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料理長の活躍もあり、なんとか山場を乗り切ったラピスたち。
交代でお昼休憩を取り、今はラピスとセラの番だ。
いつもラピスたちが利用している個室を休憩室代わりに使って、姉妹はぐでーっとだれていた。
「……つかれたねー……」
「……つかれましたわねー……」
「……みんなすごいねー……」
「……タフですわよねー……」
「……ごごもがんばろーねー……」
「……がんばりますわー……」
だれるにも程があるだろう、というくらいにだれていた。
テーブルに突っ伏して、お互いにホットケーキを食べさせ合う。今日のまかないだ。
「美味しいねェ♪ これで午後も頑張れるよ♪」
「毎日でも食べたいですわね♪ ……あ、でもカロリーが……」
「考えちゃダメ。美味しいものは美味しく食べなきゃ」
「ですわね」
美味しくホットケーキを平らげて、ミルクティーを飲む。休憩時間はまだあるので、隣り合わせで座りスキンシップを楽しむ。これで体力も回復できるのだ。
「こんなのを毎日やってるなんて、料理長さんはどんなスタミナしてるんだろうね?」
「怪物ですわね。疲れた顔1つ見せませんし」
手を恋人繋ぎにして語り合う。スキンシップさえできれば話題はなんでもいいのだが、今回はたまたまいい話題があった。
「それからさ、わたし目当てのお客さんがいっぱい来たってゆってたけど、あれ嘘だよね? セラ目当てなら納得だけど」
「は? 怒りますわよ?」
「なんで!?」
「本当に決まってるじゃありませんの。わたくしでしたら、エプロン姿の姉さまを見るために、朝昼晩と通い詰めますわよ?」
「それはセラがシスコンだからだよ。逆の立場だったら、わたしでもそおするもん」
とりとめのない会話。そしてラピスは相変わらず自分の容姿に関しての自覚がない。ある意味、罪なことである。
手を繋いだまま時計を確認する。あと少しで休憩時間も終わりだ。
「そろそろ戻らないとね」
「はい。大変ですけど頑張りましょう」
残ったミルクティーを一気に飲み干し立ち上がる。互いの頬に軽くキスをして気力を充実させると、エプロンをつけ直して職場へと戻っていった。
8時間の労働を終え、閉店の時間になる。若干短めの営業時間だが、夜のカフェはあまり需要がないので、早じまいしても平気なのだ。
午後も安定して忙しく、ラピスもセラもてんてこ舞いだった。しかしその忙しさと仕事にも次第に慣れ、彼女たちも立派な戦力に数えられるようになった。
するとアイたち他のスタッフの負担も減り、店がよく回るという好循環が訪れる。ラピスたちを雇ったのは正解だったと、料理長は腕を組んで頷いた。
閉店作業も滞りなく済ませて、勤務が完了する。疲れはしたものの、それは心地いい疲れだった。
「お疲れ。ラピスちゃん。セラフィちゃん」
料理長は姉妹を労い、温かいココアを渡す。ありがとうと言って、二人は受け取った。
「初日なのにオールで入ってもらって悪ィな。疲れたろ?」
「疲れたね……。でも充実感もあるよ」
「疲れましたわ……。料理長さまや、アイさまがた、皆さま尊敬いたしますわ」
姉妹は疲れた笑顔を見せる。料理長はからからと笑った。
「まァ、慣れだな。今日はしっかり寝て、疲れを取ってくれ。明日は午前中だけで構わねェから、頼むぜ」
「うん。任せて」
「頑張りますわ」
仕事自体は楽しいもの。なので二人とも明るく返事をした。
そこにミイが無言でなにかを持ってくる。そして無言でラピスの前に置いた。
「ん? なにこれ?」
「…………ごはん」
たった一言の端的な説明。しかしこの1日で彼女に慣れたラピスは、それだけで全て察した。
たったの1日でミイの気持ちを斟酌できるようになったのはラピスが初だそうで、料理長初め他のスタッフも驚いていた。流石のコミュ力だ。
「わ、ありがとう。今夜リリィと食べるね。空箱は明日返せばいい?」
「………………」
ミイは無言で頷く。
「ん、わかった。でもちゃんと洗って返すよ」
さっきの沈黙から正確に意思を察したのだろう。ラピスは的確に返事をする。
それを見ていたスタッフ一同は感心を通り越して呆れ果て、セラは「流石は姉さまですわ!」と元気を取り戻していた。
なにも喋らなくても意思を察してくれる、アイ以外では初めての人。ミイのラピスに対する好感度は、たったの1日にして最高値まで上がっていた。




