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エースナンバー  作者: 砂糖
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10/55

高嶺の花

一回戦が終わった。1対0 で勝った。

勝利の瞬間、俺はマウンドにいた。

俺にとっては、久しぶりの実戦だったので、勝利の喜びをチームメイトと味わえた事がとても嬉しかった。


チームの監督がねぎらってくれた。

「おつかれさん、次も頼むぞ」


「はい、ありがとうございます」

俺は、最終回を抑えて、何とか役目を果たしたが、内容に納得できなかった。

味方の大ファインプレーがなければ、逆転ホームランを打たれていた。


悪かったところをしっかり修正しなければならない。


試合後に黒田と会えた。


黒田は、笑顔だった。

「お前が、投げるボールの音が聞こえていたよ。直球は、かなり速そうな音がしてたぞ」


「ありがとう。最後は、やられたと思ったよ。俺は、やっぱりまだまだダメだな」

少し、落ち込んでいた俺だった。


黒田は、それを察知したように言った。

「最終回、マウンドに立ったお前からの気迫は、目が見えない俺にも伝わったよ。ピッチャーとして、バッターに立ち向かっていくお前を感じる事もできた。

それでいいじゃないか」


親友は、いつだって俺の味方をしてくれる。


俺は、プロ野球選手を目指しているが、同時に会社員でもある。

平日は、仕事もしっかりやらないといけない。

会社では、プロを目指している事は内緒にしてる。多分、笑われるから。


会社で親しい同僚が俺の背中を叩きながら、

「前田、お前何か隠してるだろ」


俺は、ドキッとした。

「なんだ?何も隠してない」

俺はトボけた。


「前田君、本当に何も隠してないの?」

会社で一番美人の女性にも言われた。俺は、昔、この女性に片想いをしていた。


「えっと…… いや、それは……」

俺は、美人かつ高嶺の花だった女性に動揺をあらわにしてしまった。

男の同僚にはトボけたのに。


美人に見つめられたら、俺は終わりだ。落城したも同然だった。


「遊びで、野球をやってるんだ。おかげでちょっとだけ疲れてるんだ」

プロ野球選手を目指している事は、流石に言えなかった。


でも、彼女は許してくれなかった。

「それにしては、最近とても辛そうだよ。それだけじゃないでしょ?

私には分かるよ」


さすが、かつて俺が憧れた人だ。鋭い勘を持っている。

ついに俺は完全に落城した。

「実は、プロ野球選手を目指しているんだ。毎日、仕事が終わった後にトレーニングしてるよ」


彼女は、驚いていた。

「えー、そうだったの?何か凄い事をやっているのかと思っていたけど、まさかプロ野球選手を目指しているなんて凄いじゃない!!」


俺は聞いてみた。

「会社では普通にしてるつもりだったんだ。どうして分かったの?」


彼女は、笑って言った。

「私は、入社以来、前田君の事が気になっていたんだよ」


えっ!? どういう事なんだ。


「それなのに、前田君は全然気づいてくれなかったね。私は前田君にフラれていたんだよ」


いや、違うよ。俺がずっと片想いしていたんだ。振り向いてくれそうにないから諦めたんだ。


「前田君は、さっさと結婚しちゃったね。ちょっとショックだったな〜」


なんてことだ。人生色々だ。

ひょっとして、俺は会社で一番の美人と結婚したかもしれなかったんだ。


幻想は、や〜めよっと

今の俺には、世界一の妻がいる。自分勝手な俺の夢に付き合ってくれる、最高の女性だ。


今の俺には、他の女性は目に入らないぜ。うん、間違いない。多分ね……


結果的に会社の友人に夢を打ち明けて良かった。

俺の孤独な挑戦に、光を当ててくれる仲間が新たにできた。


理解してくれる人がいてくれたら、それだけで救われる。

会社で仕事している時も、何となく以前よりも気持ちが軽くなった。


大会では、一回戦を突破した。

これからが、佳境に入る。

ますます気持ちを引き締めて、今度こそ、しっかり抑えられるように気合を入れ直そう。


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