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エースナンバー  作者: 砂糖
24/55

恐ろしいほどのパワー

キャンプは、今年も二軍スタートだ。去年、一軍で投げていない俺だから仕方ないな。

キャンプ中でも、首脳陣に評価してもらえたら一軍に呼んでもらえる可能性はある。


自主トレーニングでしっかり体作りをしてきたから、キャンプ序盤から調子は良かった。今年から腕を下げてサイドスローにした。おかげでコントロールが安定して、変化球のキレも良くなった。


去年は、ブルペンで投げている時にコーチの目や隣の同僚のボールが気になったが今年は違った。


必要以上に気負わず、平常心で投げる事ができている。


二軍の紅白戦でも、安定していた。

そして、ついに一軍のキャンプに呼ばれた。


ヤッター! 去年は、一度も一軍で野球をできなかったので、嬉しくてたまらない。


妻に一軍合流の報告をしたら、こんな風に祝福してくれた。

「良かったね! 一軍は、イケメン選手たくさんいるのかしら?高橋由伸監督のサインもらってね。あと、私が東京ドームの試合で始球式させてもらえるように頼んでよ」

これも、妻なりの俺に対する愛情表現だろう。多分ね……


一軍合流した日は、まず皆さんに挨拶した。

「前田健一です。よろしくお願いします」


「前田、やっと来たな。俺は、入団テストでお前を見た時からずっと待っていたぞ。俺たちに力を貸してくれよ」

高橋由伸監督が、言ってくれた。テレビでは、クールなイメージだけど実は熱い人のようだ。


それと、確かに俺よりイケメンだな。練習終わったら、サインのお願いしてみよう。妻の始球式の件は、怒られそうだから、やめておこう。


一軍のブルペンに入ったが、二軍との違いにビックリした。

まず、空気が違う。張り詰めた緊張感がある。そして、ピッチャーが投げてキャッチャーが受けるボールの音が凄いわ。


他のピッチャーと並んで投げる時に、自分の帽子の裏に書いた文字「無欲」を見た。


いいカッコしようと考えたらダメだ。無欲で投げるんだ。

ふぅーと息を吐いてから投げ始めた。


全て直球を投げた。走り込みによる下半身強化のおかげで、フォームも安定している。


コーチも、褒めてくれた。

「二軍のコーチが推薦するだけのことはあるな。いいボールだったぞ。昔の斎藤雅樹を思い出すフォームだな」


俺はまだまだ未熟だし、あの大エース斎藤雅樹さんに申し訳ないな。


その後、一軍の打者相手に投げる機会をもらえた。

みんな、テレビで見た選手ばかりだ。スゲェ迫力だ。


打者の調整のための練習だったので、ある程度は打たせる必要がある。

でも、やっぱり一軍の打者は違う。打ちやすいボールは、確実にバットの芯で捉えてくる。

一軍の打者のレベルを改めて感じたが、これも勉強だ。


二月の下旬になると、オープン戦だ。ここで、アピールできれば開幕一軍が見えてくる。


しかし、甘くなかった。

広島東洋カープとのオープン戦で1イニング投げさせてもらった。

無欲のつもりだったが、それでも緊張した。いきなり、二人続けてファーボールを出してしまう。


次の打者には、ストライクを取りにいった甘いボールを完璧に打たれた。

ヘキドレッド選手にスリーランホームランを食らってしまった。

外国人打者のパワーは恐ろしいほどだった。


頭の中が真っ白になった。

後続の打者はなんとか抑えたが、1イニングで3失点の内容だった。

ベンチでしょんぼりしていると、高橋由伸監督が声を掛けてくれた。

「打たれて学ぶ事もある。スリーランホームランの後は、抑えたじゃないか。後で、俺のサインやるから奥さんに渡しといてくれ」


監督…… 俺は、あなたに一生ついていきます! 妻のサインのおねだりも覚えていただいたんですね。


一軍の打者は、一球のミスを見逃してくれない。しかし、怖さを知ってしまうと前のように無欲で投げられなくなった。


甘いボールを投げたらいけない意識が俺の邪魔をする。思い切って投げられない。


ブルペンでは、打者がいないから無欲で投げられるが、試合では、そう簡単にいかない。


次のオープン戦では、コーナーを狙いすぎて、強く右腕を振れない。


俺のボールにキレがなくて、打者に打ちやすいボールになってしまった。この試合でも、失点を重ねてしまった。


俺は小さい頃から、ずっとエースピッチャーで、ほとんど敵なしだった。エースで四番でチームの中心選手だった。


その俺が、全く通用しない。俺は、自信を完全に失った。

この世界でやっていけるワケがない……


一軍にいたら、レベルの高さで自信を失うばかりだ。

いっそのこと、二軍に落ちた方が楽かもしれない……


自分の中の負のスパイラルを止められない。一軍の壁はあまりにも高かった。


キャンプ終盤には、二軍行きを告げられる。当たり前だ。

そのまま、二年目のシーズン開幕も二軍スタートになった。


こんな時、親友黒田なら何て言うかな?あいつは、心理カウンセラーだから相談してみようかな。でも、弱音を吐くのはカッコ悪いからやめとこう。


その二日後に、黒田が俺を訪ねてきた。目が不自由なのに。

何で来たのかな?連絡は取っていないのに。


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