第三十九話
時は遡り、魔物狩りから返ってきた日の夜。徹也は刀夜と共に、ヘンリーとクリスがいる財務大臣室に来ていた。これからのことを話し合う為である。
「……取り敢えず、無事に戻ってくれて安心した。だが、まだ終わっていないというのだね?」
「はい。その通りです」
ヘンリーの問に、徹也がそう答える。しかし、徹也のその答えに刀夜とクリスはついてこれていなかった。慌てた刀夜は、徹也に問いかけた。
「ちょ、ちょっと待って才無佐君!まだって、どういうことなの!?乗り切ったんじゃ……」
「いえ、まだです。恐らく次は、半ば強引にでも俺を殺しに来ると思います」
徹也のこの答えには、ある一つの傾向に基づいてのことだった。それは、思惑が外れた時、なんとかしなければと半ば強引に成そうとすることである。
これもまた、ラノベや漫画でありがちな展開の一つだ。もちろん、主人公は奇襲されてもそれを返り討ちするのだが、徹也にはそれができない。……一人では。
「そ、そんなことって……」
「……そうですか。では、また対策をして臨むのですか?」
徹也の答えを聞いた刀夜は、平常心を取り戻すことができなかった。一方、ここまで聞いて理解したクリスは、徹也に疑問を投げけかる。魔物狩りの時は対策が活きたので、今回も対策を講じるのだろうかと思ったからである。
「……はい。そのつもりです。……また、協力してもらうことになりそうですけど……」
「……任せてください。私にできることなら」
「……ありがとうございます。ですが、これが終わればヘンリーさんの力になれるかと」
「……それは、どういうことかな?」
徹也の言葉に、ヘンリーが反応を示す。それに対し、徹也が説明を始めた。
「襲ってきたところを事件にしてしまえば、俺は被害者になることができます。それを利用すれば、騎士団から離れて財務省に全面的に協力できる」
「なるほど……。そして、財政難の回復に協力すると。いい考えだ。我々としても、できるだけ早く協力してもらいたかったしな」
ヘンリーの言葉に、徹也はコクリと頷いて肯定の意を示した。そして、徹也はその後刀夜の方に向く。
「……すいません。また、先生に頼ってしまって……」
徹也は本当に申し訳なさそうに刀夜に謝罪した。徹也としては、刀夜に頼り過ぎだという思いがあった。
「もう……。いいと言ってるでしょう……。そんなに言うなら、いつか私が困ったら、助けて頂戴。才無佐君は、才無佐君にできることで私を助けてくれたらいいわ」
「っ……!先生……!ありがとうございます……!」
刀夜の言葉を聞いた徹也は、感動し目を潤ませながら頭を下げて礼を言った。泣きはしなかったが、それほど徹也は刀夜に感謝しているのである。
(本当に、先生には助けられっぱなしだ……。先生の言ったように、俺は俺にできることで、先生の力になろう。それしか、俺にできることはないから)
徹也は頭を下げながら、心の中でそう決意した。助けられっぱなしにならないように、必ず自分にできることで刀夜の力になってみせると。
「ちょ、ちょっと!頭を上げて才無佐!」
「……それで?具体的には、どのような対策をする?ヴァン・ルーカスは、その場で殺すのか?」
刀夜の言葉によって顔を上げた徹也に、ヘンリーからそのような質問が投げかけられた。徹也はそのヘンリーの質問に対し、首を振って否定の意を示す。
「……いえ、殺しません。ヴァン・ルーカスは、まだ使えます。この先、ルーカス派を黙らせるには、必要なピースですから」
「「「っ!?」」」
徹也の言葉に、この場にいる全員が驚いた。だが、その驚いた理由は人によって違う。ヘンリーとクリスはヴァンを更に利用するという徹也の考えに驚いていたが、刀夜はヴァンをピースと表現したことに驚いていた。
刀夜は、徹也が狙われているとはいえ人をピース扱いするとは思わなかったのだ。徹也にとって、ヴァンは対策に使えるピースに過ぎない。そんな人を人と思わないような徹也の発言に、刀夜は驚いたのである。
事実、徹也はヴァンの生死などどうでも良かった。ただ、生かしておけば自分達の役に立つと考えてのことである。徹也にとって、関係のない人間は基本どうでもいいのだ。
「……では、捕らえるということか?」
「はい。殺さずに捕らえて、ヴァン団長の身柄をヘンリーさん、もしくはクリスさんの管轄で預かれば完璧です。後々、こちらの都合で利用できますから」
「……よし、その方向で対策を進めよう。こちらは、なにをすればいい?」
そんなヘンリーの問に、徹也は少し考える仕草を見せる。どういう配役にするのがいいのかを悩んでいるのである。
(ヘンリーさんは正直、最後に出てきてもらうだけでいい。スカーレット派の騎士を動かせるクリスさんに治伽と舞を守ってもらうとして……。そうなると、俺のことはまた先生に頼むことになるけど……)
そう思った徹也は、チラリと刀夜の方を見る。刀夜は、頼ってくれていいと言ってくれたのだ。自分は、自分にできることで恩を返す。そこまで考えた徹也は、覚悟を決めてヘンリー達に説明を始めた。
「ヘンリーさんは、最後少し出てきてもらうだけで大丈夫です。クリスさんはスカーレット派の騎士を連れて、治伽と舞をよろしくおねがいします。……先生。俺を、守ってくれますか?」
「……ええ。もちろんよ。教師は、生徒を守る職業だもの」
「……ありがとうございます。後はいつ、どこで襲ってくるかですが……。ヘンリーさん。俺達が王城から出られるのは、次はいつですか?」
「次か……。確か、一週間後辺りに休みを与える話が出ていたな」
徹也の問に、ヘンリーがそう答えた。その答えに、徹也は息を飲んでからヘンリーに言葉を返す。
「多分、そこを狙ってきます。具体的には、王城の外に出てる時に」
「……君に護衛をつけた方がよさそうか?」
「いえ、大丈夫です。俺が逃げて誘導するので、その先で先生に倒してもらえば……」
「で、でも、逃げ切れるの?」
徹也の説明に対して、刀夜はそのような質問を返した。それに対して徹也は、確信した顔で頷く。
「はい。そこの対策も考えてあります」
「そ、そう……?」
刀夜は心配しながらも、徹也の言葉を聞いて一応納得したようだ。すると、徹也と刀夜のやり取りを聞いていたクリスが、徹也に問う。
「その対策には、協力しなくていいんですか?」
「……はい。そこは大丈夫です。自分でできます。王都の地図さえあれば」
「そ、そうですか……。分かりました……」
徹也の力強い言葉に少し押されつつも、クリスも頷いて理解を示した。少しの静寂の後、ヘンリーが口を開く。
「……では、今日はここまでだな。時間ももう遅い。王都の地図は準備しておく。明日、取りにこい」
「……そうですね。ありがとうございます。失礼します」
徹也はそう言うと、刀夜と共に財務大臣室から出て、自分の部屋に向かって歩き始めた。しばらくすると、刀夜がおもむろに徹也に話しかけた。
「……頑張りましょう」
徹也は刀夜のそんな唐突な言葉に驚きつつも、真剣な顔になって頷いた。
「……はい」
徹也と刀夜はそれ以降話すことなく、各々の自分の部屋に戻っていった。
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本日は、大学入学共通テストの初日ですね!
自分も受験生ですので、このテストを受ける身です。
自分と同じ受験生の皆さん。お互いベストを尽くしましょう!




