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天声だだ漏れ転生〜女神の温もりと共に〜  作者: 白銀鏡
【第三部】 第三章 風と共に
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第42話 風の戦士達

二手に分かれてしまった戦士。

しかし、待っていたのは更なる危機。

そんな時、立ち上がってくれたものがいました。


風の戦士達


どうぞ。

 ここからが、本当の踏ん張りどころだった。


 ルミナが姿を消してからというもの、執拗に増えていく敵の攻撃。


 三人で戦っていた時は順調だった戦況も、二人となってしまったら——。


「……くっ!」


 息をつく暇もなく、思うように敵の隙を突けなくなったジーンは距離を取る。


「多少の無理は……仕方ありませんね」


 たとえ、傷を負ってでも——。


 重くなり始めた体を奮い立たせ、彼女は再び剣を構え直すと、静かに息を吐く。


 そして。


「ニーテさん——狙いを一匹ずつに絞りましょう!」


 敵から目を離さぬまま、背後の仲間へ声を送った。

 

 だが——。


「はぁ……はぁ……」


 返事は返ってこなかった。


「ニーテさん……?」


 振り返るとそこには、膝をつくニーテの姿。


 さらにその頭上には、すでに巨大な爪が振り下ろされようとしていた。


「危ない!」


 すぐに飛び込むジーン。


「ぐっ‼︎」


「あっ……!」


 避ける暇もなく、肩を丸めてその一撃を受け止めた。


「ぐぐっ……!」


 耐えがたい苦痛が走っていく。


 その華奢な体が、今にも妖魔の爪に包み込まれようとしていた。


 しかし——。


「女だと思って、舐めるなぁ‼︎」


 彼女は叫んだ。


 魂の奥底から湧き上がる想いは、やがて力となり、妖魔の剛腕を押し返す。

 

「私は——負けない!」


 大腕に叩きつけられる斬撃。


 そして、爪が緩んだその一瞬——ジーンは仲間の肩を抱え、その場を飛び退いた。


「——すみません」


 朦朧とする意識の中、ニーテは再びしゃがみ込む。


 その視線の先には、切られていた妖魔の腕が、すでに再生を始めていた。


「私、もう——」


 恐るべき生命力を前に、立ち上がる力さえ失ってしまう。


 それでもジーンは、剣を強く握っていた。


「平気ですか……ニーテさん」


 雄々しい背中越しに、言葉がかけられる。


 しかし——。


「……」


 その問いは、そっと風にさらわれていった。


「うぅ……お婆様」


 ふと祖母の名を溢すニーテ。


 こんな結末を迎えるなんて、思ってもみなかった。


 初の討伐クエスト。

 その参加を提案された時は、自分の成長を認めてもらえたようで、何よりも嬉しかった。


 ——ここから、すべてが始まる。


 そんな想いを胸に臨んだはずなのに——現実は甘くなかった。


「ごめんなさい……」


 悔しくて、情けなくて、とうとう涙が溢れそうになった——その時。


「法王の血筋を持つ魔法使いも、蓋を開ければただの出来損ない——」


 鋭く刺さる言葉が、ジーンの口から並べられた。

 

「……くっ!」


 普段なら逆上して言い返すニーテだったが、すぐに言い返すことができなかった。


 さらに、間髪入れずに言葉が続く。


「そんな後ろ指をさされても、あなたは平気でいられますか?」


 その表情は、普段の優しいものではなかった。


 しかし——。


「法王を志す思いは——動きませんか?」


 その言葉は、心の奥底に残る確かな想いを、大きく揺さぶった。


 そして。


「自分の限界を他の者に決められるなど——私なら耐えられませんね」


 ジーンは最後に言い残す。


 ニーテはいつまでも、戦場へ飛び込む果敢な背中を見つめていた。


 ——上位騎士への就任を果たしたジーン。


 女剣士に対する世間の強い風当たりがありながらも、彼女はその大任を担っていた。


 歩んできた道のりは、決して順風満帆ではなかったはずだ。


 しかし、ニーテは思った。


 傷つきながらも前へ進む、そのひたむきさ。

 それこそが、不可能を可能にする唯一の力なのだと。


「ジーン……さん」


 ——やがて彼女は、大きく深呼吸をした。


「……ありがとう、ございます」


 そして、遠ざかる背中を追うように手を伸ばす。


 自分だって、人一倍努力してきた。

 悔しい思いも、数えきれないほど味わった。


 それでも、何者かになれると——自分を信じてきた。


「熱くなるのは、得意じゃないけど……!」


 高ぶる感情がマナへと変わっていく。

 心の力が具現化を果たす。


「私だって——」


 ニーテは歯を食いしばり、溢れる想いを込め、腕を突き出した。


「まだ、燃えられる!」


 凝縮された熱が弾け、手のひらから火球が放たれる。


 鋭い輝きを放つそれは、遠ざかるジーンの横をすり抜け、妖魔へと突き進んでいった。


「グッ‼︎」


「……っ⁉︎」


 さらに、突然の炎が生んだ隙へ——女剣士は踏み込んだ。


「はぁぁぁ!」


 突き出された鋭い剣が敵の心臓を貫く。


「グオォォォ‼︎」


 そして、断末魔を上げた妖魔はその場に倒れ伏した。


「お見事——」


 しかし——笑みを見せたのも束の間。


「ぐぁっ‼︎」


 死角から襲いかかった剛腕により、ジーンの体は地面へと叩きつけられた。


「ジーンさん!」


 駆け出すニーテ。


「こいつら、次から次へと……!」


 再び手のひらへマナを込める。

 だが、その弱々しい光は、一向に集まらない。


 その間にも、妖魔は倒れたジーンへ覆いかぶさろうとしていた。


「お願い……早く!」


 ニーテの手に、ようやく小さな光が灯るが、間に合わない。


 鋭い牙が戦士の体へ突き立てられようとした——その瞬間。


「グッ⁉︎」


 風を纏った石つぶてが、妖魔のこめかみへ叩きつけられた。

 衝撃に頭が揺れ、その鋭い牙はジーンのすぐ脇へ突き刺さる。


「……っ!」


 間一髪で獲物を逃した妖魔。

 怒りに唸りながら顔を上げると、そこには——。


「やいこら! こっちを向け妖魔ぁ!」


 岩場に立ち、声を張り上げるデインの姿。 

 敵の気を引こうと次々と岩壁の足場へ飛び移っていく。


 身の危険を顧みないその行動に、すぐに大人たちの叫びが響き渡った。


「お前まで何をやっている!」

「さっさと戻れデイン!」


 制止の声が、次々と浴びせられるが——。


「いやだ!」


 彼は退かなかった。


「ジーンさんも、ニーテさんも命を賭けて戦ってるんだよ? どうして僕たちが、戦わないのさ!」


 ガタガタと体を震わせながらも、その足を必死に動かしている。


「何と言われても、僕は戦うよ!」


 小さな体に宿る、揺るがぬ意志。


「妖魔だって、無風の牢だって怖くないんだ!」


「……」


 一人の少年が見せた大きな勇気に、大人たちは誰も言い返すことができなかった。


「デインさん……! 助かりましたよ」


「よかった!」


 剣を支えに、ジーンが立ち上がる。


「ようし……もう一発ぐらいなら!」


 再び石を手に取るデイン。


 その小さな手は、まだ震えている。

 それでも少年は、戦士たちと同じ敵を見据えていた。


 ——言葉もなく、その姿を見つめていた風の民たち。


 かつて蔑み、恐れ、見ようともしなかった外の人間たちが、傷を負いながら自分たちの里を守っている。


 さらに、幼いデインでさえも、その恐怖に抗い、石を手に取った。


 悪魔と呼べる人間など、ここには誰一人いなかった。


 それなのに、自分たちは——。


「……」


 一人、また一人と、拳を固く握りしめる。


 風の民たちは思い出していた。

 戦うことの、本当の意味を。

 勇気を出すことの、素晴らしさを。


 重い沈黙が続く中——。


「族長……お許しください」


 一人の男が呟いた。


「……ん」


 そして、その一言を受け止め、カームが静かに頷いた。


 次の瞬間——。


「「「おぉぉぉ‼︎」」」


 里中の風(・)が、一斉に舞い上がった。


「行くぞぉ!」

「俺たちも、風の里を守るんだぁ!」


 幾つもの影が、空へと躍り出る。


 それは、長く戦いを捨てていた——風の戦士たち。

 その手には再び、風の力が握られていた。


「皆さん……一体何を?」


 顔を上げるジーン。


 そこには、足場から足場へ、重さなどないかのように舞う戦士の姿。


 まさしくそれは——風そのものだった。


「ギルバディアの戦士よ——我々も、全力で援護させていただく!」


 四方八方へと散っていく緑色の瞳。

 その姿を見届けながらも、ジーンは再び敵へ向き直った。


 そして。


「まずは、あいつからだ!」

「悪魔どもめ、くらえ!」


 合図とともに、凝縮された空気が一斉に放たれる。


「ググッ……!」


 彼らの手刀から放たれたのは、攻撃へと転じた風の力。

 真空の刃が、妖魔の喉元へ容赦なく降り注いだ。


「これが……みんなの本当の力!」


 初めて戦う大人の背中を目にした、デインは心を高ぶらせる。


 だが——。


「グウゥ……」


「駄目か!」

「やはり、我々の力では……」


 妖魔の屈強な肉体には、傷一つついていなかった。


 それもそのはず、長く戦闘から離れていた彼らの刃は、敵の肉を切り裂くには至らない。


 それでも、戦士たちは退かなかった。


「諦めるな!」

「おう! 我々にできるのはこれしかない!」


 攻撃の手を止めない風の民。

 妖魔はただ鬱陶しそうに顔を振り、宙を舞う姿を目で追うばかりだった。


 すると——その懐へ、一人の戦士が潜り込んだ。


「ここからは、私の仕事!」


 一瞬の隙を逃さなかったジーン。


 急所を捉える剣閃に、妖魔の巨体がついに崩れ落ちた。


「やった……!」

「さすがは、ギルバディアの戦士だ!」


「皆さん——」


 空に舞う声援。

 剣を握る手が、徐々に力を取り戻していく。


 思わぬ味方の参戦に、彼女はようやく勝機を見出していた。


「風の力——感謝いたしますよ」


 風へと微笑みを向けるジーン。


 里を守ろうとする者たちの想いが、種族の壁を越え、今繋がろうとしていた。

目の色なんて関係ありません。

心が通じ合えば皆兄弟なのです。


お次は火曜日!

戦いはもう少しだけ続きます。

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