一回戦スタート
今日は、良い天気だ。絶好の野球日和だ。
いよいよ、大会が始まった。
俺のチームの一回戦の試合が今日なんだ。
俺は、本来のチーム選手ではないが、プロ野球選手のAさんの紹介で、チームの仲間に加えてもらえた。
プロ野球選手を目指す俺にとっては、非常に大事な実戦になる。何としても手応えが欲しい。
俺のチームは、投打のバランスが良くて、かなりの強豪だ。ピッチャーのレベルも高い。
そんな中で、今日の先発は、岡田投手だ。直球が速くて、迫力があるボールを投げる。
俺は、前日に監督から、今日投げさせると言われてる。
緊張するが、しっかり準備してチームの勝利に貢献するんだ。
試合が始まった。俺は、ベンチから声を出して、チームメイトを応援した。
俺のチームの打者もなかなか凄い。
一番バッターがいきなりヒットだ。
その後、チャンスで四番バッターに回った。
このバッターは、練習の時は、ボールをめちゃくちゃ飛ばしていた。チームで最も飛距離が出るバッターだ。俺がピッチャーなら、投げるのが怖いくらいだ。
カッキーン、良い音がした。
四番バッターの二塁打で先制した。
ベンチでは、みんなでハイタッチだ。
俺も、その輪に加わった。チームの雰囲気は、最高だった。
俺は、ふと観客席を見渡した。
アイツが来てるか、気になった。
居た! やっぱり来てくれた。
横に俺の妻も居た。妻が、目の不自由な黒田を連れて来てくれたようだ。
俺は、黒田を見ながら、心の中で誓った。
「絶対に良いボールを投げるから、俺の音をしっかり聞いてくれよ」
何となくだけど、黒田が頷いたように見えた。
試合は、1対0 で我がチームがリードして五回まで終わった。先発の岡田投手は、危なげなくナイスピッチングだ。
監督から俺に指示が出た。
「前田、ブルペンで投げとけ」
よし、待っていたぜ!
俺は、気持ちを高めながらブルペンに入った。
ますます白熱する試合の熱気を感じながら、俺はブルペンで投げた。
今日は、直球もフォークボールも上々だ。
試合は、7回まで進んだ。
以前として、1対0 でリードしている。
岡田投手は力投しているが、徐々に疲労が見えた。ウチの打線も相手投手を打ちあぐねていた。
8回に入った。
岡田投手の球数は、100球を超えた。相手チームも必死に食い下がってきた。
ツーアウト満塁の大ピンチになった。俺は、ブルペンから岡田投手へ最大のエールを送った。
フルカウントから岡田投手の渾身の直球で三振にしとめた!
凄え! 鳥肌が立った。
8回が終わると、監督から言われた。
「最終回は、前田でいくぞ。
お前の闘争心を全開にしろ」
キター!! 遂に俺の出番だ。
しかも、一点差の最終回。最高にシビれる場面だ。
岡田投手が、充実感一杯の顔で俺にバトンを渡した。
「前田、頼んだぞ。火の玉ストレートと必殺フォークを見せてやれ」
俺は、高まる気持ちを抑えながら、冷静に頷いた。
最終回のマウンドに上がる前に、観客席の黒田と妻を見た。
「行ってくるよ」
「ピッチャー岡田に代わりまして、前田」
球場でアナウンスされた。
妻が、キャーと叫んでいた。
黒田にも球場のアナウンスは聞こえた筈だ。
「前田! 頑張れー」
マウンドに上がる俺の背中に、ハッキリと親友黒田の声が聞こえた。
ありがとう、黒田。
ありがとう、妻。
ありがとう、チームメイト。
ありがとう、Aさん。
俺は全ての人の気持ちを背負ってマウンドに立った。
一人目のバッターには直球勝負って決めていた。
全球ストレートで、ショートゴロに打ち取った。
よし、あと二人で勝利だ。
しかし、甘くはなかった。
次の打者にはフォークボールをファールで粘られて、ファーボールを出した。
チームメイトが励ましの声をかけてくれた。
次の打者は、フォークボールでセカンドゴロだった。
ツーアウト一塁、あと一人抑えれば勝てる。
「あと一人だ。前田、頼む。抑えてくれー!」
観客席の黒田の声が、聞こえた。
妻が黒田に状況を説明していた。
大丈夫、冷静に、そして闘争心全開でいくんだ。
次は、四番バッターだ。
この選手は、ずっと鋭いスイングをしていた。気をつけないといけない。
流石に、ファールで粘る。
フルカウントから俺の投じた10球目だった。
打たれた打球は、レフト方向に高々と舞い上がった。
ヤバい、逆転ツーランホームランか。
それでも、俺は仲間を信じた。
レフトの選手がフェンスによじ登って大ジャンプ! ボールを掴んだ!!
1対0で勝った!
俺は、嬉しすぎてあまり覚えていない。
ただ一つ、親友黒田の歓喜の絶叫はハッキリと覚えていた。




