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瑠璃と百合と姫と魔女  作者: 山原くいな
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9の月の1日。

暑さも和らいできて、なにかを始めるにはいい時分になった。


東の島国では、この季節のことを様々な呼び名で呼ぶらしい。

曰く、読書の秋、食欲の秋、芸術の秋、スポーツの秋、などだ。


ラピスも秋は好きな季節で、大いに頷けるものでもある。だが彼女には持論もあった。

『秋だから』読書やスポーツ、ではなく、『夏が終わったから』読書やスポーツ、なのであると。


暑いと人間、なにをするにもやる気が出ないものだ。だがそんな暑さも和らぎ、涼しくなってくると、食欲も戻りやる気が復活する。

故に、食欲の秋、スポーツの秋なのだとラピスは考えていた。


…………考えていただけだ。確証はないし、誰かに意見を押しつける気もない。


ともあれ、リリィの適温化の魔法陣のお陰で(所為で?)夏らしさは然して感じなかったが、暦の上では秋になったわけだ。

ラピスは恋人のことを思い浮かべて、数ある秋を連想していく。

そして至った結論が──


「──やっぱ食欲の秋かな♪」


──だった。

リリィに対するイメージが、完全に食いしん坊で固定されていた。

リリィがこれを聞けば遺憾の意を呈して、「ラピスのご飯が美味しすぎるのがいけないの!」とでも言うことだろう。


そんなわけでラピスは、新メニューの開拓に勤しんでいる。ラピスとリリィの味覚はよく似ているので、自分も好きな東の島国料理。中でもまだあまり手をつけていない丼ものに挑戦しようと思っていた。


ラピスとしてはカツ丼も親子丼も大好物なのだが、彼女の女の子な部分が、作るのを控えていたのだ。偏見なのは百も承知だが、どうしてもカツ丼には男らしいイメージがある。


リリィに嫌われたらどうしよう、などとネガティブなことを考えているわけではないが、自分の女子力の高いイメージを保ちたかったラピスだ。けれども秋はなにかを始めるにはいい季節。

これを機会に新しい自分と、新しい料理を知ってもらおうと思ったラピスだった。


そして昼。

思い切ってカツ丼を出してみた。

リリィの反応はというと──


「美味しい! え? めっちゃ美味しい!? なんでもっと早く作ってくれなかったの? ラピスの馬鹿!」


──だった。

美味しい料理を作ったのに馬鹿って言われた。だがそこが可愛いとラピスは思っているので、なにも問題はない。


対してセラはというと──


「ああ、久しぶりですわね、この味♪ これは上品に食べてはダメですわね」


と、丼に口をつけてがっついていた。

言葉遣いと行動が、ここまで乖離している姿も珍しいだろう。


とにもかくにも、カツ丼は大好評だった。

次はリリィの大好きな天ぷらで、天丼を作ってあげようと思うラピスだった。




昼食を終えて、夕食の準備には早い、そんなぽっかりと空いた時間。


掃除を始めようとするラピスをリリィは捕まえて、半ば強引にソファーまで引っ張り膝の上に座らせた。

後ろから抱きしめて、青みがかった銀髪に顔を(うず)める。彼女の匂いで身体中を満たすかのように、スゥーッと息を吸い込んだ。


「……リリィ?」

「ん?」

「えっと、お掃除しようと思ってたんだけど……」

「ダメよ。ラピスは働きすぎなんだから、たまには休まなきゃまた風邪ひくわよ?」


ラピスのお腹を撫でながらリリィは言う。ラピスは「んゥ……」と身悶えした。


「じ、じゃあせめて、わたしもそっち向きたい。リリィの顔見えない」

「えー。この体勢だと、ラピスの身体を好きにできるんだけどなァ」

「ひゃあ! わ、腋はやめてよ! (くすぐ)ったいじゃん!」

「ふふ。悶えるラピス可愛い♡」

「ひぅ! ……ん、今日のリリィ、意地悪だ」

「嫌ならすぐにやめるわよ?」

「…………困ったことに全然嫌じゃない」


恥ずかしそうにしながらも、ラピスは満更でもない。リリィに身体を触られる度、自分はこの人の彼女なんだなァ、と実感するのだ。むしろ色んなところを触ってほしかった。


「ねェラピス」

「なに?」


身体中をまさぐりながら話しかけるリリィに、ラピスは短く返す。


「今月末、結婚式あるでしょ?」

「うん。もうちょっと、ん……シチュエーションを選んでほしい話題だけど」

「で、結婚したらあたしたち、夫婦ってやつになるのかしら?」

「んん! ……そ、そおなんじゃない?」

「でも夫婦って、夫と妻って意味でしょ? もうちょっと相応(ふさわ)しい言葉はないのかしら?」

「きゅう! ちょ! リリィ! 擽ったい!」

「あ、ごめん」


リリィは擽るのをやめて、抱きしめるに留める。ラピスはホッと一息ついて、リリィに(もた)れかかった。


「あんま難しく考えなくてもいいんじゃない? リリィはわたしのお嫁さん。わたしはリリィのお嫁さん」

「まァ、その通りね。……あたし、憧れてる台詞があるの」

「ふぅん。なに?」

「『こちらは妻のラピスです』って言ってみたい」

「おおう。めっちゃ恥ずかしい」

「嬉しくない?」

「超嬉しい♡」


他愛もない会話──しかしかけがえのない時間を過ごすラピスとリリィ。

リリィはラピスを抱いて、ラピスはリリィに寄りかかって、温かさや柔らかさを全身で味わう。


気分を変えようと、二人はポジションを交代した。ラピスはリリィを抱きしめて、リリィはラピスに凭れかかる。

今度はその体勢で四方山(よもやま)話に花を咲かせる。


「でもリリィ。誰にそんな挨拶するの?」

「そりゃああたしの師匠よ。あたし、師匠以外に敬語使わないし」

「あ、そっか。リリィにも師匠がいるんだよね。どんな人なの?」


ラピスの質問に、リリィは少し考えて答える。


「んー……。魔法に関しては、今はあたしのほうが上ね。でもその代わりに、途轍もなく広い知識を持ってるわ。先祖返りの解明をしたのも師匠だし」

「ヘェ、凄い人なんだね」

「ええ、師匠は凄い人よ。知識もそうだけど、彼女を語る上で欠かせないのはその人間性ね」

「人間性?」

「ええ。なんとゆうか……一言で言えば、人と仲よくするのが上手い、ってことになるのかしら? 師匠のことを知ってる人で、彼女を嫌いって人は一人もいないと思うわ」

「………」


心なし、リリィを抱く腕に力がこもった。


「ラピス?」

「…………リリィ、師匠の話するとき嬉しそう」

「ふふ、焼きもち?」

「……うん」

「安心しなさい。何度でもゆうけど、あたしはラピス一筋よ」

「うん。知ってる」

「でもラピスはあたしとセラの二筋」

「や、ちが、それは恋人と妹だから!」

「ふふ。知ってるわ」


リリィは優しく微笑んで、ラピスに体重を預ける。からかわれたことに気づいたラピスは、頬を膨らませた。


「……むゥ。……やっぱ今日のリリィ、意地悪だよね」

「ふふ、ごめんね。ラピスが可愛くてつい。嫌だった?」

「…………困ったことに全然嫌じゃない」


リリィの身体をまさぐりながらラピスは答えた。

身体中を触られて、リリィは身を(よじ)らせる。


「ん……。あ、これ──」

「なんか嬉しいでしょ?」

「ええ♪ ……幸せね♡」

「えへへ♡ リリィ可愛い♡」


瞬間、リリィの首筋が真っ赤になるのが見えた。と同時に動きも止まる。

疑問に思ったラピスは、彼女の顔を覗きこんだ。


「どおしたの? なんか体温も上がってきたけど」

「……………………から」

「え?」


この距離でも聞き取れない程の小声でなにかを呟くリリィに、ラピスは訊き返す。リリィは更に赤くなって、やけくそ気味に叫んだ。


「可愛いって言われたの初めてだから!」


きょとんとするラピス。

数秒後なにかに気づいて、彼女は意地悪な笑みを浮かべた。


「ふふふ。そういえば、綺麗とは何回もゆったけど、可愛いってゆったことはなかったっけ?」

「……ううう」

「可愛いよ♡ リリィ可愛いよリリィ♡」

「あう、あう、あう……」


リリィは首から上を真っ赤に染めて、なされるがままにラピスの頬擦りを受け入れた。

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