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「こんな感じで如何でしょうか? 似てまして? リンドブルム」
「クルゥ♪」
場所を庭に移しておよそ2時間後。リンドブルムをモデルにして、セラは見事な漆雷獣フィギュアを彫り上げた。
後ろ足で立って前足を振り上げている。目の前の敵を威嚇するポーズを模したそれは、今にも動き出しそうな躍動感に溢れ、見るものに感動を与えた。
「凄いッス凄いッス! まるで本物みたいッス!」
「クルックルゥ」
ホルンはテンション高くセラを褒めちぎり、リンドブルムはご機嫌そうにゴロゴロと鳴く。
その反応に気をよくしたセラは、満足そうに着色に移った。
今までと同じかそれ以上に繊細な作業を1時間程で終え、フィギュアを日当たりのいい場所に置く。
「あとは塗料が乾けば完成ですわね。うん。我ながらいい出来ですわ」
「やー、何度ゆったか憶えてないッスけど本当凄いッスねェ、セラフィさま……。もう芸術家を名乗ってもいいと思うッス」
「芸術家……。いい響きですわね」
によによと笑うセラ。満更でもなさそうだ。
なんとなく自分の将来が見えてくる。ゆくゆくは個展を開いてみるのもいいかもしれない。もちろん、そこにラピスの絵やフィギュアは置かないが。
作業を切り上げ道具を片付ける。それはホルンも手伝ってくれた。
フィギュアを作っていたらかなり時間が経っていたので、昼食の時間を過ぎていた。
「すんませんッス、セラフィさま。……仕事ぶりを見るのに夢中でお昼ご飯の準備忘れてたッス」
「構いませんわ。そうゆってもらえるのも嬉しいですし。あ、リンドブルムもお疲れさまでした。ごはんにしていただいて結構ですわよ」
「クルゥ」
リンドブルムは一鳴きして森へ行く。そこら中にある適当な果実や、野生の動物などが漆雷獣の食べ物なのだ。彼女らは無機物以外ならなんでも食べる雑食性だが、人の手が入ったものは苦手なようで、具体的には料理された食べ物は口にしなかった。
「さてと、じゃあちゃっちゃと作るッスよ。炒飯なんてどおッスか? すぐできるッスよ」
「ではそれでお願いしま──あら?」
会話の途中、セラがなにかに気づいて台詞を切った。
「? どおしたんスか?」
「いえ……。あれはなんでしょう?」
セラが指差すほう、空を見上げるホルン。そこには明らかに鳥とは違う飛びかたをするなにかが見えた。まだ遠すぎてシルエットしかわからないが、なにやら人形のように見える。
それの目的地はどうやらこの家のようで、どんどんこちらに近づいてきていた。ある程度の距離まで近づき、ようやくそれの正体がわかる。
「──…箒に乗った人──魔女のようですわね。リリィ義姉さまの友達でしょうか?」
「そッスね。おもてなしの準備もしたほうがいいかもしんないッス」
とりあえず出迎えをしようという意見で固まった二人は、並んで彼女を待つ。
間を置かずに彼女は家の前に着陸した。そこでやっと彼女の風貌が明らかになる。
年の頃は22~23歳に見える。リリィより高い170くらいの身長に、褐色の肌と薄紫色の髪。和装で全身を揃えた凛とした美人だった。
目の前の魔女の特徴に見憶え──否、聞き憶えがあったセラは、こっそり隣の猫耳メイドを盗み見る。
顔全体をほんのり赤く染めて、その瞳にはハートマークが見えそうだった。
その反応を確認したセラはなるほどと納得する。彼女がホルンの想い人、アイリスか、と。
箒を背負って歩いてくる彼女に、セラはお手本のようなお辞儀をする。ホルンのことは一旦置いといて、応対をするなら自分のほうがいいと思ったのだ。
「いらっしゃいませアイリスさま。申し訳ありませんが、本日は家主のリリィが留守にしておりますの。ですのでわたくし、セラフィナイトでよろしければ代わりにご用を承りますわ」
「これは丁寧にすまない。だがいきなり来たのは自分の落ち度なので謝罪は結構だ。ところで自分の名前を知ってるようだが……リリィ先輩から聞いたのか?」
「はい、名前は。特徴はこちらのホルンから」
そう言ってセラはホルンを手で示す。
アイリスの視線が彼女に向いた。
「……ホ、ホルンと申しまッス」
カチコチに緊張していて、そう名乗るのが精一杯のようだ。
そんな彼女を見ながらアイリスは微笑んで言う。
「そう緊張しなくてもいい。だが君は王城で働いていたと記憶しているんだが……なんだ? 転職したのか?」
それはアイリスなりの、緊張をほぐそうとする気遣いだったのだろう。しかしそれは、彼女が思ってもいない効果を生んだ。
「お、憶えててくれたんスか?」
「? なにを言う、当然だろう。あの城で働く奴らは殆どがいけ好かない連中だったが、君は違ったからな。自分の目には輝いて映ったよ」
「にゃう!」
アイリスからしてみれば、ただただ思ったことを言っただけなのだろう。
だがホルンには効果覿面で、元から赤かったその顔を自前の髪と同じくらい赤くしていた。
「えっと……アイリスさま? 立ち話もなんですし、よければ中で話しませんこと?」
「ああ、すまないな」
礼を言ってから、アイリスは少し悲しげな笑みを浮かべる。
「…………ところで、彼女はいるのか?」
「? 彼女、と申しますと?」
「ラピスだ」
「ああ。姉さまでしたらリリィ義姉さま──失礼。リリィと出かけておりますわ」
「! 君はラピスの妹御だったのか、セラフィナイト。いや、すまない。いないのならいいんだ」
「そおですか。それと、わたくしのことはセラ、あるいはセラフィとお呼びください。セラフィナイトだと可愛くないので」
「ではセラフィと。お言葉に甘えて上がらせてもらおう」
セラはアイリスを伴って家に入る。そこでホルンがずっと固まっていることに気づき、慌てて戻って彼女のしっぽを掴んで引っ張った。
「ホルンさん! いつまで呆けているんですの? アイリスさまにお茶をお出ししてください!」
「にぁっ!? し、しっぽは触らなっ!? にゃあっ!」
「ほら、早く!」
「わかったッス! わかったッスから!」
楽しそうにじゃれる二人を見て、アイリスは目を細めて笑っていた。




