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エースナンバー  作者: 砂糖
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50/55

打者、前田

クライマックスシリーズ、ファイナルステージの第3戦の先発を任された俺は、初回からピンチで、以前に頭に当ててしまった鈴田誠也選手を打席に迎える。


キャッチャーのサインは、やはりアウトコースだ。俺は、腕をしっかり振る事だけを考えて投げた。広島ファンの声援の為、投げるボールの音は聞こえない。


決まった! アウトコースいっぱいでストライクを取れた。2球目はインコース直球のサインが出た。俺は一瞬首を振りたくなったが、その時、右腕を見た。


右腕が俺に語りかけている。

「たとえ、ボールの音が聞こえなくても、右腕を信じろ! お前の右腕には、トミージョン手術から復活させてくれた恩人たちの魂が宿っているんだぞ!」


俺は、そっと肘を撫でた。頼むぞ、俺に力を与えてくれよ。


俺はもうイップスじゃないんだ。鈴田誠也選手のインコースを突くことに何の不安もないはずだ!


2球目を投じたが、鈴田誠也選手はこれも見送った。判定はボールだ。


やや体に近いコースにいったので、観客席からブーイングが飛ぶ。


俺は自分に言い聞かせる。

「大丈夫だ。あんなのは普通のインコースのボールだ。ヤジは気にしない」

と言いつつ、ファイナルステージの重圧が俺の気持ちを乱れさせた。


ここで、遊撃手のキャプテンが俺を救ってくれた。

「前田さん、今日のボールはキレていますよ。どんどんインコース行きましょう!」

この一声で開き直れた。


次もインコースの直球で懐をえぐった。鈴田誠也選手は、3球続けてストレートとは予想していなかったのか、タイミングが全く合わずボテボテのピッチャーゴロに終わった。


キャプテンの一声がなければ、重圧に押し潰されていた。

初回のピンチを何とか切り抜けだが、早くも大粒の汗が流れる。こんな調子でもつだろうか?


アンダーシャツを替えて2回のマウンドに上がるが、ここでも大きなヤマが待っている。


かつて、乱闘で殴られたヘキドレッド選手が打席に入る。

一応、和解していたが、あの時貰った強烈なパンチは忘れられない。


観客席からも容赦ないヤジが聞こえる。

「ヘキドレッド、前田にもう一発食らわせてやれ!」


ヘキドレッド選手は体も大きくて、迫力は鈴田誠也選手以上かもしれない。ホームランを打たれた事もあるし、嫌な思い出満載の打者だ。


鈴田誠也選手には3球直球を続けたが、俺には他にも武器がある。お化けフォークだ。


初球からフォークボールで入った。ヘキドレッド選手は強振してきたが、俺のボールはよく落ちた。


まずは、一つ空振りを取れた。とにかく、ヘキドレッド選手を見ないようにしよう。顔を見たら、どうしてもパンチが脳裏をよぎる。


この対戦では、ムキになって直球勝負に行くと危険な匂いがする。

直球は見せ球にして、カーブとチェンジアップで追い込んだ。


観客席からは、またヤジだ。

「前田、ビビってやがるのか! 直球で正々堂々と勝負しやがれ!」


ヤジにも慣れてきた。俺は、直球は投げないぜ。


勝負は自信のあるフォークボールだ。殴られたお返しだ!


指にしっかりボールを掛けて、コースを狙うよりも腕を強く振るんだ。


「ストライク、バッターアウト!」

空振り三振に倒れたヘキドレッド選手は、ヘルメットとバットを派手に投げ飛ばした。


俺にとって、大きな山である2人を抑えられた事が大きかった。

この後、巨人の攻撃でチャンスが生まれた。ここで打席に入るのは、俺だ!


ツーアウトだが、3塁にランナーがいる。先制点が欲しい場面だ。


俺は子どもの頃からピッチャーをやっているが、打つのは好きなんだ。高校時代はエースで4番だった。


広島の先発山田さんは、直球に力がある本格派だが、多彩な変化球も持っている。変化球が来たら、俺の技術ではどうしようもない。


打席では、直球だけを待った。しかし、直球が来ない……。


変化球2つであっという間に追い込まれた。アウトコースの直球だけを待とう。他のボールだったらゴメンナサイだ。


自信満々で山田さんが投げ込んでくる。


キター! 俺が待っているボールだ!

俺は、ボールに負けないように、しっかりバットを振った。


三遊間を鋭く抜けていった! 先制ヒットだ! 一軍では初めてのタイムリーだ。


1対0だ。自分のバットで点を取った事で、俺は気分も乗ってきた。序盤の緊張も薄れて、ボールもますますキレてきた。


回が進むにつれて、疲労は出てくるが、集中力は落ちなかった。序盤は、広島ファンの大声援で、俺の投げるボールの音が聞こえなかった。


しかし、中盤以降、自分の意識の中に入り込めた。


親友黒田が言ってくれたように、俺の音はキレイだった。この音が聞こえると、絶対に俺は打たれたない。


7回のピンチでは、去年のセリーグMVPの角選手を迎えるが、俺の火の玉ストレートでねじ伏せた!


ここでマウンドを降りた。ベンチでは高橋由伸監督とガッチリ握手だ。


試合は、2対0で巨人が勝った。これでクライマックスシリーズは、アドバンテージを含めて広島の2勝、巨人の2勝になった。


がっぷり四つだ。いよいよ佳境を迎える。



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