第76話 東の森の依頼
冰龍のセンはまだ起きないけど、シルビア達が学校から戻ってくる頃なので町に戻る事にした。
いつもの東門で大目玉をくらい、少し時間が掛かってしまった。
やはり、門を出る時に身分証の提示をキチンとしなかった事で怒られてしまった。
センも同罪なんだけど、今は眠ってるからセンの分までオレ達が怒られた。眠ってるっていうか凍ってるんだけどね。
今いる人型は【御者】だけだからオレが怒られただけなんだけどね。ハヤテがしゃべった事はバレて無かった。
説教もようやく終わり、屋敷に帰り着いた頃、センも目覚めた。
シルビア達はもう帰ってたみたいで、オレ達が屋敷の門を潜ると屋敷から出て来て出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ」「おかえりなさいなのニャ」「おかえりー」
「「「お腹空いた」です」のニャ」
え? なんで?
「なんで? お前達って学校で授業後に解放してる食堂で食べて来たんじゃないの?」
「馬車さんのがいい」
「ご主人様のがいいのニャ」
「学校の食堂は不味いのです」
学校で皆が食べる物だからそんなに不味いとは思えないんだけどな、美味くは無いかもしれないけど。
異世界の料理って味が薄いとか調味料が少ないとか足りないとかって定番だからな。でも、食堂での食事も貴族とのイベントがあったりして学生生活としては楽しいと思うんだけど。
美味しいって食べてくれるのは嬉しいんだけど、これは考えもんだな。マヨネーズでも持たそうかな。
今日の所はセンの紹介も兼ねて皆で食べればいいけど、明日からは食べて来るように言っておこう。
センも屋敷に入るように言って、リビングで集まった。
【御者】、シルビア、ライリィ、ルシエル、パル、キューちゃん、そしてセン。
「今日から……というか、さっき仲間になったセンって言うんだ。人間にしか見えないけど、冰龍っていう龍が化けてるだけだからね。セン、自己紹介してくれる?」
「ははっ。某がさきほど武士に相応しい名前を頂いたセンでござる。名前負けせぬよう精進いたすゆえ、よろしく頼む」
そこまで立派な名前でも無いんだけどね、気に入ってくれたならいいか。
「それがしー?」
「武士なのニャ」
「ござる・・・」
「下っ端ー!」
「パル、そういう事を言ってるなら、また一番下っ端にするよ」
「うっ、ごめんなさい・・・」
「一番最後に仲間になったからと言って下っ端って事じゃないんだから。パルは謙虚さが足りないからそれを分かってもらうために下っ端をやってるんだよ。オレが下っ端って言った後に誰かに下っ端扱いされた? されてないだろ? そういう想いやりみたいなものをパルにも分かってほしいんだよ」
「わかりました、ごめんなさい」
「うん、それじゃ飯にしようか」
食事の支度は簡単。オレが料理をテーブルの上に出すだけ。
出せる範囲も収納と同じく遠くまで出せる。
後片付けも簡単、収納するだけ。次に出す時は器も綺麗になっている。収納した後は、誰かが『クリーン』の魔法を使うだけで終わり。『クリーン』は全員使えるからね。
普段はオレの荷台で食べるからオレがやってるけど、屋敷ではオレのクリーンが届かないからね、今は下っ端って事でパルにやってもらってる。
まだ、この屋敷に来てから三食目だけどね。
センの部屋も決めて、冒険者ギルドに行く事になった。
センは仮入門で入ってるみたいなので、冒険者ギルドに登録して冒険者カードを発行してもらわないといけないからね。
「姉御!」
冒険者ギルドに入るとテンプレ担当のゲルバが声を掛けて来た。
いつもいるような気がするけど、依頼とかやってないの? 今はもう昼過ぎだよ。
ゲルバは無視して受付のミニッツの所に行き、センの登録をしてもらった。
パーティ登録はこの場合、どっちでするんだろ? パーティメンバー? 従魔?
ま、パーティメンバーだろうね。従魔登録したとしても、冰龍本来の姿で町に入る事は無いだろうからね。
【御者】と一緒にセンの登録をしている間、皆には依頼を見てもらう事にした。オレもセンの登録が終わったら見る事にしよう。建物の中だと【御者】の視線しかないからね、依頼ボードの前に【御者】を立たせて一斉に見る方が纏めて見れていいんだよ。
名前:シルビア:冒険者ランクA
パーティ名:『キャリッジ冒険団』:ランクA
パーティメンバー6名:****(*)・ライリィ(D)・ルシエル(D)・ディーディパル(D)・セン(G)
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ダンジョン名:東の森のダンジョン:最下層クリア
ダンジョン名:ベヌディアダンジョン:最下層クリア
ダンジョン名:--
ダンジョン名:--
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従魔:パーティ従魔3(ボルト・ハヤテ・キュート)
オレの冒険者カードは名前やランクがコロコロ変わるので、シルビアのカードを確認させてもらった。
うん、センも入ってるね。
ちょっと見やすくなってない?
受付のミニッツさんの説明で、最近表示方法が変わったと教えてもらった。
それというのもオレ達が従魔を連れている事で他のパーティも真似をする者が多くは無いが何組か出始め、パーティ全員の従魔欄にパーティ従魔の記載を始めたそうだ。ボルトみたいな強いのはいないけど、索敵に犬系やネコ系の魔物を奴隷の首輪で管理して使ってるらしい。
パーティメンバーのランク表示は、オレ達の様に極端なAとGが混在する場合に付けられるとの事だった。
「もう、二つもダンジョンクリアされてるんですね、さすがAランクです。西の森のダンジョンもクリアして頂けると助かるんですねどね」
「断る」
受付のミニッツの提案は一刀両断にした。
西の森のダンジョンも、ここのギルマスがクリアして以来、誰もクリアできていないらしい。
ダンジョンをクリアするという事は、一時的にダンジョン内の魔物のレベルを下げる事も出来るし、ダンジョン内のドロップ品や宝物で領地や冒険者ギルドが潤うので是非ともお願いしたい一件でもあるらしい。
確かにベヌディアダンジョン達成後にはダンジョン内の物の買い取りに来てたね。全部買ってくれた時には驚いたけど、ダンジョンでのドロップ品は魔石も含め外より質がいいみたいで人気があるから高く売れるそうだ。
確かにウシュムガルの魔石も外よりダンジョン内の奴の魔石の方が大きかったね。
「では、東の森の依頼がいくつかありますから、そちらをお願いできますか? 東の森には中々行ってくれる冒険者がいませんので」
「見てからね」
そう言って依頼ボードに行くとシルビア達が既にいくつかの依頼書を持っていた。
取った依頼書を見せてもらったけど、東の森関係ばかりを取ったみたいだよ。空気が読めるね、うちの子達は。
シルビアはまだ依頼ボードの前にいてクエスト依頼に興味津々だ。後ろでゲルバが「辞めておいた方がいいと思いますぜ」って言ってるがシルビアは聞いて無い。ギルド内にいる間はずっとシルビアについてるね、こいつら。外までは付いて来ないからいいんだけど、ちょっと鬱陶しいね。
実は、アンとエリーから少し報告は来てて、ぼや~っとだけど解決の糸口とも言える思える手掛かりがあるクエスト依頼もあるからね。もう少しハッキリしたら東の森の更に奥まで行ってやろうと思ってるんだ。
ただ、今日は一度行ってきたんで、もう行きたくないなぁとも思ってたんだよ。
この流れだとやっぱり行く事になるんだろうな。
で、東の森関係の依頼を受けたら結局いつもの場所に来ることになりました。余計な仕事が増えただけだ。
薬草系の採取依頼ばかりだから、パルがいればすぐに見つけられるんですぐに終わるんだけどね。この辺りだと東の森にしか無いらしいので、以前はギルマスかもう一組いるというAランクパーティが担当してたらしい。
採取依頼って、群生地を見つけるか余程珍しく貴重な物で無ければ赤字らしいから、高ランクになるとあまり受けないんだよね。元々、魔物を倒したくて冒険者になる人が多いから、仕方がないんだろうけどね。オレ達の場合行き掛けの駄賃みたいなとこもあるし、ついでだよ。
依頼失敗だとランクダウンのペナルティーもあるから、まずは依頼の薬草を採取して、アンとエリーに連絡を取った。
アンとエリーが来てから思ったけど、採取も蜂と蟻に頼めば良かったね。
今回、この頼み事をした事によって、蜂と蟻の縄張りが広がったみたい。
自分達の縄張り内には手掛かりが無かったので縄張りの外にまで手を伸ばし、他の蜂や蟻の魔物を傘下に収めて、まだ縄張りが拡大中だそうだ。
まず見つけたのは100メートル級の主が棲む沼。ここから二日ほどの所にあるらしい。
次にゴールデンゴブリン。大規模のゴブリンの巣があるって事なんだけど、東の森でゴブリンが生き残れているって事が既に異様だ。確かに怪しいね。
長寿の泉がまだなんだけど、怪しい所の目星は付けてくれている。
10キロ以上にも渡る、垂直降下型の洞窟があるそうだ。深さは100メートル以上あって、狂暴な魔物も多いので、まだ確認が取れていない。ただ、ミスリルの気配も感じると言ってたから他にも何かあるかもしれない。
無理をしないように注意して、捜索を続行するようにお願いした。
次に今日から修行開始のセンとシルビア。
ステータスは進化のお陰でセンの方が若干高い。でもその差は僅か、差は無いと言ってもいいだろう。
まずはシルビアに合わせてお互いに剣を持っての地稽古。持っているのはウシュムガルの剣。
センが言うには弱い剣では振る剣圧だけで耐えきれず折れてしまうから強い剣で練習するのだそうだ。折れた剣先はどこに飛ぶかもわからず、余計に危ないんだって。
でも、強い剣だと致命傷とかならない? 見てて怖いんだけど。
『剣聖』という称号は伊達じゃ無く、本当に凄かった。シルビアが子供扱いだ。
シルビアだって、子供とはいえAランク冒険者でミランダリィさんから毎晩剣の稽古を付けてもらっていた。ステータスだって同等なのに、センの剣術は別格だった。
これだったら進化前にシルビアと対戦してもセンが勝ったんじゃないかと思えるほどの差があった。
技も多いんだけど、それより体捌きが流れる様で舞を見てるようなんだ。一言で言うと綺麗。流れる様な受けからの返し、静から動。動から激。激から流。流から止。止から閃。すべて一連の流れにあってすべてが繋がっていた。繋がりも千変万化、シルビアがセンに一太刀浴びせる事はできなかった。見てても出来るとは思えなかった。
これなら雷獣が敗れたのも納得という素晴らしい実力を見せてくれた。
『ほ~、少しはやるようになったではないか。これも主殿のお陰だと感謝を忘れるなよ』
「当り前でござる! お館様への感謝は、この雷獣を討ち取る事でお見せ致しましょう!」
「ダメ」
ボルトの労いの言葉に対して放ったセンのバカな一言はオレが一蹴してやった。
「そ、そんな、お館様・・・」
またそんな変なあだ名と付けてくれちゃって・・・ダメに決まってんだろ。
「ボルトもダメだからね。仲間になったんだから決闘はダメ。どうしてもやりたいんなら破門だね。飯も抜き、武器もあげない」
「はっ! やりません!」
『御意!』
センには武器か飯が効いたんだろうけど、ボルトには何が効いたんだろうね。
聞き分けがよくて助かるよ。
ホント仲良くしてよね。




