ついに……
今シーズンを終えたある日、球団から告げられた。
「前田君、よく頑張ってくれた。多くの困難を乗り越えた君から勇気を貰ったよ」
球団の偉い人から言われて、俺は恐縮するばかりだ。
エライさんは続けて、
「そこでだ、来年も頑張って欲しいので、君にこれをプレゼントするよ。由伸監督も承知しているから受け取ってくれよ」
「じゃーん、コレだ!」
エライさんが取り出した物は……
背番号18のユニフォームだ!
ネームも、MAEDAだ!
エライさんは、ニッコリしている。
「前田君、これを着て来年も頼むよ!」
俺は、ビックリを通り越してしまった。
「本当ですか? 巨人には菅山投手を始め、僕よりも良い投手がたくさんいるじゃないですか」
エライさんは真剣な顔で、
「実は、菅山投手に18番を打診したんだが、彼はぜひ前田さんにって言っていたんだ」
「由伸監督にも相談したんだが、前田君の姿は若手の見本にもなるから、ぜひ君に18番を背負ってほしいそうだよ」
そうだったのか、改めてユニフォームに目を落とした。
巨人の入団テストを受けたのは、桑田さんに憧れていたからだ。かつて18番を背負って、巨人の黄金時代に3本柱の1角として君臨した姿が眩しくカッコ良かったんだ。
その桑田さんと同じ番号を背負えるなんて……
その後、エライさんとどんな話をしたのか記憶にないほど舞い上がってしまった。
夢だった巨人のエースナンバー18をついに背負える事になったんだ!
妻に知らせよう。俺は、ご機嫌で家に帰った。すると、家から妻の叫び声が聞こえきた。
何だ? どうしたんだ?
俺が家に入ると、妻が布団叩きを持って走ってきた。
「健一、恐ろしい生き物がいる、退治してよ!」
エースナンバーの話はひとまず置いておくか……
俺が見に行くと、とても小さな虫がノンビリと歩いていた……
俺は、指に乗せて外に逃がしてやった。これが恐ろしい生き物か、布団叩きは必要無かったなぁ……
妻は大喜びで、
「健一、ありがとう。じゃあ私は美容院に行ってくるね〜」
エースナンバーの話は更に後になるんだな。そう思いながら、妻を見送ろうとした時だった。
「健一、来年からエースナンバー18を背負うんだよね。本当に良かったね。健一の努力の賜物だね。帰ったら一緒にお祝いしようね!」
そう言い残して、妻は美容院に向かった。妻は何でもお見通しなんだな。
エースナンバー18を貰った事を報告したい人は他にもいる。
俺は、プロを目指していた頃に所属していたチームは草野球同然だった。そこで、高校時代の恩師にボールを受けて頂いて、ピッチング練習をしていた。
恩師の協力のおかげで、俺は巨人の入団テストに合格できた。しかし、その直後、恩師は病に倒れて他界された。
俺は、恩師のお墓参りに行った。
「お久しぶりです。俺は、ついに巨人のエースナンバー18を背負う事になりました。恩師のおかげです。ありがとうございました」
お墓に向かって語りかけた。天国から見てくださっているはずだ。これからも、よろしくお願いします。
お墓参りを終えた足で、親友黒田とも会った。
「黒田よ、俺は来年から背番号18を付ける事になったよ」
まずは、報告した。
「そうか! とうとうやったなぁ。俺の目には見えないけど、お前に似合うんだろうな」
黒田は、自分の事のように喜んでくれた。
黒田は目が不自由なのに、俺が壁にぶち当たった時にいつも精神的に支えてくれた。この男にも大恩がある。
黒田は、嬉しそうに続けた。
「目が不自由な俺にとってお前の活躍は希望だったよ。俺が、絶望感を抱きながらでも生きられるのは、お前のおかげなんだ。ありがとう!」
黒田は、心理カウンセラーとして懸命に生きている。実は俺なんかより強い男なんだ。
俺は、黒田に誓った。
「エースナンバーを守って、これからもお前を満足させられるように頑張るよ」
俺は、シーズンオフでもトレーニングを欠かさず、正月だって体を鍛えていた。エースナンバーを背負って、新たなシーズンに賭ける想いは格別だ。
サインを書くのが更に嬉しくなる。名前の横に書く18がたまらない!
キャンプインしてからも絶好調だ。
以前なら、ブルペンで投げている時に首脳陣の目が気になったが、今は違う。
余計な事を考えずに、集中できている。だから、ボールの音もよく聞こえる。空気を切り裂くキレイな音が響いている。
充実したキャンプが終わった。
いよいよシーズンが始まる。
俺のサクセスストーリーの集大成が始まるんだ!




