高嶺の花
一回戦が終わった。1対0 で勝った。
勝利の瞬間、俺はマウンドにいた。
俺にとっては、久しぶりの実戦だったので、勝利の喜びをチームメイトと味わえた事がとても嬉しかった。
チームの監督がねぎらってくれた。
「おつかれさん、次も頼むぞ」
「はい、ありがとうございます」
俺は、最終回を抑えて、何とか役目を果たしたが、内容に納得できなかった。
味方の大ファインプレーがなければ、逆転ホームランを打たれていた。
悪かったところをしっかり修正しなければならない。
試合後に黒田と会えた。
黒田は、笑顔だった。
「お前が、投げるボールの音が聞こえていたよ。直球は、かなり速そうな音がしてたぞ」
「ありがとう。最後は、やられたと思ったよ。俺は、やっぱりまだまだダメだな」
少し、落ち込んでいた俺だった。
黒田は、それを察知したように言った。
「最終回、マウンドに立ったお前からの気迫は、目が見えない俺にも伝わったよ。ピッチャーとして、バッターに立ち向かっていくお前を感じる事もできた。
それでいいじゃないか」
親友は、いつだって俺の味方をしてくれる。
俺は、プロ野球選手を目指しているが、同時に会社員でもある。
平日は、仕事もしっかりやらないといけない。
会社では、プロを目指している事は内緒にしてる。多分、笑われるから。
会社で親しい同僚が俺の背中を叩きながら、
「前田、お前何か隠してるだろ」
俺は、ドキッとした。
「なんだ?何も隠してない」
俺はトボけた。
「前田君、本当に何も隠してないの?」
会社で一番美人の女性にも言われた。俺は、昔、この女性に片想いをしていた。
「えっと…… いや、それは……」
俺は、美人かつ高嶺の花だった女性に動揺をあらわにしてしまった。
男の同僚にはトボけたのに。
美人に見つめられたら、俺は終わりだ。落城したも同然だった。
「遊びで、野球をやってるんだ。おかげでちょっとだけ疲れてるんだ」
プロ野球選手を目指している事は、流石に言えなかった。
でも、彼女は許してくれなかった。
「それにしては、最近とても辛そうだよ。それだけじゃないでしょ?
私には分かるよ」
さすが、かつて俺が憧れた人だ。鋭い勘を持っている。
ついに俺は完全に落城した。
「実は、プロ野球選手を目指しているんだ。毎日、仕事が終わった後にトレーニングしてるよ」
彼女は、驚いていた。
「えー、そうだったの?何か凄い事をやっているのかと思っていたけど、まさかプロ野球選手を目指しているなんて凄いじゃない!!」
俺は聞いてみた。
「会社では普通にしてるつもりだったんだ。どうして分かったの?」
彼女は、笑って言った。
「私は、入社以来、前田君の事が気になっていたんだよ」
えっ!? どういう事なんだ。
「それなのに、前田君は全然気づいてくれなかったね。私は前田君にフラれていたんだよ」
いや、違うよ。俺がずっと片想いしていたんだ。振り向いてくれそうにないから諦めたんだ。
「前田君は、さっさと結婚しちゃったね。ちょっとショックだったな〜」
なんてことだ。人生色々だ。
ひょっとして、俺は会社で一番の美人と結婚したかもしれなかったんだ。
幻想は、や〜めよっと
今の俺には、世界一の妻がいる。自分勝手な俺の夢に付き合ってくれる、最高の女性だ。
今の俺には、他の女性は目に入らないぜ。うん、間違いない。多分ね……
結果的に会社の友人に夢を打ち明けて良かった。
俺の孤独な挑戦に、光を当ててくれる仲間が新たにできた。
理解してくれる人がいてくれたら、それだけで救われる。
会社で仕事している時も、何となく以前よりも気持ちが軽くなった。
大会では、一回戦を突破した。
これからが、佳境に入る。
ますます気持ちを引き締めて、今度こそ、しっかり抑えられるように気合を入れ直そう。




