ファイナルステージのリリーフ
クライマックスシリーズ、ファイナルステージは巨人の2勝、広島の2勝でますます白熱してきた。俺は、前の試合で先発して勝ち投手になれた。
次の試合では、広島カープが得意のホームラン攻勢だった。角選手、鈴田誠也選手、ヘキドレッド選手が3者連続バックスクリーンへの強烈なホームランを見舞う。巨人投手陣は総崩れになってしまった。
巨人打線も、広島先発の中瀬良投手に手も足もでない。俺はベンチで大きな声を出すが、中瀬良投手のボールは恐ろしく良かった。
残念ながら、10対1で敗れた。
これで、広島の3勝となった。巨人はあと1つ負けたら、ファイナルステージで敗退が決まる。まさに、崖っぷちに立たされた。
背水の陣で、高橋由伸監督は、先発にエース菅山投手を指名した。俺は中継ぎ待機を命じられた。
試合が始まると、すぐに俺はブルペンで準備を始めた。いつでも行けるようにするためだ。
試合は、菅山投手と広島エースの山田さんの投手戦だ。2人とも鬼気迫る表情で打者を打ち取っていく。これが真のエース対決なんだな。
菅山投手は、初回から全力投球で飛ばしていく。しかし、7回に不運なポテンヒットで1点を失ってしまった。ベンチに戻ってきた菅山投手はグローブを叩きつけて悔しがっている。この選手が感情的になる事は珍しい。
俺は、何も言わずにタオルとドリンクを渡した。菅山投手は、申し訳ありません、と短く言うのがやっとだった。
「前田、次はお前で行くぞ。準備はできているな!」
監督から大きな声が掛けられた。
待ってましたー。俺に任せて下さい!
マウンドに上がる前に菅山投手から、託された。
「前田さん、俺の仇を取って下さい。広島打線を黙らせて下さい!」
菅山投手とグータッチを交わしてからダッシュでマウンドに駆け上がった。
この回は、角選手からだ。いきなり強敵だ。ファイナルステージで4本のホームランを打っており、絶好調の打者だ。
しかし、俺だって負けない。火の玉ストレートとお化けフォークで追い込んだ。
俺が投げるボールの音も聞こえている。集中できている証拠だ。
最後は、今シーズン最高のボールを投げられた。角選手の膝元へ渾身の直球を投げ込んだ!
角選手は見送るしかなかった。
「ストライク、バッターアウト!」
見逃し三振だ。スピードガンは157キロを表示していた。
続いて鈴田誠也選手、ヘキドレッド選手も三振に仕留めた。3者連続三振だ!
野球を始めて以来、最高のボールを投げれたと言っても過言ではなかった。
かつて、肘のケガやイップスに苦しんでいた俺はもういない。自分を信じて、腕を振れば、俺のボールは誰にも誰にも打たれないぜ!
8回を完璧に抑えて、マツダスタジアムは静かになった。俺は意気揚々とベンチに帰った。ベンチでは、みんなとハイタッチ祭りだ。
特に、菅山投手は大喜びで、
「前田さん最高でしたよー。男前ですね!」
あたり前田のクラッカーだ! ちょっと古いかな……
俺は役目を終えて、ベンチから一生懸命に応援した。
しかし、巨人の最終回、広島のクローザーが立ち塞がる。ツーアウトランナー無しでキャプテンが打席に入る。俺はキャプテンを信じている。この男はいつだって、チームを救う一打を放ってきたんだ。
キャプテンが狙いすましたように、ライナーで一二塁間を抜く……はずだった。
しかし、広島には日本一のセカンドがいる。忍者の異名を持つ選手だ。普通なら完全にヒットになるコースだが、信じられない距離を横っ飛びだ。
ボールが忍者のグローブに収まった……
セカンドライナーでゲームセットだ。この瞬間、クライマックスシリーズ、ファイナルステージでの敗退が決まってしまった……
大盛り上がりのマツダスタジアムで、広島の選手たちが喜び合っている。
悔しかったが、俺はこの光景を目に焼き付けた。来年、リベンジするために。
俺はどうしてもお礼を言っておきたい人がいる。広島の山田さんだ。
「俺がここまで来れたのは、山田さんがいたからです。プロの入団テストを受ける前から今日まで本当にありがとうございました!」
俺は、心の底から謝辞を伝えた。
山田さんは、優しい顔で、
「僕の方こそ、勉強させてもらいましたよ。親友との約束を果たす為に、プロテストを受けて、巨人に入ってからも前田さんはとにかく熱かった。熱すぎて、火傷しそうでしたよ」
「前田さんと投げ合う時は、僕も120%の気合いで勝負しました。楽しかったですよ。来年、また勝負ですよ!」
ガッチリ握手して、お互いの健闘を讃えた。
監督からも、
「前田、ご苦労さん。クライマックスシリーズだけじゃなくて、今シーズンのお前は本当に凄かったぞ。よくぞ、イップスから立ち直ってくれたな」
監督、ありがとうございます。
今シーズンは、苦しみもあったが、そのおかげで一段と大きくなれたように思う。
とにかく、クライマックスシリーズが終わってホッと一息だ。
それから、暫くして球団からある事を告げられた。それは、夢にも思わなかった事だった……




