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その日の夜。ラピスたちは。
ラピスの作った美味しい料理を食べて、風呂に入った。
いつもは風呂場で、3人でスキンシップをしたりするのだが、今日はなぜかリリィもセラも大人しかった。ラピスは寂しく思ったが、まァこんな日もあるかな、と深くは考えなかった。
本格的におかしいと思ったのは、リリィがこんなことを言い出したときだ。
「今日はちょっと早めに寝ましょうか」
これは明らかにおかしい。
今日は別に、海で泳いだときのように身体を酷使したわけでもないし、明日の朝、早く起きなければいけない用事があるわけでもない。
にもかかわらず──
「そおですわね。それがいいと思いますわ」
セラまで追従するではないか。
疑問は確信に変わり、なにを企んでるんだろうと、ラピスは二人の様子を窺った。
なにごともなく寝室につき、3人並んでベッドに入る。リリィが作った“空気を綺麗にする魔道具”のお陰で、いつもよりリラックスできるような気がした。
いつものようにおやすみのキスをして、目を閉じる。ここまでなにもなかった。
考えすぎだったかな、とラピスが思ったときだった。
「──…ん」
身体に重みを感じた。
こんなことは初めてだ。
いつもはラピスを真ん中にして、リリィとセラで彼女を挟むようにして眠る。手を繋いで寝たり、腕を組んで寝たりは日によってまちまちだが、のしかかられたことはなかった。
匂いや息遣い、身体の柔らかさなどから、目を開けなくても誰かはわかったが、一応目を開けて犯人を確認する。
──セラだった。
「姉さま♡」
「……どおしたの? ……寝るんじゃないの?」
「ふふ、おかしなこと仰いますわね。寝るにはまだ1時間以上早いですわよ?」
そんなことを言いながら、セラはラピスにキスを落とした。何度も何度も。あたかもマーキングのように。自分のものだという証を刻むように。
さすがにおかしいと、ラピスは妹の肩を掴んで止めた。
キスしてくれるのは本当に嬉しいので、かなり苦渋の決断だった。
「──セ、セラ。どおしちゃったの? おかしいよ」
「…………不安でしたの」
ラピスを見下ろしながら、セラは言った。
「今回はただの風邪でしたけど、今後、別の病気にならないとも限りません。リリィ義姉さまはだいじょうぶと仰いますが、魔法とて絶対ではありませんわ。病気以前に怪我をなさるかもしれません。そうなったことを想像すると……」
セラは表情を歪める。
「……不安でたまらなくなりますの。……ですので、姉さまを身近に感じたくなったんですわ」
「もう、馬鹿だなァ、セラは。そんなあるかどうかもわからない未来を考えたって仕方ないでしょ? もしそおなったら、じゃなくて、そおならないようにすればいいじゃん」
「それはその通りなんですが……。……やっぱり不安になりますの。姉さま。今夜は姉さまに包まれていたいんです。ダメですか?」
「わたしね、セラの頼みを断ったことがないのが自慢なんだよ♪」
ラピスはにっこりと笑うと、セラと自分の間に挟まっていた両腕をなんとか抜き出し、妹を抱きしめた。
触れ合う面積をできる限り拡げるように、脚を絡め、頬擦りをする。
セラは恍惚とした表情で、「……姉さま……姉さまァ♡」と、何度も姉を呼ぶ。
その声で、ラピスの姉としての心に火がついた。わたしじゃなきゃダメなんだと。妹を可愛がるのは姉の使命であり、特権だと。
こんなったらラピスはもう止まらない。
セラを驚かせないようにゆっくりと体勢を入れ替え、彼女に覆い被さる。全体重をかけて、セラを包み込んだ。
「──ああ、姉さま。……幸せですわ」
「うん。わたしも。……ねェセラ。キスしていい?」
「わたくし、姉さまの頼みを断ったことがないのが自慢ですの♪」
さっきの自分の台詞を使われ、一瞬きょとんとする。だがすぐに微笑を浮かべ、愛する妹に、ラピスは唇を押しつけた。
自分の想いを全て乗せた口づけ。
セラが好きだと、セラが大切だと、セラはわたしの妹だと、溢れんばかりの想いを籠めてキスをする。
セラもまた、その想いを受け止めた。
あまりの幸せに、二人は昇天してしまいそうになった。
だがそれでは、この幸せな時間を放棄することになってしまう。それはあまりにももったいない。
二人はむさぼるように唇を求め合い、長い時間そうした後、ようやく離れた。
どちらも息が荒い。その目はとろんと蕩けてしまっていた。
「……姉さま……」
セラは我慢──というより、自制が効かなくなった。
まるでそうするのが当然かのように、ラピスの服に手をかける。手はよどみなく動き、瞬く間にボタンを全て外してしまう。
「──あ……」
ラピスは戸惑い、胸を隠す。寝るときは下着を着けていないので、丸見えになってしまうのだ。
「姉さま。隠さないでくださいまし」
セラはラピスの腕を掴んでどける。綺麗な胸が一瞬露になるも、ラピスは支えを失う形になり、セラにのしかかった。
姉の綺麗な姿が見えないので、この体勢はセラの望むところではない。彼女は再び体勢を入れ替え、ラピスを下敷きにする。
息荒く、ラピスを眺めるセラ。その瞳にはハートマークが浮かんでいる。
「はァ、はァ……姉さま……♡」
「ま、待って!」
ラピスは咄嗟に叫ぶ。セラがなにをしようとしているかは明らかだ。
だがそれは許してはいけない。ラピスには恋人──婚約者がいるのだから。
彼女より先に、妹とそういう行為に及ぶつもりはなかった。
「……姉さま。……いいですわよね?」
「ダ、ダメ、セラ!」
ラピスはセラの胸に手をやって押し返す。
「ぁん♡ ふふ……姉さま♡」
「や、ちが──」
だがそれは逆効果だった。
セラはすっかりその気になってしまい、ラピスの首筋に吸い付いた。身構えしていない部位に走る快感に、ラピスは身を強張らせた。
抵抗しようにも、セラは意外に力が強く、体勢も手伝ってろくな抵抗はできなかった。
「姉さま、可愛い♡」
セラはラピスの胸に手を伸ばす。柔らかな膨らみが、彼女の指を受け入れた。
拒みたい、でも拒みたくない。
受け入れたい、でも受け入れたくない。
相反する2つの気持ちが、ラピスの中で荒れ狂う。
妹を直視できなくなり、つーっと横に視線を逸らす。
「…………あ」
「………」
こちらをガン見しているリリィと目が合った。
「──っ!!」
ラピスは慌ててセラを押し退ける。火事場の馬鹿力とでも言うような力が出た。
「きゃっ!」としりもちをつくセラだったが、ベッドの上なので痛みはなかった。
ラピスはすぐに起き上がり、その場で土下座した。
「ごめんなさいリリィ! ごめんなさい!」
「え?」
真剣に謝るラピス。だがリリィは不思議そうな顔だった。
「えっと……ラピスがなんで謝ってるのかわかんないんだけど」
「え?」
ラピスは頭を上げて首をかしげる。
「むしろ、謝るのはあたしじゃないの?」
「え?」
ラピスは更に首をかしげる。
本気でなにを言われているのかわからなかった。
「あ、いや、姉妹の蜜月を覗き見しちゃったし。てゆうか邪魔しちゃったし」
「え、でも、その、あ、うう──」
「落ち着いて、ラピス。1回深呼吸」
リリィに言われて、ラピスは大きく深呼吸する。
まだ完全には落ち着かないが、独白を開始する。
「……わたし、リリィとは結婚するまでダメとかゆっといて、セラに流されちゃったから」
「ああ、それね」
ラピスがなにを謝ってるのかようやくわかったリリィは、あっけらかんと言った。
「気にしてないわ。ってゆうかあたし、応援するスタンスだし」




