準々決勝
チームは、一回戦を突破して、ますます雰囲気が良くなってきた。
俺は、大会直前にチームに加えてもらったが、このチームで優勝したいと本気で思っていた。
二回戦も僅差で緊迫した試合だったが、3対2 で勝利した。
三回戦は、5対1 でまたまた勝利!
俺は、二回戦と三回戦でそれぞれ1イニングずつ投げた。
一回戦では、ゼロに抑えたものの、味方の守備に助けられた結果だった。
二回戦と三回戦では、共に1イニング3人ずつ、合計6人を完璧に抑えた。三振も取れた。
特に、直球が良くなってきた。
チームも俺も調子が上がっている。
次はいよいよ準々決勝だ。
ある日の練習後、監督から言われた。
「前田、調子良さそうだな。準々決勝の先発投手は、お前でいくぞ」
えっ、マジか?
俺は、まさか先発投手は予想していなかった。他にも良い投手がいるのに、何故俺なんだ?
「俺は、前田の闘争心を買った。お前は、気持ちのスイッチが入ると凄いボールを投げるよな。今度は、最初からアクセル全開でいってくれ」
監督が俺の胸を叩きながら、言ってくれた。
「はい、任せてください!」
俺は、力強く言いながら、監督とグータッチをした。
俺にとって、この大会はプロ野球選手を目指す上での一つのステップだが、今はとにかく勝ちたいんだ。このチームメイトと優勝したい。
そのために、全力で右腕を振るんだ。
準々決勝の日は、暑かった。
俺は、ますます燃えてきた。
観客席には、親友黒田と俺の妻の姿があった。この試合も、目の不自由な黒田を妻が連れてきてくれた。
「ピッチャーは、前田」
球場のアナウンスで発表された。
俺は、今大会初めて先発のマウンドに上がった。
アナウンスがあると、やっぱり妻はキャーと叫んでいた。
妻は、いつも叫んでいる……
相手チームは、強力打線がウリだった。少しでも、気をぬくとやられてしまう。
気合充分の俺は、直球を軸にしてフォークボールを使いながら、立ち向かっていった。
調子は、絶好調だった。
味方打線は、相手投手の速いボールに苦戦していた。
6回まで、0対0 でお互い一歩も譲らない展開だ。
7回に入ると、俺の球数もかなり増えてきた。これまでの試合は、リリーフ登板で1イニングずつだったから、多くの球数を投げるのは初めてだ。
疲労から、ボールが上ずってコントロールが悪くなってきた。
2本のヒットとファーボールでワンアウト満塁の大ピンチだ。
俺は、観客席の黒田と妻を見た。
苦しくなると、2人を見て力を貰うんだ。
黒田は、見えないはずの目で、俺を見つめている。きっと、静かに力を貸そうとしているに違いない。
妻は、やっぱり、キャーと叫んでいた。
静かな黒田と賑やかな妻、どちらも俺に大きな元気をくれる。
ワンアウト満塁で、俺が狙うのは、ダブルプレーだ。
俺の必殺フォークボールが炸裂した。バッターを、ショートゴロでダブルプレーに打ち取った!
よしっ! 俺は、小さくガッツポーズをした。
俺が、投げたボールの音は、黒田の耳に届いたはずだ。
アイツは、いつもボールの音を通して俺と会話をしている。
アイツの見えない目が語っていた。
「前田、そのままでいいぞ。あと少しだぞ」
俺のボールの音に対して、黒田の答えは、多分こんな感じだろう。
俺が、ピンチを切り抜けた直後、ウチのチームがついに 0対0 の均衡を破った。
キャプテンのツーランホームランで2点先制した。
2対0 でリードを保ちながら最終回に入った。
ベンチで監督から、
「前田、完封して来い!」
ゲキが飛んだ。
俺は、120球投げて疲労は感じていたが、どうしても一人で投げ切りたかった。
このチームの一員として、チームメイトと一緒に次の準決勝に行きたかった。
相手は、俺のフォークボールを狙っているのが分かった。
最終回は、ほとんど直球勝負でいくぞ。
3人のバッターを全て三振にしとめて、ゲームセット!!
俺は、130球以上投げて、ヘトヘトだったが、チームメイトが俺の腕を上げて、ガッツポーズさせてくれた。
2対0 勝った。
俺は、9回を一人で投げ切った。
俺にとって、大きな自信になった。
観客席では、黒田が満足そうにしていた。
ありがとう、黒田。お前とボールを通して会話しながら、投げ切れたよ。
隣にいた妻は、やっぱり叫びまくっていた。近くの人たちは、迷惑そうだった….…




