第四十五話
その日の夜。夕食を済ませた徹也と治伽と舞は、ヘンリーがいる財務大臣室に来ていた。ヘンリーに呼び出された為だ。
徹也が財務大臣室の扉の前に立ち、コンコンっ、とノックした。すると、扉の奥からヘンリーの声が聞こえてきた。
「……誰だ」
「……才無佐徹也です。クリスさんから、呼ばれていると言われたのですが……」
「……入れ」
徹也がそう告げると、ヘンリーから返事が返ってきた。その返事を合図に、徹也達は財務大臣室の扉を開いて中へと入る。
「失礼します」
「ああ。よく来てくれた。少し、話したいことがあってな」
「その前に、助けていただいて本当にありがとうございました。おかげで、今生き抜けています」
「「ありがとうございました」」
ヘンリーが話題を出す前に、徹也達が礼を言って頭を下げた。徹也達からしたら、これが目的である。
徹也達の礼を聞いたヘンリーは、ふっと小さく笑みを浮かべて、徹也達にこう語りかけた。
「礼は必要ない。それに見合っただけの働きをしてくれるのだろう?」
「……はい。自分に、できることなら」
「……それは心強い」
徹也の答えに、ヘンリーはニヤリとしてそう答えた。そしてそのまま、徹也に問いかける。
「では、まず何から手を貸してくれるのか、訪ねようか」
「……そうですね。やはりまずは、財政再建と景気回復に力を入れるべきだと思います」
ヘンリーの問に、徹也は少し悩んでからそう答えた。魔物に帝国のこともあるが、まずは国力を回復させなければ話にならない。徹也そう考えたのである。
ヘンリーもまた、徹也の考えに概ね賛成である。問題は、どのような手段を取るか、だ。
「ああ。異論ない。だが、何をする?」
ヘンリーにそう問われた徹也は、口角を上げてヘンリーに答えを返す。
「まずは、自分にも地方を見せてください。どの程度の状態なのか、見ておきたい」
「それは構わないが……。問題はその後だろう?」
「ええ。それを見てから、対策の順番を決めようと思います」
徹也のその言葉を聞いたヘンリーは、目を見開いて驚いた。徹也の言い方が、もうすでに複数の対策を用意しているように聞こえたからだ。
「……もうすでに、対策を用意してあると?」
「はい。まあ」
当然のようにそう言う徹也に、ヘンリーは感服した。まさか、徹也がもうすでにここまで考えているとは、ヘンリーは思わなかったのだ。
「……そうか。期待しておくよ。では改めて、これから先もよろしく頼む」
ヘンリーはそう言って、徹也に右手を差し出した。徹也は差し出されたヘンリーの手を、躊躇なく掴んで握手をした。
「……はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
徹也がそう言い終えると、徹也とヘンリーはお互いの右手を離した。すると、ヘンリーが徹也達に話しかける。
「……もうすぐ夜も更けてくる。具体的な話は明日にしよう」
「はい。改めて、ありがとうございました」
徹也はヘンリーにそう伝えると、ヘンリーに礼をしてから財務大臣室から出ていった。財務大臣室から出ると、舞が徹也に話しかけてきた。
「……私と治伽ちゃん、ほとんど空気だったね……」
「……仕方ないわ。私達はお礼を言いに来ただけで、ヘンリーさんが求めているのは徹也君の傾向と対策だから」
「いや、そんなことないだろ。お前らの才能の方が、絶対重要視されてる」
いや、そっちのほうが絶対にない、と治伽と舞は思った。ヘンリーも最初は才能を見ていたが、徹也の傾向と対策を目の当たりにして間違いなく役に立つと考えているだろう。
だが、徹也は自分の評価が低かった。所詮傾向と対策は誰でもできるものに過ぎず、自分だけのものではないと思っているからである。
「……徹也君ってさ、本っ当に自分に厳しいよね。それも、地球の頃からさ」
「え?」
「……そうね。それに自分で抱え込んじゃうし」
「い、いや、それは……」
舞の言葉は分からなかったが、治伽の言葉は前に一度言われて反論できなかったものだ。そして今も、何も言えなかった。
「でも、仕方ないよね。それが徹也君だし」
「ふふっ。そうね」
舞が笑みを受けべながらそう言うと、治伽も笑って言葉を返した。徹也は複雑な顔をしつつも、治伽と舞に語りかける。
「……まあ取り敢えず、まだまだこの異世界での生活が続きそうだ。また、協力してほしい」
徹也が治伽と舞にそう頼むと、二人は笑みを浮かべてこう返事をした。
「……ええ。もちろんよ」
「うん!任せて!」
徹也は治伽と舞の返しに対して笑みを浮かべて、二人と共に歩き出した。
徹也達にはこれからも、異世界における様々な脅威が迫ってくるだろう。だが、徹也のやるべきことは変わらない。
傾向と対策を徹底し、この異世界で生き抜くこと。それだけである――。
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ここで第一章追放対策が終了となります。
多くの方に読んでいただき、感謝感激です。
次話から、第二章財政対策が始まります。
第二章に入っても、楽しんで読んでいただければ幸いです。




