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瑠璃と百合と姫と魔女  作者: 山原くいな
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リリィの猫耳和メイドが決定した。

が、今はそれは置いといて、スキンシップに励む。猫耳和メイドは後日のお楽しみだ。いかにサクラといえど、リリィの可愛い姿を見せるつもりはラピスにはないのだ。


セラの肩を抱いて、こてんと自らの膝に(いざな)う。そのまま頭を撫でる──と見せかけて、お腹を撫でた。

セラは擽ったそうに身をよじる。しかし逃げ出そうとする気配は皆無だった。


そんな仲のいい姉妹を見て、サクラは感想を洩らす。


「──…仲がええのう」


ラピスとセラには聞こえないくらいの声量だったので、反応したのはリリィだけだった。


「いいですよね。二人が仲よくしてると幸せな気分になります♪」

「……嫉妬とかはないんじゃな」

「? 嫉妬……ですか? ……?」

「いや、なんでそんな心底わからないみたいな表情なんじゃ。自分の嫁が妹とはいえ、別の女とイチャついてるんじゃぞ? 面白くないのが普通じゃろ」

「…………? いや、説明聞いてもわかんないです」

「なぜじゃ!?」


サクラは混乱する。いっそ狂乱と言ったほうが近いかもしれない。10000年の時を生きる魔女も形なしだ。


その後もサクラは必死に言葉を連ねる。リリィも頑張って理解しようとするのだが、どうしても理解できなかった。


「…………すみません師匠。ちょっとなにゆってるかわかんないです」

「……はァ、もうええ。それだけ仲がええってことじゃろ」


ついにはサクラが折れた。リリィは少し申し訳ない気持ちになった。


その間もラピスはセラを甘やかし続けている。二人きりの世界に入った彼女たちは、甘く幸せな空気を放出し続けていた。




時間は進んで夕飯時。

サクラが用意してくれるというのでラピスは見ているだけだ。


「あれ? 意外と手際がいい」

「意外ととはなんじゃ意外ととは。10000年以上生きておれば大抵のことは極めるわ」

「掃除の手際は悪かったのに?」

「あれはやり方を忘れておっただけじゃ。今やればラピスにも負けんぞ?」


サクラは不敵に笑う。その笑みには言い知れぬ凄みがあり、嘘ではないことを窺わせた。


程なくして晩ごはんが完成。メニューは白米とリリィ希望の天ぷら、ラピス希望の魚の煮付け、セラ希望のハンバーグ。それとバランスを考えてサラダが用意されていた。


「どおじゃ? どおじゃ?」


サクラがドヤ顔で何度も訊いてくる。ウザい。……間違えた、ウザ可愛い。


なんにせよ、料理の腕は確かだと判明したので、ラピスたちは彼女を見る目が変わった。


「凄いじゃん桜さん。時間もかかってないし」

「ふふん、じゃろう? もっと褒めてもよいぞ?」

「調子乗んないの」


ラピスはサクラの額をコツンと小突く。サクラは額を押さえて、不満そうに頬を膨らませた。

しかしリリィとセラは、自分たちにはしてくれないその行為が羨ましかった。


揃って食卓につき、いただきますの挨拶。3人は思い思いの品に箸を伸ばす。サクラは、まずは見届けるスタンスのようだ。

3人が同じタイミングで天ぷら、煮魚、ハンバーグを口に入れる。んー♪ と身悶えする声まで揃った。


「美味しい! しっかり味が染みてて美味しいよ、桜さん!」

「美味しいですわ! 肉汁がたっぷりで、ご飯によく合いますわ」

「美味しいわ……。なんで今まで1度も作ってくれなかったんですか!?」

「え? なんで(わらわ)怒られてるんじゃ?」


リリィは不満を顕にしていたが、サクラの料理は概ね好評だった。

わいわいと食事は進み、すぐに食べ終わった。それだけ美味しかったのだ。


「ふゥ……お腹いっぱいですわ」

「……食べすぎちゃったね、また」

「! 今こそあたしの作った体重計が活躍するとき──」

「やめて」

「やめてくださいまし」


リリィの発明はにべもなく却下された。いつか陽の目を見る日が来るのだろうか?


後片づけまでサクラが担当し、ラピスはお茶を淹れる。今日はほうじ茶だ。

テーブルにお茶を並べると、サクラも食器を洗い終えたようで一緒にくつろぐ。

ほうじ茶の入った湯飲みを片手に、サクラはラピスに質問をした。


「ところでラピス。そなた、ちゃんと休んでおるか?」

「? えっと、今まさに休んでるけど」


今のラピスの体勢はなんというか、イチャイチャ度が凄い。リリィに肩を抱かれて寄りかかり、目を細めて彼女の髪の香りを堪能している。時折手を動かしてリリィの腰やらお尻やらに触れては、彼女に抱きすくめられるということを繰り返していた。

「……羨ましいですわ、リリィ義姉(ねえ)さま。……姉さまも羨ましいですわ」とは思わずこぼれたセラの台詞だ。


サクラはやれやれと首を振る。


「休みの時間ではなく、休みの日はあるのかと訊いておるのじゃ。よもや毎日毎日、家事に明け暮れているわけでもあるまい?」

「……えっと……」


言葉に詰まるラピス。毎日毎日、家事に明け暮れているのだ。

その反応を見て、サクラはキッと(まなじり)を吊り上げる。


「いかん! いかんぞ! 数日に1度はなにもしない日を作らないといかん! ラピスのそれは働きすぎじゃ!」

「で、でもお掃除も料理も趣味だし」

「関係ないのじゃ! このままではいずれ身体を壊してしまう! 冗談や酔狂の類じゃないぞ!」

「はうゥ……」

「とゆうかリリィもリリィじゃ! なぜもっと気を遣ってやらん! 楽しんでるようだしまァいっか、では済まされんのじゃぞ!?」

「……すみません」

「謝る相手が違うじゃろう!」

「……ごめんなさい、ラピス。無理させてたわね」

「……んーん」


サクラの説教は凄まじく、誰も口を挟めなかった。

休みの重要性をこんこんと二人に説く。難を逃れているセラは一人、「サクラさまも怒りますのねェ……」と暢気に構えていた。


説教が終わり、ラピスとリリィはぐったりしている。と、不意にサクラの視線がセラを捉える。セラはビクッと身体を震わせた。


「セラ」

「は、はいっ!」

「? あ、いや、セラはよくやっておる。洗濯を担当しておるのはそなたじゃろう?」

「わかりますの?」

「うむ。ところどころ粗が目立つのでの。あ、もちろんラピスと比べたらの話じゃ。充分に及第点じゃから安心せい」

「よ、よかったですわ」


ホッと安堵の息を洩らす。と同時に、まだまだ向上の余地があると己を戒めた。

サクラは頷く。


「うむ、セラはだいじょうぶなようじゃ。問題はラピスとリリィじゃな」

「でも桜さん。家事お休みって難しいよ? 苦じゃないんだし、わたしがやっても──」

「ダメとゆうとろうが! 反省が足りんのう!」

「……はい、ごめんなさい」

「掃除はやらない日があっても問題ない。料理はたまには外食したり、出来合いのもので済ませたりせい。リリィが家事を代わるとゆう選択肢が取れん以上、そおするしかなかろう」

「……面目次第もございません」


リリィはシュンと落ち込む。これでも家事をできないことを気にしていたらしい。


ともあれ、これを期にライフスタイルを見直すことにしたラピスたち。

サクラに言われなければラピスが体調を崩すまで気づかなかったかもしれないと思うと、リリィの背筋に悪寒が走る。と同時に、師匠(サクラ)に対する感謝の念が溢れるのだった。

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