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第189話 神の身勝手な行動

誤字報告ありがとうございます。



「ご主人様がいなくなる……」

「……そうなのニャ……」


 浴槽の周りに陣取っているオレの従者達。

 いつも交渉事の時は横や後ろで大人しくしてくれている。話し合いが長過ぎると居眠りしたり小声でおしゃべりをしているのは仕方が無いとして、話し合いの中に口を挟む事は無い。

 だが、今日はルシエルもライリィも一生懸命、飽きずに聞いていたようだ。

 オレがいなくなってしまうかもと呟いた小さい声を、ここが浴場だから声がよく響くためか、オレにも聞こえてしまった。


 安心させるためにも早く断りを宣言しようとしていたのに、耐え切れなかったのか、ルシエルが叫んだ。

「嫌です! お風呂なんか作らなくていいです! ご主人様がいなくなってしまいます!」


 今までオレが他の相手と話してる時には絶対に会話に入って来なかったルシエルが大声で叫んだのだ。

 ルシエルだけじゃなく、従者の誰にも会話を邪魔された事は無かったのにだ。

 今も他の連中は、何か言いたげだけど黙ってオレを見ている。叫んだルシエルではなくオレを見ている。


 そうだよな、オレも別れは惜しいし馬車のままは辛いけど、やっぱりこのままでもいいのから皆といたいよ。

 神の掌の上で踊らされるよりはずっとマシだと思う。

 

「やっぱり辞……」

「待ちなさい! 早まってはいけません。今すぐに決めろとは言ってません。十分に考えて結論をだしなさい」

 オレの言葉を遮って神がそんな事を言う。


 おい! 今すぐに決めろって、お前が……もういいや、お前のルールで勝手にやってろ。オレも自重する事無く好きにやらせてもらおう。


 まずは今メイド達に研究させてる車や飛行船だな。自転車やバイクなんかもいいかも。ナナの船も入れてやってもいいか。他には龍神様や海神様も巻き込んで海底都市とか浮遊大陸なんてのもいいかもしれない。

 ダンジョンが作れるんだから、何か取っ掛かりがあればできそうな気がするよ。

 心を読まれてるのが分かってるから敢えてそんな事を考えてみた。

 あからさまに表情を歪める神。


 どうだ、ざまぁみろ! よし! 転生は辞めだ。さっきからオレの言葉を遮ってるけど、もう決意は変わんないぞ。

 皆と別れるのもイヤだし神に何かをしてやるのもいやだ。風呂? そんなもん自分で作れ! オレからお前にやるものなんて何もないんだよ!


 もう神ではなく、ルシエルを安心させたくて、ルシエルに向かって宣言しようとした。

「決めた! オレは……」

「待ちなさいと言ってるでしょ! そんな事をされたら私のこの世界が壊れてしまう……こうなったら……」

 また神の横槍が入って最後まで言葉を続けられない。

 オレの心を読んだからだろう、泣きそうな顔をする神。しかしすぐに意を決した表情になった。それを見て慌てて止めに入る精霊女王。


「ちょ、ちょい待ちぃ! アカンで、そんな事したらアカンで!」


 なんだ? 何をする気だ? この状況で神に何ができるんだ?


「……ダメ」

「待つのじゃ!」

 海神様と龍神様も制止の言葉を放つ。


 三神の制止を聞かずに両手を胸の前で手を組む神。

 手を組むと俯き加減で目を閉じ祈りの姿勢になった。


「ア、アカンって!」

「……ダメ」

「お、おい……」


 神が小声でブツブツと何かを呟いた。呪文の類だろう。


 プツンッ……


 !!

 オレの視界画面がすべて暗転した。

 さっき神と話してた時と違って、今度は音も全くしない。


 何をしやがった! 神の奴!

 【御者】とも隔絶されたようで声も出せない。

 真っ暗で何の音もしない世界。普通は数秒で気が触れてしまうとよく聞くが、オレは平気だった。

 こういうのに似た環境を何度か経験しているせいかもしれない。

 夜はいつも一人だしね。オレって寝ることが無いから暇なときは何か作ってたり、最近だと自動車や飛行船の構想を練ってたから、暇を潰すのが上手くなったんだよね。

 これは神がやった事だと分かってるのも大きいかもな。このままって事は無いはずだし、待つしかないな。


…………

………

……


 どれだけ待っただろうか、何日待ったかも分からないが、ようやく視界が広がった。何分や何時間って事は無いと思う。常人なら発狂もんだったのかもしれないが、オレにはどうという事はなかった。

 ちょっと長すぎないか? という程度。精神的ダメージは全く無い。

 これも馬車だったお陰かもしれない。ま、今も馬車だと思うけど。

 お陰で、今後に作る文明の利器の製作構想が大分纏まった。


 と、普通なら劣悪な環境だったにも関わらず、オレとしては満更でも無かったんだけど……ここはどこだ?

 森の中のようなんだけど……


 オレは獣人国の風呂ダンジョンにいたはずだ。

 人間の神と精霊女王、海神、龍神、魔神が訪ねてきて、オレの従者達が集まっていたはずなんだけど。

 ここはどう見ても風呂じゃないな。


 しかも、この視線。一つしかない。

 おお!? 手? 足? もしかして人間になれたとか?

 このダサい地味な色のジャケットとパンツには見覚えがあるけど、今はそれより自分の顔が見てみたい。

 どこかに鏡……なんてあるわけないか。いや、待てよ、収納に入ってたよな。ミランダリィさんが若くなった時に無理やり作らされたやつが。


 ……

 ……

 ……


 ……【御者】じゃねーか……

 鏡で確認したらオレは【御者】になっていた。元の自分では無かった。

 しかも帽子を被ってるって事は、隠密機能はそのまま持ってるんだろうか。

 その前に、なんで【御者】なんだよ! 生前のオレでいいじゃないか! こんなおっさん嫌だー!


 だって【御者】って、見た目年齢四〇歳ぐらいなんだよ? 地味だし。オレって死んだ時が一八歳で、馬車で七年ぐらいだろ? いきなり四〇なんて絶対イヤだよ!


 グゥ~……

 そんな葛藤をしてるとお腹が鳴った。

 お腹が減った……


 !!

 お腹が減った? お腹が減ったのか!? オレのお腹が鳴ったんだよな? 【御者】だけど。

 馬車に転生以来、食べるという事をした事が無い。もちろん空腹感を覚えた事も無い。

 という事はやっぱり人間になれた? 【御者】というのが残念だけど……これってもう一回やり直してくれないかなぁ。


 ナビゲーター? ……あ、神だったか。もういないのか?

 状況がよく分からない。

 周辺検索も、いつもなら配線アングル視線で上空からの視線で半径五キロであれば視認できたし、キューちゃんやボルトが警戒してくれてたからな。

 今は【御者】の視線―――たぶん人間に転生したオレ自身の視線―――なんだろうけど、それしかない。

 人間なら普通の事なんだけど、凄く頼りない。


 オレはこれから一人で生きて行く事になってしまったのだろうか。

 ルシエルやライリィとは別の世界に来てしまったのだろうか。

 パルやメイビーとはもう会えないのだろうか。

 オレが作ったダンジョン群は、オレがいなくなっても壊れたりしていないだろうか。

 ブレインは魔神に勝ったんだろうか。

 ハヤテは今後もオレ以外の馬車を引いたりするんだろうか。

 ボルトは今日も風呂に入ったかな? 今後は誰の影に潜むんだろう。

 シルビアは父ちゃんと……さすがにまだ会ってないだろうな。


 たわいない事が、色々思い出される。

 人間になれた喜びは、人間の姿が【御者】であった事から既に半減している。いや、もっと低いか。

 しかも、さっきからボルトに念話で呼びかけてるが返事が無い。試しにキューちゃんやハヤテにも念話したが返事は無い。

 初期からのメンバーに連絡が取れないという事は、他のメンバーでも念話で連絡は取れないだろうな。


 という事は、別の世界に転生させられた可能性が高まってくる。

 神って、そんな事ができたんだな。そこまで万能だとは思って無かったよ。

 あの状況からすると、他の神の許可や協力が無ければできないと思ってたな。


 現在の場所は、どこか知らないけど森の中。

 それで、オレは空腹である、と。

 念話や収納があるんならスキルはそのまま? 視線は一つになったけど、それは人間だからだし、能力はそのままなのかも。


『料理だな。ハンバーグ定食出ろ!』と、いつも通り念じてみると、ハンバーグ定食が出てきた。

 ……スキルはそのままのものが多い、のかな?


 メニュー!

 ……

 ……

 ……出ないな。


 ステータス!

 ……オープン!

 ……自分を鑑定!


 ……やっぱり出ない。


 今まで煩いぐらい視界を邪魔してた鑑定の文字も出てないし、馬車のステータスをそのままという訳でも無さそうだな。

 自分の能力の確認も大事だけど、今の置かれた状況を把握するのも大事だな。


 周辺には樹しか見えない。

 森の中という事でいいだろう。今は、昼前後かな? 見上げると樹々の枝葉の隙間から空が見える。恐らく昼前後で間違ってないと思う。もちろん天候は晴れ。

 今の所、魔物や動物は見ていないけど、状況が分かるまで警戒を怠るわけには行かないな。


 まずは自分の能力の把握だな。

 もう転生したと考えていいだろうから、まずはこの世界で生きる為の確認をしないとな。

 自分の能力は確認できないようだけど、オレって戦闘できるんだろうか。

 馬車時代は武器は持てなかったし、魔法に関しても攻撃できるものは無かった。戦闘などした事が無い。

 でも、今はオレのために戦ってくれる従者はいない、オレが戦わないといけないんだ。

 この世界に魔物や脅威になる動物がいるかどうかも今のところ不明なんだけどね。


 転生した今、人間としてやって行くしかないわけで、望みであったとは言え、この状況は雑過ぎるな。

 そう言えば精霊女王が言ってたな。帰って来たかったら誰かに名前を付けてもらえと。

 という事は、よくある設定で、どっかの城で召喚されて、そのまま名付けをされるんだと思ってた。


 それが森の中で、しかも【御者】って……風呂を作ってやるからやり直してほしい。

 いや、そもそも転生は断るつもりだったんだよ。なんで勝手に転生させちゃうかなぁ。ホント気ままな神だよ。


 さぁて、だいたい今オレが置かれてる状況が分かった。

 まずは状況確認と安全確保だな。


 異世界経験が人間では初とはいえ馬車で経験したし、こうなる予想もある程度立てられていたからパニックにならずに済んだけど、困った状況であるには変わりない。

 ただ、収納と料理は使えるようだし、なんとかなるだろ。


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