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第2話 天の声

1話からのご愛読誠にありがとうございます。

この後も、3話、4話……と様々な展開を用意していますのでどうかお付き合いください。


天の声です。どうぞ。

 俺の名は白銀鏡しろがねかがみ

 小説家……だったが、ひょんなことで命を落とし、自らが著作したファンタジー小説、ロードオブキングスの世界に転生してしまった。


 ——俺のこの世界の立ち位置はズバリ、

 “天の声”だ。


 意味がわからないという人の為に説明するが、この世界での俺には実体がなく、視覚思考のみが存在していて、眠気や食欲は全くなく24時間意識がなくなることはない。


 そしてその視覚は自由に移動することができ、移動範囲はこの世界のキャラクターの20〜30メートルぐらいまでと決まっていて、その範囲を越え、キャラクターが移動した際には俺の視覚もその移動速度と同じ速度で強制的に移動される。

 また厄介なことに俺の思考は、キャラクターに漏れて聞こえていることもあり、度々混乱を招いている。


 ちなみに今目の前で腰掛けている二人がこの世界のキャラクターだ。

 奥にいる少し鼻毛の出た青年騎士こそがこの世界の主人公、マルクだ。


 彼は“アリヴェル王国”という国出身の超強い騎士という設定だ。 

 “妖魔”という化け物集団を引き連れて攻め込んできた“パルメシア帝国”にアリヴェルを滅ぼされた際、命からがら逃げ延びてヒロインであるルミナに拾われ一緒に旅をしている。

 そして手前にいる超絶美少女魔法使いこそが、ヒロインのルミナだ。


 ルミナは何やら笑顔で、マルクと話している。

 うむ、今日もかわいいなルミナは。


 またアリヴェルには昔から“女神族”という一族が女王として君臨しており、何やらすごい魔法が使えるという一族だ。そしてパルメシア帝国がその女神の力を手に入れようとアリヴェルに侵略するわけだが、かつての女王“アリステラ”は以前から女神の力が狙われることを恐れてその力を継承させるはずの娘、“アリシア”の正体を隠していた。

 だが、結局アリヴェルは帝国に滅ぼされ、アリステラは捕まりアリシアは行方不明になってしまった。


 大陸にはびこる帝国軍団、人々は皆女神の一族アリシアの復活を望んでいた。


(——まあ、ここにいるルミナこそが

 その“アリシア”なんだがな)


「ぶはっ……!」

 ルミナが突然飲んでいた水を吐き出した。


「ルミナ!? 大丈夫かい?」


「ゲホッ……大丈夫(今のは……一体?)」


 やべっ。これルミナが内緒にしてるやつだったな。

 しかし、相変わらず“天の声”がうまくコントロールできないな。


「アリシア姫……一体どこに」

 しばらくし、マルクが俯きつぶやく。


 どうやらマルクの方は全然気づいていないみたいだな。

 ふぅ……マルクを鈍感な設定にしておいて良かった。


 ——二人は休憩を終えて山道を歩き出した。

 すると……。


「——やめろ! 姉ちゃんに触んな!」


 おっ……ここは確か、お待ちかね新キャラ登場シーンだな。


 マルクたちが駆けつけると数人の盗賊が若い姉弟に囲みを作っていた。

 弟と思われる子供が震えた手に棒切れを持って姉らしき女性を守っている。


 そう。この少年こそ、この物語の重要キャラクター“ルキ”だ。

 ちなみに後ろにいる姉の名は“ラキ”、そして……。


 ビュン——!


 瞬時に、俺の視点はラキの目の前までズームインした。


(ふむふむ、美人設定にしていただけあってなかなかいい女だな……)


「姉ちゃんから離れろ!」

 ルキが棒切れを振り回す。


 あぶねっ!

 ……また聞こえてたのか?


 実体がないから棒切れなんか当たらないが、急に振り回されるとびっくりするじゃないか!


 ——こうしてる間にマルクたちはあっさりと盗賊たちを片付けていた。


「助かりました……! 本当に、ありがとうございます!」


 姉のラキは二人に、お礼を言う。


 ここは盗賊から守ってくれたマルクたちを村に招き入れるシーン、物語としては当然の流れだな。


「へへっ!どんなもんだい」

 ルキは倒れる盗賊を見て優越感に浸る。


「こらルキ! あなたも挨拶しなさい!」


(……?)

 マルクたちはラキに連れられ村に向かうのだった。

 何かおかしいな……。



 ——森の外れに隠れるように存在する村。

 ラキは皆を村の古びた家に招き入れた。


 マルクたちは自分たちがアリヴェル王国の復興に向けて旅をしている旨を話した。


「——最近は本当に盗賊が増えていて困っていたんです」

 ラキが続けて話すが、ルキの姿がどこにもないな。あ……。



「はっ!……はっ!」

 窓の外を見るとルキが外で素振りをしていた。


「お疲れでしょうから、ゆっくりしていってくださいね。」

 誰も気にせず家の中での会話は続いていく。


「ありがとう……ラキさん」

 そう言ってルミナとマルクは、ラキ宅にてゆっくりしていた。


 ——やはりおかしいぞ。

 ここはルキがマルクに弟子入りするシーンのはずなんだが肝心のルキは外で素振りをしている。


(……!?)


 俺はさっきの盗賊との対峙を思い出した。

 あの時ルキは俺の声に反応しマルクの戦いを見ていなかった。

 そればかりか自分の力で盗賊をねじ伏せたと勘違いまでしていた。

 これではマルクの強さに憧れ、弟子入りするまでの流れにならないのは当然だ。

 俺のせいで小さなズレが発生してしまったようだが、このまま本来のストーリー通りに進まなかったらどうなるのだろうか?


 待てよ……ぶっちゃけていうとルキはアリヴェル復興の為には必要不可欠の人物だ。

 このままマルクに弟子入りせずにストーリーが進んだらアリヴェルの復興はなくなるかもしれない。


 それはつまり……。


 俺はかつて抱いていた夢を、思い出していた。


 ——それは“第二シリーズ”のストーリーだった……


 俺は生前、小説家としての作品、“ロードオブキングス”が売れた暁には念願の第二シリーズを作り上げるという夢を抱いていた。


 ……実際には小説は全く売れず、その物語は夢に終わったが……。

 俺はこの世界にい続ければ第二シリーズの物語をこの目で観れると密かに希望を持っていた。


 自分の小説をアニメ化させたいというのは多くの小説家の夢だからな……。


 俺はやっと自分の役割を理解した。

 “天の声”となってこの世界をコントロールし、アリヴェルの復興を手助けする。

 これこそが俺の望んだことであり、俺のやるべきことだったのだ。


 というわけで早速ルキを説得だ。

 俺は素振りをしているルキに近づいた。



 ——おいルキ。


「はっ!……はっ!」

 聞こえていないのか?

 天の声も本格的に練習しないとな。


 聞いてくれ! ルキ!


「はっ!……はっ!」

 そこの男前の少年!


「はっ!……はっ!」

 おっ!? あんなところにいい女が!


「はっ!……はっ!」


(耳ぶっ壊れてんのか、このガキ……)


 ——すると突然、声が響いたようにルキの耳に届いた。


「誰がガキだコラぁ!!」


 うおっ!?


「ルキ! 何を怒鳴っているの?」

 部屋の中から、ラキたちが外に駆けつけた。


 なんでこんな言葉に限って聞こえるかな……。

 でも少しずつコツが掴めてきた気がするぞ。


「今、変な声が……」


「何を言ってるのよこの子は……」


「でも、確かに……」


「……」


 ラキは呆れるが、ルミナは何か不思議に思っている。

 しかし、子供のルキじゃ話にならなさそうだしやはりルミナにどうにかしてもらおうかな……。

 だが、今日はみんな疲れているだろうからまた明日試してみよう。


 皆が寝静まり、俺は意識を保ったまま明日を待つことにした。



 ——次の日。

 やっとみんな起きたか。

 しかし相変わらずマルクの寝相は悪すぎるな。


 そして今日は確かマルクたちが山菜取りの手伝いをする日だったはず。その時を見計らってルミナに相談しよう。



 ——そして山中にて……。

 休憩中、マルクは少し席を外し一人で過ごす美少女魔法使い。

 おっ……ルミナが一人になったぞ、チャンスだ。


 俺はルミナに近づいた。

(あ…あ…ルミナ)


 意識を集中させると、今までより明確に声が届いた感覚があった。


「……誰!?」


(やった、今度は聞こえてる)


「誰?……どこから話しているの?」

 ルミナは少しパニクっていた。


「まさか……お母様!?」



 違う。



 確かに女神族のアリステラだったらこういう神様っぽいことできそうだし勘違いしちゃうよな。


(俺はアリステラじゃない、話は長くなるが簡単にいうと神様みたいなやつかな)


「か、神様?」

 ルミナはあまり信じてないようだ。


(ああ、ルミナとマルクが出会った時から俺はこの世界に来ててそれからずっと近くで二人を見ていた)


「ずっとって……まさか」

 ルミナの顔がどんどん赤くなっていく。


「あなた……私が着替える時とか、寝てる時とかも私の近くに……?」


(あ……いや、その……見守っていた、というか……ほら、神様っぽい監視というか)


 ルミナは頭を抱えながら真っ赤になり急に走り出した。


「いやあああー!」


 うわっ!


 ルミナが駆け出すと同時に俺の視点が引っ張られる。

 そしてルミナはマルクに泣きついていた。


 ……しまった、怖がらせてしまった。


 こんな急なストーカー発言は、生娘であるルミナには刺激が強すぎたか。

「マルクぅ……私、ずっと誰かに見られてたの……! 寝てる時も着替えの時も……!」


「一体何があった? ルミナ」


 こうなってしまったらルミナには頼めない。

 となると……やはり頼みの綱はこの男だけか……。




 ——その日の夜、ルミナは布団にくるまってガタガタ震えていた。


 ……なんだか悪いことしたなぁ。


 そして、マルクは一人、星空の下で考え事をしていた。


 ……チャンスだ。


 ——マルクに近づき、俺は思いを念じる。


(マルク……マルク、聞こえるか?)


「……! 誰だ?」


 マルクは剣を手に取る。


(待て待て待て、俺は敵じゃない。剣を置いてくれ)


「……では何者だ?」


(俺は、この世界を作った張本人で、いわゆる“神様”ってやつだ)


「……」


(ひょんなことからお前たちを監視している立場になってしまって、その事をルミナに話した結果、怖がらせてしまった……)


「ふっ……そういう事だったのか」

 マルクは微笑みながら剣を置いた。


(……信じてくれるのか?)


「あの時、盗賊に攫われたルミナの居場所を“天の声”が教えてくれた……」


 ああ、そんなこともあったな。あの時はたまたま声が漏れてただけだがな。


「君が助けてくれたんだろう?……だから、信じるよ」


 ……信じやすい性格なんだな。

 だけど、ありがとうマルク。


(それより本題なんだが、俺はこの世界の行く末を知っていて、このままではアリヴェルは復興できないかもしれないんだ)


「何?どういうことだ?」


(話は長くなるが、ルキだ。彼は今後アリヴェル復興の為に必要な存在だ。その為にはマルク。お前はルキを弟子にし、連れていく必要があるんだ)


「……僕が、あの子に剣を教え戦わせるのか?」


(そういうことになるな。だがルキは剣の才能もあるし今後かなりの戦力になるのは間違いない)


 マルクはしばらく考え、口を開いた。


「悪いけど……それはできない」


 ……!?


(なぜだ?アリヴェル復興がかかっているんだぞ?)

 アリヴェルの復興はマルクだって望んでいるはずだ。


「まだ子供であるルキを姉から奪い、戦いの渦に巻き込むことなんて僕にはできないさ……」


(……)


「助けてくれるのは感謝するけど。僕は僕のやり方でアリヴェルを復興させる……」


 そう言ってマルクは部屋に戻って行った。


 ……やれやれ、困ったぞ。

 まともに話を聞いてくれるマルクだったが、このままでは説得できそうもない。


 ——そうだよな。マルクはいつだって、誰かの幸せを守るために剣を取ってきた男だった。

 自分の利益のために子供を戦場に引き込むような奴じゃない。俺が一番知ってたはずだ……。

 今回は俺の采配ミスだったな。


 マルクの人柄に感心しながらも俺は、この世界の“神様”としてアリヴェル復興の為、試行錯誤に燃えるのだった。

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― 新着の感想 ―
読ませて頂いています! 台詞の掛け合いがテンポよく、スイスイと読みやすいなぁと感心しながら読書中です! タイトルのキャッチーさも思わず読み出せる気軽さにマッチしてて良いなぁと思いました。 今後も陰なが…
2025/08/03 20:04 退会済み
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