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「え?」
ラピスは驚愕に固まる。
リリィの言うことが理解できない。否、理解はできるが、なぜそういう結論に至るのかがわからなかった。
「説明いる?」
リリィに訊かれたので、ブンブンと首を縦に振る。
「えっと、まず前提として、あたしはラピス大好きよ。していいなら、今すぐえっちなことしたいわ」
「はう!」
「もちろんラピスをお嫁さんにするまではそんなことしないわよ。でも、それくらい愛してるわ」
「……あうぅ、あうぅ」
「だからわかるのよ。ラピスとセラは、一緒にいたほうが幸せなんだろうな、って」
赤面してうつむくラピス。そんな彼女を可愛いと思いながら、リリィは続ける。
「だからね。ラピスがセラと結婚したいならしてほしいし、ずっと仲よくしてほしいわ」
「……それって、わたしを優先した考え?」
「違うわよ? ラピスがセラと仲よくしてたら、あたしが嬉しいの。……ってゆうのがこないだ旅行先で、セラと話し合ったこと」
「あ、あれ! ……そおだったんだ」
「ええ。まァ、セラのスイッチが入っちゃったのはびっくりしたけど、あたしよりラピスとの付き合いは長いんだし、あたしより先にするのもまァ普通かなァ、って思って」
「……いや、やっぱりごめんだよ。リリィの気持ちを考えないで、流されそうになってたんだから」
ごめんなさい、と改めてラピスは謝る。リリィは謝罪を受け入れた。
「さ、湿っぽい話はここまでね。あたしは席を外すから、続きをどうぞ?」
「しないよ!? わたしの初めてはリリィにあげるんだから!」
思わず大胆なことを言ってしまい、ラピスは真っ赤になった。
言われたリリィも真っ赤に染まる。
なんとも恥ずかしい空気ができあがってしまった。
「──あの……」
その空気を、今まで放っておかれていたセラが切り裂く。視線が彼女に集まった。
「……申し訳ありませんでしたわ。その……記念日なので、ちょっと浮かれてましたの」
「ああ、そういえば言ってたわね。初めてのキスがなんとか」
「はい。それに昨日、姉さまのそこを……」
「そこ? そこって?」
「あ、いえ、なんでもありませんわ。……謝って済むものでもありませんが、本当にすみませんでした」
セラは深々と頭を下げる。
「……姉さまにも、申し訳ないことをしました。……あの……怒ってますわよね?」
「………」
ラピスはなにも言わずに外方を向いた。その反応に、セラは深く落ち込む。
そんな彼女に、リリィは励ましの言葉をかけた。
「だいじょうぶよ、セラ。ラピスは照れてるだけだから」
「リリィ!?」
ラピスは恋人の名を叫ぶ。だがリリィは取り合わずに、彼女の心情を暴露する。
「本当は嬉しかったけど、素直に言うのも恥ずかしいし、あたしに義理立てしようとして、怒ってる風に装ってるだけよ」
「な、なんでバラすの!? もう!」
顔を真っ赤にしてラピスは叫ぶ。思ってることを寸分違わず当てられて、恥ずかしさが限界に達したのだ。
どうせバレてしまったのだからと、ラピスはセラに向き直る。セラは居住まいを正した。
「えっと……あのね、怒ってはないよ? …………むしろ、嬉しかった」
「! 姉さま!」
「でもね、ああゆうのはまだダメ。……そりゃ、いつかはするかもしれないけど」
「わかりました。……リリィ義姉さまが先、とゆうことですわね?」
ラピスは申し訳なさそうに頷いた。
「……うん。……ごめんね」
「いえ。姉さまに受け入れていただいて幸せですわ♡」
セラは幸せそうに笑い、ラピスに抱きつく。ラピスも笑って抱き返した。
仲のいい姉妹を眺めて、リリィも同じように笑う。
そこで、今まで触れなかった問題に、敢えて触れることにした。
「ところで二人に訊きたいんだけど。……普通の姉妹って、そおゆうことするの?」
ラピスとセラは、抱き合ったまま考える。
「んー、しないんじゃない? ねェ? セラ」
「はい。シスコンで、百合に耐性があればするかもしれませんが」
もちろん、いかにシスコンだろうとそんなことはしない。キスすらもしない。
自分たちがシスコンである自覚はあるラピスとセラだが、それゆえに普通の姉妹の価値観がわからない。どころか、どこまですればアウトで、どこまでならセーフかもわからない。
仲がいい故に陥った、常識の欠如と言えよう。
そしてその間違った情報は、悪い意味で歪みなくリリィに伝わった。
「ヘェ、そおなの。まァ、ラピスとセラより仲のいい姉妹がいるとも思えないけど」
鵜呑みにしてしまった。幸か不幸か、これもリリィの常識として刷り込まれてしまう。これが後にどういう影響を与えるのか、それは誰にもわからない。
閑話休題。
これからのスタンスや、姉妹や恋人としての立ち位置も決まったので、改めて寝ることにする。
セラのあれが衝撃的すぎて皆さんお忘れかもしれないが、ちょっと早めにベッドに入ったところである。
「ねェラピス」
「……ん?」
リリィが話しかけてきた。
色々あって疲れたので、程よく眠くなっていたラピスは夢現に反応する。
「ラピスが風邪ひいてる間、ずっとスキンシップお預けだったでしょ?」
「……うん」
実際は濃厚なキスなんかもしているのだが、ラピスは眠くて返事が雑になる。
「だからさ、今日はぎゅってして寝ていい?」
「……いいよ」
「本当? ふふ、これをしたかったから、早めに寝ましょうっていったのよ♡」
寝惚け眼でリリィに近づき、ラピスは恋人に抱きついた。リリィもまた、ラピスを抱き返す。
「ああ、もう。大好きよ♡ 愛してるわ♡」
「……ん♡」
眠くて思考能力が落ちているラピスだが、愛する人の声は聞き逃さない。
リリィの愛の囁きに反応して、より強く力を込める。
そしてそのまま、温かく甘い眠りに落ちるのだった。
翌朝。
目が覚めたラピスだったが、身体の自由が効かなかった。
「(以前にもこんなことあったなァ……)」
そんなことを考えながら目を開ける。
少し視線を落とすと、自分の胸を枕にして眠る恋人の顔が視界に入った。
リリィは、ラピスにのしかかるようにして眠っていたのだ。
「(……やっぱ綺麗だなァ)」
寝顔を見て、リリィの美しさを再認識する。そんな彼女が自分の婚約者だと思うと、誇らしい気分になった。
心地好い重みと、温かい体温で、自然とラピスの表情は綻ぶ。
「……リリィ♡」
名前を呼ぶだけで幸せな気持ちが大きくなる。笑顔を見たり、手を繋いだり、キスをしたりすれば、更に幸せが大きくなる。
大好きな人と一緒に過ごせることを、ラピスは感謝した。
これからもこんな日々が続きますように。
そう祈って、ラピスは愛しい恋人の頭を撫でた。




