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小高い丘の上にシートを拡げて、車座になって座る。
いつぞやのピクニックのときは登山もセットで楽しんだのだが、今日は割愛だ。次はちゃんと登山からやろうねと、ラピスは二人を誘い、リリィもセラも喜んでオーケーした。
弁当箱を拡げる。なんと、5段重ねの重箱が2つだ。リリィがいなければ手も足も出なかったことだろう。
玉子焼きや唐揚げなど、弁当の定番のものから、煮魚や揚げ出し豆腐など、手間隙のかかるものまで、様々な種類のおかずが入っていてラピスたちを飽きさせない。なかなか憎い演出だ。
「桜さん、料理上手だね♪」
「本当に美味しいわね。……まァあたしはラピスの作るごはんのほうが好きだけど」
「美味しいですわね。……まァわたくしは姉さまの作るごはんのほうが好きですが」
「もお、嬉しいこと言ってくれちゃって♡」
喩え食事中であろうともイチャつきはやめない。隙あらばラブラブオーラを放出していくストロングスタイルだ。
おにぎりを食べたりおかずをつまんだり、和気藹々と食事は進む。
今更だが、この元王女たちはおにぎりやサンドウィッチ──つまりは手掴みでの食事に抵抗はない。むしろ気に入ってる節さえあった。
「セラは最初、抵抗してたような気がするけど」
「本当に最初だけですわよ。4~5歳の頃の話ですわ」
裏を返せば、ラピスは最初から抵抗がなかったということになる。王女らしさ皆無だ。
ラピスは子供の頃魚に触れなくて捌くのに難儀したことや、セラがクッキーを焼こうとして小火騒ぎを起こしたこと、地形が変わる程の大喧嘩をする2体の漆雷獣を止めたことなどを語って弁当を食べる。
明らかに一人、スケールが違う話があるのだが気にしてはいけない。
時間をかけて弁当箱を空にする。3人ともお腹いっぱいだ。
「食べすぎたわね。美味しかったけど」
「……リリィがいなきゃ即死だったね」
「……リリィ義姉さまさまさまですわ」
「さまさまさま」
無視する。
「ちょっと食休みを挟んでいこ。このコンディションで歩き回るのはちょっとキツい」
「ですわね。こんなに食べたのは陽出地以来かもしれませんわ」
セラはお腹を押さえてリリィに寄りかかる。それを見たラピスも真似して、またしてもリリィは姉妹に挟まれる形となる。
「はァ♡ 今日はいいことしか起こらないわね♡」
「そりゃデートだからね。全力で楽しまなきゃ」
「どおでもいいですけど、3人でもデートってゆうんでしょうか?」
セラの疑問に対する答えは誰も持ち合わせていない。しかし彼女も言う通りどうでもいいことなので、デート気分で食後のスキンシップを楽しんだ。
体勢を変えずに、このあとのことを話し合う。
「買い物って、なに買うんですの?」
「ん? バーベキューに使う食材とか。あと洗濯用石鹸がそろそろなくなりそうだったよね」
「……ラピスってば完璧な主婦よね。めちゃくちゃ助かってるわ」
「ふふ、褒めてもケーキしか出ないよ?」
「ケーキは出ますのね。てゆうかどこから……」
どこからともなく出したケーキを、あーんとリリィの口に運ぶ。
隙あらばラブラブオーラを以下略。
食休みとリリィのデザートタイムも終わったので、そろそろ行こうかということになった。太陽は既に傾き始めている。最近は日が沈むのが早いのだ。
「夜は寒くなりそうだね」
「今でさえ若干、肌寒いですものね」
「バーベキューするところに適温化の魔法かけましょうか?」
リリィの提案に、姉妹は首を横に振る。
「気持ちは嬉しいけどそれはダメ。寒いのも楽しまなきゃ」
「くっついて暖を取れば温かいですわよ。それに火も使いますのでだいじょうぶですわ」
「それもそおね」
納得したリリィは飛行機を展開する。ずっと大型化させたままでもよかったのだが、万が一誰かに見られる可能性を嫌ったのだ。
飛行機に乗り込んで席につく。今度はラピスが真ん中だ。
「ふへへ♡」
「だらしないわよ、ラピス」
「だらしないですわ、姉さま」
「? リリィとセラもこんな感じだったよ?」
「嘘でしょ!?」
「嘘ですわよね!?」
「いや、本当だけど」
二人はまあまあショックを受けた。
リリィは年長者としての面目を保てていると思っていたし、セラは上品な笑みを浮かべていると思っていたのだ。
「…………なんでそこまでショックなのかがわかんない」
リリィもセラも、ラピスの髪や胸に顔を埋めてしまったので、今声を出せるのはラピスだけだ。
「南に飛んで」と飛行機に指示を出す。すると飛行機は浮かび上がり、南に向かって空を飛ぶ。
移動中、リリィに濃厚なキスをしたり、セラに蕩けるようなキスをしたり、二人の最愛を慰めることにラピスは全力を尽くした。




