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瑠璃と百合と姫と魔女  作者: 山原くいな
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「二人はどおゆう関係なの?」


気になったことは駆け引きしないで素直に訊く。ルピナスの美点だろう。

ベロニカは眉をひそめて、プルメリアは肩をすくめた。


「メリアはー、ワタシの片想いの相手だよー」

「ベロニカはぼくの片想いの相手さ」

「? …………?」


言っていることはわかったが、言っている意味がわからなかった。ルピナスは頻りに首をひねる。


「……魔女が百合ばっかなのは置いとくとして。それって両想いってゆうんじゃないの?」


もっともな疑問だ。

その問いに、まずはベロニカが答える。


説明(せつめー)するとねー、ワタシはメリアのことが好きなんだけどー、どーしても許せないことが1個あるのー」

「許せないこと?」

「うんー。この子ってばこんな性格だから、人の(おー)いところに行くたびに、可愛い女の子を引っかけるのー。男装(だんそー)麗人(れーじん)って感じで格好いーからねー。メリアはー」


格好いいと褒めながらも、その目は笑ってはいなかった。


「ベロニカさまはそこが嫌なの?」

「嫌だよー。ワタシだけを見てほしーのに、街に行くたびやきもきするー」

「それはプルメリアさまが悪いし!」


ルピナスはそう断じた。完全にベロニカの肩を持つ立ち位置で、プルメリアを睨む。頑張って威嚇している子犬のようだった。

プルメリアはやれやれとポーズを取る。


「ぼくを悪者にしたい気持ちもわからないでもないけど、ぼくの言い分も聞いてくれないかい?」

「む。……聞くだけ聞いてあげるし」

「ありがとう」


今度はプルメリアが答える番だった。


「確かにぼくは、街に行くたびに女の子に囲まれる」

「ほら!」

「でも自分から話しかけたことはないし、下心を持ったこともないよ。声をかけられればそりゃ愛想よく対応するけどね」

「………」

「ぼくはベロニカ一筋さ。残念ながら、彼女にはそれが伝わらないようだけど」


プルメリアはため息をつく。

ルピナスは微妙な表情になった。二人の言い分に嘘がないとすれば、一概にどちらが悪いとは言えない。


他の女の子と仲よくするのが嫌というベロニカの気持ちもわかるし、街人に親切にしていることを責められるプルメリアは不憫だ。


「じゃあ二人は付き合ってないの?」

「まーねー。ワタシもメリアも、譲る気はないし」

「互いに好き合っていることがわかっているゆえのジレンマなんだよ。まいったよね」

「なのに一緒に住んでるんだ……」

「ああ、それはね──」


何気ないルピナスの呟きに、プルメリアは反応する。


「ぼくは家事の類が好きじゃなくてね。できなくはないんだけど、可能な限りやりたくはないんだ」


ベロニカが引き継ぐ。


「だからワタシが家事やってー、メリアが働きに行くってスタイルが定着(てーちゃく)したのー」

「本当、助かってるよ。愛してるよ、ベロニカ」

「はいはい。女性関係(じょせーかんけー)清算(せーさん)したらまた告白してねー」

「つれないねェ」


紛れもない愛の告白と、それを断った現場のはずなのに、双方とも顔色の1つも変えていない。長年続けてきた、お約束のようなやり取りなのだろう。


恋人同士ではないものの、それを超えた熟年夫婦のような円満さが、彼女たちにはあった。


話を聞く限り、当人同士の問題だ。他人が口を挟む余地などない。

そんな判断をルピナスは下して、それ以上突っ込んだことは訊かなかった。


というより──


「ま、どおでもいいし」


自分で訊いといてこの言い種である。

これには流石の二人もカチンときた。


「へー、そーゆーことゆーんだー」

「子供だからってその態度はいただけないな」

「……え? なに?」


ルピナスは門手鏡(ゲートミラー)とラピスからの手紙に夢中で話を聞いていなかった!


「……ルピナスー。今日(きょー)野宿するー?」

「なんで!?」

「それが嫌ならぼくらの質問に答えてくれるかい? なに、簡単なことさ」

「だからなんで!?」


これは普通にルピナスが悪い。

むしろ、質問に答えるだけで赦してもらえるなら儲けものだ。無論、彼女にその自覚はないのだが。


「ルピナスってさー、恋愛方面(ほーめん)はどーなの? 男でも女でも」

「……未だになんでかわかんないけどまァいいし。ボクの初恋はリリィさまだよ」

「なんだい? ルピナスも百合っ娘かい?」

「違うと思うんだけど……。今は好きな人いないし」

「んー? 付き合いたい人とかいないのー? ラピスさまとかー」

「そんな! ラピスちゃんと付き合いたいとか! 畏れ多いし!」

「ラピスさん? リリィさんのお嫁さんか。ああゆう娘が好きなのかい?」

「違うし! ラピスちゃんはボクの信仰対象だし!」

「…………ヤバい台詞が飛び出したねー」

「まったくだね。ラピスさんになにかしてほしいとかないのかい? 1日デートをしてほしいとか」

「……………………(ボンッ!)」


思わずラピスと手を繋いで街を歩く自分を想像してしまい、ルピナスの顔は湯気が出る程真っ赤になった。


「! ルピナスの頭が爆発したー!」

「落ち着けベロニカ。爆発はしていないよ」

「………………ボク──」

「お、復活したね」

「──…ボクには刺激が強すぎるので、ラピスちゃんはただただ君臨してくれてるだけで幸せです……」

「「…………うわァ……」」


ベロニカとプルメリアは本気でドン引きして、信者モードのルピナスに関わるのは金輪際やめようと誓った。

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