ファイナルステージ
いよいよ、クライマックスシリーズ、ファイルステージが始まる。俺は第3戦の先発を告げられている。
初戦は、巨人のエース菅山投手が最多勝の貫禄を見せた。強力広島打線を8回2失点に封じた。打線も、広島投手陣を捉えた。
特に、遊撃手のキャプテンが流石の勝負強さだ。満塁ホームランを含む5打点の活躍だ。守備でも再三のファインプレーでチームを救った。
キャプテンは、ベンチでもナインを鼓舞しており、リーダーシップも素晴らしい。俺より年下なんだが、球界のスーパースターと呼ぶにふさわしい選手だ。
巨人には、高橋由伸監督を始め、菅山投手やキャプテンなどプレーだけでなく人間的にも尊敬すべき選手が多い。このチームで日本一になりたいと心から思う。
初戦は、6対2で巨人の勝利だ。
第2戦は、広島先発のチョンソン投手が立ち塞がる。巨人の投手も1失点で粘って、0対1でリードを許したまま9回に入った。
先頭打者はベンチから出る時に、
「必ず出塁するから、後は頼むぞ!」
すごい、気合いだ。ベンチからも大きな声が上がる。これがクライマックスシリーズの緊張感だ。半端ないぜ!
初球からセーフティバントを敢行する。ヘッドスライディングで一塁に飛び込む!
「セーフ!」
審判の手が広がると、巨人ベンチは更にヒートアップしていく。俺も大きな声を出していた。
その後、ツーアウト三塁で打席にはキャプテンが向かう。監督も、キャプテンの背中を叩いて、気合いを注入している。キャプテンから闘志溢れるオーラが出ている。
マウンドには、広島カープのクローザがいる。今シーズンのセリーグ、セーブ王のタイトルを獲得した投手だ。
フルカウントからの直球をキャプテンが捉えた!
打球はレフト方向に高々と舞い上がる。
広島の左翼手が背走している。巨人ベンチは誰もが、逆転ツーランホームランを確信した!
キャプテンを迎える準備だ!
その時、左翼手がフェンスによじ登って大ジャンプをするのが見えた。
まさか、キャッチできるはずがないだろう。マツダスタジアムは広島ファンの悲鳴に包まれる。はずだった……
レフトスタンドの広島ファンから大歓声が聞こえている。まさか……
審判がアウトのジャッジをしている。左翼手が信じられない大ジャンプでホームランボールを掴んでいたんだ。
試合が終わった。0対1で巨人は敗れた。
キャプテンは試合後、悔し涙を流していた。あの打席に賭ける想いがよほど大きかったんだ。ロッカールームでキャプテンに言われた。
「次の試合の先発は前田さんですよね。僕は前田さんの熱闘を信じています。必ず勝ちましょう!」
まるで、甲子園大会の高校球児のような熱さだ。俺は、熱いのは大好きだ。勝ちたい気持ちは、絶対に誰にも負けない!
これで1勝1敗だが、ファイナルステージでは広島にアドバンテージ1勝があるので、巨人は1勝2敗になる。
次の試合で負けたら、広島がファイナルステージ突破に王手がかかる。
つまり、俺は、絶対に負けられない試合の先発マウンドに立つ。
広島の先発は、エース山田さんだ。俺がプロ入りできたのは、山田さんのおかげと言ってもいいぐらいお世話になった人だ。
他球団の投手の中では、最も意識してきた。その人と、この大舞台で対決できるなんて夢のようだ。
実績では山田さんに負けているが、やるからには負けたくない。
山田さんは、俺がトミージョン手術やイップスに苦しんでいる時も励ましてくれて、いつか一軍のマウンドでの対決を約束していたんだ。
「巨人のピッチャーは前田、背番号38」
360度真っ赤なマツダスタジアムにアナウンスが響く。パフォーマンスシートの数少ない巨人ファンが声援をくれた。
俺は、周りは敵だらけのアウェーが燃えるぜ。広島ファンを黙らせてやる!
バットネット裏には、妻と黒田が来てくれているはずだ。姿は見えないが、二人が力をくれるに違いない。
マウンドに立つと、いつもと違う違和感を感じた。
広島ファンの応援が凄くて、他の音が聞こえにくい。俺は集中する時には、投げるボールの音に耳を澄ませるのだが、今日は聞こえないかもしれない……
不安がピッチングに出てしまった。腕をしっかり振れない。俺の投げるボールはキレていなかった。
ツーアウトから角選手に二塁打を打たれた。ここで4番鈴田誠也選手を迎える。
忘れられない光景が脳裏をよぎる。鈴田誠也選手の頭にデッドボールをぶつけて、怒ったヘキドレッド選手に殴られた。
それからボールを投げられなくなった。イップスという長い長いトンネルの入口になった。
「前田、また当てたら許さんぞ!」
観客席からはヤジも聞こえる。
マツダスタジアムは騒然としてきた。集中して、ボールの音を聞くことも難しい。
どうする?
俺は、一回から正念場に立たされた。




