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程なくして続々と魔女がやって来る。
エリカ、コスモス、シオン、ダリア、ネリネ、ルドベキア、プルメリア、ベロニカ、ルピナス。それぞれと挨拶を交わして、席についてもらった。
これで残すはサクラのみ。彼女の到着を待っていると、先にウィーアが厨房からやって来た。その後ろにはユウとユアの双子。ラピセラはまだ戻ってきていない。
美人ばかり(ルドベキアを除く)の空間に気後れするも、ユアに手を握られてウィーアは平静を取り戻した。
すーはーと深呼吸。それから感謝を込めて頭を下げた。
「えー、皆さん。本日はお集まりいただきありがとうございます。このカフェの料理長を務めているウィーアと言います。……えっと……」
「ふふ、ウィーアちゃん。そんなに固くならなくてだいじょうぶよ。それよりラピセラが戻ってきてないみたいだけど?」
まだ緊張していると見たリリィが間を繋げる。ウィーアはありがたくそれに乗っかることにした。
「あ、ああ。ちょっとファンクラブについて問い詰められたんだけど、そこは上手く躱した。で、今はちょっとした手伝いをしてもらってるんだ」
「そお。話の腰を折ってごめんなさい」
緊張が解れたと見て、リリィは引き下がる。ウィーアは1度リリィに目礼してから再度話し始めた。
「直に料理が出来上がります。それまでこちらの紅茶を召し上がってください。……と、リリィさん。一人足りなくねェか?」
「ええ、あたしの師匠がまだね。でも気にすることはないわ。遅れることはないはずだから」
「そおか。じゃあその人の分はあとで淹れ直すよ」
「悪いわね」
ユウとユアと協力して紅茶をサーブしていく。
最後にサーブしたエリカとコスモスの顔を見て、「以前も来店していただきましたよね」と笑いかけることも忘れない。これが一流かと、エリカとコスモスは微笑みを浮かべて頷いた。
ウィーアたちはすぐに厨房に戻っていった。料理の仕上げはミイに任せたのだが、それの最終チェックをするらしい。
入れ違いになるようにラピスとセラが戻ってくる。彼女たちの顔には諦念の色が浮かんでいた。
ぽすっとリリィの両隣に陣取り、彼女に抱きつく。
「どおしたのよ二人とも。暗いわよ?」
「あ、リリィ義姉さま。心配することないッスよ」
いつもならいの一番に心配しそうなホルンがそう言うことで、リリィもいくらか安心する。
そのホルンを銀髪の姉妹は恨めしげに睨んだ。
「──…当事者じゃないからそんなことゆえるんだよ……」
「──…まさか会員が5000人を超えてるとは思いませんでしたわ……」
二人は深くため息をついて、より強くリリィに抱きつく。なにか他のことに集中していないと、ファンクラブのことばかり考えてしまうのだ。
ははーん、と訳知り顔で頷くリリィ。
会員数が5000を超えてるとはさすがに予想外だったが、この姉妹の可愛さを念頭に置けばそう不思議な話でもない。
そして会員5000を超えるファンクラブなど、最早組織と変わらない。ラピセラがどんなに頑張ったところで、撲滅することは不可能だろう。
だからこそのため息。
そこまでを理解して、リリィは二人を抱き寄せた。
リリィたちがそうしているように、他の面々も紅茶を飲みながら思い思いに過ごしている。
そうこうしているうちに、時計の針がカチリと音を立てて頂点で重なった。と同時に入口の扉が開き、最後の招待客、サクラが入ってきた。
「おお、すまぬ。妾が最後のようじゃな」
「だいじょうぶでございます。食事はこれからでございますゆえ」
「む、そおか。ラピスおすすめの店と聞いて楽しみにしておったんじゃ」
サクラも輪に交じり、ラピスが紅茶を取りに行く。ついでにウィーアに全員揃ったことを伝えると、こちらも整った、と力強い返事を聞けた。
「手伝おうか?」
「いや、いい。アタシらに任せてくれ」
「おっけー。よろしくね」
ここはウィーアたちスタッフに全て任せて、ラピスは自分の席に戻る。
彼女の中では既に切り替えが済んでいる。あんな暗いまま食事会に参加して、雰囲気を悪くするのは最も避けたいことなのだ。
少し待つと、スタッフが総出でキッチンワゴンを押してくる。その上には余すところなく、大量の料理が乗っていた。
「大変お待たせしました。改めまして本日の料理の指揮を取りました、ウィーアと言います。長々と喋っても興が冷めますので、挨拶はこのくらいにして、皆さんどおかお食事をお楽しみくださいませ」
手短に挨拶を済ませて、ウィーアたちは次々と配膳していく。その全てに魔女たちは目を輝かせ、食前の挨拶もそこそこに手をつけていく。
そして、一様に表情をほころばせた。
美味しい美味しいと連呼しながら料理を食べる。
サンドウィッチ、ピザ、グラタン、ラザニア、スパゲティ、ハンバーグ、クリームシチュー、ビーフシチュー、コロッケ、カルパッチョ、アクアパッツァ、エッグベネディクト、ラーメン。これだけ並べてもまだ氷山の一角に過ぎない。このカフェのメニューの端から端まで、その全てがテーブルの上に並んでいる。
ラピスとセラが手伝ったものはまだここにはない。主にスイーツのほうを手伝ったからだ。このズラリと並んだ料理が全て片づけば、その姿を表すだろう。
「どお? 美味しいでしょ? 桜さん」
「うむ、美味いな。汐浬と渚沙の喫茶店に勝るとも劣らない」
「シオリ? ナギサ?」
「妾の行きつけの喫茶店じゃ。いつか一緒に行くか?」
「行く!」
「どおですか? ホルン。ここのハンバーグが絶品ですの」
「めっちゃ美味しいッス♡ ウチも精進しないとッスね」
「ホルンのも美味しいですわよ♡ あと可愛いです♡」
「い、いきなりッスね。セラフィお姉ちゃんも可愛いッスよ♡」
「どおよアイリス。あたしが自慢するのも変だけど、この店の味は?」
「素晴らしいの一言ですね。これなら通いつめるのもわかります」
「でしょう? デザートも期待していいわよ♪」
「はは、それは楽しみですね」
楽しい時間はまだ始まったばかりだ。




