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手紙を書いて門手鏡に3通とも入れる。今から返事が楽しみだ。
移動中は落ち着かないので、セラが手紙に書いた通り、リリィの師匠のところについてから確認することになるだろう。
門手鏡をしまうと、今度はベラトリクスの見送りだ。その巨体故、人目につかないよう、移動は夜のほうが望ましいからだ。
セラには地面に地図を描いてもらって、リリィに大まかな方向を示してもらう。それをラピスが伝える。
ベラトリクスはじーっと地図を見つめる。
やがて頭の中に入ったのか「きゅう!」と可愛く鳴いた。
「気をつけて行くんだよ!」
「なるべく人に見つからないようにね!」
「また会いに行きますわね!」
ラピス、リリィ、セラの3人は、手を振ってベラトリクスを見送る。
彼女は「きゅうきゅう!」と鳴いて、その巨体に似つかわしくない速度で去っていった。
さて、次は風呂の準備だ。
キャンプとはいえ、風呂に入れないのは我慢ならないのだ。女の子として。
ラピスとセラが協力して、湖の淵に石で囲いを作る。そこの水だけを、リリィが適温に温める。即席の風呂の完成だ。
「露天風呂ってやつだね♪」
「さすがに恥ずかしいわね……」
「……お二人とも、月の下で裸だと神秘的ですわね」
そんなことを話しながら1日分の汚れを落とし、その日は就寝した。
翌日。
3人は同時に目が覚めた。ラピスは習慣だが、リリィとセラは旅行のテンション故だ。
おはようのキスをして着替える。
今日中に、リリィの師匠の許に着けるはずだ。
失礼がないようにと、ラピスとセラは互いに身だしなみのチェックをする。
髪を梳り、服のしわを伸ばす。
「よし、今日も可愛いよ、セラ♡」
「ありがとうですわ。姉さまも可愛いですわ♡」
「ありがとう」
最後にキスをして、お互いの成分を補充する。心なしか、肌ツヤが増した気がした。
その後、少し可愛くなった姉妹をリリィは一人ずつ抱きしめ、可愛いを連呼するという一幕もあったが、本筋には関係ないので詳しくは語らない。
軽く朝ごはんを食べて、かくして飛行機は飛び立ち、一路リリィの師匠──サクラ・コンゴーの許へ向かう。
その道中。
「ふふ。やっぱ旅行はいいわね♪ こうゆう触れ合いはいつもしてるけど、旅行の移動中はずっとラピスを抱いていられるし♡ これぞ旅行の醍醐味よね」
「まったくですわね♡ 普段姉さまは、家事に大きく時間を取られておいでですから。もちろん感謝はしておりますが、たっぷり抱き合いたいとゆうのも本音ですわ」
サンドウィッチの『具』の役を務めるラピス。幸せは幸せなのだが、二人とも、旅行の醍醐味を感じる部分がおかしいと、ツッコみを入れたくて仕方ない。なのでツッコんでみた。すると──
「旅行の楽しみ方は人それぞれよ」
「正直わたくし、旅行先はどこでもいいですわ。姉さまさえいれば」
と返ってくる。ラピスは自分の意見を押し通すことを諦めた。
全員、欲を言えばずっとくっついていたいのだが、同じ体勢を続けるというのもなかなか辛い。
なので今は一時的に離れて好きなことをしている。
ラピスは機内の掃除。家事は趣味でもあるので、やらないと落ち着かないらしい。とはいっても、できたばかりの飛行機なので掃除する箇所など殆どないが。
リリィとセラは一組になってストレッチをしている。ずっと動かないでいると、身体中の筋肉が固まってしまうので、ほぐす必要がある。
双方、かなり柔らかい。
「リリィ義姉さま、柔らかいですわね。デスクワークが多いので、てっきり固いものだと思ってましたわ」
「ふふ。実はこの数ヶ月でここまで柔らかくなったのよ。その以前はセラの言うとおり固かったわ」
「ふぅん。……なにか心境の変化でもありましたの?」
「ええ。身体が柔らかいほうが、ラピスとスキンシップしやすいの」
「ああ、それならわかりますわ」
セラはリリィの背中を押す。120度くらい脚を開いて、上半身が床にぺたんとつく。充分な柔軟性だ。
交代して、今度はリリィがセラの背中を押す。彼女は更に柔らかい。脚を180度開いて、上半身が床につく。
寝起きにストレッチをするのは習慣なもので、と彼女は笑った。
「でも姉さまはもっと柔らかいですわよね。I字バランスとかできますもの」
「I!? Yじゃなくて!?」
「はい。──姉さま。やってみてくれませんか?」
リリィに返事をして、後半はラピスに向けて言う。
ラピスは掃除の手を止めて、「いいよォ」と微笑んだ。
よっ、というかけ声とともに左脚を振り上げて、左手で掴む。そのまま自分の頭を越える位置まで持っていき、そこで静止した。
「どお?」
ドヤ顔のラピス。可愛い。
リリィとセラはそんな彼女をガン見する。瞬きすらせずに、じろじろと。
「えっと……」
なにか違和感を感じる。
見てもらうのは好きだが、視線が一点で固定されているような……。
彼女たちの視線を追いかけてみると、どうやら自分の脚の付け根付近を見ているようで──
「きゃァああああっ!」
悲鳴をあげた。
急いで脚を下ろし、その場に蹲る。顔を真っ赤にして、リリィとセラを睨んだ。
「どこ見てんの!?」
「ぱんつよ」
「ぱんつですわ」
「はっきりゆうな! 馬鹿ァ!」
涙目で叫ぶラピス。
一緒に風呂に入るような仲でも、不意に下着を見られるのは恥ずかしいらしい。
そもそも、スカートでI字バランスすんなよ、する前に気づけよ、という話でもあるのだが。
「ごめんごめん、ラピス。てっきり見てほしいのかと思って」
「目の前にいきなり現れたので、目を逸らすとゆう選択肢がありませんでしたの」
「うううう……」
ラピスは外方を向いて拗ねてしまう。
彼女の機嫌を直すために、頭を撫でたり抱きついたりと、再びスキンシップが始まったのだった。




