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203/204

第203話 ただいま

誤字報告ありがとうございます。

 またまた大樹の聖域に飛ばされたオレ。

 今度はボス部屋で馬車人とオレが出会い、引き寄せられてぶつかって閃光を発したまでは覚えているが、その後は何故かこの大樹の聖域に飛ばされていた。

 どういう仕組みかとか繋がりがとか、もう何がなんだか分からない。

 しかも馬車に戻るとかありえねー。


 目を閉じれないオレは閃光で少し目が眩んだが、目が慣れるにつれ見慣れた風景にガックリと落ち込む事になる。

 そして、手を地面に付こうとして手をつけない事に気がついた。馬車に戻ってる自分の姿に。

 手が無いから地面に手を付けなかったのだ。

 もう落ち込み方が半端なかった。何もやる気が出ないまま、三日は身動き一つしなかったはずだから。


 ようやく行動に移したのは飛ばされてから三日経ってから。

 まずは自分のステータスとスキルの確認から行なった。なぜかLP・MP・SPが三倍になってたけど、今はそれはいい。戦いで必要な数字ではないから。

 先に移動方法を考えないといけない。

 だって、馬車になってるから牽いてくれる者がいないと動きようが無い。

 もちろん自走はできるが、SPを消費するので出来れば温存しておきたい。しかも、この森は魔物が多発する事は既に承知しているので、その対策もしておきたい。

 それで、今の自分の確認をしているのだが、これって結構楽勝かも。


 まず【御者】だが、またスキルに戻ってしまった。

 しかしこの【御者】、中々使えるようにグレードアップを果たしていた。

 分離して馬車人として活動していた時と同様に、攻撃ができるようになっていた。装備も可能だった。

 【御者】を一旦消して、再度出すと初期装備に戻ってしまうが、スキル【御者】だから収納から直接装備可能で、いちいち着替えたりせずに装着できた。瞬着って感じだ。


 これで魔物対策はいいとして、あとは移動だ。

 この大樹の聖域には小動物しかいない。とても馬車を牽けるような大きな動物は……いた! 馬がいた。

 だが、ただの馬ではオレを牽いてあの山を登るのは無理だろう。普通の馬にそこまで馬力があるようには思えない。


 やっぱり自走しかないかなぁ。途中で魔物を従者にするとか? でも、話せる魔物っていなかったんだよな。従者にする案は無しだな。

 だったらどうするかなんだけど、オレならではの方法を思いついた。


 【御者】だけで行かせるのだ。

 まずは山頂まで行かせて、そこに転送魔法陣を描く。そしてオレが転移して移動していく。そしてまた【御者】を先行させてと繰り返して行けば、SPを温存しつつ魔界経由で元の世界に戻れるんじゃないだろうか。

 オレの方はジっとしてれば魔物に襲われる事はなかったし、念のためルシエル製の結界装置は施してある。


 馬車なんて動かなければ物だからね。魔物が襲うはずもないんだ。前からずっと知ってたけどね、認めるのがイヤだったんだよ!

 転送魔法陣はオレでも描けるし、行動範囲がデタラメに伸びた【御者】でも描けた。転送に必要な魔力は【御者】が出せたので転送はできた。

 因みに本拠地ダンジョンやメキドナの屋敷などに設置している転送魔法陣には転送できなかった。

 世界が違うからだと思うけど、これが出来ていれば簡単に帰れたのにと思うと残念で仕方が無かった。


 順調に移動は進んだ。一度通った道だし、山頂の洞窟から出口までは一本道だ。間違えるはずもない。

 洞窟から出て、街道を目指す。街道に出ると魔王城があった方向とは逆の方向へと進んだ。

 魔王城にはもう用は無いし、逆に進めば魔界の入り口に行けるんじゃないかと予想したからだ。


 そして、その予想は合っていた。

 入り口付近には結構強力な魔物が何体かいて、こちらの様子を覗っていたが、襲って来る気配はなく、ただ見ているだけだったのが不気味だった。

 その魔物たちの行動の理由はすぐに分かった。オレの自動鑑定機能は健在なのだから。

 馬車人の時には出来なかった鑑定だが、オレはずっと出来てたし、合体して元の姿に戻ったのだから普通に出来ていた。


 その鑑定では、魔物の名前が出ていた。そう、種族名と個人名が出ていた。

 魔物でも偶には名前持ち魔物ネームドモンスターはいたりするけど、入り口で陣取っている魔物達は全員が名前を持っていた。

 そして、称号欄には『勇者の従者』とあった。

 という事は勇者の従魔なんだろう。たしか入り口を見張らせているって言ってたもんな。こいつらがそうなんだろう。

 あの後、勇者様達は無事に戻れたんだろうか。まさか、あれだけ説得したんだから魔王討伐には向かってないよね?


 勇者の従魔達を横目に自走で通りぬける。あとは大した距離では無いと思うから、【御者】を御者台に出して自走で走った。

 牽くものが付いてない馬車が走る姿は違和感が半端無いが、魔物達にとっては関係無いようで見られてるだけで襲い掛かられる事はなかった。

 【御者】を出してるのもよかったのかもしれない。人間は味方だと認識しているだろうから。


 そしてようやく魔界の入り口を抜け、人間界に出る事ができた。

 入り口は山の頂上に近い場所にあり、麓を見下ろすと、見た事のあるような景色があった。

 どこにでも在りそうな山だし、そう思えるだけなのかもしれないが、魔人セブンが勇者の子を攫った時のダンジョンがあった場所だと思う。


 【ズーム】のズームインでアップにして麓の方を見ると、見覚えのある入り口があるから。切り立った崖にある大きな入り口、魔界の入り口の真下だし、ロケーション的にもたぶん間違いないと思う。

 あの時は最終的にダンジョン核を取ってしまったから、もうダンジョンでは無くなってるだろうけど、特徴的な入り口だったから覚えていた。

 あの時にボルト達から上には魔界への入り口があるって聞かされたもんな。当時は絶対行かないって決めてたのに、二度も行く羽目になるとは。


 さて、ここからなら設置している転送魔法陣にも転移できるな。

 じゃあ、本拠地ダンジョンへ……そういや、あの後のオレの扱いってどうなってるんだろ。

 いきなり合体して飛ばされちゃったから分からないんだけど、もしかして死んだって事にされてるんじゃ……

 帰っても「あなた誰?」とか「お化けが出たー!」とか言われない? 「また馬車?」とか言われちゃったらオレ立ち直れないかも。


 うわぁ、そう考えると帰りたく無くなってきたなぁ。ようやく立ち直って必死で戻って来たんだけど、このまま帰って大丈夫か?

 ちょっと気持ちの整理ができるまでは気楽に一人旅もいいんじゃない? 結構苦労したもんな。「また馬車?」と言われても心が折れなくなるぐらいまで気持ちの整理ができてから戻るって事でいいんじゃないか?

 うん、そうしよう。今の状態で仲間から心を折られたら、オレ廃人になる自信があるよ。


 それからは、色々と旅して回った。知り合いがいる町や大きな王都などは避け、のんびりと一人旅を続けた。初めて着いた村では「馬車だけで動いてる?」とビックリされたので、慌てて馬を購入して牽かせている。

 小さな村だったので大事にもならなかったが、売ってる馬も年寄りの馬しかいなくて、本当にゆっくりしか走れない馬しか売ってくれなかった。そういう馬しかいなかったんだけどね。

 でも、のんびりと旅をしたかったオレにはちょうどよかったと思う。偶に自走で老馬の補助をしながらのんびりと旅を続けた。そうでもしないとすぐに息が上がって一日に一〇キロも進めなかったから。


 途中で出会う魔物は進化した【御者】の敵ではなかったし、偶に出てくる盗賊も皆殺しにしていた。

 馬車人が大樹の聖域のある森で出した巨大な魔法が健在だったのだ。あの世界が特別なんじゃなくて、馬車人の能力が高かったようなのだ。

 そうじゃないかという気はしていたが、あの時は馬車人一人だったし、調子に乗って墓穴を掘るよりは、自惚れずに慎重にやってて結果的には良かったと思う。


 その自分でも持て余してる能力のせいで、調整がうまくいかず出会う魔物も盗賊も全滅させちゃってるから、オレと出会うやつらは災難だと思う。向こうもオレを殺す気で来てるんだから罪悪感は無いけどね。

 もう少し下方調整ができるようになるまで、まだ時間が掛かりそうだ。


 そんな旅を続けて一ヶ月。とうとう見つかってしまった。

 街道は通っていたが、老馬で移動距離が少ないために野宿が多かった。オレは寝ないけど馬は休まないといけないからね。

 寝ないという事は、そのまま寝ずの番になるわけで、野宿をしても全くピンチに陥ることは無かった。人が寝るわけでもないので、何の準備もいらないしね。


 大きな町にも寄らず、一度も行った事の無い小さな町や名も無い村に寄るぐらいで、ほとんどが街道で行動していた。深い森は老馬ではすぐにバテてしまって、一日五キロも進めなかったからだ。

 そして、街道には獣人達の暗部部隊が目を光らせていたので、オレの知らないうちに見つかっていたようだ。


 オレの視界は広いが隠れられると見つけられないからね。

 寄って来るのなら分かりやすいから【御者】を消してやりすごすんだけど、ずっと潜まれていると分かんない時があるんだよね。馬車だけだと見分けが付かないと思って【御者】を消してたんだけど、思ったより効果的だったみたい。牽いてる馬が老馬だった事もよかったみたいだ。

 そして、オレを見つけたのはやっぱり暗部部隊だったようで、別件で街道脇に潜んで見張ってたらしい。そして【御者】が見つかってオレの居場所がバレたようだ。

 ボルトやキューちゃん達のように、オレは気配では分からないから。


 そして、名も無い村に入った時、オレは一斉に周りを囲まれてしまった。

 獣人の暗部部隊達だった。

 見知った顔もいたので、すぐに分かった。名前も出てるしね。

 村に入ると前も後ろも塞がれてしまった。老馬では逃げられないな、観念するしかないか。


「……ご主人様」

「ル、ルシエル……」

「ご主人様」

「ライリィ」

「馬車さん」

「シルビア」

「ご主人様」

「メイビー」

「ご主人様ー!」

「パル」

「お館様」

「セン」


 続々と建物の中から出てくる従者達。シルビアだけは従者じゃなかったな。

 どうやらオレが来るのを隠れて待ってたようだ。

 これは…なんと言い訳していいものやら。まずは【御者】を消して黙んまりを決め込もうか。いや、【御者】はスキルで出してるだけだから、何をされてもダメージは受けないんだし、すべてを【御者】で対応するか。今の【御者】なら目も閉じられるしね。


 どうやって対処するか考えていたら、全員が猛ダッシュで走り寄ってくる。

 しかも他にもセンやハヤテやメイド達も隠れてたようで、皆が一斉に駆け寄ってくる。


 ドーンドーンと荷台にぶつかる従者達。それ……結構ダメージ食らってるよ? LPが回復する以上にダメージ受けてるよ? 皆、荷台にぶつからずに【御者】の方に行ってくれないかな?


『主殿―――――!!』


 うおっ、ボルト?


 皆から少し遅れて出て来たボルトが猛突進してくる。オレに見つからないように離れていたのだろう。ボルトが隠れられそうな建物がこの村には見当たらないからね。


 ああ、それダメだって! そんな勢いで来られたら、オレ……


 ド――――――――――――ン!!!!


 皆は素早く避けたが、オレは避けられなかった。

 ダメだこれ。オレ死んだわ。


 ポンッ!


 え?


「「「え?」」」


 ボルトの猛突進の衝撃で、荷台の底が開き、ポンっと放り出されたオレ。

 オレが出てくるとバタンと底が閉じて、そのままペタンと荷台に座ったオレ。


 今は視界が全部ある。【御者】の視界もある。

 荷台には、転生前のオレ『車崎幽馬』が座っていた。


 えー? こんな仕組みになってたの? いつから? もしかして神が名前を教えてくれて『操縦者』になってからとか?

 確かにあれから視界が微妙に違う気はしてたんだよなぁ。


「「「ご主人様――――!!」」」


 それからはルシエルを筆頭に、全員が荷台に上がってきてモミクチャにされた。もうこれでもかっていうぐらい抱きつかれてモミクチャにされた。


「なぜすぐに帰って来てくれなかったのですか?」

 そんな中、ルシエルが聞いてくるが答えようが無い。

 だって、「また馬車?」って言われるのがイヤだったって言い訳がもうできないのだから。


「い、いや、ちょっと一人旅を満喫というか……」

「わかりました。では、その一人旅に私も同行いたします」

 即答するルシエル。

 いやいや、その時点で一人旅じゃ無くなってるから。全然分かってねーじゃん!


「わたしも付いて行くのニャ」

「うちかて一緒に行くに決まってるやん」

「私もです」

「某ももちろん参るでゴザル」

「おいらが牽く場所が無くなってる……」

『では、久しぶりに主殿の影に』

『久しぶりのご主人様の膝だー』キュキュキュー


 あー! 煩い! 賑やか過ぎる!


 でも、この賑やかさ。久しぶりだな。帰って来たんだという嬉しいというか安心した気持ちになれるよ。

 オレの帰ってくる所はこいつらの所なんだな。


「みんな……ただいま」

「はい、お帰りなさいませ、ご主人様」

「「「おかえりなさい!!」」」



 一人旅は一ヶ月だったが、魔界では時間の流れが違うため飛ばされてから半年も経ってたようだ。

 しかも、オレが飛ばされた時のボス部屋の惨状も聞いたので、そりゃ心配もするよなと納得するのだった。

 たかが一ヶ月ぐらいで大げさだと思ったが、死んだと思われるぐらいの状況でも、オレが生きてる事を信じてくれて、しかも半年も諦めずに探し続けてくれてた事を思うと感謝の心でジーンとしてしまった。


 それからは、また元通りというか、これまで以上に忙しい日々を過ごしている。

 精霊女王様達もずっと居座ってるしね。

 そうそう、あの憎たらしい神ね。奴にはまだ会ってない。精霊女王様の言う所によると、まだオレというか馬車人を探しているらしい。


 オレから分離した馬車人は、他の世界の神様達への妨害になるらしく、見つけないと戻って来れないらしい。

 その間の人間界の管理は今風呂ダンジョンにいる神様達で代行するそうだ。

 それで対処できるんなら神の奴はもう戻って来なくてもいいんじゃない?


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