第97話 イザベラVSルシエル
次の日は朝から全員で冒険者ギルドに赴いた。
シスターズも職業を登録するからと言っていたが、ルシエルだけは転送魔法陣の事があるので、先に付いて来てもらう事にした。
冒険者ギルドに着くと、【御者】とルシエルがマスタールームに招かれた。他のメンバーは一階で待機、依頼ボードを見るも良し、職業登録するも良し、隣接している酒場で休憩するも良し、各々に任せて待ってもらっている。
「おはようございます、態々ご足労頂きましてありがとうございます。どうぞ座ってください」
「おはようございます」
「おはようございます」
ギルマスのイザベラさんが非常に丁寧に対応してくれた。
出会いの印象が最悪だっただけに、余計に丁寧に感じる。ギャップとは恐ろしいものだ。
改めて見ると、美人だしスタイルもいいしメガネだし。知的なお姉様って雰囲気で素敵な美人さんなのに、偶に壊れるんだね。残念です。
少し間があって説明を始めてくれた。【御者】のリロード中だったのかな?
「後でイーサンも来ますが、先に話を進めましょう。内容はイーサンも分かっていますので。途中で入って来ても彼なら大丈夫でしょうから」
「わかりました」
「では、早速ですがルシエルさん。リーダーさんから話しは聞いて頂いてますか?」
「……はい」
転送魔法陣の話はしたけど、リーダーとは言って無かったな。今の間はリーダーに戸惑ったのかもな。
「あなたのメキドナでの活躍はこの王都にも届いています。ダンジョン内から外と結べる転送魔法陣を描ける天才魔法少女。その功績だけでなく、弓の実力も素晴らしいと聞き及んでおります、今後も長く良い関係を続けたい思っております。宜しくお願いしますね」
イザベラさんはそうルシエルに話すと、最後にニコっと微笑んだ。
たぶん、男ならイチコロだね。ん? ルシエルもイチコロか? あ、このモジモジしてるのは、天才魔法少女って言われて照れてんのか。顔を真っ赤にして俯いてモジモジしてんのは、そういう事だよな。
「ここここちらこそ、おねがふ・・・・・」
噛んだ。
今度は青い顔して俯いてしまったよ。忙しいな、ルシエルは。
「そんなに緊張しなくてもいいんですのよ、ホント可愛らしいのね。そんな可愛いルシエルさんに、この王都のダンジョンでも転送魔法陣を描いて頂きたいのですが、お願いしてもよろしいですか?」
質問されたルシエルが【御者】を見るので、【御者】を頷かせた。
「はい、大丈夫です。やります」
「ありがとうございます。ダンジョンの入り口詰め所の横に四階建てで九十九部屋ある建物を、もう建てております。できれば早い方がいいのですが、いつからでも結構ですので、お願いできますか?」
「はい、わかりました。」
「報酬ですが、メキドナの契約内容はこちらにも届いておりますので、参考にさせて頂きました。」
イザベラさんはそう言って契約書を出した。
内容を確認すると、転送魔法陣一つで金貨100枚。使用料として銀貨二枚で一枚ずつルシエルとライリィの冒険者カードに入るようにしてくれてある。メキドナでの使用料は銀貨一枚にしたから、倍にしてくれていた。
「これって……」
オレが質問しようとしたら、イザベラさんが質問を察して答えてくれた。
「ロイヤリティって言うんですってね、良い商法だと思いましたわ。こちらでは使用料をメキドナより高い設定にしますので、銀貨二枚にさせて頂きました。その代わりと言ってはなんですが、出来る限り早く描いてほしいのです」
さっきいつでもいいって言ったのにね。これが駆け引きってやつかな? 徐々に向こうのペースになって来てるしね。
「この王都のダンジョンは100階層ですが、フロアボスのある階層もセーフエリアがあります。だから九十九の転送魔法陣を描いて頂きたいのですが、優先するのは浅い層です。五十階層までは早めに描いてほしいのです」
「先に五十階層まででいいんですね? それならすぐに終わると思います」
「え?」
「昨日も五十八階層まで行ってますから、五十階層までなら私一人でも一日も掛からないと思います」
「え? え? どういう事?」
イザベラさんが戸惑っている。理解が追いついて無いようだ。
なんか、この手のやり取りをよく見るようになってきたね。
イザベラさんは、ふぅっと一息ついて話し始めた。
「ルシエルさん? 一つずつ整理していくわね。その五十八階層というのは、この王都のダンジョンという事?」
「はい、そうです」
「あなた達って一昨日に来たところよね?」
「はい」
「一昨日は何もできなかったと思うし、今日は朝一番って事は昨日だけで五十八階層まで行ったって事?」
「はい、昨日の昼前にダンジョンに入りました」
イザベラさんも少しずつ落ち着いてきたように見える。順を追って聞いて行く事で整理がついて来たのかもしれない。伊達にギルマスをやってる訳じゃないって事か、どこかのギルマスとは違って頭を使ってるね。
「それで五十八階層からどうやって帰って来たの?」
「転送魔法陣で帰って来ました。宿に前もって描いてたんです」
イザベラさんは顎に手をやり、考え込んでいる。
考えが纏まったのか、顔を上げルシエルに話しかけた。
「ルシエルさん、あなたうちの専属になりなさい」
「はい?」「え?」
これってまさか……
「え? じゃないわよ、うちの専属になりなさい。あなたが望むなら貴族に取り立ててあげてもいいわ。悪いようにはしないから、うちの専属になるのよ。わかった? これはもう決定よ」
「イ、イザベラさん?」
「なにっ!」
オレが名前を呼んだだけで、もう切れた返事しか来なくなった。これって例のやつだろ? 入れあげてしまって頭に血が上るってやつだよな。
「何を勝手にあなたが決めるのですか! 私はご主人様とずっと一緒にいると決めているのです。ここの専属になる訳がありません!」
今度はルシエルが切れた。
ヤバいねこれ。収拾がつかなくなるぞ。
「遅くなりました」
いい所でイーサン事務長が入って来てくれた。オレにしたらナイスタイミングなんだけど、イーサン事務長にしたらバッドタイミングかもしれないね。
「あ、イーサン事務長、いい所に」
「あ、リーダーさん。おはようございます。どうされ……またですか」ハァ…
イーサン事務長はすぐに察してくれたようで、溜息をつくとイザベラに向かって言葉をかけた。
「イザベラさん」
「なによ!」
「シャンプー」
「うぐっ」
「リンス」
「はうっ」
「取り上げますよ」
「ぐはーっ」
イザベラさんは急にシュンとなって意気消沈したようだ。さっきまでの高圧的な態度はもう無くなっていた。
今度オレもやってみよ。まだまだ使えそうですねとイーサン事務長も一人で納得してる。
「またイザベラさんがご迷惑お掛けしたようで申し訳ありません」
「いえ、助かりました。ルシエルも落ち着いてね」
まだ鼻息の荒いルシエルに【御者】が肩に手を回し、トントンと軽く叩いてやった。
顔を真っ赤にしたルシエルは俯いて動かなくなった。
ルシエルにはこれが効果的なのはもう分かってるからね。
「そちらも中々いい手を持ってらっしゃる。それでどうしてこうなったのかお聞かせ頂けますか?」
今度使ってみようかとボソっと呟いたイーサン事務長が尋ねて来た。
「はい、転送魔法陣の話をしていた時に、このルシエル達が昨日一日で五十八階層まで行ってきたと言ったら『うちの専属になれ』とイザベラさんが言い出して、それでルシエルも怒ってしまって」
「なるほど、そういう事でしたか。昨日一日で五十八階層までね……。イザベラさんが入れあげるのも分かりますね。そんな人材、どこを探してもいませんから」
相変わらず察しがいいね、話が早くて助かるよ。一日で五十八階層まで行くって、そんなに凄い事だったんだな。今度からは言わないように皆にも言っておかないとな。
オレはダンジョン経験二回だからね、ここのダンジョンもどんなのだか知らないしね。
「それで転送魔法陣の話はどこまでしましたでしょうか」
「五十階層まで先にしてほしいと言われて、今日中に終わらせるという所までですね」
「一日でですか! ……確かに一日で五十八階層まで行くのでしたら五十階層まで今日中に終わるのでしょうね。それは引き受けて頂けるのでしょうか?」
ルシエルの様子を確認したが、落ち着いてるようだし問題無いね。
「ええ、大丈夫です。ルシエルはオレも信頼してる仲間です。彼女達ならやってくれますよ」
ルシエルが鳩尾あたりに手を置いて、遠い目になった。何かを握りしめてるようだ。
おーい、帰って来いよー。
ルシエルの中では『信頼』『仲間』という言葉がずっと連呼されてたようだが、そんな事は誰にも分からない。
『信頼』+『仲間』⇒『右腕』の方程式なんかルシエルにしか作れない。更には『恋人』? まで進化しそうになって、慌てて妄想を打ち消す為に手を振ったり顔を覆ったり大忙しのルシエルだった。
最後もまた鳩尾あたりに手を置いて、ようやく落ち着いたようだ。それってアレか? ペンダント型懐中時計か? そこに手をやると、非常に胸が強調されて男どもには目に毒なんだけど。
遠い世界に行ってるルシエルは放置し、途中からずっと反省中のイザベラさんも放置で、イーサン事務長との話も纏まり五十階層までは早急に転送魔法陣を描くという事になった。
ルシエルとイザベラさんはドローだね。ドローはドローでもスコアレスドローって感じだよ。
シルビアとミランダリィさんの事についても聞いてみた。
シルビアの方はまだ何の動きもなく、もう少し静観してみようという事で纏まったが、問題はミランダリィさんの方だ。
どうも、様子がおかしいらしい。屋敷からの出入りが普段より明らかに減っているそうだ。見張りに秘書を行かせてるという事なんだけど、まだ何の進展も無いとの事だった。
秘書っていたんだ。
ギルドマスターに秘書は付き物か。
一階に降りると、それぞれ用事も終えていて隣接の酒場に固まって待っていた。
皆と合流し、今日の予定を確認した。
シルビア、ライリィ、ルシエル、パル、キューちゃんがダンジョン組。
オレ、ボルト、ハヤテ、センが外の森を探索するチーム。
オレ達のチームはミランダリィさんの様子を見てから町の外に行く事にした。
また別行動になるのか。町の中だと仕方ないかな、ボルトがいるしね。
この王都だとダンジョンもあるから行きたい者もいるし、どうしても別行動になっちゃうか。
昨日、魔道具を買ったりして散財したから、素材を売って金貨を補充すると冒険者ギルドを後にした。
支出が金貨1500枚に対して、収入は金貨5000枚を越えていた。
素材はまだまだあるけど、十分だね。討伐達成報酬分もあったから、思ってたより多かったしね。
さて、ミランダリィの屋敷はこっちだね。
ハヤテに引かれてミランダリィの屋敷に向かった。




