203
ラピスが作ったビーフシチューは、パンにつけてもご飯にかけても絶品だった。リリィはまた、自分の了見が狭かったと思い知った。
というか、半年前より遥かに美味しくなっている気がする。また腕を上げたようだ。
「いつもありがとね、ラピス♪」
「いつもありがとうですわ、姉さま♪」
「わたしこそ、美味しく食べてくれてありがとうだよ♪」
3人で笑い合う。いつも通り楽しい食事なのだが、いつもと違うところもあった。
「ねェラピス。セラ」
リリィはご飯のおかわりをよそいながら言う。
「なんで二人はビーフシチューとサラダだけで、ご飯もパンも食べないの?」
ラピスとセラは苦々しい表情を作って答えた。
「「…………ダイエット」ですわ」
あー、とリリィは納得する。しかし二人とも、どう見ても太ったようには見えない。セラは水着なのでわかりやすかった。
肉体の最適化魔法の恩恵もあるので当然かもしれないが、それでも一応訊いてみた。
「ウエストの数字増えたの?」
「んーん。旅行前と一緒」
「わたくしもですわ」
「ならいいじゃない。ダイエットなんてしなくても」
「ダメ。油断したら増えるかもしれないし」
「最低限、旅行で食べた分くらいは運動もしませんと……」
必要ないのになァ、と思ったリリィだったが、藪をつついて蛇を出す趣味はないのでそれ以上は言わない。
それにダイエットをする理由が、自分に可愛いと思ってもらうためだともわかっているので、あまり強くは言えないリリィだった。
食事が終わってティータイム。今日は紅茶だ。
ラピスもセラも、いつもは入れるはずの砂糖もミルクも入れず、ストレートで飲んでいる。ダイエットというのは本気のようだ。
「これはこれで……」
「ありですわね……」
意外と普通に美味しかったらしい。
それが終わったら今度は風呂。ラピスは和メイド服を脱ぎ、リリィとセラはとても服とは呼べない水着を外した。
浴室に入って、いつもはリリィの髪から洗うのだが──
「──…あの……姉さま」
「うん。憶えてるからだいじょうぶだよ。おいで。身体洗ってあげる♡」
その会話でリリィは察した。
「ラピスとセラ、もしかして今夜……」
「……あの──はい♡」
「うん。今日は確か……『二人で城を抜け出した記念日』だっけ?」
「それはまた……微妙な記念日ね」
言葉の通り、リリィは微妙な苦笑いだ。
しかしそういうことなら否やはない。今日はお酒でも呑んで一人で寝ようと決めた。
だがその前に──
「今日は仕事だったからラピス成分が枯渇してるの。だからラピスの身体はあたしが洗うわね♡」
「あ、うん。お願い」
「ふふ、隅々まで綺麗にしてあげるわ♡」
リリィは艶然と微笑み、ラピスは「……お手柔らかにね」と冷や汗を流した。
風呂から上がると、リリィはそそくさと客間に引っ込んでしまった。意味ありげに笑っていたのは気のせいではないだろう。
しかし、片手に持った酒瓶が全てを台なしにしていた。
一方リビングに残されたラピスとセラ。
こちらは手を繋いでソファーに座り、よく冷えたカフェオレを飲んでいる。もちろん甘さ控えめだ。
「………」
「………」
無言ながらも温かい時間が流れる。
まだリリィにも明かしていない事実だが、彼女たち姉妹は本来、言葉によるコミュニケーションは必要ない。身体の一部が触れさえしていれば、テレパシーさながらに以心伝心できる。
言葉を使うのはリリィへの配慮と、互いが相手の声を聞きたいからに過ぎなかった。
「……ねェセラ」
「……なんですの?」
口を開く。そして──
「(好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き♡)」
「!!」
と、ラピスは大声で想った。
恋人繋ぎにしている手からその想いは伝わり、セラは身を硬直させる。
「……も、もう。……そんな大声で想われたら恥ずかしいですわ♡」
「ふふ、じゃあセラもしていいよ」
「では失礼して──」
セラも思い切り大声で想う。
ラピスが好きだと、大好きだと、愛してると、あらん限りの感情を込めて想う。それは──
「(──────────────♡)」
「!!!?」
感情の濁流となり、ラピスの心を覆い尽くした。
「いかがですか?」
「……あうー。……やっぱりセラには勝てないね」
「わたくしが唯一姉さまに勝てるところですから♡」
「このシスコンめ♡」
「それは姉さまもですわ♡」
自然と唇が重なる。意識してでのことではなく、唇が離れてからキスしたことに気づいた程だった。
「……行こうか」
「……はい」
ラピスはセラを誘って寝室に移動する。まだいつもと同じことをしているだけなのに、ひどく緊張した。
照明の魔道具の明かりを落とす。光源は月だけになった。
ぼふん、というベッドの音。セラが倒れこんだらしい。
ラピスは服を脱いで下着姿になると、妹に覆い被さるようにベッドに乗った。
「……綺麗ですわ、姉さま♡」
「……セラも綺麗だよ♡」
ラピスはセラの頬を優しく撫でると、そっとキスをする。今までで1番気持ちいいキスだった。
「……確かセラ、なんでもゆうこと聞く、ってゆってたよね?」
「……はい。……どんな恥ずかしいことでもしますわ」
「……そ。……じゃあとりあえず10回ね♡」
ラピスは天使のように、あるいは小悪魔のように微笑んだ。
「……こおなってから気づいたんだけど、やっぱりわたし我慢してたみたい♡ ……だから手加減できないかも」
「……承知の上ですわ。……覚悟はできています」
「……わかった。……いっぱい気持ちよくしてあげるからね♡」
「……はい♡ ……姉さま♡」
月明かりによってできた2つの影は1つになり、寝室は甘い匂いと甘い空気で満たされた。




