第202話 探し回る従者達
誤字報告ありがとうございます。
ボルトの咆哮の後、ボス部屋に集合した従者達でボス部屋の中を手分けして探した。
もちろんオレの事を。
部屋の中央に大穴が開いてる部屋だが、身体能力の高い彼らなら大した障害にもならずにボス部屋の中を捜索できた。
ある者は穴の中に降りて探したり、ある者は壁に沿って探したり、またある者は壁や天井の破壊された跡を一つ一つ丁寧に検証したり。
だが、玉座以外何も無いボス部屋だ。探す所なんて知れている。
壁に沿って歩いてる者も、壁や天井を検証してる者も、そこに主がいない事は分かってる。分かっているが見える所にいないのだから探さずにはいられなかった。
黙々と黙って探す従者達。目からは止め処なく零れる涙を流しながら、それでも一切声を出さずに探し続ける。
声を出すと泣き崩れてしまって探すどころでは無くなってしまう事が分かっている。誰もが助かっているとは思っていなかったから。
それでも全員が何度も何度も同じ所を探し続けた。拭っても拭っても溢れ出る涙を拭いながら、いつまでもいつまでも探し続けた。探す場所など初めから無いのに。
全員で捜索している間にもボス部屋は修復されて行く。大した時間も経ってないのに、既に壁と天井は完全修復されていた。
床の大穴も、もう底が見え出したし、穴の範囲も直径五メートルほどになっていた。
そして床も完全修復された時、ライリィが一番初めに泣き崩れた。
「まだ探し切れてないのニャ! 穴を埋めたらダメなのニャ!」うわぁぁぁぁ!
「馬車さん! まだ私を守りきれてない! 約束がちがうよ」うぇーん
「ライリィ! シルビア! なに泣いてんねや! まだ探すんや、ほら、そこなんかまだ探してへんかったやろ! 絶対おるんやから、ちょっと隠れてはるだけやから」びえぇぇぇん!
玉座以外、何もないこの部屋で、これだけの人数がいて探してない所などあるはずがない。
そんな事はパルでも分かってる。ただ、認めたくないだけだった。この部屋にいたはずのご主人様がいなくなった事を認めたくないだけだった。
そして、もっと認めたくない者がいた。
ルシエルはいつまでも壁に沿ってボス部屋を回り続けている。
「早く出てきてください」「もう隠れるのが上手い事はわかりましたから」「私たちの負けです。本当に隠れるのがお上手ですね」「今日のご飯はご主人様の好きなお刺身ですよ、早く出て来ないと私が食べちゃいますよ」「ご主人様……ご主人様……ご主じ……」
いつまでも部屋を回り続けるルシエルを止めらる者など誰もいなかった。
『キュートよ、我には感じられぬが、転送魔法陣の魔力の残滓は感じられぬか』
『……ない……グスン』キュー……
転送したのなら、転送に使われた魔力の残り香のようなものが残ってないかと尋ねるボルトだったが、その望みもキューちゃんの返事で断たれてしまった。
ボルトにも魔力の残滓は分かるのだが、より魔法に長けているキューちゃんに念のため確認したようだ。
「なぁシルビア! うちはまだご主人様の従者やんな? 鑑定して調べてみてーな」
はたと思い立ってシルビアにお願いするパル。
涙を拭いパルを見るシルビア。
今拭った涙より多くの涙が零れた事が答えになっていた。
「なんで? うそやん! そんな事ないって、あんたの見間違いや! もう一回や、な、もう一回やシルビア。そうや! うちやのうて、ライリィとか、一番初めの…そうやボルトはんや! ボルトはんを鑑定してみてえや!」
パルに言われ、もう一度涙を拭い、気持ちを奮い立たせボルトを鑑定するシルビア。
「……ダメ……無くなってるの……」ううぅぅぅぅ
称号から『馬車の従者』が消えていた事で、ガックリと項垂れるシルビア。「ウソやー! そんなん絶対ウソやー!」と絶叫するパル。
へたりこんでいるシルビアの肩に手を置き、一緒に涙するメイビー。
その周りを囲むように立っているメイド達。必死で涙を我慢しているので、誰も言葉を発する事ができない。イチロウでさえ同様に立っている事しかできなかった。
全員が主の生存を絶望視していた。
『ふむ、どうした』
そんな中、一人冷静に状況検分してる者がいた。ボルトはそんなブレインに声をかけた。
「おかしいんだよね」
『何がおかしいのだ』
「うん、それがさぁ……無いんだよ」
『何が無いのだ』
「う~ん……」
『だから何が無いというのだ!』
ハッキリ言わないブレインに、焦れるボルトが声を荒げる。
「いやね、普通さ、爆死したとしても血とか肉片があるでしょ。身体の一部とかさ。それが一つも見当たらないんだよね」
そのブレインの言葉で、バッと全員が一斉にブレインに振り向いた。
確かにそうだと全員の目に光が灯る。
主の死という事で舞い上がってしまっていたが、確かに一片の肉片も一滴の血痕も確認していない事に全員が気付いた。
「称号が消えてしまったのは何故なのか分かんないけどさ。あの主様の事だろ? あっても不思議じゃ無いしさ。だって馬車から人間になる人だよ? しかも僕なんて主様が馬車時代に従者になっちゃったんだよ。魔神様とも引き分ける僕なのにさ。あ、ゴメーン。みんなもそうだっけ」
最後に少しブレインっぽい嫌味が入ったが、そんな事は誰も聞いてなかった。
『それはダンジョンに吸収されてしまったのではないのか』
ボルトがもっともらしい質問を出した。
「そうかもしれないね。でもねぇ、僕達が来たのは爆発音と振動があってから何秒も経ってないと思うんだけど? 僕でニ~三秒かな? ボルトさん達はもっと早かったんじゃない? その時に何か見つけた? 僕は見つけられなかったよ?」
『確かに見ておらんが……では主殿はどこにおられるのだ!』
「それは知らないよ~。そこまでは僕にも分からないって。でも、我々の主様だよ? 三回ぐらい殺しても死なないんじゃない?」
三回も殺せないとは思うが、そんなボケにも誰も反応しない。スルーされても、いい事言っただろ? みたいにドヤ顔でめげないブレイン。
誰にもツッコまれない代わりにボルトに命令をされた。
『ならば調べてくるのだ!』
「え~~~、僕だけで~?」
『手下も使えばよいであろう。我は初めの地を確かめてくる』
ボルトの言う初めての地とは、この本拠地ダンジョンから遠く離れた場所だ。ここにはいないのは確実だ。で、あれば、どこかに飛ばされたと考えるべきだ。
魔力の残滓は残ってはいなかったが、転移以外の方法で飛ばされたのかもしれぬと考えたボルトは早速行動に出た。
初めて主と出会い、根負けして牽引契約従者となり、名付けられて雷獣に進化した場所の事なのだが、この本拠地ダンジョンとは遠くかけ離れた場所だ。
遠いのは分かっている、可能性は低いとも分かってはいるが、その地に赴くつもりでいるボルト。
ジッとしてはいられなかったのだろう。今回に関しては全く的外れな予想なのだが、死んだらふり出しに戻ると一度聞いた説明を覚えていたのだ。主がこの世界に現れたのも出会った地から、そう離れていない事も聞いていたから。
『馬車の従者』の称号が無くなっているのだから、予想としてはいい線行っている。流石はリーダーのボルトだと思わせるが、今回に限っては的外れな予想だった。
それだけいつもは冷静な判断のできるボルトも的確な判断が出来なかったのだろう。
そこからは、ボルトの言葉に引き摺られた各人が、自分の思い出の場所に散らばって行った。
ボルトは出会いの地。シルビアもボルトの背中に乗って同行した。
ハヤテはボルトとの戦闘の地。ここにはキューちゃんもハヤテの背に乗って一緒に行った。
ライリィはメキドナの町へ。奴隷屋のあった場所や領主様からもらって四年間住んだ家や学校、冒険者ギルドなど、メキドナの町をくまなく探した。
パルはユグドラシルのある実家へ。メイビーは実家とエルフの女王の元へ。センはセイシャロン王国の王都の隣町に建てた家へと戻り、主を探しに行った。極度の方向音痴のセンなので、メイドのナナがお供をするようだ。
ブレインは子分を何十人と引き連れ、獣王国で風呂ダンジョンを中心に探索した。
イチロウとメイド達は本拠地ダンジョンで各自のエリアを決め、一通り探した後は、いつでも主様が現れてもいいように立ち位置を決めて身動きせずに五感を研ぎ澄ませ主の帰りを待った。
ルシエルはボス部屋に残り、玉座の前で祈りながら主の帰りを待っていた。
他にもブレインの命令で動員された獣人達が、ドワーフ国や各国へと散らばり探し回っていた。
「神様を探すよ~」
「神様を見つけたら幹部確定だって~」
「じゃあ、神様を見つけられなかったら?」
「そりゃブレイン様が……」
「なになに?」
「「「……」」」」
「「「死ぬ気で見つけるぞー!!」」」
やる気満々の獣人達だった。
冒険者ギルドにも裏の依頼として要請が出されていて、ギルマスの認めた高ランク冒険者だけに内容が知らされていた。
そうして大捜索が開始されてから一ヶ月。
勇者様達も早々に各家に戻っており、シルビアも父マクヴェルとの再会を果たしていた。
魔王討伐に関しては、無期限延期に決定した。
勇者パーティは魔王討伐の前に全滅してしまったのだが、その時に馬車人から説明された魔王を討ってはいけない理由を国王様に説明した結果だ。
勇者パーティも魔王になら勝てたのかもしれないが、相手が遥かに格上の魔神様では勝てるはずも無かった。
命を取られる事は無かったので、結果としては魔王も討たれず魔素がなくなることも無く、勇者パーティも生存していて全員がいい結果に終わったと言ってもいいだろう。
魔物は跋扈し続けるが、その魔物も肉や素材としては人間達に貢献はしている。
脅威な存在ではあるが、今までと同じではあるし、裏では獣人達が各国の偵察をするついでに強力な魔物を間引いたりしているので大事にはならないだろう。
それで、オレはというと。
馬車人が飛ばされた世界に飛ばされていた。
しかも、オレは馬車の姿に戻っていたのだ。
なんでなんだよー!