?)
ラキは慌てて外に出た。
俺もすぐに外を覗き……全てを把握した。
——なんてことだ。
なぜ俺はこんな大事なことを忘れていた?
火の放たれた村の家々、奪われる金品、はびこる盗賊たち。
この日は……ラキを含む村の人たちが……。
——皆殺しにされる日だった。
(逃げろ! ラキ!)
状況を知った俺はすぐにラキに言うが。
「でも、ルキたちが……」
ルキを心配し、なかなか動こうとしない。
そこで一人の盗賊がラキに近づいた……。
「へへっ……いい女だな」
盗賊はラキを壁に追い込み、顔の横に手を置く。
「ひっ!」
こいつ! 俺のラキに壁ドンなんかやりやがって!
しかしやばいな、ラキを助けないと!
でも俺にできることなんて……これしかない!
(おいコラ! 盗賊のくせに、我が物顔で人の村に立ち入ってんじゃねえぞ! このクズ! タコ! 脳足りんやろう!)
俺は無い体で盗賊にしがみつき、幼稚な言葉を突きつけた。
「なんだぁ!? この声は……一体どこから?」
盗賊は一瞬だけうろたえ、隙を見せた。
(今だラキ!)
ラキは盗賊を押し除けて逃げようとするが……。
「逃すかよ!」
「いや!」
盗賊はラキの腕を掴み、そのまま羽交締めにする。
(くそっ! はなせ!)
「へっ……どっから喋ってるかわかんねえが、関係ねえ」
「離して!」
必死に抵抗するラキだが、男の力は振り解けない。すると……。
ガブっ——!
「ぎぁああ!」
ラキは男に噛みつき、なんとか振り解いた。
だが……。
「女のくせに……調子に乗りやがって」
男はついに……、——剣を抜いた。
まずいっ!
(ラキ、とりあえず抵抗をやめろ! 大人しくしてたらコイツも命までは奪わない! しばらくしたらきっと助けだって——)
「嫌よ!」
ラキは涙目になりながらも、石つぶてを投げ、抵抗する。
(……どうして)
「私たちは盗賊に、母さんを奪われたのよ!……だからもう、こんな奴らにあげるものなんて何一つないわ!」
親の仇である盗賊を相手に、ラキは全く引けを取らなかった。
そしてついに、落ちてた棒切れで盗賊に殴りかかる!
だが……。
(ラキ!)
ズバッ——!
俺の叫び声も虚しく、盗賊はあっさりとラキを切り捨てた。
「ふんっ……余計な抵抗しやがって」
ラキの捕縛を諦めた盗賊は捨て台詞を吐き、再び村の金品を漁り回る。
俺はただ、……倒れるラキを見つめていた。
原因はわかっている。
——全部俺のせいだ……。
本来ならこのシーンは、村の黒煙に気づいたマルクたちがいち早く駆けつけ、ラキが襲われる前に、ルキが飛び込んできて助けると言う筋書きだった。
……そろそろ来てもいい頃なのだが、マルクたちは現在負傷している為、黒煙に気付くのに遅れている。
それに、本来ならたった二日の剣の稽古とはいえそれを受けていないルキが飛び出して来ても盗賊には敵わなかっただろう。
ラキを助ける為に散々盗賊を煽ったが、それも今裏目に出てしまった。
くそっ! どうしてなんだ?
俺は何のためにここにいるんだ!?
無力な自分を呪う俺だったが、ラキはゆっくりと口を開く。
「……神……様、……そこに……いるの?」
(いる! 俺は近くにいるぞラキ!)
「ルキに……伝えたいこと……あるん……です」
(わかった! すぐに連れてくる!)
「まって!……ゴボッ」
ルキの元に飛ぼうとするが、痛みと戦い吐血しながらもラキは俺に言い放った。
(ラキ?)
「まに……あわないから……神様に……伝言」
(大丈夫だ! この黒煙ならあいつらもこっちに向かって来てるはずだ! きっと間に合う)
ラキが弟に伝えたかった事を、直接ルキに伝えさせてあげたくて俺はどうにかルキを連れて来たかった。
直接伝えられない“後悔”を俺は知っていたから……。
だが、そうこうしているのも束の間。
「お願い……します……神………様」
(ラキ!?……そんな)
——ラキは、……息絶えてしまった。
すると、少し遅れてマルク達が駆けつけた。
「……姉ちゃん? そんな、……姉ちゃん、姉ちゃぁぁぁん!」
全て終わってしまっていた村には、絶望を目の当たりにしたルキの叫びがどこまでも響き渡っていた……。
——それから、翌日。
ルキは黙々と村人の墓を作っている。
燃える村に駆けつけたマルクたちだったが、盗賊を全て片付けた頃には、ラキを含む村人は皆殺しにされてしまっていた。
そして、ラキの墓の前で立ち尽くすルキ。
俺は、……かける言葉が見つからなかった。
ごめんな、ルキ……。
俺のせいなんだ、全部俺が招いた結果だ。
俺のせいでラキは死に、最後の言葉すらルキに伝えることができなかった。
それに……。
ここでラキが死に、村が滅ぶ物語を作ったのは……他でもない、俺だ。
だから俺は、ラキがここで死ぬのはわかっていたし、これは変えようのない物語で、全て無駄な努力になるかもしれないとも心のどこかでわかっていた。
それでも……俺は、ラキを……。
俺を疑わずに、俺の話を笑って聞いてくれた彼女を、俺は……。
——救いたかった。
どうして俺はこんな物語を書いたんだ?
人が死ねば、別れがあれば、それだけで感動してもらえると思ってたのか?
ちっとも面白くなんかない。
感動なんかない。
そんな物語にされた人間の気持ちなんて、考えたこともなかった。
……ひとつ、わかった。
俺は人の気持ちを考えることができなかったんだ。
いつも自分の感情ばかりを優先させていた。
こんな俺が人を感動させる物語を描ける訳がなかったんだ。
ラキのことだってそうだ、最後の最後までラキの気持ちを無下にした。
もう時間がないって、あの時わかっていたのに……最後の願いくらい、ちゃんと聞くべきだった。
伝言でもなんでも彼女の気持ちをルキに伝えるべきだったのに、俺は最後まで自分の選択だけを優先させてしまった。
——でも、全部遅かったんだ。
どうして俺は、誰かを失わないと、何も気づけないんだ。
怖がらせて、傷つけて、命まで落として、それでもまだ……。
“大切な人”を、失ってしまったんだ。
ラキ……もう一度、君に会いたい……。
君は俺を……すぐに受け入れてくれた。
もう一度だけでいい……俺は……君の笑顔を……。
……ラキ。
俺は何度も心の中で、“ラキ”の名前を呼んだ。
すると……。
ポンっ!!!
——突然何かが生まれるような音がした。
『呼びましたか?』
ラキが、出て来た——。
(え?)
『今、私の名前呼びましたよね?神様。』
(呼んだけど……ええ?)
『やっぱり! やっと会えましたね! 神様!』
えええええええぇぇぇぇぇぇぇ!
どうなってんだぁぁぁ!?
死んだはずのラキが、確かに目の前にいる。
なんでラキがここにいるんだ?
あそこの墓の下に確かにラキは埋められていたたずだ。
(ラキ……お前、死んだんじゃなかったのか?)
『はい。確かに死にました。ですが、死後しばらくその辺を飛んでいた感覚があったのですが……神様の呼ぶ声にだけは応えることができて、出てこれちゃいました……へへ』
出てこれちゃいました、じゃねえよ!
俺がどれだけラキのことを心配したと……。
ん?……待てよ。
(ラキ、お前どこから近くにいたんだ?)
『確か神様が……”もう一度君に会いたい。……君は俺を——”のとこから……』
(こらぁぁぁ! いたんなら早く出てこんかい!)
『えへへ……私がいなくなって寂しかったですか?』
俺はニヤニヤしているラキを見て怒った素振りで、
(ふんっ! 神様は忙しいからな。……もう次のことを考えていたところだ)
だけど内心は、……嬉しかった。
ラキは俺と同じく神様ポジションになったのか、それとも成仏できない幽霊のような存在なのか、どういうわけでラキが“復活”に至ったかはわかっていない。
だが俺は、またラキの笑顔に救われた気がする。
——一度は絶望をしたが、俺もアリヴェルの復興を目指す一人として、昨日の様な辛い戦いを背負っていかないといけないと、心で強く思っていた。
(……さて。やることは山積みだな。)
『こうして会えて私、うれしいです! 神様!」
俺はラキの笑顔に背を押され、この世界と共に再び歩き始めた——。
なんとびっくり!
死んでしまったラキが謎の復活をとげ、神様のヒロインとして登場した回となりました。
どうでもいいですが表紙イメージの女の子は実はラキでした笑
今後はヒロインのラキを含めた楽しくもちょっと切ない旅が始まりますので、この先も彼らを追っていただけたら嬉しいです!
第一章は、
“異なる世界と共に”始まります!
5〜13話の構成になっていて、主人公が抱く様々な葛藤を元についに目的を定め、ラキと共にそれを目指していく物語になっております。
続いてのご愛読お待ちしておりますm(_ _)m
白銀鏡でした。
序章 〜笑顔と共に〜 完結