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瑠璃と百合と姫と魔女  作者: 山原くいな
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ホルンが来てから10日。6の月の27日。

今までやっていた仕事と同じということもあり、彼女は環境に慣れてきていた。


例年であれば気温が高まり汗ばむこの季節だが、この家はリリィの魔法陣のおかげで年中適温が(たも)たれている。むしろ今までの職場より快適だし、居心地もいいし、仕事も楽だ。

これで給料も大分(だいぶ)いい。申し訳ない気持ちはあるが余った分は貯めて、ラピスやセラ、あるいは将来の彼女のために使おうと思っていた。


そんな彼女が夕食の準備をしている中。

リビングでリリィとイチャついていたラピスがおかしなことを言い出した。


「あ、リリィ。明日は1日、わたしに絶対服従ね♪」


きょとんとするホルンとリリィ。

ホルンの基準では、ラピスはそんな横暴なことを言うタイプではなかった。そしてそのイメージは正しい。しかし、今回ばかりは事情が違った。


「忘れたの? リリィはセラを怖がらせた罰を受けなきゃいけないんだよ?」

「──…あ……」


なにかを思い出すリリィ。

対してホルンは、そういうことかと納得して調理に戻った。

セラがシスコンなのは城でも有名な話だったが、実はラピスも負けず劣らずのシスコンだ。

きっと、抜けているとこも多いリリィがうっかりなにかをやらかし、ラピスの顰蹙(ひんしゅく)を買ったのだろう。


「ホルンも仕事に慣れたみたいだし、1日任せてもだいじょうぶでしょ?」

「平気ッスよ。掃除用具や調理器具の場所さえ憶えれば、あとは小慣れたもんッスよ」


答えながら炊飯器の蓋を閉める。何度使ってもこれは便利だと思う。


「とゆうわけでリリィ。明日はよろしくね」

「いいけど……。あたし、そんなのなくてもラピスのお願いなら大概聞くわよ?」

「いいの。普段はできないお願──命令とかしちゃうからね」


ニコニコと笑ってリリィの頬にキスをするラピスからは、欠片も邪気を感じない。

これなら酷い命令はしないんだろうなァ、と思いながら、ホルンは調理の仕上げに入った。




明けて翌日。6の月の28日。

デートに出かける恋人たちを見送る為に、ホルンとセラは外に出ていた。


ラピスの格好はいつものメイド服ではなく、深窓の礼譲を彷彿とさせる真っ白なワンピース。それに麦わら帽子を合わせて、いかにもお嬢さま、といった出で立ちだった。


一方のリリィはなんとメイド服。それも普段ホルンが着ているような、丈の短い改造されたメイド服だった。


ちなみにホルンだが、メイド服を改造しているのには理由がある。彼女には先祖返り特有の猫のしっぽがついているので、長いスカートだとこすれて痛いのだ。それでやむを得ず丈を短くしていたのだが、ラピスからはそのほうが可愛いとお墨つきを貰っているので、短いスカートも気に入っていた。


その改造メイド服を着ているリリィは、顔を真っ赤にしてスカートを押さえている。

普段の魔女ルックはスカート丈が膝下まであるので、このような太ももが(あらわ)になる服は不慣れだった。


「い、行ってくるわね、二人とも。リンちゃんに警護を任せたから安心していいわ」

「じゃ、行ってくる。お土産買ってくるからね♪」


リリィが懐からカード大に圧縮した絨毯を取り出し、宙に投げる。

さっきまでの笑顔が嘘のように光を失った瞳で、ラピスはリリィに抱きつく。そしていつものように、絨毯に一緒に乗り込んだ。

……高い所に慣れろとは言わないが、いい加減移動は絨毯だと憶えてほしいものだ。


「行ってらっしゃいッス」

「行ってらっしゃいませ。どうぞ楽しんできてください」


二人の見送りにリリィは手を振って応え、絨毯は飛んで行き、やがて視界から消えた。

セラとホルンは家に戻って、すっかり定位置となったソファーに並んで座った。


「……行っちゃったッスね」

「何気にお留守番は初めてですわね。なにをして過ごしましょうか?」

「…………セラフィさま……その、ラピスさまのこと──」

「ふふ、心配ありがとうですわ。でもわたくし、今とっても幸せですの。リリィ義姉(ねえ)さまにも、とっても感謝してますのよ?」

「……ならウチからはなんも言わないッス」


息を長く吐いて、ホルンは気持ちを切り替えた。


「……なにをするかって話ッスけど、セラフィさまもなんか始めたらどおッスか? こう言っちゃなんスけどセラフィさま、今無職ッスよね?」

「! …………そ、そおですわね。な、なにかしなければ!」


顎に手を当てて考え込むセラ。

しばらくそうしていたが妙案は出なかったのか、「……部屋で考えますわね」と言い残して自室に引っ込んだ。


長くなりそうだと思ったホルンは、差し入れでもしようと考え、お菓子を作ることにした。

牛乳と卵と砂糖を混ぜて器に容れる。そこに焦がした砂糖で作ったソースを高い位置から容れる。こうすると比重の関係で、ソースが下に沈むのだ。

それを15分程蒸せばプリンの完成だ。本来冷やして食べるものだが、温かくても充分美味しい。


プリンとアイスティー、それらを2つずつトレーに乗せて2階に上がった。

ノックをして返事を待ってから部屋に入る。

そこではセラが一人がけのソファーに座って、なにやら作業をしていた。


「セラフィさま。プリンを作ったッス。休憩がてら食べないッスか?」

「ありがとう。いただきますわ」


作業を中断して、セラはプリンとアイスティーに興味を向ける。

ホルンは給仕を済ませ、セラの対面に座った。王城では考えられなかったことだが、この家では食事は一緒にするのが普通だ。


自分のスプーンを取っていざ食べようとなった段で、ホルンはなにげなくセラが中断したなにかを一瞥する。

そして──スプーンを取り落とした。


「? ホルンさん。どおしましたの?」


動かなくなったホルンを訝しげに見るセラ。数秒経っても動かないので代わりにスプーンを拾い、ナプキンで軽く(ぬぐ)った。


「はい、ホルンさん。綺麗になりましたわ」

「あ、ありがとッス。──じゃなくて!」


急に大声を出すホルンに、セラはビクッと肩を震わせた。


「……な、なんですの?」

「それッスよ! その彫刻(・・)ッス!」


ホルンはさっきまでセラが彫っていた彫刻を指差して叫んだ。


「ああ、これですの? これは趣味で彫ってるフィギュアですの。まだまだ未熟で……恥ずかしいですわ」

「いやいやいやいや。これ、半端じゃなくいい出来ッスよ。ウチ、一月(ひとつき)の給料全部出してでも欲しいッスもん」


セラが彫った彫刻──フィギュアは、途轍もなく精巧なラピスだった。

メイド服の丈が短くて、恥ずかしそうにスカートを押さえるポーズをとっている。その表情さえも忠実に再現されており、今にも動き出しそうだった。


「ふふ、お世辞でも嬉しいですわ。でもこんなの、姉さまの万分の一の魅力すら表せていませんわ」

「んなことないと思うッスけど……」


ホルンはフィギュアを()めつ(すが)めつ眺める。色々な角度から見て、いちいちほわァ、と息を洩らしていた。

セラは本当に大したことじゃないと思っているので、既に気持ちを切り替えてプリンに舌鼓を打っていた。


「あ、セラフィさま。もしかして他にもフィギュアあるッスか?」


セラはスプーンを咥えたまま答える。お行儀が悪い。


「ありまふわよ。ん……ありますわよ。リリィ義姉(ねえ)さまのも、ホルンさんのも」

「ウチのもあるんスか!?」

「ええ。あ、あと絵も描きますのよ。(つたな)いものですが」

「セラフィさまの拙いは信用ならないッス」


プリンを食べ終えたセラに、他のフィギュアや絵を見せてもらうと、案の定プロ顔負けのクオリティだった。


「これは売れるッス! それも高値で!」

「売るつもりはありませんわよ? 姉さまのご尊顔を、そこらの有象無象に晒すなんて考えられませんもの」

「相変わらずッスね。では他の──」

「──クルゥ」


ホルンの言葉を遮る形で、外から可愛らしい鳴き声が聞こえた。

当然のように漆雷獣(ベヒーモス)──リンドブルムだった。

興味深そうに、というより仲間に入れてほしそうに、窓の外からこちらを見ている。

彼女を見てホルンは提案する。


漆雷獣(ベヒーモス)のフィギュアなんてどおッスか?」

「それなら簡単ですわ。作ってみましょうか?」

「是非に!」

「クルックルゥ♪」


満場一致で漆雷獣(ベヒーモス)のフィギュアの作成が決まった。

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