第二十九話
次の日、徹也は治伽と舞、そしてクリスを連れて刀夜の部屋に来ていた。クリスと刀夜に、協力を頼む為だ。
「……それで、話とは何かしら?才無佐君」
「私にも、話があると聞いたのですが……。どのような用件ですか?」
刀夜とクリスの質問を聞いた徹也は、治伽と舞の方を向いてコクリと頷いた。すると、治伽と舞も頷いて、徹也と一緒に刀夜とクリスに対して頭を下げた。
「……お願いします。俺達に、力を貸してください。俺達を、助けてください」
「「お願いします」」
徹也達の頼みを聞いた刀夜は、小さい笑みを浮かべた。そして、徹也達に頷きを返す。
「……もちろんよ。私は、あなた達の教師だから」
刀夜は徹也達の頼みを快諾してくれた。徹也からすれば、これは分かっていたことだ。刀夜は自分が教師だからというだけで、生徒達が困っているなら助けてくれる人だ。
だからこそ、徹也はあまり頼りたくはなかったのだ。先生に負担を押し付けているように感じたから。
(……今回先生を頼るからには、いつか必ず先生の力になってみせる。それよりも、問題は……)
徹也がそう思い見たのは、クリスである。クリスが了承してくれるかどうかで、この先がだいぶ変わってくる。そう考えていた徹也にとって、クリスの返答が気になるのは必然だった。
「力を貸すことは構いませんが……。一体、何故私の力が必要なのですか?」
「……それは、俺達が命を狙われているからです」
クリスの問に対して、徹也はそう返した。徹也のその答えに、クリスは驚愕する。まさか、徹也達の命が狙われているとは思いもしなかったのだ。
「い、命を、ですか……!?一体、誰から……」
「……この国、正確にはルーカス派からです」
「っ!?」
徹也が言った言葉に、クリスは更に驚愕した。徹也の口からルーカス派という言葉が出るとは、クリスも思っていなかったのだ。
「な、何故、ルーカス派のことを……?い、いえ、それよりも、ルーカス派が何故才無佐君達を……」
「ルーカス派とスカーレット派のことはシャーロット……シャーロット・フォン・タレン王女から聞きました。ルーカス派が俺達を狙う理由は、俺達が邪魔だからです」
「じゃ、邪魔、ですか?」
「はい。俺は才能がない【無能】ですし、舞は【踊り】でこの国に役立てるとは言えません。治伽は逆に、【女王】という才能ですが、その才能はこの国の王族を脅かすかもしれない、ということです」
徹也の説明に、クリスは絶句した。確かに、そう言われればルーカス派が徹也達を狙う理由は十分だとクリスは思う。
「……分かりました。しかし、私の一存で決めることはできません。スカーレット派全体を味方につけるには、私の兄を味方につける必要があります。私としては、協力したいのですが……」
「分かっています。なので、お兄さんに合わせていただけませんか?」
「それは構わないのですが……。兄は今、大臣として地方に赴いています。ですので、すぐにとはいきません」
「具体的には、いつになりそうですか?」
徹也のその質問に、クリスは少し考える素振りをみせた。兄がこの王都に戻ってくるまでの日数をおおよそで計算しているのだ。
「……恐らくですが、一週間後辺りになるかと」
「……そう、ですか」
一週間。それは早いように感じるかもしれないが、猶予が一ヶ月の徹也達からすれば大きな時間である。
徹也は考える。この一週間を、空白にするわけにはいかない。ならば何をすべきなのかを。
(対策を考えておくのは当たり前だ。後すべきことは、個々のレベルアップぐらいか?)
徹也が思ったのは、自分も含めた魔法などの戦闘技術向上である。不測の事態になった時のことを考えると、力をつけておいて損はない。今の自分に何ができるのか。それを知る必要がある。
そこまで考えた徹也は、クリスの方に向き直って礼を言う。
「……ありがとうございます。クリスさん。まだ出会って数日なのに、協力したいと言ってくれて……」
「……いくらこの国のためとはいえ、私達の勝手で召喚したんです。流石に、見捨てるなんてことはできません。それに、召喚した方々を殺そうなど、許せることではないですから」
クリスの言葉を聞いた徹也に治伽、舞は改めてクリスに頭を下げて礼をした。クリスはそんな徹也達を見ると、慌ててそれを止めるように伝える。
「あ、頭を上げてください!当然のことですから!」
「……それでも、です」
「「「ありがとうございます」」」
徹也達の改めての礼に、クリスは少し顔を赤く染めてそれに応じた。すると、クリスは時計を見て慌て始めた。
「す、すいません!騎士としての仕事があるので、失礼します!兄が帰ってきたら、私から声をかけますから。それでは」
「はい。改めて、ありがとうございました」
徹也がそうクリスに礼を言うと、クリスは照れくさそうに小さく笑ってそれに答えた。そして、クリスは刀夜の部屋から出ていった。
クリスが出ていってから、徹也は治伽と舞、そして刀夜に話しかける。
「……取り敢えず、一週間待ちます。この一週間は、対策に使える武器を増やすための訓練を――」
「ま、待って才無佐君!それより、ルーカス派とスカーレット派って何なの?」
徹也が言い切る前に、刀夜が先程からずっと疑問に思っていたことを徹也に聞いた。そういえば、先生は知らなかったかと思った徹也は、刀夜にそのことを軽く説明する。
「簡単に言うとルーカス派が昔からの貴族で、スカーレット派が最近の貴族です。ルーカス派は俺達のことを疎ましく思っていて、スカーレット派は今のところ無関心ってところですかね。多分ですけど」
「そ、そうなの……」
だから……と刀夜は納得した様子を醸し出す。事実、刀夜は納得していたというより、理解したのだ。徹也がスカーレット派に頼った理由を。
だが、刀夜が納得したと思ったら、今度は治伽と舞が徹也に話しかけてきた。
「それで、徹也君?一週間は、何をするの?」
「そ、そうだよ!私達は、何をすればいいの?」
「……対策を考え続けることももちろんだが、更に手札を増やしたい。だから、新しいことをできるようにする。具体的には、魔法とかでな」
徹也がそう治伽と舞に説明すると、刀夜を含めた全員の表情が引き締まった。そんな様子の中、徹也はそのまま言葉を続ける。
「俺と治伽は、魔法の授業を受けてない。参考までにどんな授業なのか教えてほしい」
「う、うん……。私のところは、まず水魔法を武器に纏わせるところからしてるよ。先生が言うには、それが一番始めにやるべきことなんだって。魔法をそのまま打てるようにするのは、その後みたい」
「なるほど……。ありがとう舞。じゃあ、先生の方は……?」
舞の説明を聞いた徹也は、舞に礼を言うと刀夜にも問いかけた。教え方が教師、または属性によって異なっている可能性があるからだ。
刀夜は徹也の問に対して、頷いて答えを返す。
「私の方も全く一緒よ。魔法をそのまま放つよりも、纏わせる方がイメージが楽みたいなの」
「……分かりました。ありがとうございます」
刀夜にそう返してから、徹也は考えを巡らせる。確かにその教師が言うならそうかもしれないが、教えてくれているのは騎士である。ならば、ルーカス派かスカーレット派か分からない以上、下手に信じることはできない。
(……また、書庫に行くしかないか。魔法を放つことができるようになれば、更に対策の幅も広がるし……)
そこまで考えた徹也は自分の中で結論を出し、それを治伽に舞、刀夜に伝えた。
「魔法を放つことができるなら、できた方がいい。また書庫に行って調べてみようと思います」
「……分かったわ。何か分かれば、私にも伝えて」
「はい。じゃあ、俺達もこの辺りで失礼します」
徹也はそう言って、その場から立ち上がる。それを見た治伽と舞もまた、慌てて徹也に続いて立ち上がった。
「ええ。……頑張りましょう」
「「「っ……!はい……!」」」
刀夜のその言葉に力強く頷いた徹也達は、改めて刀夜に礼をして、刀夜の部屋から出ていった。
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