第95話 続々・引率者ルシエル
今日のタイムリミットはあと二時間半。
三十階層を過ぎてからは冒険者の数も大分減って来ていた。四十階層のヒポグラフを倒して先に進むと、更に出会う冒険者は大幅に減っていた。
それでも、まだ一つの階層に数組の冒険者と出会う。
四十一階層から先も、これまでと同様に最短距離で下の階層を目指して驀進して行った。
五十階層のフロアボスはグリフォン。
かぶせて来た? このダンジョンも中々侮れませんね。
このボス部屋の前では、もう冒険者の順番待ちも無く、一緒に入って来る冒険団もいなかったので、ここからはキューちゃんとパルも参戦する。
飛んでいる魔物だが、キューちゃんとパルの魔法攻撃には耐えられるはずもなく、グリフォンは瞬殺された。グリフォンは粉々になってダンジョンに吸収される前に霧散してしまった。キューちゃんもパルも、魔石はご主人様が喜ぶと思って傷を付けないように倒している。無傷の12センチ角の魔石だけが落ちて来た。最早、神業と呼んでもいいだろう。
ドロップ品も出た。ドロップ品はグリフォンの肉だった、ドサドサッっと音を立てて大量の肉が落ちて来た。本体は姿かたちが無くなっているのにドロップ品として出て来た肉は綺麗なものだった。
ここでルシエルから提案をした。
「ダンジョンに入る前にお店で買った地図はここまでです。ここのダンジョンは100階層だという事は分かっていますが、もう地図もありません。でも、冒険者の数も減ってきたし魔物のレベルも上がってきたので、そろそろダンジョン探索をして行きましょう」
「うん、それでいいと思う」
「賛成なのニャ」
「そやな、それでどうするん? 皆で纏まって行くん? 手分けすんのん?」
ルシエルの提案に誰も反対は無いようだ。
「できれば地図作成もしたいのですが、できるのは私だけですね……。今日の所は一緒に行きましょう」
「そうね……」
「はいなのニャ……」
「そやな……」
三人は気の無い返事をした、何か考えているようだ。それぞれ何か思惑があるようだ。
話してる間に宝箱と魔法陣が出て来た。
「ここのダンジョンでは出るまでに少しタイムラグがあるみたいですね」
宝を回収するために向かいながらルシエルが呟いた。
魔法陣は地上へ戻るためのもので、宝箱の中は大量のグリフォンの羽が入っていた。ルシエルが代表して収納した。
まずは五十一階層のセーフエリアを探し、ルシエルが持ってる狩人のスキル【地点記憶】でチェックしておく。ルシエルの【地点記憶】に数の制限は無い、いくらでも覚えておけるのだ。
この階層からは魔物も倒し、魔石とドロップ品を獲得していく。
宝箱も一つ目だけはライリィが開けた。罠もあった、落とし穴だった。
ライリィは装備していたグラビティナックルの重力操作を使い、落とし穴に落ちる事無くドヤ顔で戻ってきた。
鼻歌まじりで先へと歩くライリィに「罠発動してるし」「また中身を忘れてます」とシルビアとルシエルが諦め口調でツッコミを入れた。
ルシエルの地図作成もあるので、下層への階段を見つけても降りずにその階層を隅々まで探索するキャリッジシスターズ+。
やはり隅々まで探索すると時間がかかる。出会う魔物も取り零し無く倒していく。
タイムリミットの十七時を迎えた時は、五十八階層までしか行けなかった。
本来はそれでも早いのだ。この辺りになると探索するのはBランク以上の冒険者だが、それでも普通は一日に攻略できるのは一~二階層。
歩いてのダンジョン探索だが、止まる事がほとんど無いので進行速度は驚くほど速い。
だいたい彼女達キャリッジシスターズは人間としては強すぎるのだ。
奴隷狩りに会っても対処できるように育てられた彼女達だが、明らかに強くなり過ぎている。
冒険者ランクはAだが(Aでも強すぎるが)、Aランク冒険者でもステータスは1000も行かない。彼女たちは冒険者ランクに興味が無いため、Aランクに甘んじているが、その気になればもっと上のランクを取得できるだろう。
S、SS、SSSという冒険者ランクもあると言うが、実際に見かけられた者はいない。昔、ジェイと呼ばれた伝説の冒険者がいたらしいが、それでもSSランクだったという。
ここまで彼女達が強くなり過ぎた原因は、誰のせいかは言わないでも分かるだろう。奴隷屋から買った奴だ。強くなる事は悪い事ではないが、程度というものは考えて欲しい。
実際、そのせいで彼女達は恋愛に対して遅れ気味なのだから。
五十八階層でセーフエリアを見つけ、ルシエルが転送魔法陣を描いた。
転送で宿の馬車置き場まで戻って来た一行は、満足げに宿へと入って行った。
ご主人様はまだ戻っておられませんね、何かあったのでしょうか。
それでも夕食までには戻るように言われていますから宿から離れるわけには行きません。夕食を食べ終わっても戻って来られないようでしたら皆で探しに行きましょう。
宿は素泊まりで一週間の契約をしている。だから宿で夕食を摂る必要は無いのだが、ご主人様からの指示なので皆宿で食事をするのが当たり前だと思っている。
今も、部屋に入ると机の上にルシエルが収納バッグから料理を出して並べて行く。コップも出し、水魔法で水を入れていく。
食事が終わってもご主人様は帰って来ません。でも、誰もご主人様の心配をしていません。皆はご主人様の事が心配では無いのでしょうか。
確かにボルトとハヤテとセンが一緒にいるのです、問題は無いと思いますが、それでも心配です。夕食には戻るように指示されたのはご主人様なのですから。
ライリィがお風呂に行こうと言い出したので、皆でお風呂に行くことになりました。
お風呂から上がってもまだご主人様は戻って来ません。一体どうしたのでしょう。
「皆、どうしますか? ご主人様達がまだ戻られないのですが。私は少し探しに行こうと思うのですが」
「そんなん心配するだけ無駄やって、何も無いに決まってるやん。うちらは明日に備えて休んどったらええねん」
「そうなのニャ、問題無いのニャ」
「うん、そうね」
三人共まったく心配してないようだ。
「ほんでな、明日の朝は、うちちょっと用事があんねん」
「みゃ! 偶然なのニャ。わたしも用事があるのニャ」
「ほんと偶然ね、私も用事があるの」
「え? 三人共? 何の用事ですか?」
なんか怪しいですね、ここは私がしっかりと確認しておかねばなりませんね。
「そら言われへんわ。ちょっとした用事や」
「そうなのニャ」
「そうね」
「あなた達、凄く怪しいのですが……」
薄目で三人を見渡すルシエルの視線には誰の視線も合わない。パルなんて鳴らない口笛を吹いている。
「言えないのなら仕方ありませんね。では、私も付いて行きます。いいですね」
「そんなんアカンわ! うち一人で行きたいねん」
「みゃー! わたしも一人で行きたいのニャ」
「私も一人で十分」
益々怪しい……
「ダメです。ご主人様から任されていますので、付いて行きます。どこへ行くのですか?」
「……冒険者ギルドや」
「……冒険者ギルドなのニャ」
「……同じよ」
「冒険者ギルド? それなら皆で行けばいいじゃないですか」
「それはちょっと……」
「ちょっとなのニャ」
「……」
「はっきり言ってください!」
「はい! 職業を取りに行くんや」
「私もなのニャ!」
「同じよ!」
ルシエルに怒られて慌てて答える三人。目的は職業登録だったようだ。
「職業? 今頃何のために職業を取るんですか?」
このタイミングで職業登録する事がルシエルには理解できなかった。
「うちも地図が作れたらダンジョンももっと楽になるかなぁって。森も地図があった方がええしな」
「私も地図を描くのニャ~」
「そう、地図ね」
「確かに手分けした方が早いけど……皆で持つ必要はないのですよ」
今日のダンジョン探索で皆が思いついたのですね。ありがたいですが、無駄にならなければいいのですが。
「それで、なんの職業を取るのですか?」
「うちは地図師やな。でもホンマ今後もいるねん。無駄やないねんで」
「わたしは画家なのニャ」
「私は結界師」
……
「「「画家!!?」」」
結界師も少しおかしいが、ライリィの画家発言に他の三人がツッコんだ。
「ライリィ、地図と画家はあまり関係ないと思いますが……」
「そーんな事無いのニャ、画家になっていっぱい地図を描くのニャ」
描くから来てるのですね、パルが地図師を取ってくれるようですし、ライリィは別にいいかもしれませんね。でも、画家って後々役に立つのでしょうか……
「ライリィは画家でもいいでしょう。シルビアの結界師ってどういう事ですか?」
結界師も地図には関係ないと思うのです。後々役には立つでしょうが、さっき地図って言ってましたからね。
「結界師って【空間把握】ってあるの。レベルの低い初めのうちは範囲が狭いけど、レベルが上がると地図を作るのにも役に立つと思うよ。今後もあった方がいい職業だし」
「確かにありましたね。よく考えてますね、流石はシルビアです」
本当によく気が付いたと思いました。良い選択ですね、流石です。
「では、私も一緒に行って何か職業登録しますから皆で行きましょう」
「しゃーないな、一緒に行こか」
「わかったのニャ」
「そうね、一緒に行きましょう」
「「「「あっ!!」」」」
やっとご主人様が戻って来られました。皆もやっぱり気になってたのですね、全員で同時に反応しましたもの。
ではお迎えに行きましょう。
全員で宿から出てお出迎えをしました。
「「「「おかえり」なさい」ませ」なのニャ」
伝説の冒険者ジェイのランクを訂正しています。
Sランク⇒SSランク




